街頭インタビュー その2
「あ、ご協力ありがとうございます。では早速ですけど、ご主人様? でよろしいですよね」
宏彦は再びミヤモリにマイクを向けられた。
「はい」
「いや、見た感じお若いから、てっきりお二人は、恋人同士やろなと思って声かけたんです」
「そうですか、よく言われます」
また同じことを言われた。
買い物に行っても、カフェに行っても。
どこでも恋人同士に間違えられて、夫婦だと説明したとたん、お若いですねえ、と驚かれるのだ。
確かに取引先でも、男女共に三十代であっても独身の人は多い。
大学時代の同学年の仲間たちもまだみんな独身だ。
この年齢で結婚した自分が異例なのは自覚している。
「ありゃまあ、ホンマやわ。ちゃんと指輪もしてますやん。そうですか、ご夫婦ですか」
ミヤモリが目ざとく左手の指輪を見つけて、納得の相槌をうっていた。
「えっと、もしよかったら年齢をお聞きしたいのですが。ええですか? 」
「あ、はい。二十四歳です」
「おーー。やっぱりお若いですやん。では、奥様。女性に年齢を聞くのはちょっと心苦しいねんけど、もしよかったら、教えてください。あ、あの、放送では年齢のところは、カットすることもできるんで」
次は妻にマイクを差し向けたミヤモリだったが、とたんに口調がたどたどしくなる。
照れているのだろうか。
仕事柄人馴れしているように見えても、女性に面と向かって話すのは苦手なのだろうと同情したいところだが、妻に話しかける男性を間近で見るのは、たとえインタビューであっても嫌なものだ。
彼女に近寄るな、触るなと叫びたくなる。
なんて器の小さい人間なのだろうと、自分が情けなくなる。
「……あの。二十五歳です」
妻が少し頬を赤らめながら控え目に小さな声で答えた。
言いたくなければ言わなくてもいいのにと思う。妻が少しかわいそうになる。
「そ、そうですか、そんなら、奥様がひとつ年上なんですね。理想的な年齢差ですやん」
「いや、妻とは同級生なので、学年は一緒です。僕が早生まれなものですから」
宏彦がすかさず話しに割ってはいる。これだけは言っておかなければならないだろう。
厳密に言えば妻が年上だが、そもそもクラスで机を並べて過ごした仲なので、彼女が年長だという感覚はあまりない。
そのことで彼女が傷つくなら、それは宏彦にとって不本意以外の何ものでもない。
確かにメールのやり取りでそれをネタにして盛り上がったこともあったが、実際問題、そんなことは二人の間ではどうでもいいことだった。
「ああ、同級生ですか。そうやったんですか。そんなら、昔から知ってるんですよね。あの、ほれ、お二人は幼なじみとか? 」
宏彦にマイクを向けたミヤモリの顔が、幾分にやけて見えるのは気のせいだろうか。
何やら勘違いしているこの男が、正直、鬱陶しい。
「さあ、どうでしょう。客観的にみると幼なじみには違いありませんが、内容的にはそこまで近しい関係ではなかったと思います、けど」
宏彦はムスッとしながらも、少し考えこむように眉間に皺を寄せたあと、妻の顔を見る。
すると彼女も思案顔で首を傾げていた。
「いやいやいや、どうでしょうって聞かれても……。じゃあ、高校か大学で同級生やったんですか? それやったら幼なじみとは限りませんもんね」
「まあ、そうですが。高校でも同級生でしたが、中学も一緒でした」
「中学も? あれれれ、そうですか」
宏彦の返答が意外だったのか、ミヤモリが器用に高速まばたきをしながら、不思議そうに頷く。
「はい。それに、小学校も同じで、もちろん実家も近所ですので母親同士は親しかったかと……」
と言っても、途中で転校して来たし、親の仕事の都合で日本を離れていた時期もあったので、妻とはたまたま同じ学校に在籍していただけというのがしっくりくるだろう。
「…………」
ミヤモリの動きがピタッと止まり、その場で固まってしまった。
ところが、次の瞬間。
「って、やっぱりお二人は、どう考えても幼なじみですやん! もうホンマ、勘弁してくださいよ」
と王道のつっこみを受けたところで、妻が応戦する。
「だ、か、らーー。何度も言いますけど、私たち、一般的な幼なじみなんかじゃないですから。高校二年まで、主人の名前すらピンとこなくて。この人、誰? って感じでした。そんな他人同士な幼なじみなんて、普通、います? 」
「この人、誰って、えらい本気な正真正銘、ガチな他人同士ですやん……」
派手にズッコケてみせるミヤモリを見て、妻はクスッと笑った。