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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
特別編 3
190/210

街頭インタビュー その1 

クリスマス特別編、宏彦視点になります。


結婚後初めてのクリスマスを迎えた宏彦の珍体験物語。

楽しんでいただけるといいな。

 今日は姫路で仕事があった。神戸より西に位置するその街には、世界遺産にも認定されている姫路城がある。

 新快速に乗れば、三宮まで四十分ほどだ。会社には戻らず直帰予定だった宏彦は、仕事が思ったより早く片付いたことに気をよくし、一人上機嫌でほくそ笑んでいた。


「何かええことでもあったんですか? 」


 取引先の営業マンが帰り際、すかさず宏彦に訊ねる。


「あ、いや、別に何もないですよ」

「ほんまですか? なんか楽しそうですやん」

「仕事が軌道に乗り始めたからでしょうか。それもこれも姫城(ひめしろ)商事さんのおかげですよ」

「またまた、うまいことゆーて。いやね、加賀屋さん、なんや結婚してからめっちゃ幸せそうやし、奥さんも美人やって、うわさですよ。ほんま、うらやましいわ。そやそや、奥さんの友達で独身の人おったら、是非紹介して下さい。でないと、クリスマスやのに一人ぼっちで寂しいわ、はははは! 」


 行く先々でこのようなことを言われてからかわれるのも随分慣れたが、そんなにも嬉しさが顔に出てしまう物だろうかと、我ながら気恥ずかしさでいたたまれなくなる。

 でもまあ、幸せなのは事実だ。彼女と暮らせば暮らすほど、身も心も離れられなくなってしまう。

 それまで別々に生きてきたのが嘘のように感じるのだ。


 もうすぐクリスマス。

 街にはお馴染みのメロディーが軽やかに流れ、まばゆいばかりの電飾が道行く人の目を楽しませる。

 電車に乗る前、迷うことなく妻にメールを送った。

 定時に仕事を終えた妻と三宮で待ち合わせて、夕食を食べるもよし、イルミネーションの中をぷらぷら歩くもよし。

 北野で久しぶりのデートを楽しもうともくろんでいたのだが……。

 三ノ宮駅中央口北側にある老舗のコーヒー店で待ち合わせ、少し遅れてやって来た妻と共に、夜の神戸の街並みを背景に歩き始めた時のことだった。




「あのう、ちょっといいですか? 」


 妻と共に北野坂をゆっくりと上っている時に、それは起こった。

 宏彦の前にぬっと差し出されたのはマイク。

 作り笑い全開の腕章つき不審者と、テレビカメラをかついだ男に行く手を阻まれる。


「何ですか? 」


 宏彦は眉間に皺を寄せ、不機嫌さを露わにしながら腕章つきの不審者に聞き返した。


「あ、すみません。私、○△テレビ局の番組にレギュラー出演している、かくれんぼうやの宮守といいます」

「え? 」


 秀彦は目の前のミヤモリと言う男をじっと見た。しかしいったい誰なのかさっぱりわからない。

 こんな男を見たのは初めてだ。


「もしかしてボクのこと、知らんとか……」

「あ、はい。すみません」

「いやいや、すみませんやなくて、もう、ご冗談を。いや、それって結構ヤバイんとちゃうん。ボクって、そんなに知名度低いんや。あの、もう一度言います。お笑い芸人二人組のつっこみ担当の、み、や、も、り、です」

「は、はい……」


 つっこみ担当のミヤモリと言われても、宏彦は全く記憶にない。

 そういえば就職してからは、ほとんどテレビを見ていないことに気付く。

 家に帰ると彼女とメールのやり取りをして、本や新聞を読んで。

 あとは寝るだけ、という生活だったように思う。


「では、ちょっと気を取り直して……。えっと、まことに申し訳ないんですが、その番組でクリスマス特集をすることになったんです」

「クリスマス特集? 」

「そうなんですよ。神戸の皆様にクリスマスの過ごし方やカップルの馴れ初めなどをお訊ねしているんです。てなわけで、ご協力お願いしてもええですか? 」

「あ、そうですか、テレビ番組ですか。でも、その、妻が……」


 宏彦は隣できょとんとしている妻を見て、どうする? と目で訊ねる。

 すると妻は、宏彦をじっと見るとすぐに口元に笑みを浮かべながら、別にいいよと言って頷いた。


「じゃあ、少しだけなら」


 このまま妻が消極的な態度を示せば、さっさとここを立ち去れると思っていたが、そうはならなかった。

 インタビューに同意してしまったからには、もう後には引けない。

 あまり乗り気ではなかったが、何事も経験だと思い開き直る。

 どこか楽しげな妻の様子を見て、ミヤモリという陽気で案外人のよさそうな男の仕事に協力するのも悪くないかと思い直し、質問を待った。


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