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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
番外編 4 未来への誓い
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番外編4 7.幸せな時 その2

「うん。待つ。五十歳になっても八十歳になっても、ノブ君があたしをお嫁さんにしてくれるまで待つ」


 そう言って再び信雅と目を合わせたとたん、満面の笑みを浮かべた信雅に、ぎゅっと抱きしめられた。

 小さい早菜は、信雅の腕と身体にすっぽりと覆い隠されてしまった。


「そうか。よかった。冗談やなくて、ホンマに五十歳くらいになるかもわからへんで。だって、早菜の方が絶対に早く出世するやん。官僚になるにしても、企業に就職するにしても、おまえは日本を背負っていく貴重な人材なんや。俺がどんなに背伸びしても追いつくことはできひん。でもな、早菜のことが好きな気持ちは誰にも負けへんつもりや。おまえに認めてもらえる男になるように、何年かかっても頑張るからな」

「ノブ君。ありがとう。でもね、あたし、ノブ君が言うほど、そんなに偉い人と違うよ。普通の女の人と何も変わらへんし。あたしだって夢を実現するには何年もかかるかもしれへんよ。五十歳になっても、まだ何ひとつ達成できてないかも……。その時は待ってくれる? こんなあたしやけど、待ってくれる? 」

「あたりまえやん。いつまででも待つで。百歳になっても待つで」

「百歳やったら、子どもとか産めへんよ。それでもええの? 」

「ええ。早菜がおったら、俺はそれがええねん。子どもは、そのうち姉ちゃんが産むやろ? 加賀屋先輩によう似たええ子が生まれるやろな。その子らに、お兄ちゃん、お姉ちゃん言われて、追い掛け回されるやろから、俺らに子どもおらんでも、充分やと思うけど? 」

「そうやね。でもノブ君、ちょっと間違ってると思うけど」

「何が? 」

「お兄ちゃん、お姉ちゃんやなくて、おじちゃん、おばちゃんやと思うけど? 」

「ええっ? なんやて? ……そっか。俺は、姉の子から見たら、おじさんなんや。なんでやねん! ちょっとそれ、ショックすぎるやんか! 」

「ふふふ。今から、そんな心配せんでもええよ。おじさんになった時、考えたらいいことやし。ノブ君。あたし嬉しいよ。ノブ君がずっと待ってくれるんやったら、何でもがんばれそうな気がする」

「俺だって、早菜がおってくれたら、何でも頑張れる。……で、さっきの話しやけど。ユコ、なんか変なこと言ってなかったか? 早菜が目の前におるのに、彼女に会ってみたいとか。前からあいつ、不思議ちゃんなとこあったけど……」

「ホンマやね。何でやろね……。ちょっとぶっ飛んだ考え方の持ち主かもしれんけど、根はいい子みたいやし。また改めて、あたしとゆっくり話したい、という意味とちがう? というより、そんなこと、もうええやん。あの子も幸せそうやし、ノブ君もあたしも幸せやし」

「そやな。別にどうでもええな。じゃあ、そろそろ準備しよか。明日は木戸先輩の結婚式や。歴代の部長や、かかわりがあった学年が集まって、賑やかになるやろな。そうや、あれも持って行かなあかんわ」

「あれ? あれって何? 」

「へへへ。これ」


 信雅がベッドのところに行き、枕の下にごそごそと手を突っ込んで、何かを取り出した。

 そうか。あれだったのだ。あのポケットアルバムだ。


 歴代の部長ならまだしも、歴代の彼女が写っていたらどうしようと思い、ドキドキしながら覗いたアルバム。

 いったいどうするつもりなのだろう。


「これこれ。木戸先輩の学生時代の貴重な写真や。これをスキャンしてプリントし直して、寄せ書きの色紙のまん中に貼り付けるらしいわ。それと……」


 野球部の話になると俄然陽気になる信雅だが、今日とて例外ではなかった。

 鼻歌混じりにポケットアルバムをめくる。


「あったあった。これ、見てみ? 」


 早菜は目の前に突き出された写真をじっと見た。これは……。


「ここに写ってるの、早菜やんな? 明石の高校と練習試合の時、早菜が応援してくれてたんや。これ見つけた時、めっちゃ嬉しかった。なんか知らんけど、高校の時からずっとこの写真、大事に持ってるねん。俺のお守りみたいな写真や」


 それは母校のグラウンドで行われた野球の試合終了後の写真で、選手を囲んで応援した皆で団子のようになって撮られた物だった。

 右上奥に豆粒のように写っているのが早菜だ。

 眼鏡をかけているのがかろうじて判別できるくらい、小さな小さな早菜がちょこんとそこにいた。


 一年生ながら、ピッチャーを任された信雅が相手チームから勝利を奪い取った、記念すべき一枚。

 早菜も忘れていたこの一枚を、信雅は後生大事にずっと持っていたというのだ。


 まだ二人が恋人同士になることなど予想すらできないあの頃から持っていたという写真が、次第に涙でにじんで見えなくなっていく。

 泣いている場合ではない。

 今から、神戸に向かって車を走らせると言うのに、泣きはらした目で運転だなんて、危なくてできないではないか。

 早菜は涙をぐっと堪え、無理やり笑顔を作る。

 そして得意げに信雅に言った。


「あのね、ノブ君。あたしね、今日、澄香お姉ちゃんになれたよ」と。

「澄香お姉ちゃんのパワーは、やっぱりすごかった。お姉ちゃんが神戸から、あたしとノブ君を守ってくれた」


 きょとんとした信雅が、早菜の顔の前で手を何度か上下に振り、おまえ、大丈夫か? と、ぼそっとつぶやいた。


かくれんぼ番外編4 早菜視点は今回で完結です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

続けて、澄香視点になります。

いよいよ宏彦の花嫁になる澄香の物語がスタートします。



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