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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
番外編 4 未来への誓い
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番外編4 2.卵焼きは関西風で その1


信雅の彼女、早菜視点になります。

 木戸翔紀先輩は、九州の大学を卒業した後、広島で高校の先生をしているそうだ。

 やはりというか、当然というか、野球部の顧問としても活躍されていて、夏休みや春休みには広島から生徒を連れて、神戸の母校に練習試合に来ることもあるらしい。

 そんな先輩が、明日、神戸で結婚式を挙げることになっている。

 お相手は教え子というからこれまた驚きだ。

 それもまだ短大に在学中の若い花嫁さんだという。


 早菜は、自分よりも年下の人がもう結婚するということにもびっくりしたが、それよりも何よりも、信雅が夕べぽろっとこぼした爆弾発言が脳裏から離れない。


 木戸先輩の初恋の人が、実は澄香お姉ちゃんで、高校時代二人は付き合っていたかもしれない、という話だ。


 かもしれない、という部分が引っかかる。

 カリスマキャッチャー初恋伝説として野球部で語り継がれているみたいだが、これといった根拠も信憑性もないまま、噂話を鵜呑みにするのは危険だ。

 お姉ちゃんの口から真実を聞くまでは、話半分に聞いておくのが懸命だというのは、長年の信雅との付き合いですでに身についている。


 とにかく、あの純粋で無垢なお姉ちゃんが木戸先輩と付き合っていたなどということは、絶対にあってはならないこと。

 だって先輩は、お姉ちゃんの婚約者の宏彦さんと親友だと聞いている。

 お姉ちゃんが、その二人を天秤にかけながら行き来するなんてありえない、というか、道義的にみても、それをやっちゃあだめでしょ、という常識レベルの問題になってしまう。

 信雅の言ったことがまかりとおるなら、先輩の親友でもある宏彦さんも、この事実を知っているということになる。

 自分の親友と付き合っていた彼女を妻にする……。

 うーーん、あたしにはありえへん、と早菜はぶんぶんと首を振った。

 そうだ。このことは、神戸に帰った時に、それとなくお姉ちゃんに聞いみればいい。

 本人に確認するのが一番だと自分に言い聞かせた。


 おっと、今日はこんなことをするためにここに来たのではなかった。

 早菜は途中でポケットアルバムを閉じ、枕の下に元通りに置いた。


 ベッドの棚にある目覚まし時計を見た。

 まだ五時だ。信雅が帰ってくるにはもう少し時間がある。


 ご飯を炊いて、おにぎりを作ろう。

 そして、信雅の好物のウインナーと卵焼きを作って、荷造りして。

 深夜の長距離ドライブになるので、シャワーも浴びることができれば言うことなし。

 これが早菜のこれからのタイムスケジュールだ。


 信雅はバイトの帰りにガソリンスタンドに寄って、車の点検とガソリンを満タンにしてくる予定だ。

 というのも、今月から早菜の車は信雅のマンション近辺の月極駐車場に置いている。

 神戸に帰省する時と、ケーキ屋のバイトに行く時くらいしか乗らない車のために、今まで法外に高い駐車場代金を支払ってきた。

 東京に一人暮らしする娘が少しでも不便のないようにと、仕送りを充分にしてくれる両親にいつまでも甘えてはいられない。

 その分を貯金して、大学院に行くための資金作りに励むことに決めたのだ。

 今の駐車場は以前の半分の料金で済む。そして、その代金は信雅が払ってくれている。


 彼は変わった。

 いつもお金がなくて金策に暮れていたあの信雅が、ほんのちょっぴりだけど、真面目人間への一歩をふみ出したように思えるのだ。


 信雅の現在のバイト先はケーキ屋さんだ。

 もともとは早菜がそこで働いていたが、大学院に進学すると決めてからは、勉強に専念するため、ちょうど求職中だった信雅にバイトを引き継いだ、というわけだ。

 早菜は家庭教師もしているので、節約すれば日々の生活はなんとかなる。


 彼の持ち前の明るさと、部活で培った粘り強さが店長に認められ、今度のバイトは続きそうな気配だ。

 これまでも、仕事は卒なくこなすのだが、彼の際立つ容姿と関西弁のノリから、先入観で軽い人物と決め付けられることが多かった。

 それゆえ上司との関係がぎくしゃくし、バイトが続かない要因のひとつになっていた。


 以前、居酒屋のバイト中、信雅に片思いをしている女子大生に押しかけられたこともあった。

 運悪く、当時付き合っていた彼女も鉢合わせして、大修羅場になったこともある。

 信雅の自己弁護も虚しく、翌日には即行、解雇を言い渡されていた。


 おまけに、その時押しかけてきた女子大生がストーカー化し、手に負えなくなった信雅が早菜に泣きついた……ということもあった。

 早菜は、東京に来てまで、近所のどうしようもない弟分の尻拭いをさせられることに理不尽さを感じることもあったが、頼られると放っておけない性格が災いして、彼を甘やかしてしまったことも否めない。

 どちらかと言えば、信雅みたいな性格の人は嫌いな人間の分類だったはずなのに、いつの頃からか、彼女がいる信雅にイライラすることが多くなってきた。

 彼女とののろけ話を聞くのも次第に苦痛になっていた。

 自分以外の女性と仲良くしている信雅が許せなくなっていた。


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