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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
番外編 2 同窓会はお手柔らかに
124/210

14.俺の彼女、紹介するよ その3

「でも、池坂は? さっき花倉も言ってたように、池坂も忙しいと、その、聞いているし。それに、花倉が後任を考えてくれているはずだ。だから池坂は……」

「おまえなあ。なんで池坂にこだわるん? 忙しいのはみんな一緒や。他の女子かて、もう結婚して子どもがいる人も増えとるし、後輩社員が入社して、新人指導やらでみんなてんてこ舞いや。誰一人、暇な人はおらん。その点、池坂は今までもおまえら幹事の右腕として頑張ってくれてたんや。仕事内容も熟知してるし引継ぎもややこしない。それに、のべ太が池坂をフォローするって言うてるしな。ここは大船に乗ったつもりで、二人に任せたらええんちゃうか? 」

「いや、でも、それは……」

「加賀屋。心配はいらないよ」

「野辺沢」


 囲まれていた女子集団から抜け出してきた野辺沢が、宏彦に向かって自信満々に声をかける。


「君と花倉が、今までクラスのみんなをしっかりまとめてくれたおかげで、僕は何も苦労することなく幹事を引き継がせてもらえる。君たちには感謝してるよ」


 野辺沢が、爽やかな笑顔で宏彦にそう言った。


「だから、池坂。君は何も心配しなくてもいいからね。僕も、そして中田もクラスのみんなも、池坂にめいっぱい協力するつもりだから」

「野辺沢君。でも、あたし……。幹事は無理かも」

「大丈夫だって。そんな頻繁に集まりがあるわけでもないし。年に一度くらいなら二人で力を合わせればなんとかなるよ」

「いや、でも、実はその……」


 澄香の意見など全く耳を貸さない野辺沢がすくっと立ち上がると、彼女のそばにやって来た。

 そして澄香の目の前に右手を差し出す。

 幹事として、これからよろしくと握手を求めているのだろうか。

 それとも手を取り、エスコートしようとしているのか……。


 するとそこに別の大きな手がすっと伸びてきて、困惑している澄香の手をぎゅっと捉える。

 注目していた皆がざわつき始めた。

 野辺沢の顔が強張る。

 大西は持ち前のどんぐり眼をこれでもかというくらい最大限に見開き、口をぱくぱくさせた。


 澄香は繋がった右手をもう一度しっかりと握り締める。

 そして目の前にいる人物を、まだ不安そうな目で見ていた。

 このままだと、皆にすべてを知られてしまう。

 それでもいいのだろうかと彼に目で問いかける。

 すると。


「澄香、さあ、立って。大丈夫だから。後は俺に任せろ……」


 宏彦の思いが澄香の心に真っ直ぐに届いた。

 澄香はとまどいながらも宏彦に支えられ、一緒に立ち上がった。

 彼が大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 彼の並ならぬ緊張感が澄香にまで伝わってくる。

 そして、宏彦がゆっくりと話し始めた。


「みんな、聞いてくれ。俺の彼女、紹介するよ」

「おおおおお………………」


 声とも息とも区別のつかない静かなうなりが会場内に響く。


「皆も知っている、このクラスの池坂澄香さんだ。今まで黙っていてごめん。今後ともよろしく」


 クラスの誰もが驚きのあまり目をぱちくりと見開いて、ため息と共に、半ば呆然と二人を眺めていた。


「で、野辺沢。彼女は今秋の結婚式や新居への引っ越しに向けて、準備でますます忙しくなる。もちろん、仕事も続けている。忙しいのは誰も同じという大西の意見もその通りだと思う。けれど、出来ることなら、誰か別の人に幹事をお願いしたいのだけど……」

「結婚準備って……。加賀屋のカノジョって、本当に池坂なの? 花倉じゃなくて? おまえ、そ、その、池坂と結婚するのか? 」


 野辺沢は動揺を隠せない様子で、宏彦にたどたどしく疑問をぶつける。


「そうだ。野辺沢、悪いが……。幹事の件、他の人にお願いできないだろうか」

「ごめんね、野辺沢君。クラスの皆も、ごめんなさい。せっかく推薦してもらえたのに期待に添えなくて」


 澄香が緊張した面持ちのまま頭を下げた。

 

 そして次の瞬間、中田が立ち上がり、ブラボーと声を張り上げた。

 すると追従するように皆から拍手と声援が巻き起こり、おめでとうと祝福の言葉が投げかけられる。

 クラスメイトたちが、ようやくすべてを理解してくれたのだ。


 加津紗と由布子も立ち上がり、澄香、おめでとうと言って抱きつく。

 澄香は、ありがとう、今まで黙っていてごめんねと友人たちに謝り、彼女たちに囲まれて涙をこぼした。


 涙を拭い顔を上げると、マキがやったねと満面の笑みを浮かべて、ガッツポーズをしている。

 なぜかまだつないだままだった手の先には、男子仲間にちょっかいをかけられている宏彦が、参ったよと苦笑いを浮かべる。

 けれど、彼の目は決して怒ってなどいない。

 澄香にだけわかる、幸せそうな目をして、そこにいた。


 澄香は宏彦のそばにそっと寄り添い、この春一番の笑顔を、愛する人に向けて、贈った。






                        了



          次話は、特別編1-1愛は突然に(宏彦視点)です。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

感想等、お聞かせいただけると嬉しく思います。

次話は特別編、1-1.愛は突然に(宏彦視点)です。

特別編は、それぞれの場面を切り取った、短編構成になります。



09/01(Tue) 21:47 にメッセージを送信して下さった、Sさま。

アドレスの記載がございませんでしたので、こちらにて返信させていただきますね。


♪かくれんぼをお読みいただき、ありがとうございました。

まだまだ続きを読みたいとおっしゃっていただき、とても嬉しかったです。

番外編3の方はまだ未定ですが、Sさんのようにおっしゃってくださる方がこれまでにも大勢いらっしゃいましたので、是非ともそうできればいいなと思っております。

この後、特別編と称して、これまでの流れのすき間を埋めるようなものを、ぽつぽつと更新する予定ですので、時々覗いてみてくださいね。お待ちしています♪

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