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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
番外編 2 同窓会はお手柔らかに
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9.宏彦のカノジョは…… その2

 懲りない中田が今度はそんなことを言い始める。

 その間にも、テーブルには次々と料理が運ばれ、澄香の前にも、焼き鳥とだし汁をいっぱい含んだ卵焼きが並べられた。


「それはないと思うで。あいつはそんなしょーもない嘘つくやつと違うから。ちゃんと釘もさしといたし、心配せんでも、絶対、カノジョ連れて来るって」

「そうかな……。てか、大西。おまえもかがちゃんのカノジョのこと、知らんの? 」

「ああ。知らん。あいつ、めっちゃ口堅いもん。ヒントのひとつも教えてくれへん。ただな、あいつがあそこまで何も言わへんのは、きっと何かわけがあるんやと思う。俺の勘やけど」

「うん、うん」


 中田とその周りの数人が大西の言葉に食いつくようにして身を乗り出した。


「あのな……」

「うん……」

「多分やけどな……」

「うん、うん」


 とうとう、部屋にいる全員が大西の次の一言を固唾を呑んで見守る状況になってしまった。

 そしてそんな中、大西は言ったのだ。


「このクラスにおるんやないかと思ってるねん。あいつのカノジョ……」などと。


 澄香は驚きのあまり息をするのも忘れ、ぽかんと口を開けて大西を見る。

 ばれるのはもう時間の問題だ。

 やっぱり大西は知っていたのだ。


「へえーー! 」

「ほお……っ」

「た、たしかに……」

「それやったら、納得! 」


 大西の推測に皆が大きく頷き、男子は女子に、女子は女子同士で互いに指をさし、違う違う、私じゃないと首を振る。


「俺の予想は、あいつやな。こうなったらあいつしかおらんやろ」


 中田がまたもや自信たっぷりに語り始める。


「みんなも薄々気付いてるやろ。なあ、池坂? 池坂は当然知ってるよな? 」


 突然話を向けられ、呼吸に続いて心臓まで止まりそうになった。

 中田のにやりとした表情がすべてを見通しているようで、澄香は覚悟を決めざるを得なかった。


「ま、まあね。知って、います。その、黙っててごめんなさい……」


 そう言って澄香が頭を下げた時、状況が一変し始めるのだ。


「ほらな。やっぱりそうやったんや」

「なるほどね。だから、今日も二人して雲隠れしてるんやな」


 澄香は、どうも話の内容が違う方向に逸れ始めているのに気付き、絶句する。


「そうか。相手は花倉やったんや。花倉と池坂は仲がええもんな。池坂も内緒にしとくの辛かったやろ? 」

「あっ、でも、あいつらが来るまで、何も知らなかったことにしとこうや」

「そうやな。大げさに驚いてやるのも、思いやりやもんな。池坂がばらした言うのも内緒にしといてやるから、心配せんとき」


 中田の得意げな顔が次第にぼやけて、意識が遠のいて……。

 気付いた時には、加津紗の膝の上に頭を乗せ、身体を横たえていた。

 杏露酒のソーダ割りは、まだ半分しか飲んでいないというのに、だ。


「澄香。大丈夫? 澄香って、こんなにお酒に弱かった? 加賀屋君とマキの話にはびっくりしたけど、澄香も二人の間に入って、辛かったんだよね。あたしもショックやったなあ。あこがれの加賀屋君の彼女がマキやなんて。今さらこんなこと言ってもしょうがないけど……」


 加津紗の声が徐々にはっきりと聞こえてくる。


「澄香。安心して。マキには内緒にしとくから。澄香がばらしたなんて言わへんからね。もうちょっとここで横になってたらええよ」

「それ、違うの。違うんだって」


 澄香が、がばっと身を起こし、加津紗に詰め寄る。


「何が違うの? 」

「だから、加賀屋君とマキのこと。あのね……」

「おい、池坂。もう大丈夫か? 」


 澄香が起き上がったのを見た大西が、心配そうな顔をして訊ねる。


「おまえが寝てる間に勝手に決めてしもてんけど。今度の幹事、池坂とのべ太になったから。のべ太が、池坂と組めるんやったら幹事してもええって言うてくれてな」


 大西の横でにっこり微笑むのは、ほんのりと頬を赤く染めた野辺沢だった。

 いつの間にそんなことになってしまったのだろう。

 結婚後も仕事を続けて、なれない家事をこなしていかなければならないのに、その上、幹事を引き受ける余裕など、どこにも残っていないと言うのに。


「そ、そんなの、困るよ。あたし、ちょっと事情があって、幹事は出来ないの。誰か他の人に」

「池坂。大丈夫だって。僕が君のことをカバーするし、他の皆も手伝ってくれるって言ってるから。だから。ね? 」

「野辺沢君。あたし、本当にダメなの。だから、誰か他の人を……」


 その時だった。


「皆さん、遅れてごめーーん。やっと仕事が片付いて、今到着しました。って、みんな。どうしたの? やだ。何かあった? なんかにやにやしてない? 」


 野辺沢に幹事は出来ないと懇願している途中で、澄香の視界の端の方に突如親友の姿が入り込む。

 マキだ。やっとマキが来てくれたのだ。

 澄香が立ち上がり、入り口付近にいるマキのところに向かおうとすると、もう一人誰かが、息を切らせて駆け込んできた。

 その人を視野に捉えるや否や、澄香の瞳が輝きを増す。


「遅れてすまない……。あれ? 花倉? おまえも、今来たとこ? 」

「そうなんだけど……。ねえ、かがちゃん。なんか、おかしくない? ここの……空気」


 そして澄香の大切なその二人が、部屋に集まっているクラスメイトから大歓迎、拍手喝采で出迎えられたのは、その直後だった。


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