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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
番外編 1-4 青春酸歌
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57.協力的な彼 その2

「で、結婚式はいつ? さっさと決めて、早めに言ってよね。春と秋は、一年前には押さえておかないと、人気の会場はすぐに予約で埋まっちゃうからさ」


 マキは自分でしゃかしゃかと二枚目のお好み焼きの具材を混ぜ込み、鉄板に丸く生地を流し込みながら、早口で話し続ける。


「ドレスはレンタル? もしオーダーするならこれも早めにね。新居は決まったの? それとも実家住まい? 」

「それもまだ何も決まってなくて。でも実家ってことはないと思う。彼の勤務先が京都だし、もう少し東方面に住むことになると思う」

「ふーん、そうなんだ。やっぱ新婚時代は二人暮らしがいいよね。でもかがちゃんって、一人っ子でしょ? 将来、同居ってことも可能性大なんじゃない? 」


 澄香はマキのたくましい想像力にドキッとする。

 そうなのだ。わかりきっていることだけど、宏彦は一人っ子の長男だ。

 将来はそういうことも考えられる。

 けれど澄香はそれでもいいと思っていた。

 自分の実家もすぐ近くだし、何かと便利だ。

 彼をこの世に生み出してくれた義両親には、心の限りを尽くして寄り添う覚悟もある。


「そうだね。あまり先のことまでは考えてないけど、宏彦と二人なら、どんなことでも乗り越えられると思って……」

「はいはい、ごちそうさま。やってらんないね、まったく。世の中の夫婦がみんな澄香たちみたいな気持ちをずっと持ち続けていたら、嫁姑バトルなんてことも無縁なんだろうけどね。ああ、熱い熱い。ホント、ラブラブなんだから」

「んもう、マキったら。そんな風に冷やかさないでよ。フツーだってば」

「はーい。じゃあ、普通ってことにしておいてあげましょう。で、もちろん、仕事は続けるよね? 」

「うん、続ける。宏彦もそれは当然だって言ってくれてるし」

「協力的で何より。じゃあ、鬼クロも招待するの? 先生が二人の結婚を知ったらびっくりするだろうな。だってあの先生、かがちゃんのこと、結構頼りにしてたじゃん。卒業式でかがちゃんが答辞を読んでる間中、先生が鼻をすすってたの、あたし知ってるんだ。それに鬼クロったら、澄香にはあの怖い表情を崩して、なんか優しい顔で応対してたし。提出物がある時はいつも、池坂、忘れるなよ、って気にかけてくれてたよね……ねえ、澄香。澄香? 」

「あっ、う、うん。そうだね。怖いけど、いい先生だった。鬼クロの招待のことも、彼に相談してみる」

「すみかぁ。どしたの? なんか変。絶対、変! 」

「えっ? そうかな……」

「幸せの絶頂期で、それも花嫁になろうって人が、なんでそんなに元気がないのよ。そう言えばさっきからあたしばっか、しゃべってるし」

「うん……」

「あの電話の日の誤解は解けたんでしょ? めっちゃラブラブなくせに、なんでそんなにしょげてるのかな……」


 さあ、もっと飲んでとマキが澄香のグラスにビールを注ぐ。


「ありがと」

「ためてないで、言っちゃえば。何か悩んでるでしょ? 」


 澄香のどんな小さな異変をも見逃すまいと、マキの目がギラリと光る。


「澄香、も、もしかして」

「え? なに? 」

「まさかとは思うけど……」

「ま、マキったら」


 頬を紅潮させたマキが何を語ろうとしているかは一目瞭然だ。

 彼女が口に出す前に否定しておかないと、他のお客さんに聞かれるのはもっと恥ずかしい。


 絶対に妊娠はしていない。

 そのあたりはぬかりないと、自信を持って言える。

 マキが気にしているのはきっとこのことに違いない。

 彼女がまだ大学生の時、例の先輩と付き合っていた頃に、この手の話で悩み相談を受けたことがある。

 生理が遅れてどうしようと落ち込んでいたのだ。

 何も経験のない澄香にとって非常に重い相談だったが、数日後に大丈夫だったとうちに駈け込んで来たマキの笑顔が忘れられない。


「だから、違うって。つまり、その心配はないから。三日前まで、ちゃんと今月のアレがあったんだし。マキの思ってることは、絶対に大丈夫。彼だってその辺は協力的だから」

「ふーーん、って、澄香ったら! ということは、あんたたち付き合い始めてまだ一ヶ月も経たないのに、もうそこまでやっちゃってるんだ。かがちゃん、結構手がはや……」


 澄香は腰を浮かし、目の前のマキの口元を手でふさいだ。


「マキ、お願い。みんなに聞こえちゃうから、それ以上は言わないで」


 マキの暴走を食い止めた澄香の手のすぐ上で、彼女の目がかまぼこ型に弧を描き、ほくそ笑むのを目撃する。

 わかったわかったと、ニヤつきながら頷くマキを信用してもいいものかどうか不安を抱いたまま、彼女の口元から手を離した。


「協力的かつ意外と肉食系なかがちゃんに拍手」

「んもう、マキったら」

「で、何を悩んでるの? 言ってごらん、澄香ちゃん」

「それがね、実は……」


 澄香は再び腰を下ろし、焼きあがったばかりのお好み焼きに備え付けのハケでソースを塗りながら、心に秘めていた悩みを打ち明け始めた。



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