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かくれんぼ  作者: 大平麻由理
番外編 1-4 青春酸歌
107/210

56.協力的な彼 その1

「澄香ぁ。人生って、ホント、何が起こるかわかんないものだよね」

「そうだね……」


 改めて言われると、本当にそのとおりだ。

 しみじみと人生の奇蹟を実感する。


「前回の同窓会の時だって、かがちゃんったら、ちっともそんなそぶり見せなかったし。なーんも気付かなかった。たださ、澄香が急に帰っちゃった時、かがちゃんの慌てようったら、尋常じゃなかったんだよね。でもまあ、あたしだって澄香に何かあったらどうしようってあたふたしてたからさ、かがちゃんの態度に違和感を持たなかったっていうか……」

「あの時は、本当に迷惑かけちゃったね。ホントにごめんなさい」

「迷惑とか思ってないし。澄香はいつだって幹事でもないのにあたしたちを助けてくれてたしさ。にしても、澄香がかがちゃんとそこまで深くつながってたなんて」

「つながってなんかいないし。ただメールしてただけだよ」

「いやいや。そんな毎日、それも、一日中やり取りしてた日もあったとか、マジ、ありえないし。どおりで澄香がかがちゃんの動向に詳しかったわけだわ。それと、幹事の打ち合わせの時でも、なにげにかがちゃんが澄香の事をいろいろ知ってる感じだったし。そこで気づけよ、あたし! 」


 マキが悔しそうに過去を振り返る。


「でも、お互いの近況を伝え合ってただけだし、付き合うとか、そんな風な話には一度もならなかったんだよ。ホントのホントに。彼との関係は一生メールだけだと信じて疑わなかった。だから、こんな日が来るなんて思ってもみなかったから……」

「そりゃあそうだけどさ。でもね、そんな一見、他人っぽいあんたたちが、実は付き合ってますだなんて、誰が想像できる? 卒業してから六年も経つんだよ。まさか今ごろになって、それも結婚するって……。それ、衝撃的すぎますから! 」

「やっぱ、そうだよね……」


 当人たちが一番驚いているのだから、マキがそう言うのも無理はない。


「あたしなんかさ、水泳部のあの先輩が運命の人だなんて言ってたけど、ご覧のとおりの結末。あの人と別れて以来、ちっともいい出会いがなくてさ。年末に別れたホテルマンだって、結局はすれ違いばかりだったし、結婚のケの字も出さない彼にはもう何も期待しなくなっちゃったし。今は仕事が恋人っていうか、気ままな一人が楽っていうか……。あたしの結婚式のプランはもうとっくに出来てるのに、哀しいかな、相手がいないんだよね」

「マキったら」


 ブライダルプランナーのマキは、大きくため息をついた後、あきれたように首を横に振る。


「もし澄香の相手が会社の人とか言うのなら、他に誰か会社の人紹介してって頼みたいけど、かがちゃんじゃあね……。高校の同級生や、野球部のメンツを思い浮かべるだけで、ないないって思っちゃう……って、ちょっと待った! 」

「マキ、いったいどうしたの? 」

「……いるじゃない。そうよ、いるじゃない! かがちゃんの会社の人。ねえねえ、今度、かがちゃんに言っといてよ。誰か会社の人でいい人いないって」


 マキの目がらんらんと輝く。


「わ、わかった。今度頼んでみる」

「盲点だったわ。今度あたしからもかがちゃんに頼んでみる。なんで今まで気づかなかったのかな」

「あ、でも……。前に彼がメールで言ってたことがあるんだけど、その……」

「なに? 」

「彼のいる烏丸支店は、おじさんばかりみたいで。宏彦が一番若手で、その上はみんな既婚者だって」

「えええええ! なんだ、つまんない。せっかくいいアイデアだと思ったのにな。でも、かがちゃん、言ってなかった? 同期の人もいるって」

「あ、いるよ。いるいる。でもね、その人、同期だけど院卒で、おまけに学生結婚で妻子もいるんだ」

「ひえーーー。そうなんだ」

「うん。とってもユニークな人なんだって」

「そっか。まあ、仕方ないよね。うちの会社も同じようなもんだし。どこ見てもおじさんばっか。不倫の誘いを断る腕だけは磨かれて行くんだけどね」

「ま、マキ。それって大丈夫? 」

「大丈夫だってば。既婚者には一切なびかないから安心して。にしても、まさしく、人生はドラマだーー。それにしても、かがちゃん、やってくれるよね。彼って、そんなに情熱的な男だったっけ? 札幌からどどーーんとひとっ飛びでやって来たんでしょ? ホントびっくり」

「うん。夢見てるようだった」

「やっばーー。キュンキュンするわーー。でもさ、澄香には悪いけど、あたしにとっての同級生って、友達としては最高なんだけど、恋人としては全く考えられなかったんだよね。なんか頼りなくてさ。でもね、澄香とかがちゃん見てると、それもありなのかなって、ちょっとだけ思えるようになった。恋しちゃえば、年齢なんて、きっと関係ないんだよね。そっか、かがちゃん、バレンタインデーの日に、行動に出たんだ。いいな、ロマンチックで……って、あ、熱っ! 」

「マキ、大丈夫? 」

「はっ、はっ、あふーーい! 」


 ひょいっと口に運んだ本日のメインディッシュが、よほど熱かったのだろう。

 マキは、あわててビールの入ったグラスを手に取り、ぐびぐびっと飲み干した。


 平日にしか休みが取れないマキに合わせて、金曜日の仕事帰りの夜、昔よく通った高校近くのお好み焼き屋で久しぶりに彼女と鉄板を囲む。

 今度こそ、正真正銘、マキとのデートだ。


 京阪神にある、おいしくておしゃれな店をいっぱい知っているマキのセッティングに期待していた澄香は、連れてこられた店が、なつかしのこの場所とあって初めは驚いたが、ソースの香ばしさが食欲をそそり、次第にリラックスしていく自分に気付く。

 慣れてきたとはいえ、まだまだ仕事の緊張感と疲れは、金曜の午後にはピークに達する。

 けれど、まるで高校時代にタイムスリップしたかのようなこの空間でマキの話に耳を傾けると、疲れもどこかに吹き飛ぶようなそんなパワーすら感じられる。

 今となっては、この店でよかったと、マキの粋な計らいに感謝さえし始めていた。




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