プロローグ
プロローグのみ、メールのやり取りの散文形式になっております。
次話より、普通文型で展開していきます。
尚、時代設定は2010年以前となりますため、ガラケー使用で物語が展開していきます。
長編になりますが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
加賀屋君、年末の予定は?
──大晦日の晩にはそっちに帰ると思う。
でも元旦の夜には京都に戻る予定。
相変わらず忙しいんだね。
おじさんもおばさんも寂しいんじゃない?
──いや、その心配は無用。
俺がいなくてせいせいしている模様。
そんなことないよ。きっと心配してるって。
もっと頻繁に顔を見せてあげなきゃ。
──来年は時間を作るよう努力する。
じゃあ、大晦日の晩、零時に。
うん。わかった。
ねえねえ、何回目かな? 大晦日の零時のメール。
──六回目。それが何か?
何回目かなって、ただ、そう思っただけ。
もうそんなになるんだね。
でもさ、加賀屋君。
あたしとメールなんかやってていいのかな?
彼女に叱られない?
──別に。
もしいたとしても叱られないし
いなければ尚さら叱られない。
そんなもんなんだ。じゃあ、遠慮なく。
──澄香は?
俺とメールしてて、彼に叱られないのか?
だから、いつも言ってるでしょ?
そんな人いないって。
──会社のあの人は?
吉山君のこと?
だったら彼はそういう対象じゃないって。
信じてよ。ただの同期だってば。
──じゃあ、他に、誰か忘れられない人でもいるんだろ?
うーーん……。そうかもね?
なーんちゃって!
──おやすみ。
えっ? ちょっと待って。
加賀屋君、もう寝るの?
早すぎるよ。それはないでしょ?
まだ話は終わってないし。
──おやすみ。
ひどいよ加賀屋君。
すねてる。絶対に、すねてる。
──スネテナンカイナイヨ。おやすみ。
毎日繰り返されるメールだけが、澄香の真実。
電話で話すことも、二人だけで会うこともないけれど。
彼とのメールだけが、澄香の生きてる証し。
高校の同窓会があるってホント?
──ああ。今月末にある。
へえ、そうなんだ。二年ぶり?
いやもっとかな?
──三年ぶりだ。澄香は行くんだろ?
うん。行くよ。加賀屋君も行くよね?
だって、幹事だもんね。
──仕事の都合による。
月末、イタリアに出張予定だ。
滞在が長引けば、出席は無理だな。
ええっ! そうなの?
でもいいな、イタリア。
じゃあ、おみやげはパスタで。
──よし。わかった。
ただし、こっちは遊びじゃない。仕事だ。
わかってるって。
あたしなんか、たとえ仕事でも
海外に行くことなんてないもん。
加賀屋君がうらやましいよ。
だってついこの間、イギリスに行ったばかりだよ?
そうだ。免税店であのブランドバッグもお願い。
──わかった。
あと、ブレスレットタイプの時計も。
──おやすみ。
あっ、また怒った。
──おやすみ。
絶対怒ってる。
──オコッテナンカイナイヨ。おやすみ。
澄香は出張のたびに彼におみやげをねだる。
すると、それを写真に撮ってメールに添付してくれる。
でも……。
本物が届くことはない。
だって、これはゲームだから。
彼と澄香だけの、密かなゲーム。
どこまでも続くかくれんぼ。
そしてそれは、決して叶うことのない……。
夢物語。
舞台は神戸。メールで繋がる二人の恋の行方をお楽しみ下さい。