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女神と魔神と……オッサンと!?  作者: もり
第2章 封印の洞窟編
16/109

episode 3 皆無

〈あらすじ〉

 アレンカールの町でしがない傭兵業を営む中年男性コートは魔森で魔族の男を撃退する。しかしコートはその戦いで意識を失ってしまった。3日ぶりに意識を回復したコートの元にヤーンが駆けつけた。ヤーンはコートの正体を問いかける。その時カイムが突然訪れた。

 ローレスと呼ばれる神話がある。天地開闢にはじまり、神々の誕生、人類の発展、数々の英雄の活躍などを書き綴った物語であり歴史書でもある。

 神話について現存する記録はおおよそ二千年前にまで遡り、それ以前は口伝(くでん)の形で保存されていた。

 そして千年前、当時の神学者であり歴史学者でもあったケラニウス・ティトニエの手によって、言語も統一されておらず数多くの詩や散文の単なる寄せ集めだったそれらを、辻褄(つじつま)の合う一つの壮大な物語として体系的にまとめあげられた。それがローレスであり現在神話の原典とされているものである。

 以降、神話は神聖不可侵であるものとされたが故に支配者や聖職者などの多くの為政者により都合よく改竄され現在ローレスとは大きくかけ離れたものとなっているが、とりわけ人々の人気を集めている神族と人間と魔族の戦いを描いた『カイムの(なげ)き』は、その人気故に多くの人に語られ原典にあまり手を加えられていないとされている。


 まだ世界が神世(かみよ)顕世(うつしよ)幽世(かくりよ)(へだ)たれていなかった時代、魔族の国にカイムという若者がいた。

 カイムはある夜不思議な(みっ)つの夢を見る。ひとつは大地の底から大きなヘビが現れそれを飲み込んだ夢、ひとつは小人になって大きな(かし)の木を飛び越えようとする夢、そしてもうひとつは自分と女神と人間とで一個のリンゴをどう分けようか悩んでいる夢である。

 それを聞いた神々と人々は不吉な夢としてカイムを恐れ北の果て不毛の地オゴロノ島に監禁してしまう。そこでカイムは噴火に巻き込まれ炎の力を、嵐に遭い風の力を手に入れた。吹雪の(なか)氷の力を、波に(さら)われ水の力を手に入れた。

 そして長い間光を閉ざされ闇の力を手に入れ神に近い存在となったカイムは復讐を果たすため島を脱出、魔族を率い神と人とをその力であっけなく蹂躙していった。大地が干からび、海が凍り、空に光が奪われた。草木が枯れ動物が死に絶え、神も人も怨嗟(えんさ)の声をふりまいた。

 中立の立場をとっていた女神ニースが、その様子を見かね立ち上がる。

 ニースは世界を三つに分け、神、人、魔の世界を作り、それぞれを分け隔てることで争いを終わらそうとした。もうすぐ自分のものになるはずだった世界が勝手に分けられたことにカイムは怒り魔族の軍勢をニースへと向ける。ニースは辛くも魔族を退け、魔の世界に追い込みカイムを再びオゴロノ島に閉じ込めた。おおよそこういった話である。


 お伽話(とぎばなし)や童話、演劇の題材にされることも多くカイムの名前は老若男女知らない人は皆無であろう。カイムだけに……。


 カイムという名は忌名(いみな)だ。余程この世に恨みを持っているかイカレポンチでなければ親が子につけるような名前でない。

 なのでカイムと名乗る男にちょっと引いた。本名なら言わずもがな、自分で名乗ってるのだとしたら大抵何かしら変なものを(こじ)らせたイタい人だからだ。だがオレは大人である。人には「いい大人が……」と言われるくらい大人である。それはそれとして助けてもらった礼はちゃんと言わねばなるまい。


「アンタがオレを助けてくれたそうだな。あらためて礼を言う。ありがとう。カ、カイムでいいのか? 」

「カイムで合ってるよ」

「大昔の魔神の名前をつけるなんてアンタの親はとんだ悪趣味だ」

「それが礼を言う人の態度かい?」


 ついつい言葉に出てしまった。いい大人と言われる所以(ゆえん)であろう。

 そう言うものの失礼な物言いに対して気にしている様子は全く感じられない。余程のお人好しなのだろうかはたまたアホなのか。カイムのくせに。名は体を表すというがそんな雰囲気は皆無である。とりわけオレはこの男に妙な興味を持ってしまい質問を浴びせてしまった。


「スマンスマン。ところで今までなぜジムと名乗ってたんだ? 」

「カイムだとねぇ不便なんだよねぇ、色々と」

「なるほどな。なら、なぜ今になってカイムと名乗る? 」

「そうだねぇ、面倒になったからかな」


 適当だな、オイ。


「なぜオレを助けた。アンタにメリットはないはずだ」

「最初はそうだねぇ直感だよ。キミを助けたほうがいいと思ったんだ。それだけさ」

「なら今は? 」

「今はねぇ仲間になってほしいと思っているんだよねぇ」

「仲間だぁ? はぁ? どういうことだ」

「仲間になってねぇ、一緒に旅をしようと思っているんだ」


 話が見えないと言えばいいのか、イマイチ理解できないと言えばいいのか。とにかく詳しく話を聞いてみることにする。


「旅ってなんだ? 目的は? 」

「旅は旅。それだけだよ」


 態度を変えずに答えるカイムにその魂胆が読めない。ただ哲学を語っているような物言いではない。本当に単なる旅なのだろう。なぜだか魅力的な提案に返答に困っているところヤーンが助け舟を出してくれた。


「この人はこの街にとって大事な人なんだ。他をあたってくれないか? 」

「ボクにとってもねぇ大事な人になりそうな人なんだ。返事は急いでないから気にしないでねぇ。あとニースも誘っておいたよ。あの()も悩んでいたみたいだったからねぇ。しばらくはこの町にいるから気軽に声かけてねぇ」


 そう言い放ちカイムは踵を返し階段を降りていった。しばしの沈黙の後オレはとりあえず二人に聞いてみた。


「今の話、なんだか解るか? 」

「いや、さっぱりだ」

「…………」


 ヤーンは肩をすくめオーワは無言で首を振った。オーワの表情にはもう怒りのかけらも残っていないように感じた。カイム、アンタにはちょっとだけ感謝するよ。

 今の話を自分なりに咀嚼(そしゃく)しているのだろう、二人は窓の外を眺めながら何かしら考え事をしているようだった。オレはそんな二人を眺め誰にも聞こえないような小さな声でこうつぶやく。


「早く帰ってくれないかなぁ……」


 布団(ふとん)(なか)事情(じじょう)に気を遣いながら……。

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