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女神と魔神と……オッサンと!?  作者: もり
第2章 封印の洞窟編
15/109

episode 2 露見

〈あらすじ〉

 アレンカールの町でしがない傭兵業を営む中年男性コートは魔森で魔族の男を撃退する。しかしコートはその戦いで意識を失ってしまった。意識が回復しないまま町へ運ばれたコートはその夜ニースの訪問を受ける。ニースはそこで自らを魔神と称するカイムと再会した。

 小鳥のさえずる声に目を覚ます。

 そして靄のかかった記憶をたどる。魔族との戦い、その後襲ってきた激しい頭痛と意識の混濁。おそらくそのあと気を失ってしまったのだろう。


 ゆっくり周囲を見渡すと汚いが見慣れた壁や天井が網膜に映る。鼻腔を刺激するは嗅ぎ慣れた生活の臭い。ここまで運んでくれたのは自警団の連中であろう。

 何気なく眺めた先の壁にはボロボロに成り果てた一対の剣が立てかけてある。コイツのおかげでまた命が救われた。もともとオレはものに感謝するタチでもネコでもないが、今はこの存分に働いてくれた一対の剣に(ねぎら)いの言葉を掛けたい、そんな気持ちにさせられた。

 その少し奥、部屋の片隅にはいつもは雑然と重ねられているだけだった洗濯物が綺麗にたたんで置いてある。そういや森に行く前にたたんだんだっけか? 普段しないようなことをするからこんな目にあったのかもしれない。


 状況を確認したあと、とりあえず体の調子も確認する。魔族に蹴られたみぞおち周辺はまだ若干痛むが、その他にめぼしい痛みはない。動かしてみると少しだるさはあるもののこの感覚は寝過ぎによるものだろう。普段からよくあることだ。体は特に異常はなさそうである。

 一通り確認を終えると今度は魔族との戦いのことを思い浮かべる。死ぬかと思った。もう森には近づかないことにしよう。あんなのがポンポン出てこられた日には命がいくつあっても足りない。それにしてもなぜあの時魔族は消えたのか疑問が残る。でももう関係はない。頭を切り替えるに限る。

 しばらくベッドから起きずにゆっくり横になることにした。こんな機会は滅多に訪れるものではない、って程でもない。二度寝する勢いで、寝起きの布団の温もりをじっくり堪能する。


 再び襲いくる睡魔に、ウトウトし始めた頃ドアがおもむろに開く。ノックもしないなんて、なんて失礼なやつだ。抗議の半眼で(にら)むとその先にはオーワが立っていた。しかもオーワの目にはみるみるうちに涙が滲み始めている。ひょっとしてこれはアレか。瀕死の重傷を負い数日眠りこける主人公、目を覚ますと涙にくれる仲間たちと恋人(キャッ! )。非常に古典的手法である。それでもって粥かなんか載ったトレイを落としていまうパターンか? とオーワの手元を見たら手ぶらだった。まあいい。とにかくここでかける言葉はひとつしかあるまい。

 

「ここはどこ? 私はだれ? 」

 

 よくある安っぽい英雄譚ならこれが正解であろう。オレの言葉にオーワの顔がみるみる青ざめる。そして何も言わず勢いよく部屋を飛び出して行った。

 やりすぎたかも……。少し反省する。

 しばらくすると勢い良く階段を上る足音が聞こえてきた。そして今度はノックが三回。急いでいる割にはきちんとマナーを守っていると感心した。返事をするとヤーンがオーワを引き連れて入ってきた。

 

「ダンナ! わかるか」

「あ、ああ。ヤーン。な、なんか世話になったようだな」

「記憶がないそうだが、どうなんだ? 」

「き、記憶(きオく)? あ、ああ、大丈夫だ。き、昨日の晩飯のおかずだって言えるさ」

 

 『記憶』の『お』が裏返って変な声が出てしまった。ちなみに昨晩意識がなかったことは(あと)で知る。心配そうなヤーンの肩越しに悪魔を捻り潰したかのような表情のオーワが見える。ちょっとしたオッサンのいたずらに気付きやがったな。カンのいい奴め、ごめんなさい。しかし、こちとら気の小ささにかけてはそうそう誰にも引けを取らない自信はある。このまま三文芝居を続けていくと、とんでもない事態を招くような気がする。オーワは言葉数が極端に少ない。となると答えはひとつ、申し訳ないが先ほどのやり取りはなかったこととさせていただくのが一番丸く収まりそうだ。

 そして何事もなかったかのようにヤーンと話をする。それによるとどうやらかれこれ三日三晩眠っていたようだ。危機を脱した主人公が二、三日眠りにつくのはもはや既定路線だ。しかしである。その間の生理的老廃物事情はどうなっているんだろうか。この時かねてからの疑問が頭をよぎる。事情と書いたがコレはもはや情事ですらある。生態的廃棄物情事。

 とにかく幸運にも、いや不幸にもオレは自分自身その身を以って疑問に到達する機会に恵まれてしまった。ならばすることはひとつ。オレは深呼吸を何度となく繰り返した。今だ、今なんだ、今しかないんだ。そしてオレは恐る恐る確かめる。どうかカオスになってませんように。

 結論は…………ここでは言いたくない。若干打ちひしがれているオレをよそにヤーンが話しを続ける。

 その話によると、今のオレの状況は布団の中同様それほど良くはないようである。いやはっきり言おう最悪だ。

 オレを始めとするアレンカール全体がヘルマエからあらぬ恨みを買っていること。『オレを始めとする』この部分がオレ的にはポイントである。

 そして、おそらくニースはヘルマエの野郎に、連れて行かれるであろうこと。ヘルマエが帰るときには自警団総出で命がけの護衛をしなければならないこと。今、自警団のズバトが単独でボレリアス城に助けを求めに行っているがいい返事は得られないであろうこと。最後にジムと名乗る謎の男に助けてもらったこと。等々。どこぞの貴族の三男坊あたりが魔森で事故っちゃったことにしちゃえばいいじゃない? と嫌な名案を思いついてしまうそんな状況だ。

 とりわけ気になったのがそのジムという男。魔族との戦いの後ヘルマエ一行が訪れてきた時、最初に話しかけてきた優男だ。詳しく話を聞くと魔森に突如現れヘルマエと従者一人を救出。そのヘルマエの命令を無視してオレを助け、ここまで背負って連れてきてくれた。その時魔術のような何かを使ったらしく、そのお陰でヘルマエは今も病床に伏せている。とのことである。胡散臭さMAXである。ひょっとしたらこの状況を打開するキーパーソンなのかもしれないが、できることなら関わりたくない。

 その後ヤーンは魔森での出来事は緘口令が敷かれていてうかつに人に喋ってはいけないと忠告し、ためらいながら口を開いた。

 

「ダンナが『血塗(ちまみれ)クーロン』なんだろ? 」

 

 オレは言葉を詰まらせた。ヒャッハー! バレちったー! そんなほんのちょっとだけハイテンションで落ち込んだオレの気持ちを察した? であろうヤーンが少し笑顔を作る。

 

「安心していいよ。ダンナは命の恩人だ。『魔術砕(まじゅつくだ)き』なんだろ? あの時使った技。あんなことできる人がそんなにいるわけがないし、こんな片田舎で燻ってるにはなんか理由があるはずだからね。(おの)ずと解るもんだよ」

 

 沈黙するオレにその様子を(うかが)いながらヤーンは話を続ける。

 

「大戦末期アブ・ヌワス砦。あそこに自分も居たんだよ。と言ってもほとんど何もしていなかったけど。爆発が起こり瓦礫の下に閉じ込められて、自力で()い出てきたらすべてが終わっていたからね。あの時はみんな血塗(ちまみ)れだったからね。顔なんて誰が誰だかよくわからなかったんだ。だから気が付かなかったよ。その後ダンナの置かれている状況があまりよくはないことは知っている。だけどずっとお礼が言いたかったんだ。あの時助けてくれてありがとう」

「ああ……、あの時か」

 

 オレはなんとか言葉を絞りだすことができた。しかし言いたいことはそんなことではなかった。大戦が終結した最大の原因である魔族の出現。その時の話であろう。ヤーンもそこにいたのか。そもそも助けたわけではない。オレはあの時、取り返しのつかない間違いを犯していたのだ。お礼を言われる筋合いはない。

 

「魔森の一件での目撃者は自分とオーワだけだ。他は誰も見ていない。一応オーワにダンナのことは話した。あの戦いを見て気付くかもしれなかったからね。オーワも誰にも言うつもりはないし、自分達二人はダンナがアレンカールで平穏に暮らしていけるよう協力させてもらうよ。自分は二回も命を救ってもらったんだからね。信じて欲しい」


 結局オレは何も言えず仕舞(じま)いだった。視線を上げ二人の顔を見る。優しく微笑むヤーンと鬼の形相を崩しきれていないオーワの顔がそこにはあった。し、信じていいんですよね……。

 ヤーンが部屋を後にしようと振り向く。その時ドアがコンコンと二回ノックされた。この話を聞かれたかもしれない。オレ達三人は一瞬体を硬直させた。お構いなしにひらかれるドア。まだ返事をしてないというのに……。そこには薄茶色のコートを着た長身の男がにこやかな表情を浮かべ立っていた。

 

「はじめましてでいいかな。ボクはカイム。悪いけどねぇ立ち聞きさせてもらっちゃったよ。ちょっと話ししたいことあるんだけどいいよねぇ」

 

 今の話を聞かれたかもしれない。ヤーンとオーワの顔がそれはもう盛大に引き()っていた。

 たぶんオレの顔も似たようなものだったことだろう。

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