episode final ニース
縷々と雪が降っていた。
── 死にたくない。
心の中でそう呟くクーロンの枯れ木のように黒ずみ干からびた手を、陶磁器のように白く滑らかな両手が優しく柔らかく包む。
誰に知られることのない救世の英雄は、物置を思わせる厩舎の二階でニースと二人、ひっそりと人生の終幕を迎えようとしていた。
出逢った頃のクーロンは、自分の命などゴミ屑同然のように思っていたフシがあった。それが今、生に縋ってくれている。少しだが嬉しかった。
ニースはその気持ちをクーロンの意識に直接送った。と、繋ぐ掌から、ニースの心にクーロンの弱々しい感情が返ってくる。それはとても曖昧にぼやけた感情。あえて言葉にするならば謝罪に近いものだった。この時ニースは、クーロンの意識が遠のいてきていることを実感させられた。
彼女はベッドの傍らで慈愛の笑みを浮かべ、耳に囁く。
「大丈夫。私がずっと見届けます。安心して…… 安心して眠ってください」
最期に彼女の手をぐっと握る。クーロンはそのまま全身の力を抜いた。そして静かに、安らかに、本当に眠ったかのように息を引き取った。折しもその三日前、亡きヤーンの息子シュリアンことコート二世が、オッサニア共和国樹立を宣言したばかりのことだった。
「おやすみなさい…… クーロンさん……」
王国歴四二六年、寒い冬の朝だった。その日彼女は笑顔を忘れ、ひとり涙に暮れた。
一月後、コート二世が数人の従者を引き連れ、忍び町を来訪した。この国で最も高い地位に座する彼は、己の立場も顧みずニースと彼女の傍らの、小さく簡素な新しい墓石に深々と頭を下げた。ニースが恐縮すると、彼は「大恩ある身」と腫れた目尻の皺を深くした。
彼の傍らには、左右の腰に幅広の剣を吊った老齢に差し掛かる長身の女剣士が控えていた。
几帳面に後ろに結われた黒髪。老いてなお生気の篭った黒瞳。右頬には深い切創痕が刻まれ、死線を潜り抜けて来た人間特有の厳しい雰囲気を醸していた。
彼女は頭を垂れている男の背後で、洗練された動きで胸の前に、柄を上に剣を掲げ俯き加減に目を閉じた。鞘からゆっくりと僅かに抜く。と、薄っすら透明に光る月白の剣身が覗く。キンッと冷えた鋭い音を立て勢い良く納める。後は微動だにせず黙し、なにも語ることはなかった。最高の礼を尽くしたであろう彼女の所作は靭やかであり、佇まいは堂々としていた。だがその挙措進退にニースは悲しみを見ていた。十を過ぎたばかりの少女が泣きじゃくっているような、そんな剥き出しにされた悲しみだった。
季節は巡り、そして、時が流れる ────
英雄は、夜空に輝く幾つもの星と例えられた。ある者はきらびやかに煌々と、ある者は寄り添うようにひっそりと、その人となりを満天の星空に想い語り継ぎゆく。
『オッサニア建国記』
物々しい革の表紙にそう焼き付けられた六冊にも及ぶこの分厚い書物は、綺羅星の如く輝き、そして流星の如く消えていった、数多の英雄たちの生き様をありありと描いていた。だがそこで、世界を救った男は寡黙であった。
書棚に並べられたそれを、一冊一冊細い指を滑るように這わせる。そして素通りし傍らにある小さな本を、人差し指でそっと引き出し、手に取った。
『女神の傭兵』
掠れ消え入りそうな文字ではあるものの、その本の背表紙には確かにそう表記されてある。
手にしていた箒を華奢な肩に立てかけ、はらりはらりと落ち葉が舞うかのようにページをめくる。通称『外伝』と称された古びた一冊は、世界を破滅に導く神々に挑んだと言われる、一人の傭兵の足跡が記されていた。淋しげに微笑みながら目を落とし、一文字一文字を大事に大事に追っていた。
「サボんないでよ!」
耽っていた背後から、不意に響く可愛い怒鳴り声。びくりと肩が跳ね、柔らかな黄金色の髪がふわりと浮いた。そっと振り返ると、十に満たない男の子が腰に手を当て睨みつけている。
「あはは…… ごめんなさい」
ニースは本を元の書棚に戻し、あわてて箒を動かす。監視のつもりなのだろう。男の子はしばらく彼女に目を配っている。そして大人ぶって鼻から長い息を吐くと、彼女と拍子を合わせながら埃を掃き始めた。
「おねえちゃん、その本、好きなんだね」
機嫌を直した男の子が朗らかに笑う。ニースは手を休めず、静かな笑顔でこくり頷くに留まった。
朗らかな日差しが降り注ぐ。
ここは、オッサニア共和国辺境アレンカールの中心に聳え建つ女神の神殿。小さな町に似つかわしくない大きく荘厳な建造物のその一室には、箒を手に笑い合う二人の姿があった。だがニースは笑ってはいるものの、いつもどこか淋しげであった。微笑みともとれるその表情には深い悲しみを宿していた。そして男の子はそれを、あどけない心で敏感に感じ取っていた。
「おねえちゃん、今日はおばばさまに会えるかな?」
「ダメですよ。大司教様はお忙しいんですから」
「つまんないや」
ニースに窘められ、男の子が唇を尖らせる。それを見たニースは目線を右上に向けると、腰を屈め男の子を覗きこんだ。
「さあさあ、早く終わらせて、おやつにしましょう。今日は何にしましょうか〜」
「クッキー!」
しゅんとしていたと思いきや、甲高くも大きな声を上げる。ニースはふんわりとした笑顔で男の子に答えた。
「じゃあ、急ぎましょう〜」
いくばくかして二人が作業を終えた頃、こつこつと扉を叩く音がした。男の子は「は〜〜い」と元気に返事をする。ギギギと軋ませながら開けられた扉の先には、この部屋の主である白髪で老齢の女性が腰を曲げながら立っていた。
「おばばさま!」
「掃除は終わったかえ」
待ってましたとばかりにトコトコ走って近づく男の子。老婆は彼を見下ろし、皺の刻まれた優しい笑みを向ける。
「エヘン!」
と、男の子は胸を張って答えとした。老婆は嗄れ節くれ立った手でその小さな頭を撫でながら辺りを見回し、そしてニースに顔を向けた。
「手伝ってくれて、すまないねえ」
「いえいえ」
会釈を交わすニースと老婆。男の子は頭に載せられた手を両手で掴み、部屋の奥へと引っ張りながら誘う。老婆はよろけながらも、のそりのそりと男の子に引く手に従った。
「ねえねえ、おばばさま。あのお話聞かせてよ。ゆうしゃさまのお話!」
「はいはい、わかったからこっちへおいで。この話は、ばばの生まれるず〜と昔の話じゃよ」
よっこらしょ、と言いながら、どすっとソファーに腰を沈めた老婆は、今度は男の子の手を引き自分の横へと座らせた。その前には黒檀の小さな丸いテーブル。ニースはそこにクッキーの入った菓子皿を、いつしか手に持っていたトレーから移動させた。続いてそこからカップを二つコトンと置き、とくとくと紅茶を注ぐ。湯気が香りを運んだ。
「うんうん!」
男の子は菓子にも当然紅茶にも目をくれず、目を輝かせ老婆を見上げた。聞く準備は万端である。彼の無垢な仕草に顔をわずかに綻ばせた老婆は、目を瞑りおっとりと話し始める。
「勇者様はね、神様が鍛えた大きな大きな聖なる剣と悪魔が産み落とした瘴気を纏った剣、二つの不思議な剣を携えていたそうじゃ。そして女神と魔神、常に二柱の神様を従えていたそうじゃ。天も魔も、聖も邪も彼にとっては別段どうでもいいことだったのかもしれんのお」
「へえ~、それでそれで」
「それでの勇者様は世直しの旅をしながら、飢えてる人を救い、悪人にはその道を説き、迷っている人を導き、人に害をなす魔物をちぎっては投げちぎっては投げ、この世の悪と言う悪を綺麗さっぱり片付けたのじゃ」
「うんうん、それで!」
「魔法みたいなものも使えての、不治の病で困ったひとがおったならたちどころに癒やし、吉凶を占い、この国を豊かで平和な国に導いた御方じゃ」
「すごいすごい!ボクもゆうしゃさまみたいになりたいな!ねぇねぇ、おねえちゃん、ゆうしゃさまってすごいね!」
ニースも黙って聞いていたが、急に話を振られ慌て口を開く。
「う~ん、なんて言ったらいいんですかねぇ。そこまですごいって感じの人じゃなかったような気がするんですけど。あはは……」
ニースの苦笑いに、男の子はキョトンとした顔を向けていた。
その日の黄昏時、町外れ。ニースは一人、小さく膝を抱えていた。
彼女の前には、膝くらいの高さであろうか、歪に丸まった石がひっそりと佇んでいた。それは墓だった。ただ墓石としては小さい部類のものだ。全体に広がる擦れ、苔、ひび割れから、かなり古いものだと確認できる。
街の喧騒が吹き下ろしの風に紛れ、遠くで聞こえた。彼女は、誰に話すでもなくぽつり口を開く。
「クーロンさんが伝説の勇者なんですって。しかも話がすんごいことになっちゃってます。あはは……」
空っぽな笑いが流れゆく。あの日以来、彼女の心にはぽっかりと穴が空いてしまっていた。彼女はそれを埋めようとするかのように、目を閉じ想い出に浸る。だけど穴は底なしで簡単には埋まらない。空虚が心を占めていた。
「ニース〜ぅ!」
遠くで呼ぶ声に振り返った。目に映るは一人のうら若き女の姿。後ろに纏められた一本の三つ編み。それが猫の尻尾のように、スカートの裾と拍子を合わせ、小気味良く左右に揺れている。ニースはゆっくりと立ち上がった。
「またここに居たの? ねえニース。縁談の話、また断ったんだって?」
「あはは……。まあ、縁がなかったってことで」
坂道を駆け上がった女は肩を大きく上下させながら、年頃なら誰もが興味を惹かれるであろう四方山話を始めた。
「ひょっとして、心に決めた人でもいるとか?」
何気ない言葉が耳朶を打つ。と、拍動も一つだけ大きく打った。それがとても痛い。だがニースは表情ひとつ変えずに、小さく頷いた。
「はい。まあ……」
少し頬を染めながら。女は興味津々とばかりに俄然調子付き、好奇に目を輝かせながらニースに詰め寄る。
「へえ〜、高嶺の花呼ばわりのニースがねぇ。ねえねえ、どんな人、どんな人?」
「う〜ん、そうですね〜。口が悪くて偏屈で、いっつも変なことばかり考えている、傭兵崩れの、ただのしがないオッサンでした」
「ははは、変なの……って、えっ? したってことは、ひょっとして……」
「ええ、この下で安らかに眠ってるんでしょうね。私を放ったらかして」
「ニース……なんか怒ってる?」
その一言にハッとした。自分は怒っているのかと。だがニースは静かに首を横に振った。失言と感じた女は先ほどの勢いを失ってしまい、気まずそうにニースの表情を横目に収める。と、透かさず小さく破顔して高い空を見上げた。
「いい人だったんだねぇ〜」
ニースも倣い空を見上げる。そして
「はい」
と一言。
「そんなふうに笑えるんだ〜」
ニースは女に目を遣る。豊かな三つ編みが風に揺れる。彼女もとても嬉しそうに笑っていた。
「じゃあね〜、ニースぅ」
彼女の用件は、老婆からの言付けだった。それを済ますと、大きく手を振り麓にある町へと戻っていった。
ニースは再び膝を抱え、そこに頬を預ける。
「明日、起ちます。またしばらく、ここを離れなければなりません。少しお別れですね。と言っても、あなたはこんな所に居ないでしょうけどね」
森から吹き下ろす冷えた秋風が強さを増し、丸めたニースの背を撫で通り過ぎる。靡き顔に纏わる髪を手で押さえ、暫く掠れた墓標を見詰めていた。ここで自分は人ではないことを打ち明けたあの日を想い出しながら。
いつしか日が暮れていた。純度の増した空気が、冷たく重く満ちると、白い月明かりが黒い影を落とした。ニースはずっとこうしていたかった。だが、明日には立ち去らなければならない。彼女はここで夜を明かすことを決め込み、小さく掠れた声で語りかけた。
「目を閉じれば、あなたの姿が思い浮かびます。耳を澄ませば、あなたの声が聞こえます。手を握れば、あなたの温もりを感じます」
そして思い出を噛みしめるように、言葉通り目を閉じ、耳を澄ませ、手を握る。
「いつでも、色褪せずに。遠い記憶のはずなのですが、不思議とそんな気がしません。今もこうして、あなたを感じ取ることができます。でも、どうしてでしょうね。とても……寂しい」
頭上に広がるは雲ひとつない夜空。そこには幾つもの星が瞬いていた。だがニースは目もくれず俯き瞼を閉じたままだった。
声を聞きたくてさ迷い歩いた夜もあった。指先だけでも触れたくて虚空に手をまさぐらせたときもあった。似たような後ろ姿を目で追う日もあった。
もうどこにも居るはずもないのに。
「ひと目で、ひと目だけでいいから、あなたに逢いたい。これはわたしの望んだこと、あなたが望んだこと。納得したはずなのに、何だかおかしいですね」
ふと目を開ける。月光に落とされ自分を象った影が目に入る。
一つ。そして朧気にもう一つ。
何故? と不思議に思ったニースは、光源であろう方をやおらに見上げた。
「こんな夜は下なんか向かず空を仰ぐもんだよ、お嬢さん」
「あっ……」
とても懐かしく、とても温かい音。
ニースは極端に抑えた悲鳴を上げる。そして目を開き、呆けてしまった口に両手をあてた。
「その、なんだ。泣いてるように笑うな。これじゃあ、おちおち寝てられん」
「どう……して……」
驚きに声が途切れる。声が掠れる。声が震える。
「アンタなんだろ? オレをここに連れてきたのは」
返事を試みるも声帯を震わせること敵わない。呼気が口から漏れるだけ。ニースはただ首を横に振った。未だ表情は固まったまま、思考が止まってしまっていた。何が起こっているのか理解しきってはいなかった。
「今までどうしていた?」
ニースははっと我に返った。そして懐かしげに、愛おしげにその光を見詰め返した。動かすことのできなかった口が、たどたどしく微動する。
「そうですね〜。一言で言えば……笑ってました」
「ずっと……笑っていたのか?」
「はい。ずっと笑ってました。長かったですよ……結構」
「……アンタは相変わらず……強いな」
「強い」の一言が張り詰めた心と涙腺を決壊させた。涙の雫が頬を伝う。目が潤む。ニースは歪む視界を拒むかのように、手の甲で目元を拭う。だが次々と溢れて止まらない。強くなんかない、そう言わんばかりに。
「でも……こうして逢いに来てくれました。あなたは……少し卑怯です」
「悪かったよ……」
「嘘つきです。姑息です。偏屈です。チンケです。ドスケベです」
「ド、ドスケベ……」
咽を詰まらせたような声で、矢継ぎ早に捲し立てるニース。だがその言葉一つ一つには、深い愛情が溢れ出ていた。
「そして、優しいです。とても」
「…………」
ニース肩を震わせ、とうとう泣きじゃくってしまう。時折漏れるうめき声が、揺られる草木の音と重なり合っていた。
落ち着いた頃合を見計らったかのように、ニースにとっては甘いささやき声が耳に入る。
「もうアンタなしでも、この世界は滅びることはないのか?」
「はい」
すぐさま返す。
「もう思い残すことはないのか?」
「はい」
「そうか……」
少しの沈黙。だがそれすらも、今のニースは耐えることができない。口を開き、声を出し、言葉に綴る。
「言ってください。次の言葉」
だが、ためらうような仕草。返ってこない返答。ニースは物欲しげな子供のような表情で、半ば口を開き、ただじっと見上げていた。
「なら、こっちに来るか?」
「はいっ!」
静寂に終止符を打った愛おしいい調べ。忘れようにも忘れられない柔らかな声だった。それが負けを認めたような短い言葉を紡ぐ。ニースは自分の希望通りの誘いかけに一切躊躇せずに返事を返す。そして立ち上がり、差し出された手に自分の手をそっと添えた。ずっと求め続けてきた心のままに。
二人の手が重なり、そして二つの想いが重なる。……そして溶ける。……そして、消え逝く。
翌朝。いつもと変わらず日は昇り、いつもと変わらず竈に火が焚べられる。その日、町は何事もない一日を送るはずだった。だが、町外れで倒れているニースが発見された。彼女はそこにある古く小さな墓石を抱きしめるかのようにもたれかかり、そして冷たく変わっていた。
彼女の亡骸は神殿の中央、礼拝堂へと運ばれた。そのままその細く小さな体は、丁寧に白い棺へと収められた。
町の人々の手により色とりどりの花が添えられ、精緻なモザイクのように彼女を覆う。一時は魔女として怖れられ、疎まれ、蔑まれた。だが今は違った。聡明に生きてきた彼女は、長い時を経て人々に愛され慕われるようになっていた。
夕刻。盛大な葬儀が執り行われた。
棺に列をなし一人一人がニースとの別れを偲んでいた。ある者は涙し、ある者は口を歪ませながら噤んだ。
多くの人が悲しみを顕に棺の横を過ぎる中、一人の男の子がニースに笑顔を向けた。そして笑った。子供の母親は不謹慎とばかりに目を釣り上げたが、それを目にした一人の老人が、腰を下ろし子供と目線の高さを合わせた。
「坊やはどうして笑ったんだい?」
問いかける穏やかな言葉に、男の子は表情を控えおずおずと答えた。
「だって、笑ってるんだ。すごくうれしそうなんだ。こんなおねえちゃん、初めて見たんだ」
老人は立ち上がり、再びニースを目に収め、気付く。老人のその嗄れた顔は、更にその皺を深くしていた。
子供の声に釣られ周囲は視線をニースに向ける。安らかに目を瞑るその表情は、確かに笑って見えた。生前の彼女のどこか寂しげな笑顔とは違う、とても穏やかでとても幸せそうな笑顔。人々は自然と顔が綻ぶ。その表情が、周囲へと伝染してゆく。その感情が、町を覆ってゆく。笑顔が広がってゆく。
神々は人の祈りを求め、人の魂を欲す。だがクーロンとの別れ際、ずっと見守ると約束して以来、彼女は人の笑顔を望むようになっていた。
── 皆、笑顔であらんことを。
ニースは悠久とも言える時の中、そう思い、いつも笑っていた。そして、この世界の命運を、一人ひっそりとその華奢な背中で支えていた。
この町の今の姿は、女神ニース、この世界にとってあまりに壮大とも言える彼女の、小さな、とても小さく真っ直ぐな思いだった。そしてその答えは、とても簡単なものだった。それは、自分が心から笑うこと……。
ニースを中心に、町は笑顔に溢れる。ニースを中心に、町は笑顔で満たされゆく……。
遥か遠く空の彼方。夕陽に染められ緋に色づく薄い雲が疎らに漂う。そこに溶けこむような深紅の双瞳が、人知れず淡い光を帯びていた。眼下の光景、彼はどう想い見下ろしていたのだろうか。
女神と魔神と……オッサンと!? ー 完 ー




