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女神と魔神と……オッサンと!?  作者: もり
第1章 アレンカール編
10/109

episode 7 決着

〈あらすじ〉

 アレンカールの町でしがない傭兵業を営む中年男性コートは美人で名高いニースをあわよくば口説こうと町の庁舎を訪れていた時、町に滞在している貴族が森へ侵入したと報告を受けた。助けに向かったコートと自警団の面々は魔獣の群れに襲われ、その後魔族の男とも出会う。『能力』を開放したコートは魔族の男に深手を追わせるも仕留め切れず逆にコートは瀕死の危機に陥る。その時魔族の男に異変が起きた。

 ニースは何かを感じ取ったように遠くの空を眺めていた。

 魔族の男の体が半透明になり、その濃度が徐々に失われていく。

 

 オレは魔獣やら魔族やらに、さんざん痛めつけられたおかげで地面に仰向けになったまま動けずにいた。そして、その出来事をまるで他人事のように眺めていた。

その時、激しい頭痛と眩暈(めまい)、意識の混濁が襲ってくる。その症状は時間が経つに連れだんだんと重くなってくるのを自覚した。能力を開放したことによる副作用、『(のろい)』である。

 能力の開放、時間にしておよそ十秒、自分が自分でいられるギリギリまで開放した。

 魔獣との戦いで、能力を開放しなかったのはひとえにこれがあるからである。こうなってしまうと、もう戦うどころか動くことすらままならない。オレを蝕む『(のろい)』によって、おそらくはこれから数日は寝込むことになるだろう。嫌だよぉ〜、怖いなぁ〜、怖いなぁ〜。

 

「くっ!ここまでか。もう少しだというのに……」

 

 魔族の男は、あれほどの脅威を、それはもう大盤振る舞いで振りまきまくっていたにもかかわらず、たった一言二言(ひとことふたこと)を残し夕暮れの景色に溶けこむようにあっさり消えていってしまった。何が起こったのかさっぱりなのだが、とりあえずは助かったと見ていいだろう。

 森に入って実のところ、不幸だ不幸だなんて自分を呪っていた。だが諦めずにしつこくしがみついていれば、案外いいことも転がってるもんだと実感する。

 体も頭もぐちゃぐちゃだ。だが気分はそれほど悪くない。不意に笑いすらこみ上げてくる。

 目一杯、大声で笑いたかった。だが、残念なことにここまでの戦闘や能力開放の影響は、自分の思った以上に体に負担をかけていた。笑おうにも腹に力が入らない。

 

「あは……あは……あはは……」

 

 それでも精一杯の声で笑い飛ばしてみた。我がことながら、なんともションベン臭い笑いである。

 しばらくして足音が近づいてきた。駆け足、二人か。消え入りそうな、か細い笑い声を聞きつけたのだろうか、ヤーンとオーワが駆けつけてきた。

 

「やったな、ダンナ!すごかった。うん。本当にすごかったよ」

 

 ヤーンは涙声だ。

 

「ああ……。アンタらのお陰だ……」


 か細い声に二人は驚いてしまったのだろう。目を見開いていた。

 

「いや、自分は何もできなかった。囮になろうと飛び出してみたものの、自分一人がこうして無傷でいる。情けないよ」

「そうじゃない……。オレ一人がどうこうしたんじゃないんだ……。みんなが自分のできることをやった……。これはその結果だ……。それに、あの時飛び出したからこそ、今こうしてオレ達を助けることができるんだ……。情けないなんて……そう面倒に考えないでくれ……」

「ああ、そうかもしれないな。とにかく、生きて帰れるとは思わなかった。ありがとう、ダンナ。見たところ大分しんどそうだけど、大丈夫か?」

 

 ヤーンは涙ぐみながら横に膝まずき、オレの手を取り両手で軽く握った。その半歩後ろでは、涙ぐんでいるオーワがオレ達を見下ろしていた。

 

「ああ大丈夫だ……。たがもうダメだ……」

「どこをやられた。どこかに致命傷を受けたのか?」

 

 涙の混じった笑顔は一転(いってん)、ヤーンもオーワも顔が曇る。

 

「いやいや……そんなんじゃない……。ただもう動けん……。疲れたし、どこもかしこも痛くてかなわん……」

「ははっ、そういう事か。まあ、後は任せて存分に、とはいかないだろうけど休んでくれよ」

「ああ……助かる……」

 

 二人の表情が緩んだのを見届け、オレは開いていた瞼の力を緩めた。

 

「オーワ、念のためダンナの体を診てくれ。自分はみんなの様子を見てくる」

 

 そう言ってヤーンは、ひとりひとり倒れている場所へと足早に向かう。


 どうやら全員大きな怪我はないようだった。悪運の強い奴らである。ただ、その運を手繰り寄せたのはアイツらだ。考えられることをすべて考え、できることをすべてやった。たくさん手を伸ばして、闇雲にあがいた。そうして運良く紙一重で(せい)を掴んだ。今日の戦いはおそらくそういう戦いだった。


「全員無事で、って程でもないか。とにかく命に別状がなかったのは安心した。十分休憩した(のち)アレンカールに帰ろうと思う。どうだろう?」

「だけど、うーん。そうだな。了解だ、団長」

 

 カイジョーが何かが奥歯に挟まった物言いで答えた。しかも、挟まったであろうものはそこそこデカい。見ると全員思うことがあるらしく、浮かない表情をしていた。

 ヤーンは、ここで捜索を断念すると判断した。今は魔族の出現で辺り一帯の瘴気は綺麗さっぱりなくなってしまったが、時間が経てば、また瘴気は充満する。しかも、もうすぐ日が沈む。夜は、魔物がより現れやすく、より強力になる。ヤーンにとっても苦渋の決断だったはずだ。救出自体を能動的に諦めるという倫理的な抵抗感も当然あるだろうが、それ以上に、経緯(いきさつ)や状況に関係なく、平民が貴族を見捨てたという単純な事実は重くのしかかる。自警団の存続どころか、アレンカールがひっくり返るような事態も起こりかねない。とりわけ、団長であるヤーンは何かしらの責任を取らされるはずだ。何とかしてやりたいのも山々だが、オレは言葉を発するのもキツい状況だ。何もできない奴は周囲に従うほかはない。

 

「もう少しだけ、一時間、いや、あと三十分だけでも続けようよ。だってさ……、」

 

 アスケンが弱々しく反論する。ヤーンのためを思った発言だということは明確だ。だが、ペギーが言葉を(さえぎ)る。

 

「アスケン、早く帰ったほうがいいし。早く帰んないとさ、このオッサンまで置いていかなければならなくなるかもしれないじゃない。アタシは別にいいんだけどさ、みんな()でしょ」

 

 ここにきて年下女子のツンデレ発言イタダいちゃいました〜!!コレだけで今日の働き、お釣りのくるくらい報われました〜!!オレはこの言葉を胸に天国へ旅立とう。三十年後くらいに。すでに余命三十数年(のつもり)、悪くない人生だった。


 そんな時、不意に少し離れたところから、折り目正しい男の声が聞こえた。

 

「ヘルマエ様、ご報告申し上げます。確かに生存者です。数名確認いたしました。一人はガイドをしていたの者です」

「うむ。何者か確認してまいれ」

 

 オレ達も確認する。男が三人深い茂みから出てくるところだった。質のいい銀色の鎧を着用した騎士風の男が一名。つばの広い帽子をかぶった身なりの良さそうな貴族風の男が一名。茶色のロングコートを羽織った妙な男に率いられこちらに向かってきている。『何とけ・何とけ』とか言う、貴族のおぼっちゃまご一行様に間違えはないだろう。事前の報告に比べ人数は減らしていたが、この状況でよくぞ生存者がいたものだ。ちなみにカイゼル髭を蓄えた男はいなかった。ちょっと残念である。

 

「あぁ〜、キミ達、ボクは怪しい者じゃないんだけどねぇ。今ここにいたの魔族だよねぇ。どうして消えちゃったか、教えてくれないかな?」

 

 突如、緊張感の抜けた声が発せられる。発信源は先頭に立つロングコートの男のものだ。よく見るとかなりの長身で色男である。たいそう女受けすることだろう、この糞野郎。その端正な顔立ちに、声と同様気の抜けた半笑いを浮かべつつこっちに向かって歩いてきた。

 

「おっ、おいっ!勝手に話しかけるでない」

 

 貴族風の男が大声でロングコートの男に命令するも、どこふく風とばかりに表情も歩調も変えず歩いてきている。ヤーンたちはその男の、一晩、コトコト砂糖を煮込んだように、甘くたるい態度に気をそがれたようで、どうしたものか対応に困っている。

 その雰囲気を察したかのように、ロングコートの男は言葉を続けた。

 

「あぁ、そうかぁ。先に名乗るべきだったねぇ。ボクの名前かい?そうだねぇ。ジムとでも呼んでもらおうかなぁ。でさぁ、さっきも言ったけどねぇ、白い髪で赤い目をした人だったでしょう、今消えた人ぉ。キミ達が追い払ったのかなぁ」

 

 薄茶色の厚手とも薄手とも取れないコートに、茶色の大きくやや巻き上がった円形のブリムの付いた帽子、同系統の色をした膝丈のブーツに、後ろ一本に結わえられた、これまた同系色の髪の毛。その特異なナリに合わない、在り来りな名前を名乗った男は、どういったわけかは知らないが、魔族の出現を察知しそれを探しているようだった。

 それに対してヤーンがすぐさま対応をした。

 

「ヘルマエ・トリスメギスティ様の従者の方でございますね。自分はアレンカール自警団団長ヤーンと申すものです。御身(おんみ)の無事を、心からお慶び申し上げます。では、当方の状況を簡潔に報告させていただきます。自分達、自警団はトリスメギスティ様とご一行が……、」

「待って、待って、待って。待ってよぉ。ボクはねぇ、あの人の従者でも何でもないんだよぉ。ついさっき会ったばかりさぁ」

 

 ヤーンがまくしたてて話し始めたため、ジムと名乗る男は慌てて話を制止した。ヤーンも貴族相手だと緊張してしまうようで、普段の冷静さは()りを(ひそ)めていた。

 ヤーンはバツの悪そうな顔をして、一呼吸間を置くと話を続けた。

 

「申し訳ありません。では、トリスメギスティ様に直接ご報告申し上げたいのですが、よろしいでしょうか」

「別にぃ、ボクはただの通りすがりだからねぇ。断る必要なんてないよぉ」

「では失礼いたします」

 

 一言述べると、ヤーンはトリスメギスティと思われる身なりの良い男に向かって、早足で歩いて行く。顔は心なしか紅潮(こうちょう)してるようだ。

 

「ボクも行くかなぁ。話聞きたいからねぇ」

 

 ジムという男はあとに続く。しかし何者なんだコイツは。

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