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酒場地区にて

 焼き木のドアを開け、店を出るとすぐ横のガラス窓が吹き飛んだ。

 てめぇが余計な…

 聞かれただけだもん…

 どうやら二人はまたやり始めたようだ。まあ、勝負にならないのに戦うというのはコミュニケーションに似たものになるのだろうか。先程の戦いも憎悪は一切感じられない。

 残り少なくなった煙草を取り出すと空を見ていたギルがこちらに向き直った。

「まったく、元気だよなあ」

「二人ともガキみたいな所があるからな」

「…なぁカンザキ、俺等も少しやってみるか?」

 触発されたのかギルがゴキリと指を鳴らす。足元から黒雷が立ち上ぼり、銀の髪を揺らした。その瞳は爛々と輝き、俺の返事がなんであれ飛び掛かろうとしているようだ。

「…長引かせたくない、本気になっちまうからな」

「お?珍しいな、乗ってくるなんて」

「速撃ち」

「シンプルでいいな、やろうぜ」

 煙草をくわえると同時に火が着いた。まるで吸いかけの煙草を口へ運んだかのように自然に。

 深く吸い、長く吐き、素直に感想を述べる。

「…調子いいな、ギル」

「この雷より速く撃てるか?カンザキ」

「どうかな…」

 そうあしらった後、ジャケットの裏に着こんだガンベルトから拳銃を抜き取り、マガジンを抜き取る。

「それは何て銃だ?」

「グロック」

 弾が入っているのは分かっていたが残弾の確認もする。速撃ち勝負をするのに何発も撃つことはないが、一服のついでだ。


 一通り銃のコンディションの確認が済み、ホルスターへと銃を戻す。煙草も短くなってきた。

「…やるか」

 そう言ったが返事はない。

「ギル?」

「…ああ、悪い」

 ギルは先程のように空を見ていた。星のない、真っ黒な空。

「良い夜だな…」

「ああ」

「よし、やろう」

 その言葉を聞き、煙草を深く吸い、今度は目を瞑る。一秒、二秒。そして勢い良く吐き出す。

 煙草を指で弾き、ギルを見据える。

 奴なら言わなくても分かるだろう。

 この煙草が地面に落ちた瞬間に抜く。


「こらぁ!ポイ捨て!!」

 緊張感が最高潮へと高まった瞬間にそんな叫び声を聞いた。同時に声の主も理解した。ギルとアイコンタクトを交わして走り出す。

「待てーっ!止まれーっ!こらーっ!」

 近くの路地裏へと駆け込みギルのいた場所を横目で見ると既に姿は無く、立っていた地面が焼け焦げ、少し遅れて空から小さく雷鳴が聞こえた。

 まったく、便利なものだ。ファンタジー系のキャラは引き出しが多い。この一瞬で町外れくらいには移動出来たのだろう。俺にはああいった能力は無く、撤退と言えばただ走るのみだ。

 声の主とは距離があった。この複雑な路地に入り込めたことで相当なトラブルが無い限り捕まる心配はない。

 基本的に肉体疲労という概念は無いので常に全力で走り続ける。この町は自分が創られた時から通っているので自分の位置の把握は勿論、相手の位置の予測も立てた。これで捕まるようなら運が悪かったとしか言えない。

 とはいえ、道中何度か立ち止まり足音がしないことを確認してから路地を抜ける。酒場地区の外れ、見えるのは一本の道路と荒野のみ。

 さて、これからどうするかな。

 そう思った矢先暗がりからの強烈な光に照らされた。反射的に銃へと手が伸びるのを理性で制す。

「…お前か」

 その言葉と同時に光が弱まった。光源の主は黒い車。古めかしいフォルムだが渋味と迫力を併せ持つ旧車だ。

 肩の力が抜け、車に近付くと運転席側のドアが開く。革張りのシートへ凭れるとカセットプレーヤーのディスプレイに文字が流れた。

「HELLO,KANZAKI」

「悪いな、助かった。ギルが呼んでくれたのか?」

「YES」

「そうか…」

 彼、この黒の旧車もボスである。車がボスとなるのは当然レースゲームだが昨今のレースゲームというのはほとんどがリアル路線であり、ボスらしいボスはいない。彼が活躍していた時代とは変わってしまったのだ。そして、時代から取り残された一番の要因は「妖車」であること。魅力的な設定であり、男心を掴むには最適なキャラであるが、時代は既にそんなものを求めてはいないのだ。

「出してくれ、どっか行こうぜ」

 そう言うとエンジンが掛かる。嵐の如き激情を無理矢理に抑えたような鼓動は荒々しく不規則だが心地よい。

 人と乗り物という関係だが俺は対等だと思っている。それを知っているからこそ彼もこうして俺を乗せるのだ。かつてはこの世界をひたすら走り回るだけであった彼が俺を乗せてくれることは素直に嬉しいし、もはや盟友である。

「行き先に希望は?」

「NO,HOW ABOUT YOU?」

「俺も無い」

「OK」

  スピーカーから歪んだリフが流れ出した。エキゾーストもそれに続く。割れた音とざらつくメロディ、低く唸るエンジン。

 実に良い組み合わせだ。だが、今の気分には少し合わない。

「悪い、音楽は今度ゆっくり聞くよ」

ボーカルの歌声が流れる前にフェードアウトしてエンジン音のみになった。しばらくその鼓動に身を委ねる。


「…よし」

 俺が先にアクセルを踏んだのか彼が走り出したのか、それとも同時だったのか。ともかく俺達は眼前に広がる荒野へと走り出した。

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