カウンターの片隅にて 2
「貫禄…そう、貫禄が無いんだよ。俺達にはさ」
うんうんと自分の言葉に頷くギルを放っていて先程の煙草を吸い切る 。グラスの中身も飲み切るとマスターに目配せして同じものを頼んだ 。
「聞いてんのかカンザキ…まったく、いつもいつもそんな辛気臭ぇ喪服なんか着やがってよ」
「常に上裸の奴に言われたくはねぇよ」
「しょうがねぇじゃんか。そういう設定で創られたんだからよ」
「なら俺の服も仕方無いだろ」
ギルのいう通り俺の服装は喪服である。黒いスーツなら少しは格好ついたのだろうがこうした異様な風貌を売りにしたかったのだろうか。 クリエイターが俺を作るにあたり設定した要素は「喪服」「ハードボイルド系」「青年」「雨男」である。雑な事この上無い。
一方のギルはある程度(俺と比べて)設定は多い。腰まである白銀の長髪は狼の様に荒々しさと美しさを兼ね備え、引き締まった体には所狭しと黒い紋様が刻まれている。カーゴパンツの様なものをブーツに入れ、腰にはつなぎの上半身部分の様な何らかの布が巻き付いている。
そして何より黒雷を操る能力を備えている。現代版雷神と言えばいいのだろうか、十分に格好良い、が。
「俺ってさぁ、ラスボス向きじゃ無いだろ…」
項垂れるギルを見て俺は何も言わない。正直、同意見だ。マスターからグラスを受け取り、黙ったままのギルに一応フォローを入れる。
「俺だってそうだろ。この格好、一般人さ」
「お前…始めての仕事、役は何だった?」
「殺し屋」
そう言うとカウンターに突っ伏してしまった。
「その成りで殺し屋だったら十分説得力あるだろ…その作品見たけど格好良かったよ。雨の墓地でのメキシカン・スタンドオフ。最高の画だったね」
自分でもあの役は適任だったと思う。逆に言えばそれ以外の役は出来そうに無い。
「…俺の初仕事、知ってんだろ?」
「…あぁ」
忘れもしない。この世界では特別珍しいことではないが、運が悪かったとしか言いようがない。 確かにギルはラスボスとして仕事をこなした。名演だった。ただ不幸だったのは、ボスが本気を出すと姿が変わるという脚本であり、ギルはその第一形態だったのだ。当然そこで出番は終わり、第二形態である巨大な龍がギル以上に素晴らしい演技をしたのだ。
「散々俺に雷射たせといて龍になった途端に炎を吹くんだぜ?俺の意味何なの?って話になるじゃん。おかげであの龍とは反りが合わなくなっちまった」
言っていることは理解出来るが俺はギル程に感情移入出来ない。きっと「ハードボイルド」等という設定が活きているのだろう。以前ギルから聞いたのだが彼には性格についての設定が無かったのだそうだ。 そういった場合は自然発生的に性格が形成されるという。
「…で、何だ。そうそう、貫禄の話な」
酔っているのか饒舌になり、早口になる。
「龍とかそれだけで強そうに見えるだろ?わざわざ人型に創るんならさ、クリエイターがよう、俺らの設定に「威圧感」だとか「すごいオーラ」とか入れてくれりゃ良かったんだ。それだけで話は済むんだからよ」
「そんな単純なもんじゃないだろ」
「あーあ、『魔女の茶会』とか『十三人』とかそのへんに名を連ねられたらなあ」
「そのへんは努力…とかじゃねぇか?」
「違うね。才能、血統…ずりぃよな」
ぐびりと梅酒を飲み干して盛大に愚痴を吐き出す。ギルの設定について詳しくは知らないが風貌と能力のみ与えられ、内面は手付かずだったのではないかと思う。この恵まれた容姿で梅酒ばかり飲み、絡んでくる様はとても残念だ。
「他の連中は化物じみてる奴ばっかりだろ、凄いロボットとか、悪魔みたいな奴とか…だからよ、同じ人タイプのうだつの上がらねぇお前と居ると安心するんだよなあ」
終いにはこういうテンションになるのだ。つくづくダメなラスボスだと思う。