金の生る貯金箱
「勝手にお金が増える?」
溝尾はその言葉に興味を持った。むろん、そんな馬鹿な話があるわけではないのだが、彼に儲け話を持ってきた男は、昔ひと稼ぎさせてもらった恩人であった。
男の話によると、ある貯金箱を設置するだけでお金が増えるという。設置、というだけあってかなりの大きさのようだ。逡巡はあったが、溝尾は男の話を呑んだ。五十万、それが男の提示した額だった。
「増えないじゃないか!」
一ヶ月後、溝尾は男に悪態をついていた。当然のようにお金は増えない。しかし、男は溝尾に言うのである。このままでは効果が薄いですよ、と。
男はまんまと溝尾に仏像を買わせた。三百万、それが男の提示した金額だった。
「おお」
仏像の相乗効果が発揮されたのか、日に日にお金は増えるようになった。当然、溝尾は調子に乗る。しかし、あまりにも増える額が少なすぎる。だから男に相談すると、貯金箱を金色にあつらえてはどうかという。金は金を呼ぶ、それが男の言い分だった。
「増える、増える」
貯金箱を金色に装飾すると、またたくまに金が増えるようになった。しかし金を塗った値段を合わせると、既に千万近くが飛んでいた。これでは、埒が明かない。
「もっと増やせる方法はないのか?」
溝尾は男に相談する。すると男は莫大な費用がかかるのですが、と前置き、最終手段を持ちかけた。
「家もろとも金色にする?」
思わず声を出したのはむろん溝尾。全てを金に染め上げるのは、とてつもなくお金がかかる。だが男はお金を貸してくれるという。ならば、金色に染めるしかない。金が増えるのなら金色に染めるしかない。溝尾は意地になっていた。
そして時は流れ――
「どうです、溝尾さん。ご気分は?」
「その名前で呼ばないでよ、今や僕は西園寺のトップだよ」
「ふふふ、そうでしたね。ちゃんと、私にお金回してくださいよ」
「分かってるよ、足利さん。もう、がめついなぁ」
こうして生まれた金閣寺。