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停滞した日々

「―-そのEエーは第3音だからマイナス13.6セントだろ?」


 ハーモニーディレクター、通称『ハモデ』でCdurツェードゥアーを鳴らす顧問。スピーカーから流れる大音響によって自分の音は実は聞こえていなかったりするが、浅い経験と勘で顧問の要望通りの音に近づけるように試みる。

 

(第3音とか飽きたな……てか、さっきのコードって、長7度だからマイナス31セントじゃなくてマイナス11くらいだろ……)

 そんなことを考えているうちに顧問は気が済んだのか次のメロディに入る。幾日か前からずっとやっているこの曲にもそろそろ飽きてきていたが、俺はこの曲を聴くためにここにいるわけではないと割り切り、何十回も吹いたフレーズを奏でる。さすがに初心者だけあって、音の高さを瞬時に微調整するのは難しいが、それでも最近は大体はつかめてきている。


「そこ違う!」


 手を叩く音に今まで流れていたメロディは消えうせ、顧問の叱咤が飛ぶ。「またか」と、この場にいるほとんどがうんざりする中、淡々と語りだす顧問の話を軽く流しながらも少しは耳を傾けて自分の導き出したコードとの差異を探す。

 さすがにサスフォーやダブルコードは難しいが、普通のセブンスやディミニッシュは朝飯前。部員の中でそれを自分で見つけている人は少ない、というかほぼいないが、自分の技術を補うためにはそういった知識も必要だ。そういう考えで空き時間にはフルスコア片手にコード探しをするのが日課になっていた。

 気付けば外は薄暗くなり秋の日の入りの早さを感じさせるが、時計はいまだ5時半を回ったところだ。いかに勉強重視のこの学校でも最低限の部活時間はある。合奏が好きか嫌いかで言ったら好きではあるが、こうも顧問の文句が多いと飽き飽きするのも確かだ。第一、俺は『吹く』よりも『聞く』ためにこの部活に入ってきた。出来れば1曲流して聞きたいのだ。そういったところがまた、初心者ではあるが、顧問や先輩にそれを言っていない時点で咎められる言われは無い。

 結局、最後の通しも途中で切られて終わり。今日は運が悪い。


 合奏が終わった後は自由だが、時間ぎりぎりまで練習をするわけにもいかないので適当に切り上げて片付けに向う。さすがに慣れた片付けは今や作業でしかないが、自分の相棒を雑に扱うわけにもいかないのでとりあえず隅々まで拭く。



 俺の周りは会話が少ない。


 部活に入った当初はそれなりに会話もしたが、自然とグループ分けが出来た今日、俺は孤独だった。

 それも悪くない。回りに振り回されないのは良い事だ。しかし――



 大会が終わり、次の演奏会までは時間がある。停滞している技術・時間・雰囲気・意気……そのどれもに飽きていた。今や、自分を潤せる存在は少ない。新しいゲームも今までのものと大差なく、好きな数学も同じジャンルの同じような例題に飽きてしまう。最近見つけた『楽典』も時間とともに飽きていくのだろう。では、永続的に俺を満たさせるものは何か。それを探して今日も彷徨さまよう。


 しかし、意外なことに『楽典』は違う一面を見せてもいた。そこから何が生まれるのか、それはわからない。

次回からは過去編です。(書く気になったら続きがあるかもしれません)

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