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My last lover  作者: 琉珂
7/13

FILE6:区切る白い線

ようやく先週期末テストが終わった。

結果はまだ返ってきてない。

ずっと勉強詰めで家や図書館にこもりっきりだったあたしは今日、久しぶりにシュンタくんと会うためまともに外へ出た。

暑い。

日陰に入っても汗が出る。

気が付けばもう七月。

季節はすっかり夏だった。


「花火大会?」


いつもの公園のベンチに座ってシュンタくんが言った。


「そう。行かない?」


あたしは隣に並んで座り首を傾げた。

土曜日の昼だからか、いつもは人の少ないこの公園も子供たちで賑わっている。


「花火大会って今度の水曜にあるやつだよね」


「うん。あ、もしかして予定入ってる?」


「ううん、何にも。ユカコさんがいいなら僕行きたいな」


「ホント?」


内心、もしシュンタくんがもう誰かと行く約束をしてたらどうしようと思っていたあたしは胸を撫でおろした。

ほっとして合わせていた両手を制服のスカートの上に投げ出す。


「良かったー、いきなりだからシュンタくん大丈夫か心配だったんだよね」


「それならもっと早くに言ってくれれば良いのに」


「だってあたしホントは全然行くつもりなかったから」


「あれ、じゃあ何でそんなにいきなり行く気になったの?」


シュンタくんは瞬いて不思議そうにこっちを見た。

え?と一瞬言葉が詰まる。

あたしがいきなりお祭りに行こうと思った理由。


「何となく、かな。来る途中にポスター見て、急に行きたいなーって……」


「ホントに急だね」


シュンタくんはくすくす笑って、でも良かった、と呟いた。


「ユカコさんがお祭りに行こうって気分になった後、会う約束してたのが僕で」


こうやって誘ってもらえたと、照れたように頬をかく。

実は、あたしが花火大会に行く気になったのはポスターを見たからじゃない。

ポスターは見たけど、そのときは何も思わなかった。

公園に着いてみて3週間ぶりに会ったシュンタくんが、何だか元気がないように見えたから。

何かあったのかな、と思って。

でもあたしが聞いていいのか分からなくて。

だから代わりに花火大会に誘った。

気分転換になったらいいなと。

ふいにそのとき、いきなりあたしの中に何か柔らかいものが落ちてきた。

じんわりと暖かい。

心に溶け入るような。

けれどそれは、あたしがはっきりと存在を自覚する前に消えてしまった。

余韻だけが微かに残る。

何だろう、今の。


「あ、ヒコーキ雲だ」


シュンタくんが空を指差した。

見上げると、青色を二つに区切る白い線。

他の雲とは明らかに違う細い雲はまだ少しずつはじっこから長く長くなり続けていた。


「ヒコーキ雲のできる次の日は雨……」


小さい頃お姉ちゃんに教えてもらった話を思い出した。


「え? 何ユカコさん」


「ほら、ヒコーキ雲ができる次の日は雨って知らない?」


「ううん。そうなの?」


「実際にそうかどうかは分かんないんだけど、昔そう教えてもらったんだ」


そうなんだ、とシュンタくんは相槌を打つ。


「なら明日は雨かな」


「だったら少しは涼しいかもね」


「でも水曜は晴れてもらわないとなぁ」


もし当日に雨が降ったりしたら、花火大会は延期にはならずそのまま中止になってしまう。

それに晴れてた方が打ち上がった花火も綺麗に見える。


「きっと晴れるよ」




並んで見上げた空は広々と青かった。


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