表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
My last lover  作者: 琉珂
10/13

FILE9:友達

美術館前行きのバスはまだ来てない。

さっき携帯を見たとき時間は5時40分だった。

向こうに行くのに10分とかからないから、待ち合わせの時間には十分間に合うだろう。

停留所にはあたしの他にも何人かバスを待っている人がいた。

もしかしたらみんな花火大会に行くのかもしれない。

時刻表を確認してみたら、バスが来るまであと2分あった。

履いているミュールのヒールをかつりと鳴らす。

早く来い、と気が急いているのが自分でも分かった。

早くシュンタくんの友達に会ってみたかった。

一昨日、電話の先で聞いた二人の声は幼く。

いつも穏やかなシュンタくんがそのときだけはやけに子供らしく感じられた。

実のところ、はじめその友達を誘わないかとシュンタくんに言ったのは、あたしがその子に会いたいと思ったからだった。

一度は断られて、そのすぐに行くという声が聞こえたとき、正直けっこう嬉しかったのはシュンタくんには内緒。

だってこんなこと言ったらシュンタくん怒りそう。

それでも会ってみたい、と思った。

シュンタくんをそんな風にしてしまえるその子に。

あたしは会ってみたい。

また時間を確かめようと携帯をバックから取り出した丁度そのとき、シュンタくんからメールが来た。


『ごめんユカコさん。ちょっと遅れるかも。』


絵文字も何も使ってない、いつも通りの質素なメール。

その内容にあたしは笑みをこぼした。

まだ待ち合わせの20分近く前なのに、わざわざメールしてくる几帳面さがおかしかった。

あたしは返信画面を表示して文字を打つ。


『あたしもまだ着いてないから大丈夫だよ』


送信ボタンを押して、スカートのポケットに携帯をしまった。

昨日メールしたときシュンタくんは自転車で行くと言っていたけど、道でも混んでいるんだろうか。

市役所に行く人で自転車を進められないなら待ち合わせを美術館の前にした意味がない。


「悪いことしたかなぁ……」


口元に手を当てて呟くと、着信音が鳴っているのが聞こえた。

ポケットに手を突っ込んで携帯を掴む。

新着メールは予想通りシュンタくんから。


『一緒に来る人がなかなか来ないんだ。ゆっくり行っててよ。』


バスにゆっくりも何もないんだけどな。

思わず苦笑して、やっぱりシュンタくんが普段と違っているなと思った。

あたしがバスで行くことは伝えてあるから、ゆっくり行っててなんていつもなら絶対言うはずがない。

このことを本人に教えようか少し迷ったけど、今教えたらもう二度とこんなシュンタくんを見れないような気がして、あたしはただ気を付けてねとだけ返事をしておいた。

もうそろそろバスが来る。

道路を覗いてみたら、吹いた風に髪を一瞬さらわれた。

せっかくセットしたのにとあたしはすぐに髪を撫でつける。

ついでに鏡で化粧が崩れてないかも確かめた。

今日はいつもよりちょっと気合いが入っている。

結局、シュンタくんの友達に会えることを抜きにしても、あたしがこの花火大会を楽しみにしていたことに変わりなかった。

早く会いたい。

その子だけじゃなくて、シュンタくんにも。

それで早く元気になってくれればいい。

バスがやって来るのが遠くに見えた。




いつになく、心が弾む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ