第84話 抜擢
半月後、俺達は無事レオグラードに戻った。
ハキルシアでは、既に戦後処理に入っていたらしい。
とりあえず、破壊された街から流れてきた難民を南部貴族連合で分担して受け入れ、魔王に殺された遺体の処理などが進められていた。
そのあたりが落ち着いたら本格的な復興に入るという話だ。
その夜、兄貴と俺、そしてウル様がオーウェル様に呼ばれる。
「ウル殿、パワー殿、ガイン殿、魔王討伐お疲れさまでした。
皆さんのおかげで最小限の犠牲で魔王を封印できました。
感謝します。」
オーウェル様の労いから話が始まる。
「今日は、皆さんに相談したい事があってお呼びしたのです。
実は、ピュートル公から打診がありまして、皆さんの中から誰かに帝都ルーベンブルグの領主になってもらえないかと言われたのです。
とりあえず、本人達に確認しますと言って一旦は保留しましたが。」
オーウェル様が言う。
モンスターである俺達の誰かが貴族の領主だって?
「まあ、伝説の英雄が全員エルモンドに帰ったら、国内的に連合国に頼り切りと見られるのでそれは避けたいという政治的事情があるかも知れませんね。
対魔王最終兵器でもあるロウガもエルモンドに戻るでしょうから。」
ウル様が言う。
なるほど、そういう政治的事情って奴もある訳か。
「それで、皆さんに今後どうしたいかの希望を聞きたいわけです。」
オーウェル様が言う。
「俺様はエルモンドに戻ってモンスター部隊を率いるつもりだぜ。
部隊のモンスター全員に人間が受けるような教育を受けさせたいと思っているからな。」
兄貴が言う。
それは俺も思ってる。
全てのモンスターに子供の頃から教育を受けさせる事ができれば、モンスターも人間並に賢くなれると思うからだ。
「俺もエルモンドに戻るかな。
だけど、ハキルシア北部のモンスターの生息地が奪われている問題は解決しておきたいですね。」
ウル様が言う。
確かに、ノリクが首輪を使わざるを得なかった問題が残っているか。
「ウル殿は領主を受けますか?」
「いや、俺は領主ってがらじゃないし。
エルモンドからできる範囲でやるって訳にはいかないか。
今後また、首輪に支配されるモンスターや生息地を追われるモンスターが出るかもしれない事を考えると、アドバイザーか何かで関わっておきたいとは思いますが。」
ウル様は、これ以上ハキルシア北部のモンスターが被害に遭わない事を考えているらしい。
「ガイン殿はどうですか?
ハイネに戻りますか?」
オーウェル様が聞いてくる。
「俺は、ハイネには戻らないぜ。
戻るならエルモンドだ。」
俺は慌てて答える。
「ブランタン殿がハイネで待っているのでは?」
オーウェル様が聞いてくる。
まずいな。
オーウェル様は、俺とあの野郎との関係を良くしようとか考えてきそうだからな。
「と言うより、受けてみようかと考えてみただけだ。」
俺は慌てて話題を逸らす。
「ガイン、領主を受ける事考えているのか?」
今度はウル様が聞いてくる。
慌てて言ったとは言え、実は少しそれもいいのではと思っている。
俺が領主になれば、少しはあの野郎を見返せるだろうと。
しかも、元帝都の領主だしな。
「少しは考えているんだが、完全に破壊された街を復興するとか並大抵じゃないからな。
復興できる体制ができていないと受けにくいな。」
俺は答える。
流石に何も考えずに受ける訳にはいかない。
「そのあたりは、最大限協力するとピュートル公は仰ってました。
本人がどうしてもやりたい事があるならそれを蹴ってまで押し切る事はできないとピュートル公には話しましたが、ガイン殿が受けてくれるのでしたら私もできる限り協力しますよ。」
オーウェル様が言う。
話題を逸らすだけのつもりだったが、大事になってきたぞ。
とは言え、選択肢としてはありかなとは思っていたから真面目に考えてみるか。
「少し1人で考えさせてくれ。」
俺はそう言って、一旦オーウェル様の部屋から出る。
ピュートル公は、オーウェル様と並んでモンスターに理解のある方だ。
俺が領主になる事で少しでもピュートル公の助けになればと思っている。
だけど、あの野郎を見返してやりたいとか言う不純な動機で、領主を受けていいものだろうか?
この辺は誰にも相談できないな。兄貴に言ったらぶん殴られそうだ。
俺がしたい事は、兄貴の言うように全てのモンスターに教育を受けさせてやる事だ。
それを実現するために領主を受けるというのはありだと思っている。
領主はモンスター部隊大将よりも大きな権限がある訳だから。
ウル様が言っている、ハキルシア北部のモンスターの生息地の問題も俺が元帝都の領主になれば、解決しやすいだろう。
俺がこのままエルモンドに戻っても、今までのようにモンスター部隊を率いるだけで終わるだろう。
エルモンドには兄貴もいるわけで、俺がいなくてもモンスターに教育を受けさせるための手順は進むだろうからな。
だが、ハキルシア北部のモンスター達を救うには、俺達の中の誰かが領主を受けることが望ましい。
だからこそ、俺が元帝都の領主の座を受ける選択肢は魅力的に映るのだ。
とは言え、人間の言葉と齧った程の教育しか受けていない俺に領主が務まるのか?
ピュートル公やオーウェル様が協力を惜しまないと言ってくれているとはいえ、そこまでの自信はない。
考えがまとまらないな。
いや、考えじゃなくて、俺自身の腹が固まっていないと言うか、覚悟ができていないだけだ。
「ちょっと相談してきたいんだが、今の話をしてもいいか?」
俺は、オーウェル様の所に戻ってオーウェル様に確認する。
「それ以外の人に漏れないようにしてもらえれば大丈夫です。」
オーウェル様の許可がとれたので、俺は一旦モンスター部隊の所に戻る。
まずは、アリサに話しておくか。
アリサは公園の木にもたれて休んでいた。
お腹が相当大きくなっている。
数日のうちには出産と言う話だ。
「アリサ、気分はどうだ?」
俺はアリサに話しかける。
「今日は落ち着いているわ。
こんな夜中にどうしたの?」
アリサが聞いてくる。
「他の奴には聞かせられないからな。
小声で話すぜ。
実は、ピュートル公から帝都の領主にならないかという打診があった。
受けるべきかどうか悩んでいてな。」
俺は相談を持ち掛ける。
と言うか、アリサがどう思っているかが聞きたかった。
「ガイン、すごいじゃない。
モンスターの貴方が人間の町の領主だなんて。
私は応援するわよ。」
アリサは言う。
アリサは好意的というかかなり前向きのようだ。
アリサの返事を聞いて俺は大分安心できた。
「まだ、確認したいことが残っているから、その辺を確認してから決めようと思うが、アリサのおかげで自信が持てたぜ。
ありがとうな。
前向きに考えてみるぜ。
また、色々確認したら話に来るな。」
俺はそう答え、アリサを軽く抱きしめると、次はウィルとゼルに相談することにした。
「アウルスさん、実はウィル隊長・ゼル隊長と相談したい事があるんだが、他の奴に聞かれる訳にはいかない話があるから、シャドウウォークをかけて欲しい。」
俺はアウルスさんに頼んで、ウィル・ゼルとシャドウウォークの中で相談する事にした。
「ガイン大将どうしたんだ?
俺達に相談したい事って。」
ゼルが聞いてくる。
「実はピュートル公から帝都の領主になってくれないかと言う打診があった。
受けるべきかどうか悩んでいてな。
それで、お前達に相談しようと思ったんだ。
あと、この話は公になるまで絶対他には漏らさないでくれ。」
俺は2匹に相談をする。
「ガイン大将が帝都の領主だって!
すげえじゃねえか。」
ゼルが驚いて言う。
「モンスターであるガイン様が、人間の町の領主なんてすごいですね。
なぜそんな話になったのですか?」
ウィルは驚きながらも冷静に事情を聞いてきた。
「ハキルシア北部では、今でも人間とモンスターが争っているからな。
ピュートル公としては、それを解決するためっていうのがあるのだろう。
あとは、魔王を倒した英雄が全員連合国に戻ったら、ピュートル公は国内的に求心力が落ちるからじゃないかとウル様が言っていた。」
俺は答える。
「ガイン大将はこれからしたい事は何かねえのか?」
ゼルが聞いてくる。
「今ウィルやゼルが受けているような教育を全てのモンスターが受けられるようにしたいな。」
俺は答える。
「それなら受けるべきじゃないのですか。
そう言うことを決める権限のあるのが領主なのですし。」
ウィルが言う。
「俺にそこまでできるのかと思うとな。」
俺が言うと、
「魔王すら倒した勇者が何怖気づいてるんだ?」
ゼルが言う。
ゼルは俺が相手でもこういう事をはっきり言ってくるからな。
そう、ゼルの言う通りだ。
自分で分かっている。
俺は自信が持ち切れずに怖気づいているだけなんだ。
誰かに背中を押して欲しくて相談しているようなものだ。
「確かにゼルの言うとおりだな。
あとは、ブランタンの野郎を見返したくて領主を受けたとか言われたくないというのもあるぜ。」
俺は残りの懸念をあげていく。
俺は心の奥で、あの野郎を見返してやりたいと思っている。
だが、それに対して何か引っかかっているのも事実なのだ。
「でしたら、ブランタン様にも相談するのがいいと思います。」
ウィルが言う。
あの野郎に相談してどうなるんだ?
「まあ、ガイン大将の気持ちの問題だろうからな。
その方がすっきりするかもな。」
ゼルも同調するので、俺はブランタンの野郎にも相談しに行く事になってしまった。
仕方ないので、シャドウウォークを解除して、俺はウィルとゼルを連れてブランタンの野郎に会いに行く。
夜だったが、ブランタンの野郎は俺達にすぐに会ってくれた。
「どうした、ガイン。
こんな夜更けに。
しかもウィルとゼルまで連れてくるなんて。」
あの野郎が言ってくる。
「実はピュートル公から復興する帝都の領主にならないかと言う打診があった。
受けるかどうか悩んでいてな。
ウィルとゼルに相談したらブランタンの野郎にも相談した方がいいと言われたから相談しに来たぜ。」
俺は言うが、ちょっとぶっきらぼうになってしまった。
「珍しいじゃねえか。
ノリクと戦うかどうかと言うときには自信たっぷりだったくせに、やけに怖気づいてよう。」
あの野郎が言う。
「領主というのは戦うだけじゃねえからな。
俺が想定してない知識のなさが露呈する可能性がないか考えておきたいだけだ。」
俺は答える。
「確かに慎重なことは悪くないぜ。
領主なんてもんは想定外の事なんていくらでも起こる。
なる前から完璧な領主なんてなれっこねえんだ。
何か問題が起こった時に自分を支えてくれる仲間がいるかの方が遥かに大事だぜ。」
ブランタンの野郎が言う。
仲間か。
モンスター部隊の仲間には随分と助けられた。
だが、彼らだけじゃなくて今後は政治的なことができる奴が必要となってくる。
ピュートル公はできる限り協力してくれると言ってくれているが。
「ピュートル公はできる限りの協力をしてくれると言っているのだが、政治的にはどんな奴を集めればいい?」
俺は先輩領主でもあるブランタンの野郎に聞く。
「治安の維持ができる奴、町の経済運営の判断ができる奴、内部的な意見のぶつかり合いの調整ができる奴、外交交渉ができる奴くらいは要請しといた方がいいだろうな。
それで完璧ってわけじゃない。
俺だって、考えの穴なんていくらでもあるからな。
それ以外にも、想定外の問題が起こったときに相談できる相手をたくさん作っておけ。
どうしても困ったら俺が相談に乗ってやるぜ。」
ブランタンが言う。
あの野郎にしてはやけに協力的だ。
「ありがとよ。
もしもの時は頼むぜ。」
願ってもない申し出なので、俺は素直にお礼を言った。
「素直じゃねえか。
ガイン、お前、ハイネにいた頃とは別熊と思えるくらい成長したな。
不肖の息子だと思っていたが、いつのまにか自慢の息子になっていたんだなあ。」
あの野郎が言う。
「てめえの息子はハイネにいるだろ。」
俺は突っ込む。
まだ7歳だったな。
俺にもよく懐いていた。
「俺からすりゃガイン、お前も俺の息子のようなもんだ。
お前の母親が死んでから、赤子だったお前をずっと面倒見てきたからな。
その大事な息子がこんなにも立派になったんだ。
親からすれば、嬉しくてなあ・・・」
ブランタンの奴、泣き出したぞ。こんなに涙もろかったのか?
俺の方が調子が狂う。
「俺をエルモンドに送り付けた事は忘れていないぜ。」
俺が言うと、
「あの時は悪かったな。
ガイン、大事な息子のお前を殺されたくはなかったんだ。」
泣き声でそう言われると、こっちの方が悪く感じちまう。
まあ、冷静に考えれば俺を守るためにした事だというのはウィルに話を聞いて分かってはいるしな。
「まあ、俺もあの時は意地を張りすぎたからな。
俺の事を考えての事だとは分かっている。この事はもう言わねえぜ。」
流石にこれくらいは折れておくか。
「信じられない。ガイン様がブランタン様と和解するなんて。」
横からウィルが言う。
「おいっ、ウィル、どういうことだ?
それじゃあまるで、俺が分からず屋だったみたいじゃねえか。」
俺はウィルに突っ込む。
「いや、分からず屋でしたから。」
ウィルの奴、はっきり言いやがった。
俺、そこまで分からず屋か?
「ガイン、手下にはっきり言われてやがるじゃねえか。」
ブランタンが今度は笑い出す。
声がまだ泣いてるぞ。
俺が分からず屋だと認定されたのは不本意だが、ここはぐっとこらえる。
俺は寛大だからな。
「その話はこれくらいにしてだな。
今日は、相談に乗ってくれて感謝するぜ。
ついでと言っては何だが、1つ頼みたいことがあってな。
ハイネの新人教育用の教材を一式くれねえか。
俺が色々見てきた中では、一番良かったからな。」
俺は話題を変えつつ、さらにブランタンに頼む。
どうだ。
俺は分からず屋なんかじゃないだろう?
「ガイン、丸くなったなあ。
ああ、いいぜ。ハイネに戻ってからになるが送り届けてやるから待っていろ。」
ブランタンは俺の頼みを受けてくれた。
既に、俺が領主を受けるのは既定路線になっていた。
「ありがとよ。
また、今後も色々と相談させてくれ。
先輩領主として色々教えて欲しいからな。」
今後も相談しないといけない事があるかもしれないし、ここは素直に礼を言っておく。
こうして、ブランタンとの相談を終え、俺は領主を受けることを決心した。




