第80話 新たな概念
その日の夜、イザベルさんが首だけのケルティクと交信をする。
「イザベル様、現在の所ウォルタン方面から魔王の出現に関する報告はありません。」
ケルティクが言う。
「今日は、多くの情報が入った。1つずつ話していくからオーウェル殿に伝えてほしい。
1つ目に、魔王バエルの封印が解かれていた事。ガイン殿が匂いで確認し封印を解いたのはタンゴだという事だ。
2つ目は、フェニキア公国は無事である事。だが、タンゴと名乗る魔王に脅されて外部との接触を全て絶っている事。
3つ目は、タンゴは西に向かって飛んで行ったという事。
以上だ。」
イザベルさんが答える。
「分かりました。
一度オーウェル様に伝え整理した上で、後程疑問点などを確認させていただきます。」
ケルティクはそう答えて、通信を終える。
「タンゴが西に行ったことは分かったんだし、明日からは西に向かうんだよな?」
兄貴が聞く。
「まあ、そうなるな。
だが、私としては不可解な点が残るからその点は確認していきたい。」
イザベルさんが言う。
「不可解な点って何だ?」
俺は話が読めないので聞いてみる。
「1つ目は、魔王がフェニキアを滅ぼさずに西に向かった事だ。
過去の魔王はどの概念であっても、通過した町をそのままにしておく事はなかった。
力づくで滅ぼすか、支配の力で支配するかのいずれかだ。
しかし、タンゴはそのどちらもせず、口で脅して従わせただけだ。
タンゴが本当に魔王の力を得たのであれば、破壊の衝動によりそこまで高度な判断などできない筈なのだ。」
イザベルさんが言う。
「確かに、魔王化する前に戦った時は結構考えていた★5リバイアサンも魔王になったら、ひたすら破壊をしようとしてきたな。」
俺も頷く。
「それじゃあ、タンゴは魔王の力は得ていないという事か?」
兄貴が聞く。
「だとすると、★5リバイアサンの魔王がタンゴに従うとは考えにくい。
と言うか、同じ場所にいればタンゴを殺してもおかしくない。」
確かにイザベルさんの言う通りか。
実際、タンゴは★5リバイアサンにバイカルを滅ぼさせているし、フェニキア公国にそれを見せて従わせているのだからな。
「皆さんは、タンゴが魔王だとして、概念は何だと思いますか?」
ミハイルビッチさんが聞いてくる。
「破壊ではないな。
フェニキアを強引に支配していない時点で支配でもないと思う。
となると消去法的に不滅じゃないのか。」
俺が答える。
「だが、不滅の概念の魔王と言えど、通り過ぎた街を放置しておく事はない。」
イザベルさんが言う。
結局答えは出ず、明日はタンゴを追って西に向かう事を確認した後、ケルティクから再度通信があった。
「イザベル様、今から通信しますが大丈夫でしょうか?」
ケルティクが聞いてくる。
「大丈夫だ。
何か分かったか?」
「これは、ウル殿の予想なのですが、魔王化したタンゴの概念は『理性』だと思われます。」
ケルティクが言う。
「どういうことだ?」
「魔王になった者は例外なく破壊の衝動に駆られ、無差別に破壊行動を始めます。
ですが、タンゴは破壊の概念の力も支配の概念の力も使っていません。これらのいずれかでもないことは、ほぼ確実でしょう。
不滅の可能性は残っているとは言え、フェニキアを放置した時点でそれもないとの事です。
となると、それ以外の概念を持っているという事になります。
フェニキアを放置した時点で魔王が持つ破壊の衝動を抑える事ができた訳ですから、衝動を抑える事ができる能力こそがタンゴの概念。
つまり、破壊の衝動を抑えることができる「理性」という事です。」
ケルティクが言う。
そんな概念初めて聞くぜ。
確かにそう考えれば、タンゴの行動の説明はつくか。
「では、ウル殿は魔王タンゴがバエルの封印を解いた理由についてはどのように考えている。」
イザベルさんが聞く。
「魔王バエルを吸収し、不滅の概念の力を手に入れたのではないかと予想しています。」
ケルティクが言う。
「つまり、タンゴは理性の概念を持ちつつ、不滅の力も手に入れたという事か。」
イザベルさんが再度聞く。
「そうです。
そして、次に支配の力も手に入れようとしているのではないかと。」
ケルティクが言う。
タンゴは西に向かっていた。
魔王ダニエルを吸収してダニエルの持つ支配の力を手に入れようとしているのだとすれば、タンゴが西に向かった理由も分かる。
さらに言えば、フェニキアを襲わなかったのは無駄なエネルギーの消耗を避け、さらに、俺達が犠牲者から勇者のエネルギーを得られないようにした訳だ。
流石ウル様だ。
ウル様の予想通りなら、今まで謎だらけだったタンゴの行動全てに説明がつく。それどころか、タンゴは全く無駄のない効率的な行動をしている事が分かる。
★5リバイアサンの魔王にレオグラードを攻めさせている間に、着々と自分の目的を進めているのだから。
「確かにウル殿の予想通りなら、タンゴの行動全てに説明がつくな。」
イザベルさんも同じ事を考えていたようだ。
「そこで、ウル殿の案なのですが、急いでレオグラードに戻ってくれませんか?」
ケルティクが言ってくる。
どういうことだ?
「既に、タンゴの居場所や目的が分かった以上レオグラードの守りを固めるということか?」
「いえ、タンゴに破壊の力を与えないように手を打つためです。」
ケルティクが言うが、何をしようと言うのかさっぱりだ。
「破壊の概念を持つ魔王は滅ぶことが多いとは言え、五島諸島には複数の魔王が封印されているだろう。」
イザベルさんが言う。
「五島諸島の協力を受けて、現存する破壊の概念を持つ魔王3体の封印全てを解き、勇者となったパワーとガインの手でタンゴが来る前に滅ぼします。」
ケルティクが言う。
おいおい、俺達に封印された魔王を滅ぼせってか。
「それは、タンゴに破壊の力を渡さないためにか?」
イザベルさんが聞く。
「そうです。
破壊の概念の力を持たない魔王なら、勇者のいない軍隊でも数さえ揃えば十分戦えます。
タンゴに破壊の力を渡さない事が、今後世界のどこに現れるか分からないタンゴと戦う上で大きなアドバンテージになります。」
「封印されている破壊の魔王は俺様達で何とかなるレベルなのか?」
兄貴がケルティクに聞く。
「魔王が封印されるということは、相当力が弱まった状態になっているという事。
そうでなければ封印などできません。
リバイアサンの魔王を倒したお二方であれば十分勝てるとの事です。」
ケルティクが言う。
不滅・支配の力を得て、最後の破壊の力が欲しいタンゴに対する嫌がらせをするという事だな。
「分かった。
明日以降急いでレオグラードに戻る。
到着後すぐに五島諸島に出発できる準備を頼む。」
イザベルさんがそう締めくくって通信が終わる。
何と言うか、タンゴの行動を見ていると破壊の衝動を抑えられず目の前の存在を破壊しつくそうとした過去の魔王が可愛く感じるな。
勝手に自分でエネルギーを消耗した上で、敵となる勇者のエネルギーを増やしてくれたのだから。
そう考えると、魔王の強大な力を持ち、破壊の衝動を抑えながら、目的を達成するために最善の行動をとれる理性と言う概念は最強じゃねえのか。タンゴが選ぶ訳だ。
しかも、過去の魔王を吸収して自分が本来持たない概念の力を手に入れるという反則級の能力まで持ってやがる。
もし、タンゴが理性の概念で破壊の衝動を抑えながら破壊・支配・不滅の全ての力を手に入れれば、史上最強の魔王になってしまうだろう。
そして、タンゴと言う魔王の被害を減らすために最善な方法を考えてみると、タンゴの目的を妨害するために破壊の概念を持つ魔王の存在全てをこの世界から消すのが一番いいのではないかと思えてきた。




