第72話 専用技の構築
連合国の本隊の到着まで1か月近くの時間ができた。
その間に何をするか。
俺の答えは決まっている。
★6ポラリスの専用技の習得だ。
アレクシードの情報が本当なら★6ポラリスの専用技はテレポート。
よく知っている場所へなら、世界中のどこへでも瞬時に移動できるらしい。
これは非常に有用な技だ。ウラジオとレオグラードとエルモンドを瞬時に行き来ができる訳だからな。
とは言え、習得方法が全く分からない。
もう一つは、希望者に魔法を習得させたい。
そのためには、先に隊員に人間の言葉を学ばせたい。
オーウェル様には頼んでいるとは言え、この1カ月で進めておきたいからな。
パワーの兄貴と相談した結果ストライフさんに講師をお願いするのがいいのではと言う結論になったので、ストライフさんに相談すると、喜んで講師を引き受けてくれた。希望者数によってはパーティーの他のメンバーも講師をしてくれるという。
ケルティク経由でオーウェル様に連絡し、資料などの必要経費をオーウェル様持ちで揃えることができた。
ストライフさん達やオーウェル様には感謝でいっぱいだ。
ようやく体制が整ったので、俺はモンスター部隊のメンバーの中から人間の言葉を習得の希望者を募る。
まずは、隊長の中で希望者を聞くと、レオン隊長・ヤヨイ隊長・ホーク隊長・サラ隊長・ウィル隊長・ゼル隊長・アリサ隊長が名乗りを上げる。
初期派遣組の隊長全員じゃないか。
それを見て、タウロス隊長とグレン隊長も名乗りを上げる。
これで、隊長は全員希望する事になった。
次に隊長以外でも希望者を聞くと、最初にスレイルさんとアウルスさんが名乗りを上げる。あんた達大将じゃん。本人達は最初から希望するつもりだったが、最初に俺が「隊長の中で」と聞いたから言えなかったらしい。
2匹の大将が名乗りを上げて気兼ねしたのか、隊員の希望者はボルンガ副隊長とリコの2匹だけ。
俺はスレイル大将やアウルス大将がいるからって気兼ねしなくていいぞと言ったが、皆尻込みしたのか誰も名乗りをあげない。
まあ、あまり匹数が多くなってもいけないから今回はこれくらいにしておくか。
今回の希望メンバーは、ほとんどが指導もできるようなメンバーばかりだな。俺は、希望者全員に空き時間に仲間に少しでも技を教えることをお願いしておいた。
次回があったら、さらに希望者も増えてくるだろう。
実際の授業が始まるとストライフさんが全員に講師をするのだが、その部分が分からない受講者に対して、パーティーの他のメンバーがその部分を教えて回るなどしてサポートをしていた。
これなら、あとは俺がいなくても順調に進みそうだな。
俺も★6ポラリスの専用技の習得に専念できそうだ。
「俺はポラリスの専用技の習得を目指してみるつもりだが、兄貴はこれからどうするんだ?」
授業の場から離れてようやくフリーになれたので、俺は兄貴に聞く。
「俺様は、ウル様に魔法を教えないといけねえからな。
しばらくはそっちにかかりきりになるぜ。
あとは、ウル様と昔の文献を当たって★6の専用技関係の資料を探してみるつもりだ。」
兄貴が答える。
確かにウル様はまだ魔法を習得していなかったからな。
「確かに文献を当たるのはいいかもな。
俺は、ちょうどレオグラードに来ているブライアンに★6専用技について話を聞いてみるから、文献を当たるときは俺も誘ってくれよ。」
俺は兄貴にそう頼んで、ブライアンに会いに行った。
その後俺は、ブライアン・フィロソフィーの時間が空くのを待って、★6専用技をどのように習得したのか聞いてみた。
ブライアンは、まずは色々な文献で僅かでも可能性があるものをひたすら当たったそうだ。やはり、文献を当たるしかない訳か。
専用技が何かが分かれば、その効果をイメージして技の組み立てをひたすら繰り返したらしい。
俺の場合、情報が正しいどうかは不明だが、文献により分かっている効果はテレポート。
テレポートすることをイメージしながらひたすら技の組み立てを考える。
これまでに多数の技を習得してきて、その技の精神集中の各部分が何故あるのか、技間での精神集中方法の共通点、そこからテレポートに必要な精神集中の方法を推測して、ひたすら色々な方法を試していけばいいとの事だが。
しかし、初めての試みですんなりいく訳がない。そもそも瞬間移動と言う効果は、他のどんな技にもない効果だ。これが兄貴のようなサンクチュアリなら、フォースフィールドの効果を大きくしていけば何とかなりそうだが、テレポートの場合はそうはいかない。
色々試してみるが、手応えは全くなくただ時間だけが過ぎていく。
「ガイン殿、煮詰まっているようだな。」
気が付くと、フォノアさんのパーティーが傍に来ていた。
「フォノアさん、どうしたんだ?」
「気分転換に訓練に付き合ってもらえないか。
あと、技の習得をしたいので教えて欲しい。」
フォノアさんも技と魔法の両方を習得する利点が分かったんだな。
戦力の底上げのためにも、技を覚えている人間が増えた方がいいからな。
「分かったぜ。
あとで、★6の専用技について文献を調べるんだが手伝ってくれねえか。」
「了解した。
ガイン殿の役に立てるよう手分けして調べよう。」
こうして取引が成立し、俺はフォノアさん達に技を教えることになった。
訓練をしていると午後になり、ウル様と兄貴がやって来る。
「ガイン、文献を調べに行くぜ。」
頼んでいた通り兄貴が呼びに来てくれた。
俺は、兄貴達にフォノアさん達に手伝って貰う事を話して、レオグラードの図書館の文献を調べに行く。
文献を調査するのに手分けして調べると、★6の熊族に関する記述はどれも伝説ばかりだったが、意外にも全てに共通点がある。
名前が殆ど★6アルクトドスと★6ポラリスなのだ。
さらに言うと、姿に関する記述も概ねアレクシードに聞いた話の通りだ。
専用技について調べると、★6アルクトドスの専用技については2つの記述が見つかる。
1つ目はサンクチュアリ。効果は広範囲に結界を張るというものだ。魔王からの攻撃を防いだという記録がある。
2つ目はインヴァルナラビリティー。一時的に不死身になれる効果らしい。それだけ聞くと、★5ガルムの専用技フェイタルライフと同じに聞こえるかも知れないが、フェイタルライフは効果時間内はダメージにより死亡しないという効果なのに対し、インヴァルナラビリティーは、効果時間内はダメージそのものを受けないらしい。
これがあれば、ケイシュール相手でもサシで戦えたよな。
どちらの効果が★6アルクトドスの専用技なのかは分からない。だが、資料の記述の量から言ってサンクチュアリの可能性が高い。両方の可能性も一応あるが。
続いて★6ポラリスの専用技については3種類の記述を見つけた。
1つ目はテレポート。効果は自分のよく知っている場所に一瞬で移動できるというもの。これの記述が一番多い。
2つ目はシェイプチェンジ。自分の姿を変えられるというもの。★6ゲブであるブライアンと同じ技だ。この記述は2件しかない。
3つ目はフォアサイト。自分に迫る危険を予め知る事できるらしい。これに関する記述は1件だけだ。
記述の数が単純に信憑性になるとは思えないが、それでも記述の具体性などからサンクチュアリとテレポートが専用技の可能性が高いと感じる。
さらに、具体的な精神中集方法に関する記述もあるにはあるが、抽象的かつ文献によってバラバラだ。
それでも、一応全ての方法について頭に入れておく。
どれか1つでも正解だったら儲けものだからだ。
10日余りかかったが、レオグラードにある資料は全て調べ切った。
ディビアンやファーレンにも資料はあるらしいが、基本レオグラードの資料の写しらしい。
とりあえず、ブライアンに倣って全ての記述に関する方法から技の構成を組み立てていく。
しかし、初めての技を自分で編み出しているような感覚だ。
それよりは条件がいいとは言え、全く進展している実感はない。
仕方ないので気分転換に部隊の様子を見て回る。
俺が技を教えた4人のうち、フォノアさんとリーナさんは、この10日で3レベル技までをほぼ技で習得した。
魔術師のカミルさんは一部4レベル技まで習得している。
魔法の使えないガイネストさんは苦戦したがそれでも1レベル技のサンダーだけは習得した。
兄貴とウル様は、フォースフィールドの技の構造からサンクチュアリの構造について予想し、議論を行っていた。
確かに★6アルクトドスと★6アルハドルの専用技はどちらもサンクチュアリの可能性が高そうだからな。
2匹で相談して可能性の高い方法を予め想定しておくらしい。
ストライフさんを見に行くと、教えて貰った全員が人間の言葉の基本的な所が理解できるようになったらしい。
このままいけばあと数ヶ月で人間の言葉の理解ができそうだな。スレイルさんとアウルスさんが早くて、もう日常的な人間の言葉を覚え、次は文字の勉強をしているらしい。
逆にストライフさんのパーティーメンバーもスレイルさん達から技を教えて貰い全員4レベル技の一部まで習得したらしい。ストライフさんは5レベル技まで習得してしまった。次回からフォッサマグナメンバーに入ってもらおう。
他の部隊員も進捗状況はバラバラとは言え、新しい技の習得を熱心に取り組んでいた。これで大分部隊の戦力の底上げになったな。
俺は、中々進まないので、ストライフさんに技の構成について相談する事にした。次に時間が空いた時に相談に乗ってもらう約束を取り付けた。
その日の夜、ストライフさんに見てもらってテレポートの技の構成を相談する。
「専用技のタイムストップの構成について説明してくれませんか。」
ストライフさんが言うので、俺は自分以外使えないとは言え、タイムストップの精神集中の構成を説明した。
すると、
「一通り見せてもらいましたけど、文献のものは全部テレポートの構築とは違うような気がします。」
ストライフさんがぶっちゃける。
「全部違うって、俺が今まで試してきた事は全部無駄だって事かよ。」
「無駄にはなりませんよ。
今まで試したことが全部違うと分かった訳ですから。
他の文献からと言う事で見せて貰った構成は、全て既存の技の構成を変化又は拡張させたもの。
それに対して、タイムストップの構成は他の技と共通点がない全く独自のものでした。
おそらくテレポートの構成があるとすれば、全く新しいものになる筈です。」
ストライフさんが言う。
「それじゃあ、ヒントなしで全く新しい構成を見つけろって事かよ。
無理だぜ。」
俺が言う。
「他種族の専用技で似た効果の技があれば、それがヒントになるかも知れません。」
ストライフさんが言うが、そんなのあるのかよ。
テレポートに似た効果なんて思いつかねえぜ。
かと言って、他に方法もないので俺はストライフさんにお礼を言うと、翌日からその方向で調査を始めることにした。
3日ばかり、俺はフォノアさん達と文献を当たる。
やはり、瞬間移動に関する専用技の記述はない。
唯一★5ナイトメアが覚醒した★6アムドゥシアスの専用技にプレーンシフトと言うテレポートに似た効果があった。次元を渡って遠方へ移動する効果だ。一応、全ての記述を試してみるが全て無駄に終わる。全部無駄かもしれないが、念のためあとでストライフさんに見て貰おう。
だが、ここで俺はふと思いつく。
影の世界から移動するシャドウウォーク、次元を超えて移動するプレーンシフト、瞬間移動をするテレポート、これらに共通点ははないだろうか?
一応可能性があるから、アウルスさんの時間が空いたときにシャドウウォークの構成を教えてもらおう。
俺は使えなくとも構成を知る事がテレポートの習得のヒントになるかも知れない。
「ガイン、いるか?」
次の日、ウル様が書物を持って俺の所に来る。
「その書物はどうしたんだ?」
俺が聞くと、
「ノリク様に頼んでウォルタンの資料を当たってもらったら、テレポートに関する今までと違う記述の文献があったらしいから貸りてきた。」
「すげえな。見せて貰ってもいいのか。」
「いいぜ。
ノリク様も迷惑かけた手前少しでも役に立ちたいと言って動いてくれたからな。」
ウル様が言う。
俺としては思う所がない訳じゃないが、無償で協力してくれているのに無下にする訳にはいかねえよな。
「助かるぜ。
どれも上手くいかなくて煮詰まっていたから、さっそく読ませて貰うぜ。」
俺はウル様にお礼を言って文献を読ませて貰う。
そこに書かれている構成は今までとは全く違うものだ。俺の知っている技の全ての構成と違っている。しかも、アウルスさんに教えてもらったシャドウウォークの構成と最初の一部分だけ共通している。
これは期待できるかも知れない。
とは言え、ここに書かれているのは構成の一部にしか過ぎない。
残りの部分は、自分で組み立ていかなければならない。
俺は色々試してみるが、結局うまくいかず、またストライフさんに助言を頼む。
「この構成は初めてのものですね。
しかも今聞いたシャドウウォークの構成と共通点がありますね。
となると、移動先の方向や距離などに関する構成が必要となってくる筈です。」
ストライフさんの助言で大分ヒントが聞けた。
その日ストライフさんに助言を聞きながら構成を構築する。
散々苦労したが、俺は1メートル前に瞬間移動する事に成功した。
よし、テレポートのさわりを掴んだぞ。
次の日、ストライフさんと一緒にさらに構成を修正していく。
瞬間移動が成功するためには、行先の情景を正確に思い描けないと成功しない。
移動したい方向を向き、おおよその距離を精神集中のエネルギー量で調整する。
など、色々と分かってきた。
そう言う意味では、これまでの技とは違い、毎回かなり細かい調整が必要になる分高度な技と言える。戦闘中にその場で瞬時に使う事は考えない方がいいな。遠方への移動はかなりの精神集中時間が要りそうだし。
俺はその後数日散々練習した結果、レオグラード内の別の場所に瞬間移動ができるようになった。
練習を続ければ、遠方への瞬間移動もできるようになる筈だ。
ちなみにポケットを埋めながら確認した結果、テレポートは6レベル技である事が分かった。




