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熊王伝  作者: ウル
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第7話 空を逃げる者

 それからも、同じドラゴンの襲撃は続いた。


 商隊。

 街道。

 時間帯こそ違うが、同じ辺りだ。


「また、逃げられたぜ。」

 ゼルが悔しそうに唸る。


 地上での勝負なら負けない。

 だが相手は空を飛ぶ。

 こちらが踏み込む前に、火を吐いて距離を取り、危なくなれば空へ逃げる。


 しかも、

「ガインを見ると、露骨に逃げるわね。」

 アリサが言う。


「ああ。」

 俺は頷いた。


 あのドラゴンは学習している。

 俺が出てくると危険だ、逃げれば追ってこない、と。


 事態を重く見たのは、ブランタンとロウエンだった。


「このままでは被害が拡大する。」

 ロウエンは地図を叩く。


「駆除部隊を編成する。だが準備に時間がかかる。」

 ブランタンが続ける。


「その間、時間を稼げと。」

 俺が言うと、ロウエンは真っ直ぐ見てきた。


「ああ。頼めるか、ガイン」


「これだけ被害が続くとなれば、今回は、完全に排除する。

 情けは無用だ。」

 ブランタンも了解した。


 俺に迷いはなかった。

 被害を出し続ける以上、駆除は当然だ。


「分かった。」

 俺は、そう答えた。




 作戦は単純だ。

 ドラゴンが逃げる方向、つまり、俺がいると分かれば避ける場所に、俺が潜む。


「俺はここで待つ。」

 俺はゼル・アリサ・ウィルに言う。


「大将が出ないで大丈夫か?」

 ゼルが心配そうに言う。


「お前らに任せる。」


「分かったわ。」

 アリサは静かに頷く。


「ウィル、無理はするな。」


「は、はい。」

 ゼル、アリサ、ウィルの三匹が表で対応する。

 俺は、ドラゴンの逃走経路で待つ。


 だが、


「来ない」

 嫌な予感がした。


 直後、空気が変わる。

 羽音が、予想と違う角度から聞こえた。


「ちっ、気づきやがったか。」

 ドラゴンは異変を察し、早めに逃げに入った。

 このままでは、ロウエンの部隊が間に合わない。


 そして、

 ドラゴンが、逃げようとして俺の潜んでいる上空を通ろうとした。


「仕留める。」

 俺は前脚を深く沈める。

 全身の力を、脚に集める。


「ジャンプアタック」

 地面を蹴った瞬間、視界が跳ね上がる。

 これまでで一番の高さ。


 空中で、体をひねる。


「トリプルスラッシュ」

 両前脚の爪を、交差するように振り抜き、最後に牙で叩き込む。


 ガギィンッ。

 鈍い音。

 ドラゴンの翼が裂け、バランスを崩す。


「ギャアァァッ」

 ドラゴンが空から落ち、地面を転がった。


「よし。」

 俺は着地し、すぐ距離を詰めた。

 羽は完全に傷ついている。

 もう飛べない。


 だが、ドラゴンは、俺を見上げて言った。


「殺す、か。」


「そうだ。」


「母は……殺された」

 声は、かすれている。

 だが、はっきり聞こえた。

 モンスター同士なら、別種族でも会話はできる。


「縄張りを、奪われた。

 逃げるしか、なかった」


 幼体。

 ★2ヤンググリーンドラゴン。

 小さい理由が、ようやく分かった。


「人間は、怖かった。

 だが、商隊は、

 たくさん、食えた。」


 理解した。

 人間は危険だが、逃げれば追ってこない。

 それなら、と学習しただけだ。


 俺は構えた。

「被害を出し続けた。

 ここまで来たら、戻れねえ。」

 次の瞬間、俺は爪を振るった。


 後で、ロウエンの部隊が到着した。

 駆除は完了したと報告し、事件は終わった。


「さっきの技、すげえぜ。」

 ゼルが目を輝かせた。


「空中で交差する斬撃、初めて見たわ。」

 アリサも目を離さない。



「ジャンピングクロススラッシュだ」

 俺は少し考え、言った。


「必殺技だな。」


「俺のな。」


 空を逃げる相手を、逃がさない技。

 必要だったから、生まれた。


 ドラゴンは、ただ生きようとしただけかもしれない。

 だが、


「次は、逃げる前に終わらせる。」


 俺は空を見上げ、そう呟いた。


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