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熊王伝  作者: ウル
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第68話 決戦前夜

 その日の朝も俺は、ウィルとゼルの訓練をしていた。

 2匹とも、昨日ようやくアンチディスペルガードを習得したのだ。

 これで、ケイシュールに近づくことなくプレッシャーをかけることができるようになった。

 2匹とも、もはや足手まといではない。頼れる戦力だ。

 対ケイシュール戦では、遠方からアンチディスペルガードからのディスペルマジックを狙う。もし、ディスペルマジックが決まれば、ケイシュールは飛行魔法が解除されて窮地に陥るだろう。

 逆に、ケイシュールにディスペルされたときは落ち着いて魔法のフライトを発動し直すよう、そして、万が一、ケイシュールに襲われそうになった場合はレオグラードの町に迷わず逃げるよう徹底しておいた。


 あとは、兄貴達がしてくれている筈だが、万が一城壁を破壊された時のための部隊の統率について確認しに行くか。

 俺はそう言って、2匹を連れてレオグラードの町へ戻る。


 すると、兄貴とスレイルさん・アウルスさん・ドルカンコーチ、そして、諜報部隊のケルティクが集まって話していた。


「何かあったのか?」

 俺が聞くと、


「ウル殿がノリクの引き抜きに成功したそうだ。

 今、ノリクを連れてピュートル公と面会をしている。」

 ケルティクが言う。

 ウル様、本当にノリクを引き抜いたのかよ。昨日、ピュートル公の許可を取ったことを聞いた時も驚いたが、今度の驚きはそれ以上だった。


「ノリクを引き抜いて、勝ち確定ってわけじゃねえよな。」

 俺が聞くと、


「ノリクは皇帝直属軍を実質的に率いる権限がなかったらしく、皇帝直属軍は敵に回ったままだ。西から来ているミューゼル軍と周辺貴族の部隊だけが味方になったようだ。」

 ケルティクが言う。

 てことは、敵軍が6万くらい減って、味方が6万くらい増えたって所か。

 以前と比べてかなり有利にはなったが、まだ敵の方が多いな。


「会見が終わったら、改めて作戦会議に入るようなので、すぐに館に行けるよう準備をしておいてほしい。」

 アウルスさんに言われ、俺は部隊の調整についての状況を聞きながら、面会の終了を待った。


 最初にピュートル公がウル様を紹介する。


「偵察の報告によりますと、パヴェル・ロマノフの軍は第一攻撃目標をディビアン公国に変更したようで、今朝からの進軍方向が変わっております。」

 アンネコフ内政官が報告から始まる。


「潰しやすい所から潰そうという事ですか。

 ついでに敵に回ったミューゼル家の軍も大軍で叩いてしまおうという所ですかな。」

 アレクセイ将軍が言う。

 パヴェル公も裏切ったノリクは許せねえってことなんだろうな。優先的に叩き潰しに行くつもりらしい。


「ディビアンにミューゼル軍も含めて籠城と言うわけにはいかねえのか?」

 兄貴が言う。

 それができればいいが、全軍入れるのか?


「ディビアンには既に近隣貴族も駐屯している。

 ミューゼル家と周辺貴族計3万がさらに入るほどの余裕はない。

 無理やり入れるとなると、中で衛生上の問題が起こるだろう。」

 レオニード将軍が答える。

 まあ、そうだろうな。

 とは言え、ディビアンに全軍入れないとなると、ミューゼル軍は城壁で守られることなく取り残されるわけだ。

 そこを、パヴェル公が見逃す筈がねえ。

 逆に、俺達が援軍に行こうものなら、逆に叩き潰されるだろうしな。


「パヴェル公はレオグラードにいる軍を誘い出そうとしている訳か?」

 俺は、レオグラードの軍が無策で誘い出されることを危惧して言ってみた。


「そう言うことでしょうね。

 ミューゼル家の離反により兵力差が縮まって攻城戦では不利になったと見て、野戦に持ち込む気なのでしょう。」

 アレクセイ将軍が言う。

 流石にこれくらいは誰もが警戒しているよな。


「ケイシュールが隕石で城壁の破壊を目論んでいるという事だが、それを防げればディビアンは今の軍で持ち堪えられそうなのか?」

 アウルスさんが聞く。


「城壁の破壊がなければ、ディビアンを強引に落とすことが不可能ではないとは言え、パヴェル公としても相当の被害を覚悟する必要がある。

 その後レオグラードの我々と戦えるだけの余力を残せるとは思えないが。」

 レオニード将軍が言う。

 そりゃ、パヴェル公としても、あとからレオグラードの主力と戦う事を考えたら無茶はできないよな。


「ケイシュールの対策部隊はディビアンに移動した方がよくねえか?」

 兄貴が言う。

 敵の主力がディビアンに向かっているなら、ケイシュールも当然ディビアンに来るよな。


「連合国の部隊は、連絡調整部隊を除いて全員ディビアンに移動しようと思うが。」

 アウルスさんが続けて確認する。

 ケイシュールとの戦いを想定すればそうなるな。

 この辺りは、俺達の意見は一致しているようだ。


「では、連合国の部隊とケイシュール対策部隊には、この会議の後ディビアンに向かってもらいたい。

 次の課題として、敵の誘いに乗って野戦に打って出るかだ。」

 アレクセイ将軍がこの件についてまとめて、次の議題に入る。

 ディビアン支援でレオグラードから撃って出るかはかなり悩む。

 放っておけばディビアンが敗れるし、下手に打って出ても敵の方が戦力が大きい以上苦戦は免れないからな。


「レオグラードから軍が出てきたのを知れば、パヴェル公もレオグラードの軍を集中的に潰しに来ると思います。

 こちらは、ディビアンに5万、ディビアン手前のミューゼル軍3万、レオグラードに15万、ゼルロンに3万と兵力が分散しています。それに対し、敵軍は27万全軍が集結しています。

 慌てて野戦に持ち込もうにも全軍が揃うか保証がない戦いを仕掛けることになります。

 しかも、敵軍は万全の体制の所へ。

 下手に出て行く訳にはいかないと思います。」

 ウル様が言う。

 それは分かっている。だが、何もしないとディビアンが危ない。


「しかし、このままディビアンを見殺しにする訳にはいかない。」

 レオニード将軍が言う。

 そう、この点についてどう考えるかだよな。


「今日のうちに、ゼルロンの兵力をレオグラードに合流できませんか。

 野戦をするなら、兵力の分散はできる限り避けるべきですから。

 理想を言えば、ディビアン防衛中にディビアンを包囲している敵をディビアンの外と中から挟撃したいですので。」

 ウル様が言う。

 確かに、そのあたりが無難か。

 野戦に出るレオグラードの軍はできるだけ戦力を集めた方がいいからな。


「それができれば理想だが、そうなると、ディビアンには最低でも1日は持ち堪えてもらう必要があるな。

 我が軍の出陣は明日の夜か、明後日の早朝と言う所か。」

 アレクセイ将軍が言う。

 まあ、ウル様の案が無難な所だな。

 俺達も行くわけだし1日くらいなら、なんとか持ち堪えたい。


「では、ディビアンにケイシュールの精鋭部隊・連合国部隊及びウォルタン周辺の協力貴族の軍を入れる。

 その上で、レオグラードにそれ以外の全軍を集結させ、敵の動きを見ながら明日の夜ゼルロンとの合流後すぐ、又は、明後日の朝ディビアンに向かう。

 この方針でよろしいか?」

 アレクセイ将軍がまとめて確認する。

 特に反対意見も出ず、南部貴族連合軍の方針は決まった。


 俺達連合国の部隊、そして、対ケイシュール精鋭部隊はフライトを使ってディビアンに向かう。

 モンスター部隊もフライトを使えるメンバーがかなり増え、さらに対ケイシュール精鋭部隊は全員がフライトを使えるため、多人数のモンスター部隊全員にフライトをかけての移動も可能になった。



 夜に、ディビアンの中で会議に入る。

 メンバーは国王ランスロット公。最初に挨拶を一言述べただけで、この会議は弟のライオネル公が取り仕切るらしい。

 そして、ディビアンの軍事責任者のライオネル公。

 ディビアン公国の4人の騎士団長。

 そして、ディビアン公国近辺の協力貴族3名とミューゼル家の協力貴族5名。

 ミューゼル家の協力貴族達は昨日まで敵だった筈だが、普通に過ごしてるな。

 ノリクに連れていかれただけで、自分たちは南部貴族連合の一員だと思っているのだろう。

 そして、レオグラード冒険者の代表としてケイシュールの息子のアレクシード。

 連合国からは、スレイルさん・アウルスさん・兄貴・ウル様・フォノアさんと俺だ。

 魔王は、ディビアンにいる連合国諜報部隊員の所で待っている。今回の戦闘の切り札でもあるのだが、基本的に余程のことがない限り手を出さないらしい。



「では、会議を始めたい。

 パヴェル・ロマノフ率いる北部連合の主力はまずこのディビアンを攻撃してくるようだ。

 レオグラードの友軍は、ゼルロンの軍と合流後に援軍に向かうとの事だ。

 敵軍は早ければ明日の夕方にはディビアンに到着する。遅くとも明後日の朝だろう。だが、援軍の到着は早くて明後日の朝、最悪明後日の夕方を想定しておくべきだろう。

 援軍の到着まで短くて1日、長ければ2日我々だけで持ち堪える必要が出てきた。

 協力貴族の皆様と何とか援軍到着まで耐え抜いてほしい。」

 ライオネル公が会議を始める。


「ミューゼル家の本隊はどうなっているのです?」

 1人のミューゼル家の協力貴族が聞く。


「これ以上の人数をディビアンの町に入れるのは厳しく、また、町の外で敵の大軍と交戦すれば各個撃破されるため、レオグラードの本隊と合流した上で援軍に来るそうだ。

 南から回り込み、西進してくるレオグラードの本隊と合流するそうだ。」

 ライオネル公が答える。


「敵の機動部隊に襲われる可能性はないのか。」

 兄貴が聞く。

 そりゃ、パヴェル公としても機動部隊を使ってでも潰しておきたい所だろう。


「警戒はしているが、その可能性はないとは言えない。今夜はディビアンのすぐ南で野営しているので何かあれば、南の衛兵から報告が入る筈だ。」

 ライオネル公が答える。

 それなら、今夜は大丈夫か。

 明日はモンスター部隊の鳥族が偵察に向かうから、敵にそう言う動きがあれば分かるな。



「一応我々ができるだけ素早く対処するつもりだが、ケイシュールの隕石にある程度の城壁を破壊される事は想定しておいてほしい。

 その上での対応を予め考えておきたい。」

 アウルスさんが次の議題を出す。

 城壁を破壊される前にケイシュールを討ち取るのがベストだ。

 そのための内部調整は終わっている。


「連合国モンスター部隊は鳥族の隊員が全方向からケイシュールの接近について警戒し、発見次第東門近辺にいる連合国部隊に連絡が入る事になっている。

 そして、そのまま城の入り口に展開してるライオネル公にも報告する手はずになっている。」

 予め内部で決めた体制に修正案が聞ければと思い言ってみる。


「城壁の衛兵にも警戒するよう伝達済みでケイシュールを発見次第、即ライオネル公に報告する事になっております。」

 ディビアンの騎士団長の1人が言う。

 まあ、どの部隊も考える事は同じだよな。


「その時の報告は、併せてケイシュール討伐部隊にも行うようにする。

 そして、ケイシュールとの戦闘はアレクシード殿と連合国・エルシアの部隊にお願いする事になる。」

 ライオネル公が言う。


「そこは任せてほしい。

 だが、ある程度の城壁を破壊されて敵がそこに総攻撃を仕掛けてくるとか、ケイシュールに逃げられる等の想定もしておくべきだな。」

 アレクシードが言う。


「城壁の破壊に対しては、私から各部隊に伝達いたしますので、臨機応変に破壊された城壁近辺の守りを固めるよう指揮を行う。

 ケイシュールを逃がした場合については、壊された城壁を守りつつ、今の警戒を維持するしかありませんな。」

 ライオネル公が言う。

 まあ、できることはそんな感じか。

 できる限り早くケイシュールを討ち取らないと犠牲が増えるからな。


「城壁の破壊については我々連合国部隊も現場に駆けつけて支援に当たる。」

 スレイルさんが言う。

 この辺りは、連合国としては、ケイシュール討伐部隊に入っていないスレイルさんに任せるしかない。


「あと、こちらの動きを見て、敵が再度レオグラードに目標を変える可能性はないのか?」

 ウル様が言う。


「そうなった場合、レオグラードに関しては当初の予定通りとは言え、ゼルロンから合流に来た部隊とミューゼル家の部隊が町の外で敵の大軍と衝突せざるを得なくなりますな。」

 ライオネル公が言う。

 これは結構厄介だな。

 ただ、偵察させれば事前に分かるはずだ。


「明日、飛行部隊に敵軍の進行方向について偵察させる。

 もし、進行方向がレオグラードに変更されていた場合、レオグラードに連絡を入れて対処してもらう。

 ミューゼル家の部隊にも伝えた方がいいな。」

 俺が言う。

 とりあえず、敵の攻撃目標をなるべく早く知ることが大事だからな。


「そして、その場合は連合国部隊とケイシュール討伐部隊はレオグラードに戻るぜ。」

 兄貴が言う。

 そりゃ、ケイシュール討伐部隊はケイシュールの来る場所に移動するべきだよな。


「では、明日、連合国の飛行部隊に偵察をお願いしたい。

 敵がレオグラードを目指すようなら、連合国の部隊にはレオグラードに戻る。

 我々も、敵軍の動きに合わせて陽動を行いレオグラードの支援を行う。

 敵の大軍と正面からの交戦はしない方針だが、陽動としてディビアンから撃って出る事もあり得ると全軍に伝達しておいてほしい。」

 ライオネル公が言う。

 確かに、少しでもレオグラードの支援をしないとな。


 こうして対応が決まり会議が終わる。



 次の日、兄貴と俺でホーク隊・ヤヨイ隊を連れてはるか上空から敵軍の偵察に向かった。

 敵軍は完全に目標をディビアンに絞っているようだ。

 全軍をディビアンに向けている。

 念のためレオグラード方面も偵察したが、敵の姿はない。


 そして、夕方前に、北部貴族連合の大軍がディビアンにやってきた。

 なるべく早くケイシュールを討ち取らないとな。


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