第60話 無茶な要求
4日後の昼頃、俺達はレオグラードに戻った。
ファーレンを味方に引き入れることに成功した半面、マケルーノ公国に対する完敗が町の雰囲気を暗くしていた。
その日の午後に、ウラジミール将軍をはじめ、戦死者の追悼を行った。
戦時中なので比較的規模は小さいもので、戦勝後に改めて行うらしい。
俺達モンスターには死者の追悼を行うなんて言う習慣はない。
俺は生まれた時からハイネの町にいたから人間がそう言う習慣を持っている事を知っていたし、人間が行う追悼に参加したこともあるので死者に対する思いも感じるが、部隊メンバーの殆どにはそんな経験はない。
野生のモンスターの間では、弱い奴は死んでいく。死んだ奴は野ざらしで、死肉は骨を残して喰われる。
それがモンスターの中では常識だ。
追悼が終わり部隊に戻った後、俺はアレスとのやり取りを思い出していた。
リッチモンド家の件でノリクの策を潰し、反ノリクの旗を上げようとした策士。
それでいて、戦えば不死身の戦士。
まさか、あの不死身のアレスが殺されるなんて。
正直信じられないという思いもある。
どこかで生きていてひょんと現れるんじゃないか。
俺は心のどこかでそんな期待もしていた。
「なにしけた面しとるんや?」
そんなことを考えていると、聞き覚えのある声がした。
「クロガネ講師じゃねえか。盾が完成したのか?」
俺は、訪ねてきた犬人に聞く。
「そうやで。
凄い強敵がいると聞いたで。
微調整が必要かどうか、検証してもらわんとあかんからな。」
「ああ、そうだな。
助かるぜ。
早速試してみるから貸してくれ。」
俺は早速盾を装備してみた。
以前の簡易版と同じ作りだが、作りがしっかりしているため腕を激しく動かしてもまったくずれた感じがない。これはいいな。
俺は、クロガネ講師に使い心地とお礼を言い、兄貴にも試してもらうために兄貴の盾も貰った。
そう言えば、兄貴がいないな。
というか、ドルカンコーチもアウルスさんもいない。
俺は、クロガネ講師に今後の連絡場所を聞いた後、兄貴達を探しに行くことにした。
隊のメンバーに聞くと、兄貴達は3匹でケイシュールと戦ったメンバーに話を聞きに行ったらしい。
なんで俺を誘ってくれなかったんだ?
俺は、兄貴の盾を持って、兄貴達を追った。
東の公園で話をしている兄貴達をすぐに見つける事ができた。
「見つけたぜ。
なんで俺だけ置いてけぼりなんだ?」
俺は兄貴・アウルスさん・ドルカンコーチに聞く。
「ガイン、落ち着いたか?
アレスが死んだことを聞いてショックを受けたみたいだったからな。」
兄貴が言う。
「俺がショックを受けてたとか冗談だろ?
ちょっとアレスの事を思い出していただけだ。」
どうやら兄貴達は俺を気遣って敢えて誘わなかったらしい。
ちょっと考え事をしていただけなのに。
「そうか、大丈夫そうだな。
それじゃあ、ガインも入れて話の続きを聞くか。」
兄貴はそう言って、ケイシュールと実際に戦ったメンバーの紹介をしてくれた。
生き残ったのは、アレス配下のモンスター3匹とノエル配下の冒険者8名だ。
その中でもベッカム商会の協力者だった者たちは、既にエルシアに帰ったため、ここにいるのはノエル配下の冒険者6名だ。
「ガインも来たことだし、確認の意味でもう一度アレス殿とケイシュールとの戦闘で起こったことを順番に聞きたい。」
アウルスさんが聞く。
「はい。
最初にケイシュールがアレス殿に魔法を連発してきたのです。
アンチディスペルガードとディスペルマジックの連打に見えました。
それを察知したアレス殿はアンチディスペルガードがかかった直後に魔法でディスペルガードをかけ直したのです。
ディスペルマジックを無駄にしたケイシュールはそれ以上はせずに、他のメンバーに攻撃の目標を変えました。
多数で一斉攻撃したにもかかわらず、ケイシュールは剣の腕も凄くて全く歯が立たず、かろうじてアレス殿とノエル隊長がついていけるくらいでした。私もスローとかで支援をしようとしたのですが、ケイシュールの魔法防御が高すぎて全く効果がありませんでした。
しばらくして、ケイシュールは急にノエル隊長を集中的に狙ってきて、ケイシュールの強引な一撃でノエル隊長が殺されてしまったのです。ノエル隊長が抜けると、完全に押されてしまって、アレス殿が他のメンバーに撤退を命じたのです。
アレス殿は不死身だからと我々は先に撤退を始めたのですが、アレス殿とケイシュールの一騎打ちでは一方的にアレス殿が攻撃されました。
我々はアレス殿が不死身だから大丈夫と信じていたのですが、ボロボロになったアレス殿にケイシュールのディスペルマジックがディスペルガードがかかっているにも関わらずに効いて、アレス殿のフェイタルライフが解除されて一瞬でした。」
俺達はノエルの配下の生き残りの話を聞く。
「アレスはディスペルガードをかけていたんだよな。」
俺が聞くと、
「はい。
アレス殿は常にディスペルガードが切れないように注意しながら戦っていました。
不死身技のフェイタルライフを解除されたら不死身のアレス殿でも不死身ではなくなりますから。」
「横から誰かがアンチディスペルガードをかけたりはして来なかったのか?」
アウルスさんが聞く。
「それはないです。
アンチディスペルガードは目に見えますから、そんな事があれば絶対に気づきます。
それに、ケイシュールの周囲を我々は10人以上で囲んでいましたし、誰も気づかないという事はあり得ないです。」
「奴は、何らかの方法でアンチディスペルガードの効果を発揮したのかのう。
ケイシュールはアレスにどのような攻撃をしたのじゃ?」
ドルカンコーチが聞く。
「最初の魔法以外は剣で攻撃しただけの筈です。
魔法の剣であれば、そのような効果があるのかもしれません。」
「最初のアンチディスペルガードとディスペルマジックをアナライズマジックしていた奴はいたのか?」
兄貴が聞く。
そこが重要なのか?
「いえ、誰もいませんけど。」
「その時ケイシュールが使ってきた魔法がアンチディスペルガード2連発じゃなかったと確信を持って言えるのか?」
兄貴が再度聞く。
そうか。
ディスペルマジックとアンチディスペルガードは見た目が非常に似ている。咄嗟では見分けがつかない。
しかも、ディスペルガードとアンチディスペルガードは対抗技と言って、使用者の魔力・精神力に関わらず相殺する関係だ。だから、しょぼい奴がアンチディスペルガードをかけたとしても、魔力に秀でる魔術師のディスペルガードを1発で無効化できる。
ケイシュールの奴が、アレスが魔法でディスペルガードをかけ直すことを想定して、最初からアンチディスペルガードを2連発をしてきたとすれば、その後ずっとアレスにディスペルガードはかかっていなかったわけだ。
「まさか、ケイシュールが最初に使ってきた魔法がアンチディスペルガード2連発だったと?
確かにそう考えると、アレス殿のディスペルガードがいつの間にか解除されていたのも分かりますが。」
「確かにパワーの言う通りだな。
初めから、一度は防がれることを想定してアンチディスペルガードを2連発してきたと考えれば、アレス殿にディスペルマジックが効いた理由も分かる。」
アウルスさんが言う。
「パワー、よく気づいたの。
ケイシュールは確かにすごいが、戦闘慣れしているだけでネタさえ分かれば、対処できることも少なくなさそうじゃな。」
ドルカンコーチが言う。
確かに、アンチディスペルガードを2連発してくると分かっていれば対処は容易だ。
兄貴、よく気づいたな。
「となると、基本はパワーを中心とした囮部隊でケイシュールの気を引き、その隙に私がシャドウウォークをかけたドルカン殿とガインが、ケイシュールの暗殺を狙うというのが基本線だな。」
アウルスさんが言う。
「ですが、ケイシュールは剣の腕前も超一流ですよ。
アレス殿とノエル隊長以下全員で攻撃しても1人で相手をしてきました。」
「そう言えば、先ほど俺と兄貴の盾ができたって、クロガネ講師が来たぜ。
これを使ってケイシュールとやり合えないか?」
俺は言う。
その後、一通りの話は聞けたので、盾の練習をしようと言うことになった。
部隊の所に戻ってくると、クロガネ講師が待っていた。
「ダガンはんはおるか?」
クロガネ講師が聞くので、ダガンを呼んでくる。
「それじゃあ、盾を使った訓練をするで。
ダガンはんにはフライトとスピードをかけ、パワーはんとガインはんにはスローがかかった状態で戦ってもらうで。」
「ちょっと待て、1対1でも厳しいのにさらにハンデをつけるのかよ。」
俺は言うが、
「ケイシュールとの戦いを想定するにはこれくらいはせんとあかんで。
代わりに、パワーはん・ガインはんは2匹で、ダガンはん1人を相手にすればいいんやで。」
クロガネ講師が言う。
「確かにそれくらいじゃねえと、訓練にならねえな。
それじゃあガイン、スローかけてくれ。」
兄貴が言う。
俺の技じゃ兄貴には完全には効かねえんじゃねえかと言うが、兄貴は敢えて抵抗しないようにしてスローの効果を完全に受けた。
俺も自分にスローをかける。
うわ、これは動きにくい。
これで、スピードがかかったダガンが相手かよ。きついぜ。
そして、俺達はダガンとの戦闘訓練を始める。
ダガンは威力を落としてあるが、軽くて使いやすい得意武器のダガーだ。
俺と兄貴は2匹がかりで攻撃するものの、全く当たらない。かすりもしない。
逆に、ダガンからは隙ありとばかりにがんがんと攻撃を喰らい続ける。
ただでさえダガンの方がスピードがあるのに、このハンデはきついぜ。
しかし、しばらくすると兄貴がダガンの攻撃を2~3回に1回は盾で受け止めることができるようになった。
相手の動きを読んで最低限の動きで受けようとしているようだ。
俺も無駄な動きをせず、ダガンの動きを読んで最低限の動きで受けないと。
そのあと何十回と攻撃を喰らったものの、ダガンの動きにある程度はついて行けるようになってきた。
「パワー様もガイン様も動きについてこれるようになってきたな。
それじゃあ、今度はフェイント込みで行くぜ。」
ダガンが言う。
そうだった。
今までのダガンの攻撃には、ダガンの得意のフェイントが全くなかった。
ケイシュールだって当然フェイントを使ってくるよな。
やっと対応できるようになってきたと思ったのに、また、ダガン1人にボコボコにされてしまう。
何と言うか、俺がダガンの攻撃をこう受けようというのが、ダガンに読まれているようだ。
なので、俺も盾で受ける素振りをしつつ、敢えて盾を使わずに最低限腕にかすらせて本気でついてくる一撃を盾で受けるよう意識を集中させる。
練習を続けると5~6回に1回は、フェイントをちゃんと受けられるようになってきた。
お互い大分疲労してきたので、リザレクションをかけていったん休憩する。
そうしている間に、クロガネ講師はドルカンコーチとウィルとゼルの腕の測定をしていた。
アウルスさんが言うには、ケイシュールと戦う兄貴の隊にウィルとゼルと高レベルの冒険者を入れケイシュールと戦う方針で行くようだ。
そのために、簡易版でも盾を作ってくれるようクロガネ講師に頼んだようなのだ。
ちょっと待て、ウィルとゼルは5レベル技のディスペルガードが使えないだろ。
フライトで空中戦の時にディスペルマジックをかけられたら、一発で墜落して即死だぞ。
「私もディスペルガードがかかっていませんでしたが、ディスペルマジックをかけられませんでしたし。」
先ほどのノエル配下が言うが、それを期待して無策で行くのは自殺行為だ。
俺はそう主張するが、冒険者の中ではディスペルガードを使える者の方が少なく、使えない者を外すとケイシュールと戦う者が殆どいなくなってしまうらしい。
「アウルスさん、ウィルとゼルにディスペルガード早急に教えてやってくれないか。
ディスペルガードをかけずにケイシュールと戦うのは自殺行為だからな。
後、参加予定の冒険者にも各自ディスペルガードの習得を目指して貰ってくれ。」
俺は、敵のディスペルマジックだけで、こちらのメンバーの飛行魔法が解除されて墜落死する展開を危惧して、参加者にはディスペルガードを習得してもらうよう頼んだ。
「ガインはんの言う通りやで。
できる限り隙は潰さなあかん。
わいが、簡易版の盾を作っとる間に習得しておくんやで。」
クロガネ講師も俺の意見に賛成してくれた。
ディスペルガードのない無防備な状態でケイシュールと戦いに行くなど俺は看過できない。
明日までに習得しろとかクロガネ講師も無茶を言うが、出発するまででいいぞと俺は訂正しておいた。
その代わりできなければ待機だと言ったら、2匹とも真剣にやるつもりになったようだ。
まあ、冒険者達の方は全員4レベル魔法までは使えるらしいので、1日かけて丁寧に魔法書を読めば、1回は発動できるだろう。
兄貴にアンチディスペルガード+ディスペルマジックをされたら同じだと言われたが、それでも俺はディスペルガードによる最低限の保障は必要だと言って押し切った。
ウィルとゼルはアウルスさんに教えてもらってディスペルガードの習得に、ディスペルガードが使えない冒険者もディスペルガードの練習に入った。
簡易版の盾なら明日にでもできるということで、クロガネ講師はレオグラードで借りている工房に戻った。
オーウェル様からの依頼でピュートル公が工房を手配してくれたらしい。
オーウェル様に感謝だ。
そして、作戦の本命はアウルスさんのシャドウウォークで隠れた俺とドルカンコーチだ。
俺とドルカンコーチは一通りの技を覚えているから大丈夫だろう。
出来ればドルカンコーチに魔法を習得してもらいたいが、数日でできる問題ではないので今できることは実践訓練だ。
残った兄貴とダガン、ドルカンコーチ、そしてディスペルガードが使える高レベル冒険者で訓練を続ける。
ケイシュール想定の者はスピード、それ以外の者はスローをかけてだ。
兄貴が咄嗟にフォースフィールドをかける練習も行った。
1日かけた練習で、動きの無駄はかなり減ったし、お互いの連携も大分できるようになってきた。
日が暮れてきたので、俺は自分と兄貴の盾は調子いいからウィル達の盾を頼むとクロガネ講師にお願いした後、ウィルとゼルの様子を見に行く。
流石に★4になりたての2匹に5レベル技を1日かそこらで習得しろとか無茶な要求だからな。
俺も最初の5レベル技は、習得するまで5日はかかったし。
それに、俺は習得できなければケイシュールとの戦闘に参加させないと言いきっちまったし。
そこに行くと、アウルスさんだけじゃなくてストライフさんと参加予定の冒険者達がいた。
「はい、ウィルさんはそこまではできてます。ちょっと待っててくださいね。
ゼルさん、慌てなくてもいいのでもう一度いきましょう。ここまでの部分を固めるにはもっとゆっくりとやります。やり方はあってますよ。」
ストライフさん、まさか、魔法でディスペルガード覚えさせる気なのか?
そのまさかだった。
技での習得では間に合わないと踏んで、ディスペルガードの技の構築を細かく分解し、分解した1つ1つの過程をストライフさんが説明していたのだ。
確かに分解した1つの過程だけ見れば1レベル魔法程度の量だし、やり方を丸暗記出来ないわけじゃないだろうけど、早急にディスペルガードを習得しろという俺の言った無茶な要求を本気でやろうとしてくれていた。
この調子なら夜には1回は発動できそうだ。戦闘前までディスペルガードだけをポケットに置いておいて、ディスペルガードを開放してから乗り込めばディスペルガードありの状態で戦いに臨めるな。
とは言え、冒険者はともかく魔法を初めて使うウィルとゼルが5レベル分もポケットがあるのかよ?
俺はその点も確認するが、ストライフさんは最初にポケットを広げる訓練もしてくれていたようで、2匹とも5レベル分までポケットが広がったそうだ。戦闘前にディスペルガードを使ってポケットを開放し、それから他の技をかけて戦闘に参加するとのこと。
本当に俺が言った無茶な条件をクリアしてしまった。ストライフさん恐るべし。いや、感謝だ。
それに、ウィルもゼルもよく頑張ったな。
俺は、ストライフさんにお礼を言い、2匹を労った。




