第6話 進化について
その日の訓練が終わった後、俺はウィルを連れて町の奥へ向かっていた。
目的地は、ハイネの進化施設だ。
「が、ガイン様。今日は、いつもと違う場所ですね。」
ウィルが聞いてくる。
「訓練は十分したからな。今日は別の確認をする。」
俺は答える。
進化施設は、外見だけならただの石造りの建物だ。
だが中では、モンスターの状態――特に進化が可能かどうかを調べてもらえる。
本来、モンスターはかなり余分に経験を積めば、自分でも「そろそろ進化できる」と分かるらしい。
だが、それだと遅い。
早く、無駄なく強くなるなら、ここで見てもらうのが一番だ。
「進化……ですか?」
ウィルの声が少し震える。
「そうだ。★1のままでいる必要はない。」
受付の係に事情を話し、簡単な検査を受ける。
しばらくして、係が頷いた。
「進化可能です。★1ヤングベアから★2ブラックベアへ。」
その瞬間、ウィルの耳がぴくっと動いた。
「ほ、本当ですか……?」
ウィルが聞いてくる。
「本当だ。」
★1から★2への進化は、選択肢が一つしかない。
幼体から成体へ。
ヤングベアからブラックベアになるだけだ。
★3以降は進化先が枝分かれする。
その時は考える必要があるが、今は関係ない。
「でも、進化って、痛かったり、苦しかったりしないですよね?」
ウィルは不安そうに俺を見る。
俺は少し考えてから、正直に答えた。
「力がみなぎる感じはある。体が一気に変わるからな。」
「やっぱり。」
「だが、痛くはない。」
俺が答えると、ウィルは目を丸くした。
「進化は、訓練を頑張った結果だ。
罰でも試練でもねえ。」
ちゃんとやってきたやつに、ご褒美みたいなもんだ。」
ウィルはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「僕、やります。」
「そう来なくちゃな。」
進化の準備が整い、ウィルは中央の魔法陣へ立った。
光がゆっくりと立ち上る。
「落ち着け。すぐ終わる。」
「は、はい。ガイン様。」
次の瞬間、光が強くなる。
ウィルの体が包まれ、数秒後、光が消えた。
そこに立っていたのは、さっきより二回り大きくなった熊だった。
黒い体毛。
胸には、月形の白い斑紋。
「立てるか。」
「はい。」
声も、少し落ち着いている。
「成功だな。★2ブラックベアだ。」
ウィルは自分の前脚を見て、胸元を見て、驚いたように言った。
「僕、大きくなりました。」
「アリサと、ほぼ同じだ。」
実際、体格はかなり近い。
ゼルよりは少し小さいが、もう子供じゃない。
「おめでとう、ウィル。」
アリサが微笑む。
「ありがとうございます。」
「ガイン様、訓練、頑張ってよかったです。」
ウィルは深く頭を下げた。
「当然だ。」
俺は鼻を鳴らす。
「これからは、★2として扱う。覚悟しとけ。」
「はい。」
その目は、不安よりも期待で輝いていた。
念のため、俺はブランタンのところにも顔を出した。
「ウィルが進化した。」
「もう★2か。
順調だな。」
ブランタンは答える。
「訓練の成果だ。」
俺は言うが、
「やりすぎてはいないだろうな。」
ブランタンはいつもこういう心配ばかりする。
「今回は大丈夫だ。」
「ならいい。進化は大きな節目だ。記録しておこう。」
ブランタンは小さく笑った。
報告を終えて外に出ると、夕方の風が気持ちよかった。
ウィルは確実に強くなっている。
体だけじゃない。
目つきも、動きも。
進化は通過点だ。
だが――
「次は、技の精度を上げるぞ」
「はい、ガイン様!」
★2になったウィルは、もうただの守られる存在じゃない。
俺の手下として、前に立つ準備が始まった。




