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熊王伝  作者: ウル
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第59話 分断工作

 その日の夜、俺がファーレンの町の外でアルク伯爵の陣の中にいた時に騒ぎが起こった。

 陣の中に、何者かが矢を放ったのだ。

 幸い地面の上に落ちたので被害はなかったのだが、矢を調べてみると畳んだ紙が縛り付けてあった。


 報告を聞いてアルク伯爵が紙の内容を読み、

「魔王レオニエルだと?」

 アルク伯爵が言う。


 魔王の正体がバレたのか?

 アルク伯爵が読み終わった後、俺も紙を見せてもらう。


 それはノリクが魔王レオニエルに宛てた文書で、

 モンスターの待遇を改善するから敵対しないでほしいという趣旨の内容が書かれていた。

 魔王は今ここにいないけどな。

 ただ、名指しで魔王レオニエル宛に出してきたという時点で、ノリクは魔王について知ったという事は確実だ。

 諜報部隊の拠点を撤去したのは失敗だったか。

 匂いなどの僅かな情報から魔王の存在に辿り着いたらしい。

 やはりノリクの情報網は強敵だな。


「ガイン殿は魔王レオニエルについて知っているのか?」

 俺は手紙を読んで考えているとアルク伯爵が聞いてきた。


「対ノリクの切り札として、協力してもらえるとは聞いている。

 しかし、こんな手紙を出したノリクの狙いは分からねえ。」

 俺は答える。

 アルク伯爵に俺が何かを知っていると感じられている以上、何も言わない訳にはいかないし、誰が聞いているか分からない中で下手な事を言う訳にもいかない。


「連合国側は皆知っているのか?」

 アルク伯爵は人払いをして、周りに話が聞こえないようにすると、声を小さくしてさらに聞いてきた。


「ノリクに知られたくない切り札だからな。

 先行部隊で魔王の存在について知っているのはアウルス・パワーと俺の3匹だけだ。

 フォノア隊長も知らない。

 先日帝都にある連合国の諜報部隊の拠点がノリクに襲撃されたが、それを撃退したのが魔王だと聞いている。

 そこでノリクに魔王の存在が知られたのではないかと思う。」

 アルク伯爵だけならこれくらい話でもいいだろうと思い、俺は答える。


「魔王の狙いは聞いているのか?」


「ノリクに捕まっている連合国のアドバイザーのウル様の救出を狙っていると聞いている。

 先日首輪の効果についてブライアンに向けて情報を送ったが、それが魔王に伝われば救出できると思う。

 ウル様の救出時にノリクの暗殺も狙っているのかもしれないが、そこまでは聞いていない。」


 アルク伯爵としても、想定外の味方がいることに驚いていたが、味方である以上それ以上突っ込んでは来なかった。


 その後、レオニード将軍の所に幹部が集まり相談することになる。

 レオニード将軍・ライオネル公・マイヤー騎士団長の所にも同じ手紙が届いたらしい。


「手紙の主が本当にノリクなのか、ノリクがこのような手紙を送った意図について意見を聞かせてほしい。」

 レオニード将軍が切り出す。


「モンスターの首輪を半年を目途に禁止するという話が本当であれば、ノリクは魔王と敵対することを避けようとしていると考えられなくもないですな。

 帝都で本当に発令したのかはいずれ分かるでしょうし。」

 ライオネル公が言う。


「ノリクには魔王に直接話を伝える手段がないから、手あたり次第に手紙を送って、いずれ魔王の耳に入れることを狙ったという事も考えられます。」

 マイアー騎士団長が言う。

 確かにそれはありそうだ。


「レオニード将軍には既に話したが、私は魔王の息子に当たる。魔王の力は持たないが。

 魔王の目的はモンスターの待遇を改善する事。

 魔王が連合国やピュートル公に協力する事にしたのも、これまでのモンスターの待遇が良かったからだ。

 問題は、ノリクがそれを何らかの方法で知ったという事だ。

 どうやって知ったのかは謎だが。」

 アウルスさんが言う。

 アウルスさんは、判明した以上情報を隠さない方針にしたようだ。

 まだ聞いていなかったライオネル公、アルク伯爵、マイヤー騎士団長だけでなくフォノアさんまで驚いていた。


「魔王が手紙の内容を知ったらどう動くと考えられる?」

 レオニード将軍がアウルスさんに聞く。


「連合国のアドバイザーのウル殿の救出は予定通り行うだろうが、同時に狙っていたノリクの暗殺は様子見をするかもしれん。

 ノリクは、我々の分断工作をしてきたと考えられる。」

 アウルスさんは言う。


「だが、ノリクなら、今だけ魔王の意向に沿うように言っておいて、我々を倒した後魔王を倒しにかかる可能性は十分考えられるが。」

 レオニード将軍が言う。


「その可能性が十分考えられるから厄介だ。

 息子の私が言うのもなんだが、魔王はそのあたりの判断が甘い。

 自分が騙されているかも知れないという考えを持たないのだ。

 魔王に連絡が取れるオーウェル殿に伝達して忠告をしてもらおうと思うが。」


「そうだな。

 それは是非ともお願いしたい。」


「ただ、今回の分断工作以外にもノリクの策は続くだろうから、注意した方がいいだろう。」

 アウルスさんがまとめて、会議が終わる。




 翌日、レオニード将軍の所で、今後の予定を打ち合わせしていると、ブライアン・フィロソフィーが★5カリストを連れてファーレンにやってきた。

 ブライアンは、レオニード将軍に経緯を説明して★5カリストを紹介した後、兄貴と俺の所にやってきた。


「パワー殿、お久しぶりです。

 ★5カリストのドルカン殿をお連れしました。」

 ブライアンが紹介してくれる。

 思ったより早かったな。

 優先して準備してくれたのだろう。

 ブライアンに感謝だ。


「パワー、会いに来たぜ。

 オニクビまで進化したんだな。

 これで完全にワシよりでかくなったなあ。」

 ドルカンコーチが言う。


「コーチ、会いたかったぜ。

 虎島に戻る暇がなくてよ。」

 ドルカンコーチと兄貴はハイタッチで再会を喜び合っていた。


「気にすんな。

 ワシも暇を貰ったからな。

 パワーに教えられることを全部教えるまで死ぬに死ねん。」


「コーチ、縁起でもない事を言うもんじゃねえぜ。

 コーチには俺様だけじゃなくて、平和になった連合国で後進を育てて欲しいからな。」


「パワー、嬉しい事を言ってくれるじゃねえか。

 ああ、そうだな。

 ノリクって奴を倒したら、パワーの所で世話になるとするかの。」


「是非とも頼むぜ。

 ところで、コーチに紹介したい熊がいるんだ。

 俺の弟分の★5カリストのガインだ。」

 再開の挨拶が一段落ついた所で、兄貴が俺を紹介してくれる。


「ガインだ。

 パワーの兄貴にはずっと世話になってきた。」

 俺は挨拶する。


「パワーの弟分かい。

 ワシは五島諸島でコーチをしてきたドルカンじゃ。

 お主、タイムストップは習得しておるかの?」

 ドルカンコーチが聞いてくる。


「まだだ。

 今度の敵と戦うのに是非覚えたいんだが。」

 俺が答えると、


「そうか。

 それじゃあ、早速訓練するぞ。

 着いて来い。」

 今すぐ?


「ここでか?」

 俺は聞く。

 確かに町の外だから広い場所はあるけど、近くに兵士もたくさんいるし。

 ドルカンコーチは、レオニード将軍にタイムストップの習得訓練をする旨を話して、近くの開けた場所へ行くと、すぐにも訓練を始めるようだ。

 いざ訓練が始めると、厳しい指示がどんどん飛んで来る。

 俺は、兄貴からドルカンコーチの指導は厳しいと聞いていたので、しっかりとその指示通りに動いた。

 すると、10分余りで時間を止める効果を出すことに成功した。

 すげえ。流石は五島諸島でコーチをやっていただけの事はあるな。


「まだじゃ。

 効果を完全にするために、精神力の力の入れ具合とタイミングの調整をするぞ。」

 俺がタイムストップの効果が出て喜んでいると、ドルカンコーチはすかさず言ってきた。

 俺は、ドルカンコーチに怒鳴られながらも、20分程度でタイムストップを完全に習得した。


「ちゃんと習得できたようじゃの。」

 ドルカンコーチが言ってくれる。


「ありがとうございます。コーチのおかげだ。」

 俺は、ドルカンコーチに感謝して、普段は使わない敬語でお礼を言う。

 人間と色々話してきたので、俺はこういう言葉も少しは覚えた。


「ガインよ、お主、人間の魔法を習得しているかの?」

 ドルカンコーチが聞いてくる。


「ああ、習得しているぜ。」

 俺が答えると、


「ワシに教えてくれんかの?」

 ドルカンコーチは聞いてきた。


「人間の言葉は分かるか?」

 俺が聞くと、


「少しは学び始めたのじゃが、まだじゃの。」


「魔法は、先に人間の言葉を覚えた方が楽に覚えられるぜ。

 低レベル技だけ方法を丸暗記と言う手もない訳じゃないが、人間の言葉を覚えれば知っている技全部を魔法に変換できるからな。」


「そうか。

 ならば、先に人間の言葉を覚えるようにしよう。」

 ドルカンコーチは限界突破種ではないらしいが、うちの隊長以上に賢いよな。

 コーチをしてきただけあって、既に相当の努力をしてきたのだろう。


 方針が決まって、ドルカンコーチとレオニード将軍の所に戻ると、ブライアンを入れて重い雰囲気で全員が黙り込んでいた。


「何かあったのか?」

 俺が聞くと、


「実は、ノリクに捕まっていたエルシアのベッカム商会のところのタロウが戻って来たのです。

 それと同時に、ノリクはベッカム商会にこれ以上ピュートル公に肩入れしなければ、勝利後に罪は問わないから手を引くように言ってきました。

 ベッカム殿が積極的にノリクと対決してきたのは、自分の所のタロウをノリクに攫われたことを知ったからなのですが、そのタロウが戻ってくると、ベッカム殿がこれ以上ピュートル公に肩入れするのは避けたいと言ってきまして。

 私も説得しきれず、ベッカム殿の派遣したモンスターと冒険者を連れ戻さなくてはならなくなりました。」

 ブライアンが申し訳なさそうに言う。

 ノリクの奴、魔王だけじゃなくて、あちこちに手を回してやがるのか。

 タロウさんが無事戻ってきたのは良かったけど、それ故に他の策の説得力が増すのは厄介だな。


「それだとノリクの奴、オーウェル様の所にも、ウル様を返すからピュートル公に手を貸すのは止めろとか言ってきかねないな。」

 俺が言うと、


「オーウェル殿は流石にそれは拒否するだろう。

 それに、近日中にウル殿の救出を決行するだろうからな。」

 アウルスさんが言う。

 まあ、確かにそうだろうけど、


「今後もノリクは様々な策を仕掛けてくることは確かだ。

 我々はノリクとの対決に向けて結束しなければならない。

 何かあればすぐに相談するために情報を共有して欲しい。」

 レオニード将軍が締めくくって会議は終わった。


 そして、ファーレンの守りをマイアー騎士団長に任せ、俺達はドルカンコーチを加えて翌朝レオグラードに向けて出発した。


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