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熊王伝  作者: ウル
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第57話 停戦交渉

 俺は伝令の案内で、レオニード将軍の待つ本隊へ向かう。

 本陣につくと、兄貴がいた。兄貴も呼ばれていたらしい。


 日が暮れた頃、★5シリウスのジークがレオニード将軍の本陣に1匹でやってきた。

 一応人間の使者を1人だけ連れているが、最悪通訳を想定しただけでほぼいるだけ状態だ。


 こちらは、レオニード将軍とそれを護衛する側近。

 そして、レオニード将軍を護衛するようにアウルスさんと兄貴と俺がレオニード将軍の左右後ろに座っている。

 兄貴はでかいから存在感が大きい。俺もアウルスさんも似たようなものだが。


「私がライン・ミューゼルの腹心のジークだ。

 この度は、ファーレン城内で一切の略奪行為を行わなかったことに感謝を申し上げる。」

 ジークが切り出す。

 いくら敵の町を制圧しつつあるとは言え、町の中で略奪行為なんてしないだろと思っていたが、レオニード将軍とジークのやりとりを聞いている限り、ハキルシア帝国の戦争の歴史ではそうでもないらしい。戦争で敵の都市を制圧した場合、兵士が住人から略奪行為をすることは、ごく普通に行われていたようだ。それだけではなく、女性の住人に暴行を働く兵士も少なくなかったらしい。指揮する方も、兵士の維持費を抑え、兵士の不満のはけ口のために敢えて黙認することが少なくなかったようだ。


 しかし、ジークと話しているレオニード将軍の話を聞くと、ピュートル公はそう言った略奪行為等を嫌悪しているため、兵士の給与を他の貴族よりも高くして、そのような事がないように配下の兵士の教育を徹底しているし、隊長達の待遇にも気を使っているとの事。

 そして占領した町で略奪行為を禁止するピュートル公の方針が、ジークに交渉を決断させる理由になったようだ。


「当方からの降伏する条件は、主君ライン・ミューゼルと配下モンスター全ての連合国への亡命の許可と、ファーレンの人員の処分による殺害を行わないことの2点になります。」

 ジークが言って降伏条件の交渉に入る。


「ライン・ミューゼル公は、連合国への亡命を望んでいるのか?」

 レオニード将軍が聞く。


「はい。連合国であればモンスターに対する待遇が良いと聞き、帝都から派遣されたモンスター達を連れて亡命したいとのことです。」

 ジークが答える。


「ライン公はモンスター達を連れて行って何かする予定がおありかな?」


「今回の戦闘のため、帝都からモンスターの増援がありましたが、統率する者を除けば全員首輪付きでした。

 まずは、全員の首輪を外すことを目指します。

 首を外した後のことは、本人達の意志に任せることになりますが。」


「配下モンスターについては分かった。

 次に、ライン公自身の亡命後の予定について聞きたい。」


「我が主ラインは、爵位を捨て連合国の中でモンスターの世話をする仕事につきたいと言っております。

 最も、ピュートル公がファーレンの町中で略奪行為に走るようなら徹底抗戦するつもりでしたが。」

 話を聞いていて思ったが、ライン・ミューゼルって滅茶苦茶良い奴じゃん。

 ノリクの妻の従兄弟と言うだけで偏見を持っちゃ駄目だよな。


「分かった。

 首輪のついたモンスター達の管理を連合国に任せることでよければ、ライン・ミューゼル公の亡命は認めよう。」

 レオニード将軍としても、ここで戦って無駄に犠牲を増やさずにすむならそれに越したことはないということで、認める方向のようだ。モンスターを連合国付にするのは、万が一にもライン・ミューゼルが連れて行ったモンスターを使って何かやらかさないための予防線だろうな。


「感謝いたします。

 ファーレンの軍については、ピュートル公が選定した人物以外は退役とさせていただきたい。」

 次は、ファーレンの軍についてだ。


「それは、我々が望めはそのままノリクやパヴェル公との戦いに協力してもらえると考えてよいか?」

 レオニード将軍が聞く。


「敗戦軍として、無茶な戦闘をさせられるのでないのであれば、協力するつもりです。」


「協力してくれる軍に無茶な戦闘をさせるつもりはないから安心してほしい。

 とは言え、我々としても続投を無理強いさせるつもりはない。

 こちらの条件を伝えた上で、本人達に考えてもらいたい。」

 レオニード将軍は、ファーレンの兵士・隊長達に、ピュートル公の軍として入るかじっくり考えてもらうことにするようだ。


「ご理解いただき感謝いたします。

 条件を認めていただけましたので、ファーレンとしては降伏する方向です。

 軍の者達に、ピュートル公の軍に入るか退役するか選択してもらうため、一旦戻って内容を軍の者に伝えます。

 ところで、★5キュウビのエルザはどうなりました?」

 ジークが聞いてくる。


「捕らえた後尋問しようとしたが、魅了の技を使おうとしたのでその場で切り捨てた。」

 レオニード将軍が答える。


「そうですか。それなら安心です。」

 ジークが答える。

 やけにあっさりしてるな。


「仲間として気にしているようには見えぬが。」


「はい、私はエルザを仲間と思った事はありません。

 派遣されてきた時に私のセンスイービルに反応しました故、警戒はしていましたが、自分の目的のために仲間モンスターを平気で使い潰すだけでなく、役に立たないと見るや平気で殺す。

 我が主ラインとは相容れぬ考えを持っている。

 まだ生きているなら、首輪付きのモンスターが殺される可能性もあるので確認させてもらいました。」


「ちょっと俺も聞いていいか?」

 俺は、レオニード将軍に断りを入れてジークに聞くことにした。


「首輪の発動条件に付いて教えてくれ。

 ノリクに捕らえられた仲間を救出する時の参考にしたい。」

 俺はジークに聞く。

 首輪について詳しい効果が聞ければ、ウル様を救出する参考になると思ったからだ。


「私もある程度は聞いているが、我が主ラインに聞いた方が詳しい話が聞けるだろう。

 お主が望むのであれば、これからでも案内するが。」

 ジークが答える。

 俺はレオニード将軍に許可を取った上で、兄貴を連れてライン・ミューゼルに会いに行くことになった。



 俺と兄貴はジークの案内でファーレンの館の前に来ると、騎士団長のマイアーが待っていた。

 ジークが、俺達が来た理由と交渉結果をマイアー騎士団長に話すので黙って待つ。

 マイアーが交渉結果をこれから部下に話すようで、その間に俺達はジークにライン・ミューゼルのところへ案内して貰った。


 ファーレンの館は扉が大きく、兄貴でも楽々通ることができる。

 館に入ると、応接室のような部屋に1人の中年の男が待っていた。ライン・ミューゼルだろう。


「ライン様、レオニード将軍と交渉してまいりました。

 こちらの降伏条件はほぼ認められました。

 ライン様の亡命については、配下モンスターを連合国付とする条件で許可されました。

 軍についても、各自退役するかピュートル公に仕えるかを選択することとなりました。

 現在、マイアー殿が伝達をしております。

 エルザは死亡したようです。

 そして、こちらは連合国のモンスター部隊の★5オニクビのパワー殿と★5カリストのガイン殿。

 支配の首輪について情報を知りたいとの事で、連れてまいりました。」

 ジークが報告する。


「ジーク、良くやってくれた。

 これで、ファーレンの民衆も兵たちも死なずに済む。


 パワー殿、ガイン殿、私がライン・ミューゼルだ。

 私はいずれ連合国の世話になることになる身だから、よろしく頼む。

 支配の首輪について聞きたいとの事だが。」


「ノリクに捕らわれた仲間を救出したいが、首輪をつけられていて手が出せない状況になっている。

 救出する手段を考えるために、支配の首輪の効果が知りたい。」

 俺は単刀直入に聞く。

 一応ウル様の事とか事情はまだ話さずにおいた。


「支配の首輪にはこれから言う6つの機能の一部ないしは全部が含まれている。

 1つめは、主人設定機能。通常は1人の人物を設定するが、特殊なものは複数の主人を設定することができる。

 2つめは、支配機能。首輪をしたモンスターは設定された主人に敵対行為をすることができなくなる。

 3つめは、殺害機能。特定の条件を満たした場合、首輪をしたモンスターの首を絞めて殺害する。

 4つめは、逃亡防止機能。首輪をしたモンスターが主人から30メートル以上離れると殺害機能を発動させる。特殊な設定で距離を変えたものも存在するようだ。

 5つめは、解除防止機能。首輪をしたモンスターや別の誰かが首輪を外そうとしたときに殺害機能を発動させる。

 6つめは、任意殺害機能。主人が30メートル以内にいる場合、主人の意志により殺害機能を発動させる。」

 ライン公が言う。


「これが分かっただけでも大きいな。」

 俺が言う。


「主人が複数いる場合は、誰か1人が近くにいれば逃亡防止機能は発動しないのか?」

 兄貴が聞く。


「主人が複数いる場合は、誰か1人が近くにいれば逃亡防止機能は発動しない。逆に、任意殺害機能は誰か1人が発動させた時点で殺害することができる。」


「主人を気絶させることができたら任意殺害機能を発動させないことはできるのか?」

 今度は俺が聞く。


「任意殺害機能は、主人が首輪に向けて魔力を放つ必要がある。気絶していては発動させることはできない。」

 ライン公が答える。

 俺は兄貴と顔を見合わせて頷く。

 ライン公の話の通りなら、ウル様を支配している奴のうち1人を気絶させて縛り上げたうえで、ウル様と同時に連れていけば救出可能と言うことだ。兄貴も同じことを考えているに違いない。


「何か手だてが見つかったようで何よりだ。

 ただ、首輪自体はここ2~3年で開発されたもの。私が知っている情報も1年前のものだ。

 さらに何か改良、いや改悪と言うべきかな、がなされている可能性は否定できない。

 十分に注意してくれ。

 私が知っているのはこれだけだ。」

 ライン公が注意点も教えてくれた。

 ノリクの奴が、ウル様の救出を阻むために更なる効果を追加している可能性は否定できないが、それでもウル様救出の大きなヒントが得られたのは確かだ。




 俺達は、ライン公に礼を言って、レオニード将軍のところに報告に戻る。

 8万の軍を街中で野営させると、住人に迷惑が掛かるので、半数以上は城壁の外で野営することになった。

 敵兵が自分の家に帰る許可を求められたが、レオニード将軍は許可を出したようだ。

 近い内に、ピュートル公に仕える兵士・隊長が分かるだろう。


 兄貴と俺は、レオニード将軍に頼んでエルシアのブライアンの所へラインに聞いた話を伝達してもらうように頼んだ。

 ブライアンには、オーウェル様への報告とケルティク達連合国の諜報部隊にも情報を共有してもらうよう伝えて貰った。

 俺達は連合国の諜報部隊と直接連絡が取れないからだ。

 ブライアンが連絡を取れればそれでいいし、だめでもオーウェル様に伝えてもらえれば情報共有をしてもらえるはずだ。




 次の日、レオニード将軍は戦死者の追悼を行った。

 ピュートル軍の戦死者は、兵士117名、モンスター2匹。

 敵味方合わせて11万の軍が戦った割には、驚くほど少ない戦死者で済んだと思う。

 そして、ついに俺達モンスター部隊からも戦死者を出してしまった。

 戦死者はどちらもヤヨイ隊のメンバーで、ヤヨイ隊が西門制圧する際に激しい抵抗にあったためだ。

 敵兵の戦死者は、モンスターも含めて丁重に引き渡し、レオニード将軍が護衛とともに追悼式に参加したようだ。


 午後になって、マイアー騎士団長がレオニード将軍に会いに来た。

 マイアー騎士団長はこのままピュートル公に仕えることにしたそうだ。さらに、こちらから動かないよう使者を出した近隣貴族に、ピュートル公に協力するよう説得してくれることになった。

 上手くいけば、敵軍5万がほぼ無傷でそっくり味方になるな。

 レオニード将軍は、レオグラードから内政官を呼び、領主代理をしてもらうよう、ピュートル公に要請したようだ。

 そして、マイアー騎士団長には今まで通り、ファーレンの部隊を率いてもらうことにしたらしい。

 マイアー騎士団長を留任した結果、ほぼすべての隊長が今まで通り軍を担うことになった。

 それから2~3日後、全ての周辺貴族からもピュートル公につく旨の連絡がきた。マイヤー騎士団長の人望のおかげだろう。

 これで、ファーレン及びその周辺貴族の軍はほぼそっくりピュートル公に付いたことになる。



 そして、その翌日、ファーレンでの事後処理はほぼ片が付き、レオグラードから内政官がやってきた。


 が、それと同時に悪い知らせも入ってきた。

 マケルーノ侵攻軍は敗北して多数の戦死者を出し撤退したらしい。

 指揮をしていたウラジミール将軍だけでなく、不死身のはずの★5ガルムのアレスも戦死したというのだ。


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