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熊王伝  作者: ウル
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第53話 ブライアン

 翌日、俺達はイーストゲートに向かって出発する。

 オーウェル様やクロガネ講師、外交官内政官を置いてきたので少し身軽になった。

 一応冒険者以外では、ピュートル公への使者として外交官の1人のレイモンドさんだけを連れていく。


 イーストゲートの町は、エルシア商人たちが東からの攻撃を守るために、当時の皇帝から買った小さな町だ。名実ともにエルシアの勢力圏である。

 1日だとちょっと厳しかったが、日が暮れてすぐにイーストゲートの町に着いた。


 まずは、いつものパターンでフォノアさん達冒険者部隊が先に町に入って交渉をする。

 ブライアンが予め話をつけておいてくれたようで、俺達モンスター部隊もすぐに町の中に案内される。

 そして、町の北東にある公園とも呼べる森の中で過ごして欲しいと言われる。

 街中で過ごせるのはハイネ以来だな。

 イーストゲートの町はハイネよりも小さいのに、モンスターに対する配慮がなされていると感じる。

 俺達は隊員にここで過ごすよう指示を出していると、★4アヌビスを連れた人間がやってきた。


「私はエルシア商人のブライアン・フィロソフィーです。

 連合国の先行部隊をお待ちしておりました。

 部隊の責任者の方にお話をしたいのですが。」

 人間が言うが、こいつはモンスターだよな。匂いで分かる。言っちゃいけないけど。

 いや、ちょっと待て。

 この匂いは覚えがあるぞ。


「俺はモンスター部隊副大将のガインだ。

 ブライアン殿本人が直接来るとは思っていなかった。

 ところで、ブライアン殿とは会ったことがある気がするが。」

 俺は思わず聞いてしまう。


「自分の身は守れるほどに技は覚えましたか。」

 ブライアンが聞いてくる。

 そうか、あの時の★5狼か。

 口調が違うのは演技していたんだ。


「あの時は感謝している。

 本題に入りたいのだが、

 モンスター部隊を率いている大将のアウルス・副大将のパワーと俺の3匹だけはブライアン殿の正体について聞いている。

 このままモンスター部隊の中に入ると、匂いで気づく隊員もでるだろう。

 人間を含めた指導者だけを連れてくるから、別の場所で話すことにしないか?」

 俺は、ブライアンに言う。


「お気遣いありがとうございます。

 では、領主の館の会議室で話をしましょう。

 館は町の中央にあるのですぐ分かりますので。そこで、お待ちしております。」

 そう言って、ブライアンは一旦帰った。

 技を教えてくれた時とは雰囲気も口調も姿も違う。

 匂いを覚えていなかったら絶対分からなかった。


 できれば、匂いが分かるモンスター部隊のメンバーとも会わせない方がいいな。

 隊のメンバーは誰もブライアンに近づいていないから大丈夫だと思うが。

 隊員を信用していないわけじゃないけれど、情報はどこから漏れるか分からないからな。

 俺は、隊のメンバーに公園で待っているように指示をすると、フォノアさん・アウルスさんと兄貴を連れて館に向かった。


 俺達は館の会議室で、お互いに自己紹介をした上で、ブライアンと話す。


「この度は、急遽イーストゲートまで来ていただきありがとうございます。

 予想以上に事態が急転しており、少しでも早くレオグラードに援軍を送りたかったですので。」

 ブライアンが話し始める。


「既にレオグラードでは戦争が始まっているのか?」

 フォノアさんが聞く。


「まだ、そこまでは行っていませんが、

 我々が準備していた御三家共同のノリク討伐軍をあげることはできなくなりました。

 いつ戦争になってもおかしくありませんので、それまでにレオグラードに少しでも部隊を入れておきたいのです。」


「分かっている。そのために急いで行軍してきたのだ。

 パヴェル公がノリクについたと言う話だが。」

 アウルスさんが聞くと、


「ええ、ノリクに先手を打たれ、ノリクがパヴェル公を次期皇帝にする約束をする代わりに、ピュートル公や連合国との戦争でノリクに協力をすることで話を纏めました。

 元々ニコラ公はノリクとの関係がそこまで悪くはなかったため、ニコラ公を討伐軍に参加してもらうためにパヴェル公に口添えしてもらう算段でしたが、そのパヴェル公本人がノリク側についてしまったため、それもできなくなりました。」

 ブライアンが答える。


「まあ、ノリクの奴も俺様達のしたいようにはさせてくれないだろうからな。」

 兄貴が言う。


「我々の見込みが甘かったのもあります。

 ですが最近のノリクの動きを見ていると、明らかに以前より早くなっています。

 その理由を探ってみると、どうもノリクに強力な助っ人がついたようなのです。」


「ノリクの助っ人だって。誰だそりゃ?」

 俺が聞くと、


「まだ正確な正体は分かりません。ですが、高い可能性を持つ予想が1つあります。

 ノリクの動きが早くなるのと同時期に、ノリクの館の中に★4テンロウが現れています。」

 ブライアンが言う。


「それは、ノリクに捕まって洗脳されたウル様じゃねえのか?」

 兄貴が言う。


「洗脳では命令を忠実に実行させることはできますが、方針のアドバイスをさせるような高度な思考をさせる事はできません。命令を実行させるために、元々の本人の能力よりかなり劣化した判断をさせる事ができる程度です。

 ですので、ノリクとしてもウル殿を捕まえて洗脳したとして、使い道に困る筈。下手に指令を命じても、正体がバレている以上、我々に捕まえられる可能性が高いからです。


 ですが、ノリク側の動きを見る限り、明らかにノリクにアドバイスをしている人物がいます。

 そして、洗脳されていては、そこまでできない事から、その人物は明らかに自分の意志でノリクにアドバイスをしている筈です。

 今までのノリクのやり方からして、パヴェル公と和解するとは考えにくかったのですが、最近のノリクは手段に拘らずに、あらゆる可能性を探って手を打ってきています。ノリクは、新たな助っ人のアドバイスを受けて方針転換をしたのでしょう。」

 ブライアンが答える。


「真面目にノリクに付くなら、パヴェル公と和解するというのはありだよな。

 ウル様なら真っ先に思いつきそうなアイデアだと思うぜ。」

 兄貴が言う。

 だけど、ウル様が自分の意志でアドバイスするはずないよな。


「それじゃあ、

 ノリクが何らかの方法で、ウル様のアドバイザー能力を手に入れたと考えるしかねえんじゃないか。」

 俺が言う。


「ノリクが洗脳以外の方法で、ウル殿に協力させる手立てを持っていることも含めて調査は続けます。

 ウル殿とは別に新たなアドバイザーの情報が出てこない限りは、何らかの方法でウル殿が自分の意志で協力させられているという方向で考えた方がいいでしょう。」


「ウル殿は、脅されとしても協力をするとは思えないが。」

 アウルスさんが言う。


「ウル様なら協力するように見せかけて、わざと隙を作ったりして罠を張るだろうぜ。」

 兄貴が言う。

 まあ、そうだよな。


「だけどパヴェル公と和解するっていうのは正解だし、正しいアドバイスだよな。

 できる事なら、言わない方が良かったな。

 もし、ウル様が自分の意志で積極的に協力しているとしたら怖いぜ。」

 俺が言う。


「救出するまでは、ウル殿は完全に敵として行動してくると想定しておいた方がいいということだな。」

 フォノアさんが言う。


「そうですね。

 ノリクはウル殿らしき★4テンロウを館から一歩も外に出しませんので、何らかの方法でアドバイス能力だけを利用している可能性は高いと見ています。」

 ブライアンが言う。


「ウル殿が本気で敵に回ったのと同じ状況になった可能性が高いという訳か。厄介だな。」

 アウルスさんが言う。


「そう言えば、ケルティクの話では、発見したときにウル様はケルティクを睨みつけてきたと言っていた。

 ウル様ならケルティクの事が分からない筈がないのにな。」

 俺が言うと、


「ウル殿が洗脳されているなら、元々本人が余程普段からしていない限りは、睨みつけるだけのような無駄な行為はしない筈です。

 そう考えると、やはり、ウル殿は自分の意志で動いているのでしょう。

 しかし、ケルティク殿に気付かないのは何故でしょうか。

 演技?

 いや、ウル殿がノリクを出し抜くつもりでいるつもりでもない限り、ケルティクに対して演技する必要がありませんね。そして、もし出し抜くつもりなら、パヴェル公と和解するというような有効なアドバイスをする筈がありません。

 演技ではないにも拘わらず、ケルティク殿に気付かないとしたら、ウル殿は記憶を消されている可能性があります。」

 ブライアンが言う。


「記憶を消すなんてことができるのか?」

 兄貴が聞く。


「洗脳ができるくらいですから、記憶を消す事もできますよ。

 ノリクは、ウル殿の記憶を消した後、記憶喪失になったウル殿を助けてやったと恩を売って協力させているのかもしれません。

 記憶を消しただけであれば自分の意志で動けますから、信頼関係を築けばアドバイスを受ける事もできるでしょう。」

 ブライアンが言う。


「つまり、ノリクの奴は、記憶をなくしたウル様に恩を売って協力させているって訳か?」

 俺が聞く。


「思いつく予想の中では、そう考えるのが一番しっくりきますね。

 ウル殿としても記憶を失った自分を助けてもらった恩は感じているでしょうし、ウル殿に与える情報の取捨選択にさえ注意すれば、信頼関係を築いてウル殿の意志で協力して貰うことも可能でしょう。」


「それじゃあ、ウル様はノリクに騙されてるわけだ。

 大体、ウル様の記憶を消したのもノリクの奴じゃねえか。」

 兄貴が言う。


「予想が当たっているならその通りですね。

 ただ、仮にそうだとしても、余程不自然なことでも起こらない限り、記憶を失った自分を助けてくれた相手を疑うのは難しいでしょう。

 それに、下手に気付いて疑おうものなら、ウル殿は処分されるかも知れません。」

 ブライアンの言葉を聞いて、俺は背筋が寒くなった。

 ノリクの館で暮らしているから大丈夫かと思っていたが、とんでもない。

 ウル様はいつ殺されてもおかしくないんだ。

 俺は改めてそう思った。


「だとしたら、しっかりした準備ができるまでは、下手にウル殿を刺激して自分が騙されていることに気付かせることはしない方がいいかもしれんな。」

 アウルスさんが言う。


「それがいいでしょう。

 ウル殿が違和感に気付いて、ノリクに処分される可能性を高めてしまいますので。

 このままだと、ウル殿のアドバイス能力が厄介ではありますが、ウル殿の安全を考えると仕方ありません。」

 ブライアンが言う。


「いずれにしても、我々のすべきことはなるべく早くレオグラードに向かい、ノリクとパヴェル公の連合軍を撃退することだな。

 その間にウル殿を救出する手立てが見つかればいいのだが。」

 フォノアさんが言う。


「その件については、調査を続けていますので、成果が出次第連絡させていただきます。

 我々エルシアとしては、タロウも救出したいですので。」


「タロウさんもノリクに捕まっていたんだよな。

 どこかでタロウさんは見つかったのか?」

 俺が聞く。


「いえ。エルモンドでウル殿を攫った後タロウの姿を見た者はいません。

 ノリクに洗脳されて、今どこで何をしているのやら。」


「タロウさんについては洗脳なんだよな?」

 兄貴が聞く。


「恐らくそうでしょうね。

 外部で指令を行わせると、何らかの事故でタロウが真相を知る可能性がありえます。

 もしタロウが、ウル殿のように記憶を消されたのであれば、タロウが真相を知ることが即離反につながるため、ノリクもそんな危険なことはさせないでしょう。

 逆に言うと、館から一歩も出されないウル殿は洗脳ではなく、記憶を消されている可能性が高いとも言えます。」


「もし、戦場で敵としてタロウにあった場合、助ける方法はあるのか?」

 俺はブライアンに聞く。


「首輪を外した上で、生きたまま捕らえて貰えれば何とかできます。

 ですので、できる限り殺さずに捕えてもらうようお願いします。」

 ブライアンとしてもタロウさんのことは心配だろうからな。


「分かった。

 タロウ殿については、生きたまま捕らえるよう努力する。

 パワーとガインが顔見知りだから別狼と間違えることもないだろう。」

 アウルスさんが言う。


「あと、頼みたいことがあるんだが。」

 兄貴が言う。


「★5カリストのドルカン殿の事でしたらバートから聞いています。

 パワー殿の行先に案内すればよろしいですね?」


「手間をかけさせて悪いが、頼んだぜ。」


「お任せください。

 私が責任をもって、送り届けます。

 このままだとレオグラードにお連れすることになるでしょう。」

 ブライアンが答える。


「今のレオグラードの現状はどうなっている?」

 フォノアさんが聞く。


「ピュートル公もノリク・パヴェル公の連合軍を迎え撃つために協力貴族と準備を進めています。

 フィロソフィー商会・ベッカム商会としてもアレス率いる精鋭を既にレオグラードに向かわせました。

 今のところノリク・パヴェル公側の大規模な軍隊が動いた形跡はありませんので、戦端が開かれるまでには時間的な猶予はあると思います。

 レオグラードから一番遠いパヴェル公の本隊がレオグラードまで行軍するには1か月近くかかりますので。

 ただ、ノリク側がいつ何を仕掛けてくるのか分かりませんので、油断は禁物です。

 ですので、連合国の部隊の方にもなるべく早くレオグラード入りしてもらいたいと思います。」

 ブライアンが答える。


 こうして、ブライアン・フィロソフィーとの会談は終わり、俺達はピュートル公の本拠レオグラードに向かうことになる。高速移動できる俺達なら3日あれば着く距離だ。

 翌朝、俺達はレオグラードに向かって出発した。


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