第5話 帰還後の疑念
町へ戻ると、ちょうど門の前が少し騒がしくなっていた。
見覚えのある背中が、全力で走ってくる。
「ガイン様。」
ウィルだ。息を切らしながらも、走って来た。
「ロウエンさんに伝えました。それと、衛兵の人たち、もう出てます。」
「よくやったぞ。」
俺がそう言うと、ウィルは安心したように耳をへたらせた。
ほどなくして、ロウエン率いる衛兵隊が戻ってきた。
商隊は無事に保護され、ドラゴンも完全に退いたらしい。
「幸い被害は軽微だ。」
ロウエンはそこで言葉を切り、俺を見た。
「ガイン、君達が距離を保ってくれたおかげでもある。」
ロウエンは続ける。
「近づけなかっただけだ。
話が通じなかった。」
俺は鼻を鳴らす。
「やはり、誰も意思疎通魔法を使っていなかったか。」
ロウエンは眉をひそめた。
その言葉に、場の空気が少し重くなる。
「全員、ですか?」
ウィルが恐る恐る聞く。
「ああ。一人もだ」
ロウエンが答える。
あり得ない。
その感覚は、この場にいる全員が共有していた。
そのまま、俺達はブランタンの執務室に集められた。
珍しく、ロウエンも同席している。
「状況は聞いた。」
ブランタンは静かに言った。
「まず結論から言う。商隊の装備から、魔法妨害や結界の痕跡は出ていない。」
「じゃあ、何でだ。
全員使えないなんて、おかしいだろ。」
俺は言う。
その時、ウィルが遠慮がちに手を挙げた。
「えっと、変なこと言っていいですか?」
「言ってみろ。」
俺が言うと、
「僕、町の人って、みんな意思疎通魔法が使えると思ってました。」
ウィルの言葉に、一瞬、静まり返る。
「それは、ハイネ基準だな。」
ロウエンが苦笑した。
「どういう意味だ。」
俺が聞くと、ロウエンは肩をすくめる。
「他の町じゃ、衛兵でも使えない奴は珍しくない。
まして商人だ。戦闘職でもないのに、必修ってわけじゃない。」
その言葉が、胸に引っかかった。
「つまり、
彼らにとっては、使えなくて普通なんだ。」
ブランタンが静かに補足する。
俺は無意識に、ウィルを見た。
ウィルは少し混乱した顔をしている。
「じゃあ……僕たちの方が、変なんですか?」
ウィルの疑問に、
ブランタンは少し言葉を選び、
「変、というより、ここが特別なんだ。」
理由は、まだ聞かされなかった。
だが一つだけ、はっきりしたことがある。
俺達は、何かを疑いすぎていたのかもしれない。
「まあいい。
今は被害が止まった。それで十分だ。」
俺は立ち上がる。
「警戒は続ける。だが、焦るな。」
ブランタンは小さくうなずいた。
執務室を出ながら、俺は考えていた。
魔法妨害でも、陰謀でもない。
ただ、当たり前が、違っただけ。
「なあ、ウィル。」
「はい、ガイン様?」
「外じゃな、話せないのが普通らしい。」
ウィルは少し考えてから、言った。
「じゃあ、ここって、すごく優しい町なんですね。」
俺は答えなかった。
だが、その言葉が、妙に胸に残った。




