第49話 不死身のモンスター
一通り話した頃、町の北から馬の走る音が聞こえてきた。
こちらに向かっているようだ。
「トムソン、町の外からこちらに向かって走ってくる馬の音がするぜ。」
俺はトムソンに言う。
「隊長、人間を乗せた馬が1頭こちらに向けて走ってきます。」
ほぼ同時に、先ほどの新兵が報告してくる。
しばらくして、馬が1人の人間を乗せて急いで走ってきた。
「私は、リズボーンの町の冒険者のナイルです。
ハイネ向けの商隊の護衛をしていたのですが、不死身のモンスターに襲われています。
応戦しながらハイネに向かっていますが、苦戦しています。応援をお願いします。」
馬に乗っていた人間は、俺達のいる北門にやってくると俺達に事情を話す。
この人間は魔術師っぽいな。魔法の打ち止めで、できることがなくなったから援軍要請に動いたのか。
「連絡ご苦労です。
ベス、ナイル殿を衛兵隊長のところへ案内してくれ。」
トムソンは素早く指示をする。
「人間が走るより早い。
俺が案内してやるから着いてきな。」
俺はトムソンとナイルにそう言うと、魔術師ナイルを馬に乗せたまま、走って衛兵隊長のところに案内した。
衛兵隊長は、ロウエンか。まあ、僅か数か月で変わるわけがないよな。
あの野郎の命令で俺を縛り上げた男だ。だが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
「ガイン、お前が案内してくれたのか。」
ロウエンは言う。
「たまたま北門にいただけだ。
馬に乗っているから、俺が案内した方が早いからな。
さっさと事情を聴いてくれ。」
俺は答える。
ロウエンがナイルに事情を聴くと、リズボーンからハイネに向けて街道沿いに商隊の護衛をしていたところ、ハイネまであと10キロくらいのところで、モンスターの襲撃を受けたようだ。
★3キラーウルフが2匹だけだったので、余裕で勝てると思って応戦したが、敵は不死身で倒しても倒しても蘇ってくるという。
逃げようにも、敵の方が足が速い。
応戦しながらハイネを目指しているが、このままでは消耗して犠牲者が出る可能性があるのと、自分達を追って不死身のモンスターがハイネの町までやって来る危険性を鑑みて、事態を知らせるため、魔法を使い尽くした自分「ナイル」が馬に乗ってハイネに急いだとの事。
「不死身のモンスターと言うことはアンデッドか。」
ロウエンが言う。
「ロウエン、俺はモンスター部隊を率いて救出に行ってくるから、アンデッドの対策を頼むぜ。」
俺が言うと、
「そうだな。
モンスター部隊の方が足が速い。
ガイン、頼んだぞ。」
ロウエンはあっさりと俺の言う事を聞いてくれた。
俺は、ナイルさんを連れて部隊が休憩している所に急ぐ。
部隊に戻ると、アウルスさんが待っていた。
兄貴もフォノアさんもまだ戻っていないようだ。
「アウルスさん、ハイネの町の北10キロのあたりで商隊が不死身のモンスターに襲われている。
数は★3キラーウルフ2匹で大したことはないのだが、不死身で無限に復活してくると言うのが厄介だ。
俺は救出に行ってくるから、後を頼む。」
俺はアウルスさんに言う。
「分かった。
こちらで連絡調整しておくから、無茶はするな。」
アウルスさんがそう言ってくれたので、俺は部隊を連れていこうとするが、
「不死身のアンデッドですか。
高度な死霊術で死体に魂を封じている可能性が高そうですね。
私なら対処方法が分かるかもしれません。
我々もついて行きます。」
ストライフさんが、横で俺の話を聞いていて、ストライフさんのチーム全員が付いてきてくれることになった。
ストライフさん達を乗せるなら、ゼル隊・サラ隊を連れて行った方がいいな。
俺は、結局連絡調整のためにホーク隊も含めて3部隊を連れて、現場に向かう。
馬に乗ったナイルさんが案内してくれたので、ほんの10分くらいで商隊を発見した。
商隊の前には2匹の★3キラーウルフが倒れており、倒したようには見える。
だけど、こいつらが不死身なんだよな。
「間に合ってよかった。ハイネから救援が来てくれましたよ。」
ある程度近づいたところで、ナイルさんが仲間に向かって叫ぶ。
商隊のメンバーも護衛の冒険者も助かったという表情に変わった。
「あとは、我々に任せて、商隊を連れてハイネに向かってください。」
商隊のところまで到着すると、ストライフさんが言う。
俺が言わないのは、冒険者と言えども全員がモンスターと会話できるわけではないからだ。
「ありがとうございます。
助かりました。
ただ、こいつら、何度倒しても蘇ってきます。
気を付けてください。」
商隊は俺達にお礼を言うと、ナイル達冒険者の護衛を連れてハイネへ向かって撤退していった。
そうしている間に、倒れていたキラーウルフがむくりと起き上がってきた。
よく見ると、こいつらは2匹とも首輪をしている。量産型のようだ。
と言うことは、こいつらをアンデッドにしたのはノリクの手の者ってわけだな。
俺は強化技をさっとかけ、起き上がってきた★3キラーウルフをぶっ飛ばすと、キラーウルフはあっさりと倒れた。
もう1匹も部隊の集中攻撃を受けてあっけなく倒されていた。
あっけないな。
だが、不死身と言う話だ。すぐに起き上がってくるんだろうな。
「これは、最上位の死霊術で魂を縛っているようですね。
既に2匹とも死んでいますので、首輪は既に意味がないようです。」
ストライフさんが言う。
「こいつらを倒す方法はないのか?」
俺が聞くと、
「彼らをアンデッド化させた死霊術師を殺すか、イクソシズムの魔法を使って死体に縛られている彼らの魂を開放するしかありません。」
ストライフさんが教えてくれる。
死霊術師が都合よく近くにいるなんて事はないよな。イクソシズムの方が現実的だ。
「イクソシズムって5レベル魔法だよな。
使える奴がいるのか?」
俺が聞くと、
「一応私は使えますが、準備するには1回につき3時間くらいの準備が必要です。」
ストライフさんが教えてくれる。
5レベル魔法となると準備に時間がかかるよな。イクソシズムは5レベル魔法の中でも準備に多くの時間がかかるようだ。
★3とは言え、無限に復活してくる敵を相手にして、6時間も戦い続けるのは危険が大きい。
俺は、商隊の方を見る。既に大分遠くまで離れていた。
「ストライフさんは、一旦ハイネの町に戻って、イクソシズムの準備をしてくれ。
残りのメンバーは、こいつらと戦いながらハイネまで撤退するぞ。
ゼル隊・サラ隊と冒険者メンバーは先にハイネの町に入り門を閉める。
俺とホーク隊で最後まで戦った後、門を閉めたのを確認して空中から町に撤退するぞ。」
俺は指示を出す。
1時間ほどで、商隊も含め全員をハイネの町に撤退させたうえで、町の全ての門を閉じた。
もう日が暮れていたため、いずれにしても門を閉じる時間ではあったが。
★3キラーウルフのアンデッドは城壁の外をうろうろしている。
このままじゃ、明日の朝門を開ける事ができないな。
俺は、あの野郎に会いに館に向かう。
あの野郎はロウエン達ハイネのメンバーだけでなく、アウルスさん、パワーの兄貴、フォノアさんを交えて対応を協議しているとのこと。
俺は案内してもらって会議の場に入っていく。
「ブランタン、イクソシズムの魔法書をよこしやがれ。」
俺は会議の場に入るや否やあの野郎に言う。
「ほらよ。」
あの野郎は、俺に書物らしきものを投げてよこす。
「やけに準備がいいじゃねえか。」
「俺を誰だと思っている。
ガキの頃からお前の面倒見てきたんだ。
お前の考えていることくらい分かっているぜ。」
俺は先んじて対策を言ったつもりが、あの野郎には読まれていたらしい。
気に食わねえが、先にやるべきことがある。
「ストライフさんはどこだ?」
俺が聞くと、
「隣の部屋で魔法の準備中だ。
邪魔をするなよ。」
あの野郎は答える。
「分かってるさ。
それじゃあ、この魔法書は借りてくぜ。
あと、別の部屋を借りるぜ。」
俺はそう言うと会議の場を出る。
魔法書からイクソシズムを技として覚えるためだ。
俺もそうだがあの場にいた連中は、誰も不死身のアンデッドがキラーウルフ2匹だけで終わりだとは思っちゃいないはずだ。
あの2匹はたまたま遭遇しただけ。もっとたくさんいると考えるのが自然だ。
そして、1匹開放するのに3時間もかけて魔法の準備をしていたら、いつまでたっても終わらない。
早く終わらせるには、誰かが技としてイクソシズムを習得するしかない。
俺は、イクソシズムの魔法書を読む。
人間の文字を覚え、魔法も習得した俺にとって理解できない内容ではない。
特に、ハイネでは新兵の教育カリキュラムに初歩の魔法を取り入れているため、魔法書の内容の記載も分かりやすく書き直されており、魔法を使うための手順とその理論が分かりやすく記載されている。
魔法書に書かれた手順に沿って準備すれば、魔法としてイクソシズムを準備できるはずだ。
俺は、準備してあった魔法を空打ちしてポケットを開放すると、魔法書の手順に沿ってイクソシズムの準備を始める。かなりの時間はかかったものの、すんなりとイクソシズムの魔法を準備することができた。
俺がイクソシズムの魔法の準備を終えると、既に真夜中になっていた。
部屋から出ると、兄貴が待っていた。
「ガイン、首尾はどうだ?」
兄貴が聞いてくる。
「魔法としては1つ準備できたぜ。
ストライフさんが準備できているなら、今町の外にいる2匹の開放はできるはずだ。」
俺は答える。
「町の外にいた奴は、ストライフさんとハイネの冒険者が解放したぜ。
だが、今ハイネでイクソシズムの魔法を使えるのは、ストライフさんを入れても4人だけだ。
アンデッドの数によっては苦戦するだろうな。」
兄貴が言う。
町の外の2匹はもう終わっていたんだ。
とは言え、5レベル魔法を使える魔術師となると限られるからな。4人いるだけでも多いくらいだ。
数多くのアンデッドとの戦いを想定すると、やはり技での習得が肝になるな。
「ストライフさんはどこだ?
相談したいことがあるんだが。」
俺は兄貴にそう言って、ストライフさんのいる部屋に案内してもらった。
「ガイン殿、どうしました?」
ストライフさんが聞いてくる。
「アンデッドが大量にいる可能性を想定して、技でイクソシズムの習得を目指したい。
そのために、兄貴とストライフさんに協力してほしいんだ。」
俺は言う。
「俺様もか?」
「そうだ。
魔法を習得して分かったんだが、魔法書を読んで魔法を準備する手順を見てみると、魔法は途中で何度も集めたエネルギーを安定化させるために一旦固める作業が必要になる。その手順を経ないとポケットにしまうことができない訳だが、逆に言うとその手順に時間がかかるから、魔法の準備そのものに時間がかかる訳だ。
俺達モンスターが魔法と同じ内容を技で準備する場合に圧倒的に少ない時間でできるのは、安定化させる手順を全部吹っ飛ばして、不安定の状態のまま全て完成させて発動させるからじゃねえかと思ったんだ。そうだとすれば、途中で精神集中が乱れると全部無駄になるのも納得だしな。
俺の仮説が正しいとすれば、魔法書の手順の中でエネルギーを固める部分だけを省略すれば技としてイクソシズムを完成させられるんじゃねえかと思ったんだ。
だけど、今日初めて魔法書の手順だけ真似た俺には、魔法のどの部分が安定化させる部分なのか確証が持てねえ。
イクソシズムの魔法を魔法書なしで準備できるストライフさんに、魔法書に書いてある手順の中からエネルギーを安定化させる部分を教えてほしいんだ。
そして、その手順を省いて俺が技として準備してみる。
兄貴には、アナライズマジックで技の構築が上手く行っているかどうか確認して欲しい。」
俺は、自分の考えている事を話した。
「その仮説が正しい可能性は高そうですし、もしそうであれば技としてイクソシズムを構築できますね。」
「確かにそれができれば、手っ取り早く技を習得できそうだな。」
兄貴もストライフさんも同意してくれたので、まずはストライフさんにイクソシズムの魔法書を見てもらう。
ストライフさんはポケットの数が少ないため魔術師とは名乗っていないが、魔法の知識は専門の魔術師以上だった。魔法書の手順から的確に余分な部分を指摘してくれた。
俺は、残った構築の部分の手順を整理して覚える。
そして、技の準備を始める。
2分程度で技の構築が終わった。
「兄貴、準備ができたぜ。構築ができてるか?」
俺は兄貴に聞く。
「不明浄化技準備完了の反応があったぜ。」
俺にアナライズマジックを使った兄貴が答えてくれる。
「ガイン殿の手順に間違いはなかったですよ。」
ストライフさんのお墨付きももらえた。
俺は空うちでイクソシズムを発動させる。
確かに、技を発動した手応えはあった。
「ガイン、上手くいったようだな。
俺様にも教えてくれよ。」
兄貴が言ってくる。
「私も試してみたいのですが。」
ストライフさんも言ってきた。
ポケットが多くないストライフさんにとっては、技の方が相性がいいよな。
俺は、自分が今やった手順を説明する。
そして、アナライズマジックの準備をして発動の確認をする。
ストライフさんは一発で技を成功させた。
兄貴もストライフさんに見てもらって違う所を指摘してもらうと、すぐにイクソシズムを習得した。
これで技でのイクソシズムを3匹が使えるようになった。
既に深夜だ。明日の朝、あの野郎に作戦提案することにして俺達は部隊の所に戻って寝た。
次の日の朝、あの野郎を含めた会議に参加する。
「ガイン、首尾はどうだ?」
開口一番あの野郎が俺に聞いてくる。
「俺とパワー副大将、ストライフさんが技でイクソシズムを習得した。
1回2分程度で発動できるぜ。」
俺は答える。
「ガイン、でかしたぞ。
これで本格的な捜索に入れるって事だな。」
あの野郎が言ってくる。
あの野郎が俺のことを認めてくれるとは珍しい。
「それじゃあ、作戦会議を始めるぜ。
最初に今朝の巡回結果について、アウルス殿説明を頼む。」
あの野郎の司会で会議が始まるが、アウルスさんが既に巡回に行ってくれたらしい。
「今朝、飛行部隊を率いてハイネの町の周辺にアンデッド化したモンスターが出没していないか巡回を行った。
ハイネ北部の森の中でアンデッド化したモンスターを計13匹発見した。内3匹は、ハイネの町の方向に進んでいる。
進行方向を見るとすべて森の奥から出てくる方向に移動しており、森の奥からさらに出現する可能性は低くないと思われる。
さらに奥への捜索は時間と危険を伴うため、部隊を連れてから行うこととして一旦撤退した。」
アウルスさんが報告する。
昨日遅くなったから、朝まだ俺達が寝ている間に偵察してくれていたんだな。
「北の森から発生しているとすれば、北隣町のリズボーンにも影響があるな。
討伐隊以外に、リズボーン向けの街道を警備する部隊が要るだろう。」
ロウエンが言う。
アンデッドの発生源がハイネとリズボーンの間のどこかみたいだからな。
「人間の部隊は移動が遅い。
モンスター部隊を中心とする高速移動可能な部隊で討伐隊を編成し、衛兵中心の部隊には街道の警備を任せたい。」
俺が言う。
「そうだな。
となると、討伐隊にはハイネの部隊がほぼいなくなるがいいのか?」
あの野郎がアウルスさんとフォノアさんに聞いてくる。
「それで構わない。
非常時にどこの部隊がなどと言う非建設的な意見はするべきではないからな。」
フォノアさんが言う。
「高速移動な可能な冒険者が加わってくれれば十分だ。」
アウルスさんもそう言うので、俺達モンスター部隊が中心に討伐に当たることが決まった。
「討伐隊は多くのアンデッドに遭遇することになるだろうから討伐隊にはイクソシズムの技が使える3名を入れる。
だが、ハイネ近辺までアンデッドが来る可能性もある故、イクソシズムの魔法が使える冒険者3名には準備をしながらハイネで待機してもらう方向でいいか?
今も魔法の準備をしてもらっているが。」
ロウエンが言う。
「それで構わない。」
アウルスさんが答えて、ここも方向性が決まる。
「リズボーンの町には連絡をするのか?」
兄貴が聞く。
「地上を走るのは危険だからな。
空中から移動できる冒険者に使者を依頼することにするぜ。」
あの野郎が答える。
「では、ハイネの衛兵隊は私が指揮をしてハイネ周辺及びリズボーンへの街道の警護、モンスター部隊と高速移動可能な冒険者部隊で討伐にあたり、
一部冒険者にリズボーンへの使者を依頼。
こんなところだな。」
ロウエンがまとめる。
こうして作戦会議が終わり、俺達はアンデット及び死霊術師の討伐に向かう。
討伐隊は、ドンロンから来たモンスター部隊全員とフォノアさんの部隊9名。
それ以外に馬などに騎乗して移動可能なハイネの冒険者5チーム21名が加わった。
作戦会議終了後、参加してくれる冒険者を連れて部隊の所に戻る。
そして、冒険者のリーダーと隊長達を集めて部隊会議を始める。
と言うよりは、方針伝達と言った方がいいか。
「今回の敵は不死身のアンデッドとそれを作り出した死霊術師だ。
アンデッドを完全に倒すためにはイクソシズムの技を使うしか方法はない。
そして、イクソシズムを技で使えるのはストライフ殿、★4モサのパワー殿、★4アルカスのガイン殿だけだ。
技は途中で妨害されると準備が最初からになる。
彼らの警護を最優先で行ってくれ。」
フォノアさんの説明で会議が始める。
「そして、彼らをイクソシズムに専念できるようにするため、
今回はモンスター部隊は私が、冒険者部隊はフォノア殿が指揮を執る。」
アウルスさんが言う。
アウルスさん、フォノアさんと事前に相談した結果通りだ。
今回は俺達はイクソシズムに専念することになる。
フォノアさんとアウルスさんで隊列も決めたようだ。
馬がいない冒険者がいると思ったが、エルモンドの内政官は今回は参加しないのでその分の冒険者を騎乗させて21名と言うことらしい。
俺と兄貴は中央よりやや後ろのゼル隊・サラ隊の間で冒険者に囲まれながら行軍した。
行軍を開始して30分余り。
巡回で発見しているアンデッド3匹に遭遇した。
「アンデッド3匹発見。
★3ライガー1匹、★3ロシナンテ2匹。」
前の方で声が聞こえた。
俺と兄貴は早速技の準備に入る。
準備が完了したところで前に出ると、ストライフさんがライガーのアンデッドを開放したところだった。
「イクソシズム」×2
俺と兄貴は被らないように合図してまだ動いているロシナンテにイクソシズムを放つ。
不死身と思われたアンデッドも肉体から魂が解放されて動かなくなった。
お前たち、これでもう苦しむこともないぜ。一緒に殺された仲間も救ってやるからな。
俺はもう動かなくなったロシナンテの死体に心の中で語り掛けた。
ノリクの奴、生きている間に首輪で脅して支配するだけでなく、死んでからも魂を縛って酷使するとは許せねえぜ。
イクソシズムの効果で戦闘はあっけなく終わり、俺達は進軍を続ける。
途中10匹程度のアンデッドを開放したが、そろそろ敵の本拠に向けて進行方向を考えないといけない。
★4ヒポグリフォに騎乗したフォノアさんとホーク隊長、ヤヨイ隊長が空中から周辺を捜索する。
しかし、アンデッドの姿は見つからなかった。
「襲ってきたアンデッドの足跡を追跡したらどうだ。」
報告を聞いて俺が言うが、
「それは考えたのだが、アンデッドは複数の方向から来ている。」
フォノアさんに言われる。
「確かに進行元は複数あるが、全て概ね北西の方から来ている。
念のため足跡の多い方向を辿って追跡しよう。」
アウルスさんの意見により、追跡を始める。
森の中へ入っていくので隊列は前後に長くなる。
俺達はすぐ駆け付けられるようある程度前の方に隊列の移動させてもらった。
先に進むと森の中の開けた場所に、柵で囲われて大量のアンデッドモンスターがひしめいていた。
ちょっと待て。100匹以上はいるだろ。
さっきまで倒してきたのは柵を超えて出てきてしまった奴という事か。
アンデッドモンスターは見た限り全員首輪付きだ。
ノリクの奴、残酷なことをしやがる。
そして、死霊術師の手下と思わしき人間が8人。
「敵襲だ。」
手下の1人が叫びながら、柵の奥にある洞窟の中へ入っていった。
「生きている人間に遠距離技の集中砲火。」
すかさず、アウルスさんが指示を出す。
隊員たちが各々技の精神集中を始めると、
「この数は無理だ。奥に逃げるぞ。」
手下たちが逃げていく。
それだけならよかったのだが、時間稼ぎとばかりモンスターを囲っていた柵を空ける。
開けた場所からアンデッドモンスターがぞろぞろと出てきた。
これは、イクソシズムを連射するしかないな。
洞窟の入り口を押さえたいが、誰かに任せよう。
俺はイクソシズムの精神集中を始める。
1回目の技が完成し、近くのメンバーに襲い掛かっていた★3ダイアウルフのアンデッドにイクソシズムを放つ。ダイアウルフの死体は倒れて動かなくなった。
次だ。俺はすぐに2回目の精神集中に入る。
「イクソシズム」
俺は、2回目のイクソシズムを★3ブリンクスのアンデッドに放つ。
既にアンデッドが囲われていた柵はほぼ崩壊し、戦場は乱戦気味になっていた。
不死身のアンデッドとの戦いで負傷者が出ているようだが、俺のすべきことはイクソシズム連射のはずだ。
俺は3回目の精神集中を始めようとするが、横にいた兄貴に止められる。
「ガイン、お前はまだコンセントレイトを覚えていないだろ。
この乱戦では無理だ。一旦下がってフライトをかけてこい。
アンデッドは技を使わねえから、空中ならダメージ受けねえはずだ。」
確かに兄貴の言う通りだな。
周りのメンバーは、俺がダメージを受けないよう必死に守ってくれていた。
俺を庇って代わりに負傷した奴もいる。
俺のために負傷者を増やす訳にはいかない。
俺は一旦下がると自分にフライトをかける。
そして、空中からイクソシズムの精神集中を始めた。
「イクソシズム」
俺は3回目のイクソシズムを苦戦している味方に襲っていたアンデッドに放つ。
空中からみると戦況がよく見える。
地上は乱戦だが、なんとか持っているようだ。
「逃げていくアンデッドは無理に追うな。
後からでも処理できる。」
アウルスさんの声が聞こえる。
アンデッドには知性がないから、近くの相手を攻撃するだけだよな。
近くに誰もいなければ、適当な方向へ進んでいくわけか。
俺は、アンデッドを放置して洞窟の中の死霊術師を追うことも考えたが、この数を残したら近くの商隊が全滅するよな。
判断ができるメンバーが他にもいるんだ。
俺は余計なことを考えず、イクソシズム連打だ。
この後、俺はイクソシズムでアンデッドを10匹あまり開放する。
兄貴とストライフさんを合わせれば40匹くらいになったはずだ。
これでも3分の1行ったかどうかか。
フォノアさんが冒険者達を連れて洞窟に入っていくのが見える。
フォノアさんの判断があるのだろうから任せよう。
俺は犠牲者が出ないように、イクソシズム連打だ。
その後、数十分かけて俺達はその場にいた全てのアンデッドを開放していく。
あと10匹を切ったと頃、洞窟に入ったフォノアさん達が出てきた。
2人の人間を縛って連れている。
手下だけで8人いたはずだが、後で聞こう。先に、残りのアンデッドを片付ける。
そして、さらに10分後俺達はこの場に残っている全てのアンデッドの開放を終えた。
多数の負傷者が出ていたが味方のカバーがしっかり入っていたようで、幸い犠牲者はゼロだった。
アウルスさんや隊長達がしっかりと指示をしてくれたおかげだな。感謝しないと。
俺達が最後のアンデッドを相手している間に、フォノアさんが事情を説明していたらしい。
俺も後から話を聞くと、洞窟の中に踏み込んだが、死霊術師は既に逃げており、残った手下と戦い、生き残った手下2人を縛り上げてきたようだ。
手下の話だと親玉の死霊術師の名前はニムスというらしい。
ハイネ近辺に大量のアンデッドを放つよう命令されていたとのこと。
このまま、ハイネへ連行するそうだ。
まあ、殺されて終わりだろうな。
あと、洞窟内に首輪のついたモンスターの死体が数十体残っていたとのこと。
まだアンデッド化はしていなかったが、死霊術師が戻ってきてアンデッド化してもいけないので埋葬した。
一応任務は終わったが、ボスに逃げられちまったな。
すぐに、洞窟に入るべきだったか。
それだと大量のアンデッドが近隣に拡散していただろうから無理だっただろうな。




