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熊王伝  作者: ウル
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第4話 意思疎通魔法

 ウィルが伝令に走ったのを見届けてから、俺はすぐに前を向いた。


 ゼルとアリサが左右に展開する。

 俺たちは一直線に、商隊が襲われている場所へ向かった。


 近づくにつれ、状況が見えてくる。

 馬車が止まり、人間たちが散り散りになって逃げ回っている。

 その上空を、小型ドラゴンが旋回していた。


「……まずいな。」


 商隊の人間たちは、完全に混乱している。

 そして――俺たちを見た瞬間、さらに騒ぎが大きくなった。


「――――!!」


 何か叫んでいる。

 だが、意味が分からない。


「あの人間が何を言ってるか分かるか?」

 俺が聞くが、


「分からねえぜ。」

 ゼルが即答する。


「私もよ。」

 アリサも首を振った。


 敵意。恐怖。拒絶。

 言葉の意味は分からなくても、それだけははっきり伝わってくる。


「俺達を敵だと思ってるな。」

 近づけば、余計に混乱させるだけだ。


 その瞬間、ドラゴンが火を吐いた。

 馬車の一つが燃え上がる。




 俺は思い出していた。

 ブランタンの話だ。


 人間とモンスターは、言語が違う。

 だから、本来は意思疎通ができない。


 それを補うために人間が作ったのが、意思疎通魔法。


 魔法を使えば、言葉が通じる。

 ただそれだけの、初級魔法だ。




「そういうことか。」

 俺達には、商隊の言葉が理解できない。

 向こうも、俺たちの言葉を理解できない。


 それ自体は、おかしくない。

 だが、


「誰も使ってない、ってのが異常だ。」


 ハイネでは、衛兵は全員使える。

 一般住民でも、使えない者の方が少ない。


 それが当たり前だと思っていた。

 それが、勘違いだったとしても。


「今は考えてる暇はねえ。」


 俺は前脚を沈める。

 筋肉に力をためる。


「距離を取る。人間には近づくな。」

 俺は指示を出した。


「了解だぜ。」

「分かったわ。」


 ドラゴンがこちらに気づき、向きを変えた。


「来るぞ。」


 俺は一気に踏み込む。


「ジャンプアタック」


 地面を蹴り、空間を詰める。

 ためを入れた跳躍は速く、高い。

 ドラゴンの注意を、強引にこちらへ引きつけた。


「ギャッ!」

 ドラゴンが俺の攻撃を飛んでかわす。


「今よ。

 ジャンプアタック」

 アリサが横から飛び込む。

 ドラゴンは俺の攻撃をかわすのが精いっぱいだったらしく、アリサの攻撃が入る。

 だが、爪で引っ掻いただけだ。



「俺もいくぜ。」

 ゼルが続いた。

 やや低いが、正確なジャンプアタック。

 ゼルの重い一撃が決まった。


 ドラゴンは思わぬ一撃を喰らったためか、一旦高度を上げて距離を取る。

 俺は追撃せず、ドラゴンを睨みつけた。


「深追いするな。」

 俺は2匹に指示を出す。

 ここで倒す必要はない。

 人間達のすぐ近くだ。


 俺はもう一度、ためを作る。


「ジャンプアタック」


 威嚇目的の跳躍。

 進路を塞ぐように着地し、吠えた。


 ドラゴンは一瞬迷い、そして逃げて行った。



「よし。」

 俺達はその場で止まり、人間側へは近づかなかった。

 商隊の人間達は、怯えたままこちらを見ている。

 何か言っているが、やはり理解できない。


「やっぱり、通じねぇな。」

 意思疎通魔法があれば、話はできた。

 だが、誰も使っていない以上、無理に近づく意味はない。


「町に戻るぞ。」

 俺が言うと、


「え、いいの?」

 アリサが聞いてくる。


「また、襲われたらどうするんだ?」

 ゼルも聞いてきた。


「音で分かる。

 商隊がもう少し町に近づけば、何かあっても町からすぐに駆けつけられるからな。」

 俺は即答した。


「少なくとも、あのドラゴンはまだ完全には諦めてねえ。

 注意は必要だが。」

 俺は付け加えた。


 全力で駆け戻ってきたウィルと、出撃するロウエンの部隊が門ですれ違うのが見えた。結果、商隊は何事もなく町に入れたようだ。


 意思疎通魔法。

 それが使えないこと自体は、異常じゃない。

 だが、俺はこういう場合の想定も必要だと思った。


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