第24話 秘密兵器
俺は毎晩パワーの兄貴と領主の館で勉強しているので、今まではウル様と兄貴と俺の3匹が同じ部屋で寝ていた。
だが、今日からは兄貴と俺の2匹だけだ。なかなか寝付けない。
ウル様はドンロンに行っていて留守のことも少なくなかったが、攫われた後だとどうしても意識してしまう。
「なあ、ガイン。
お前を待っている間に、オーウェルさん達と犯人は多分ノリクだろうなという話をしていたんだ。」
兄貴が話してくる。
「兄貴、そこまで分かっているのか?」
俺は驚いて聞くが、
「エルシアにとって、今ウル様を攫って何か得があるか?」
逆に兄貴に聞き返される。
「そう言われると、確かにないな。
ノリクを倒した後もエルシアとは同盟国として交易をしていくのが連合国の方針だ。
エルシアにとって、ウル様はノリクの脅威を減らしてくれる存在でこそあれ、害を与えるような存在ではないはず。
しかも、エルシアは既に連合国と不戦協定を結んでいるわけだから、敵対行為をするのは危険が大きい。エルシアがやったとばれるだけで信用を失うからな。
万が一、後から裏切る予定だったとしても、俺達が西側のファーレンを攻撃することはエルシアに伝えてあるわけだから、実際にファーレンを攻撃しているときに突然後ろをつけばいいのに、今ウル様を攫って俺達に警戒させるのは逆効果だ。」
俺は話しながら自分の考えをまとめる。
「だから、ケルティクには急いで帝都に行ってもらったんだぜ。」
兄貴が言う。
兄貴は犯人をほぼノリクに決め打ちしているな。
「でもよ、エルシアの使者の従者が攫った奴の中の1匹なんだよな。」
俺は分かっている事実から確認を取る。
「だから、エルシアも調べるんだけどよ。
何かあるな。
ノリクが仕組んだ、連合国とエルシアの関係を悪化させる策じゃねえかと思っているぜ。
まあ、断定はできないから一応両方調べる必要はあるけどな。」
「兄貴、ウル様みたいな考え方をするんだな。
確かにノリクにとって、邪魔なウル様を排除しつつ、連合国とエルシアの関係を悪化させることができれば一石二鳥か。」
俺は兄貴に言われて、すごくその通りな気がしてきた。
まあ、下手に断定して間違った判断で進めていくわけにはいかないから、予想が当たっているかどうかは調査結果を待つしかないわけだが。
「そこは調査の結果を待つしかないが、
もし、ノリクがやったとしてだ、ウル様を攫ったあとどうすると思う?」
兄貴が聞いてくる。
パワーの兄貴は、常日頃から、敵が何をしてくるか分からないときに、自分が敵だったらどうしたいかを考える癖をつけろと言っていた。俺がノリクならか。
「俺がノリクなら、その場で殺さないのであれば、自分の傍まで連れて行くな。
情報を吐かせるにしても、人質にするにしても、逃げられないようにする必要があるからな。
なるほど。それで、ケルティクを急いで帝都に向かわせたわけか。」
「まあな。
ノリクがやったなら行先は間違いなく帝都だろうからな。
森に匂いが残っていたでかいドラゴンに連れて行かせたのだろう。
ガインがノリクなら、情報を吐かせるのが目的だとして、終わった後どうする?」
兄貴がもう一度聞いてくる。
「ウル様は、狼質としての価値は高そうだからな。
こちらに大打撃を与えるための餌にするな。」
「俺様は、後から厄介なことにならないように殺すんじゃねえかと思ったぜ。」
「その可能性は考えにくいと思うぜ。
それなら襲った場所でウル様を殺すんじゃないのか。」
「ガイン、ありがとな。
やっぱそうだよな。
ノリクの奴、ウル様を用済みで殺したりしないよな。」
兄貴は、ウル様の安否が心配だったんだな。
「今後も兄貴の契約関係の確認を続ければ、ウル様がまだ生きているのが分かるんだよな。
大丈夫だって、ウル様の無事を信じようぜ。」
ここは、俺が兄貴を安心させてやらないとな。
「そうだな。
隊員の前では不安は見せらせねえからな。」
兄貴は隊員の前では決して不安は見せない。
こんな話をしてくれるのは俺だけだ。
兄貴はそれだけ俺のことを信頼してくれてるんだ。
せめて俺の傍だけは、兄貴にとって気を許せる場所にしてやらないとな。
「ところでガイン。
本当は明日の朝にしようかと思ったけどよ、忙しくなりそうだからな。
領主のオーウェルさんに許可は取ったから、お前に一つ秘密を伝えたいんだ。
ノリクには絶対に知られるわけにはいかない。
部隊の仲間にも絶対に言わないでくれよ。
ウル様を救出するための切り札となる秘密だぜ。」
兄貴はしばらく黙っていたかと思ったら、急に別の話をしてきた。
「なんだ、そのすごそうな秘密は。」
「ついてきてくれ。」
兄貴は部屋のノブを器用に回して扉を開けると部屋から出ようとする。
「兄貴、どこへ行くんだ?」
「静かに。黙ってついてきてくれ。」
兄貴がそう言うので俺は黙って兄貴の後を追った。
しばらくして、兄貴は館の別の部屋のノブを回すと、その部屋の扉を開ける。
部屋の中から、馬族の匂いがする。
エルモンドのモンスターに、こんな奴はいなかった筈だよな。
「パワー君、こんな夜中に何だね?」
真っ暗な部屋の中から匂いの主が話しかけてきた。
「俺様の信頼できる仲間を1匹紹介したいのと、あんたの力について相談したいんだ。」
兄貴が言う。
「後ろにいるのが紹介したい仲間かね?」
中にいる馬が聞いてくる。
「そうだ。
俺の相棒のガインだ。」
兄貴が紹介するので、
「ガインだ。」
俺も名前を名乗った。
「私は魔王レオニエルだ。」
すると、部屋の中にいる馬が自己紹介をしてくるが、魔王だって?
「魔王って、たまに現れて世界を破壊しまくると言う例の魔王なのか?」
俺は驚いて聞いてみる。
俺だって魔王とはどんなものかぐらいは知っている。
だが、目の前の馬はとても破壊の権化には見えない。
「まあ、一般的に言って魔王に対するその評価は間違っていないと言えるが、
全ての魔王がそうではないと知っておいてもらいたい。」
「そうだな。
失礼した。
あんたが自分で魔王と名乗らなければ、普通に秘密の助っ人だと思ったしな。」
「分かってくれればいい。」
魔王も俺が驚いただけで悪気がないと分かったのか特に怒ってはいないようだ。
「兄貴が言ってたウル様を救出する切り札って、魔王のことなのか?」
俺は兄貴に聞く。
「そうだ。
ウル様を見つけることができたら、魔王の力で救出できねえか?」
兄貴は俺の質問に答えつつ、部屋にいる魔王に聞く。
「ウル君が攫われた話は聞いた。
それに、ウル君がいればノリクを倒す道筋まで見えたと。
私の力を開放する時かもしれぬな。」
魔王は答える。
「ウル様の居場所が分かったら頼みに来るぜ。
ノリクが手元に置いていると予想しているけどな。」
兄貴が言う。
「分かった。」
魔王が答える。
それだけ話すと兄貴は部屋に戻った。
味方に魔王がいるなんてすげえ。
もっと魔王を前面に押し出せばいいのにと思ったが、魔王は使えるエネルギーに制限があるからここぞという時しか動けないと兄貴に言われた。
「なんで急に、俺に魔王を紹介したんだ。」
俺はもう一つの疑問を兄貴に聞く。
「これからウル様を救出するために色々相談することになるが、ガイン、お前には俺様と同じ情報を知っていて欲しかったからな。」
確かに、ウル様を救うだけの力がある魔王の存在を知っているかどうかで、判断は変わってくるか。
兄貴は俺に兄貴と全く同じ情報を持った上で相談したいんだ。
それなら、俺は兄貴の期待に応えなくちゃな。
それ以外にも兄貴とは相談しないといけないことがある。
エルモンドのモンスター部隊をどう分けるかだ。
「兄貴、エルシア方面へ連れていく部隊はどうするんだ?」
俺は兄貴に聞く。
「エルモンドにどれだけ残すかだな。」
「ヴァディス隊長は、自分で全体判断ができるようになってきたから残留組は、ヴァディス隊長に全て任せようかと思うんだが。」
俺は兄貴に自分の意見を言ってみる。
俺も兄貴もエルシアの方へ行くつもりだ。
「俺様もそう思うぜ。
あとは、隊のメンバーも入れ替えたい。
エルモンドでコーチの負担をヴァディス隊長に集中させるわけにはいかないからな。
それに、★1のメンバーはなるべくエルモンドに残しておきたい。」
兄貴が言う。
確かにまだ幼体の★1モンスターを危険な前線に連れて行くわけにはいかないな。
あとは、エルモンドのコーチか。ヴァディス隊長は元コーチだから、他人に技を教えるのに慣れているだろうけど、隊員はそうはいかないな。
「コーチが足りないなら、サラ隊も残した方がいいのか?」
俺は言うが、できれば避けたい。
エルシアへ行く方は戦闘に参加することになるだろうから、なるべく多くの戦力を連れていきたからだ。
「移動までまだ時間あるだろ。
ヴァディス隊長に、次のコーチを育ててもらうように頼もうかと思ってるぜ。
後は、残留する冒険者の中のモンスター使いと契約しているモンスターにも頼んでみるつもりだ。」
「兄貴、それはいいな。
もし、コーチを頼めるなら連れていけるメンバーが増えそうだしな。」
俺は、モンスターが人間に支配されず人間と同じように生きていくには、人間の力を借りずに何とかしようと思ってた。
だけど、兄貴は必要に応じて人間の力も借りることも柔軟に考えていたんだ。
「俺様は明日モンスター使いにコーチを頼めないか調整してくるから、ガインには部隊の編成を頼みたい。」
「分かったぜ。
よく館に呼ばれる兄貴よりは1匹1匹の隊員を見てるつもりだぜ。
残すメンバーをヴァディス隊に固めるように編成し直すってことだな。」
「ガイン、頼んだぜ。」
こうして、俺達は今後の方針を決めた後、眠りについた。




