第23話 モンスター部隊初出動
俺がいつものようにパワーの兄貴とモンスター部隊員達の訓練をしていると、世話役のダルトンが息を切らしながらやってきた。
「パワーさん、ガインさん。ウル殿を見かけませんでしたか?」
「ウル様なら、大分前にエルシアの使者のタロウさんに呼ばれて町の外に行ったぜ。」
俺は答える。
今日、エルシアのタロウと言う使者の従者がウル様に会いに来たのだ。
タロウさんに、今回は自分はエルモンドにいないことになっているから、前回会った場所まで来てくれるように伝えてくれと言われて、俺はウル様がいつものように俺達の所に来たときにそう伝えた。
「大分前っていつですか?」
ダルトンがさらに聞いてくる。
「午前中の話だぜ。」
俺は答えるが、今はもう夕方に近い。
「俺様、何か嫌な予感がするぜ。現場を確認するぞ。
ガイン、訓練を中断して隊長達を集めてくれ。
ダルトンさんは、これからモンスター部隊で現場を確認するから、衛兵隊長のグレアスさんに話をして西門を通って町の外に出ると伝えといてくれ。」
兄貴の予感は当たるからな。
「分かったぜ。」
俺は、すぐに訓練中の隊員達の方へ向くと、
「ホーク隊、出動だ。訓練を中断して全員集合。」
と叫ぶ。
ホーク隊は、鳥族と竜族の全員が空を飛べるメンバーだけで構成されている。
俺は、兄貴にホーク隊を率いて先に現場に行ってもらうことにした。
「ガイン、助かるぜ。
後から、残りの部隊を率いてきてくれ。」
兄貴はそう言うと精神集中をして、フライトの技をかける。
俺も兄貴も熊だからな、空を飛ぶにはフライトの技をかける必要がある。
フライトが使えるのは★4まで進化した隊長等少数だ。
そうしている間に、ホーク隊が集まった。
「アドバイザーのウル様が、行方不明になったとの連絡が入った。
まずは、ホーク隊が出動して現場を確認する。
俺様につづけ。行くぞ。」
兄貴はホーク隊を連れて町の北に飛んで行った。
本来ならホーク隊長に指示してもらうのがいいのだが、まだ非常時の判断までできるようになっていないので、現段階でこういう時の方針決定はどうしても俺と兄貴でせざるを得ない。
だが、大まかな方針さえ指示を出せば、あとは隊長が部隊を指揮して動いてくれるまでにはなった。いずれ指令というか目的だけを話して隊長に方針決定してもらえるよう、現在訓練中だ。
俺も残りの部隊を率いて急いで向かわないとな。
「残りの部隊も全軍出動するぞ。
訓練を中断して集合。」
俺は訓練している隊員達に向かって叫ぶ。
エルモンドモンスター部隊は、ウル様の助言によりパワーの兄貴の手によって結成された。
今まで訓練をしてきて、ようやく組織的な動きができるようになってきた。
そこに起こったウル様が行方不明との事件。
捜索するにはなるべく人出が多い方がいいし、隊員達に実践的な訓練もさせておきたい。
今回は初めての出動だし、俺は訓練の意味も兼ねて全部隊を連れていくことにした。
モンスター部隊には狼族や熊族のように匂いで追跡できるメンバーがいる。これは人間にはできない芸当だ。モンスター部隊が追跡するのであれば、その利点を最大限生かしたい。そのためは、匂いを覚えておかないといけないよな。
俺は隊員が集まるまでに、今日ここへ来たウル様と使者のタロウの匂いを覚えこんだ。
その間に全部隊が集まってきた。
「アドバイザーのウル様が、行方不明になったとの連絡が入った。
ウル様は、使者の従者と話をするために町の北の森に行くと言っていた。
これから全員出動して捜索に行くぞ。」
俺は部隊に向かって、出動の目的を説明する。
「あの、質問いいですか?」
ウィル隊のリコが聞いてきた。
「何だ?」
「予め、ウル様とその使者の匂いを確認できないですか?」
リコは隊長並みに賢くてよく気が付く。
「リコ、よく気づいたな。勿論確認するぞ。
ここに、今朝ウル様と使者のタロウが別々に寄った。
匂いで確認できるものは、ここで匂いの確認をしてくれ。」
狼族や熊族など匂いで追跡ができる隊員に、俺は匂いの残っている場所を示して、ここでウル様と使者の匂いを覚えてもらった。
そして、俺は、5つの部隊を率いて町の西門を出て、町の北に向かう。
すると、ホーク隊のメンバーが空から手分けして捜索しているのが見えた。
俺は、その方向に兄貴がいると判断して進む。
町の北の森の入り口に兄貴がいた。
ホーク隊のうち4羽が兄貴の傍にいる。
ホーク隊長は空からの捜索の指揮をしているようだ。
「ガイン、来てくれたか。
かなりまずい状況だぜ。
ウル様とタロウさんの匂い以外に10人以上の人間の匂いがある。」
兄貴が言う。
10人以上の人間に襲われた可能性は低くなさそうだな。
兄貴の勘が当たったか。俺は従者だけでエルモンドに来る違和感をそのままにしておいたことに内心焦っていた。
ウル様は、前に急用で連絡のないままドンロンの港まで行って数日以上帰ってこなかったこともあったから油断した。
とは言え、ここで隊員達に焦りを見せるわけにはいかない。
「ゼル隊・アリサ隊は、手分けしてこの森の中でウル様の捜索してくれ。
匂いの追跡のできる者1匹に、周りを警戒する者数匹のチームで行動するようにして、決して単独行動をするんじゃねえぜ。
敵襲があれば大声で回りの奴に知らせろ。
ウル様の匂いを見つけたら、すぐに報告に戻るように。」
俺は、2つの隊に指示を出す。
ウル様がまだ森の中のどこかにいる可能性もあるからだ。
「残りの部隊で追跡できるものは、現場を確認するぞ。
残りの者は、敵襲の警戒してれくれ。」
兄貴が指示を出す。
俺も少し入った森の匂いを確認する。
ウル様とエルシアのタロウがここで会っていたのは確実だ。
しかし、それ以外に多数の人間の匂いもする。
追跡すると、使者と人間だけの匂いが森の奥に続いているようだ。
「ガイン、俺はウィル隊を連れて人間の匂いを追跡するから、現場の確認を頼む。」
「分かったぜ。」
俺は、残りの隊員に他の方向へ行っている匂いがないかを確認してもらったが、ないようだ。
ウル様の匂いはタロウと会ったであろう場所で途切れている。
「タロウと思われる者と人間でウル様を襲い、ウル様を数人がかりで担いで運んだ可能性が高そうです。」
ヴァディス隊長が言う。ヴァディス隊長は隊長の中では一番具体的な判断をしてくれる。
俺もヴァディス隊長と同じ意見だ。
ここをこれ以上捜索する意味はないな。
「ここでの捜索は終了。
タロウと人間に匂いを追跡して、パワー大将の後を追うぞ。」
他の方向に匂いが続いていないのを確認したので、俺は分散している捜索部隊を呼び戻し、全部隊で人間と使者の匂いを追跡させることにした。
しばらくして、森の中の開けたところに出てくる。
そこで兄貴が待っていた。
「ガイン、ここで使者と人間の匂いが途絶えている。
そして、ここに巨大なドラゴンの匂いが残っていた。
ここからドラゴンに乗って、空中を移動したみたいだぜ。」
兄貴の顔が険しくなっている。
ウル様がそいつらに連れ去られた可能性は高そうだ。
「俺は日が暮れるまでこの辺りの森の捜索を続ける。
兄貴は、最悪の想定の対応を頼む。」
一応このあたりにウル様がまだいる可能性も僅かだけどゼロじゃない。
俺は、その可能性のために手分けして辺りの捜索を続けることにした。
だが、そうじゃない可能性の方が遥かに高いことは俺にも分かっている。
兄貴には、そちらの対応を頼むことにした。
「ガイン、ありがとな。
俺様は、サラ隊だけ連れて町に戻るから、こちらは頼むぜ。」
兄貴はサラ隊を連れて、エルモンドの町に戻っていった。
そんなことをしていると、エルモンドの衛兵隊がやってきた。
ウル様のアドバイスで実践訓練を色々しているらしい。
お前らにモンスターの言葉が理解できるのかよと思ったが、衛兵隊に混じって冒険者部隊の連中も来ているようだから大丈夫そうだ。冒険者の中にはモンスター使いもいるからな。
「ウル殿は見つかりましたか?」
冒険者に混じっていたダルトンが聞いてくる。
「見つかっていない。
タロウと10人ほどの人間に連れ去られた可能性が高い。
まだ森の中にウル様がいる可能性もあるから、夕方まで森の中の捜索を続ける。」
俺が答える。
俺の話を聞いて、ライオス衛兵副隊長は隊員に捜索に加わるように指示したが、ライオス副隊長自身は最悪の場合の対応を検討すると言って、数人の衛兵を連れて戻っていく。まあ、ライオス副隊長は衛兵隊で兄貴と同じ立場だから戻るよな。
嫌な予感が杞憂であってくれ。
俺はそう願いながら、捜索部隊の報告を待つが、日が暮れてもウル様は匂いすら発見できなかった。
ここまで探して見つからない以上、やはり攫われた方向で考えるしかないか。
俺は全員の無事を確認すると、全部隊に撤収を命じて、エルモンドの町に戻った。
衛兵隊や冒険者部隊も撤収したようだ。
町に戻って隊員に休憩させると、俺は領主の館に呼ばれた。
館の部屋に入ると、領主のオーウェル様、オーウェル様の補佐のネフェル、ネフェルの補佐グリム、モンスター部隊世話役のダルトンとメアリ、衛兵隊長のグレアスと副隊長のライオス、冒険者部隊長のエイク、あと数人の人間、そして兄貴が待っていた。
誰もがこの町の各方面の責任者で、これだけのメンバーが一度に集まることはそうそうない。
「ガイン殿、お待ちしていました。
これで全員揃いましたね。
これから現在の状況報告と今後の方針を相談をします。」
オーウェル様が話を始める。
領主のオーウェル様は誰にでもこのような丁寧な言葉を使う。
「ウル様の件で、分かったことがあるのか?」
俺はオーウェル様に聞く。
「1つ目として、まだウル殿は生きているということです。」
「なぜ、そんなことが分かるんだ?」
俺が聞くと、
「俺様はウル様の僕として支配契約をしているんだ。
その契約の効果がまた続いていると分かった。」
俺の疑問に、兄貴が答えてくれた。
ハキルシア帝国では、人間と行動する殆どのモンスターは人間と支配契約を結んでいる。
だけど、わざわざモンスターだけをメンバーにしたモンスター部隊を創設して、モンスターの判断で動くように訓練もしている現状、俺はエルモンドのモンスター部隊の隊員は誰も人間の僕として契約はしていないと思っていた。
兄貴が契約しているなんで初めて知った。
しかも、兄貴のマスターがウル様だったなんて。
人間並みの知恵があればモンスターであってもモンスターを僕として支配することができると聞いたことがある。ウル様は人間以上に知恵がありそうだしな。できないことはないか。
とは言え、今契約の経緯を聞くことに意味はない。なぜ、ウル様が生きていると分かったかだ。
話を聞くと、この契約は主人か僕のどちらかが死亡すると、効果が消滅するという。
兄貴の契約がまだ有効な状態で残っているということが判明した時点で、ウル様が生きているのは確実ということのようだ。
「ウル様を攫った奴については目星はついたのか?」
俺は、次の疑問について聞く。
「★5フォルセティのタロウはエルシアの使者の従者です。
エルシアの可能性は低くはないでしょう。」
オーウェル様が答える。
「エルシアって、連合国と不戦協定を結んだって言ってたじゃねえか。
騙し打ちでウル様を攫ったのか?」
タロウの奴、前回話したときは俺達モンスター部隊がモンスターだけで活動しているのに感動して、エルシアでも努力したいみたいに言ってやがったが、あれは全部演技だったのか?
1回目の会見で俺達を油断させて、2回目の会見で油断したところを連れ去ったということか。
くそっ、俺としたことが油断した。俺がタロウの奴の物腰の柔らかさに騙されなければ、こんなことにはならなかったのに。
「あと、ウル様を邪魔だと思ってる奴が1人いるぜ。ノリクだ。」
兄貴が言う。
ノリクなら分かる。
ウル様は、ノリクの策を散々潰してきたからな。ウル様のことを目の上のタンコブだと思っているだろう。
「状況的に可能性が高そうなエルシアか、動機的に可能性が高そうなノリクのどっちかってわけか。」
「どちらかであることはほぼ間違いないでしょう。
既に、ケルティク率いる諜報部隊に調査に向かわせました。
いずれ結果が分かるでしょう。」
オーウェル様が言う。
「それまで待つしかないってことか。
俺はやられっぱなしじゃ我慢できないぜ。」
よその人間の町じゃ俺達モンスターは目立つからな。
俺が調査しようとしても、足手まといにしかならないことくらいは分かっている。
だけど、ウル様がどういう目にあっているか分からない中で、黙って待つことほど辛いことはない。
「だから、ガイン。
これからすることを相談するんだ。」
兄貴が言ってくる。
ただ待っているだけってことはないよな。
「ウル殿が提案して残してくれた、ノリクとの戦いの今後の展望を説明します。」
オーウェル様はそう言うと、全員の前に大きな大陸の地図を広げる。
「我々は大陸の東側で連合国として共同してノリクと戦うことにしました。
しかし、このエルモンドは大陸の一番端でノリクのいる帝都はおろか、エルシアからも遥かに遠いです。
これでは、ノリクと戦うには時間がかかりすぎます。
そこで、メキロ家の本拠をエルシアの近くに移します。この点については、既に、リッチモンド家のパール伯に調整をお願いしています。
さらに帝国御三家の1家のピュートル公と同盟を締結しました。
ノリクの親戚ライン・ミューゼルが守っているエルシアの西のファーレンをピュートル公と挟撃して占領します。
大陸の西側まで侵攻することにより、ノリクの力の凋落を明らかにしてノリクに不満のある貴族の離反を促し、ピュートル公と協力してノリクの討伐に向かいます。」
ウル様って、領主のアドバイザーをしているだけあって、ノリクを倒すまでの道筋まで考えていたんだ。すげえ。
「だけどよ、これはエルシアが敵じゃないという前提で作られた作戦じゃねえのか?」
兄貴が言う。
確かに、ファーレンを攻めているときに後ろをエルシアに突かれると危ないな。
「ですので、本拠を移している間にエルシアを調べます。
本拠の移動までにはまだ時間がかかりますので。
もし、エルシアが敵であれば、その間に色々仕掛けてくるでしょう。
皆さんの働きに期待します。」
「俺達モンスター部隊は、エルモンドを守る部隊とエルシア近くに行く部隊を分けることになるんだよな?」
俺が聞く。
「はい、そうなりますね。
主力はなるべく、エルシア方面に来てほしいですが。」
「もちろんだ。ドンロンの方はどうなるんだ?」
「ドンロンについても、スレイル殿達に同じことをお願いする予定です。」
この後、冒険者と衛兵隊についてもどのように分けるかの調整をすることになった。
敵はノリクだけかエルシアもなのか分からないが、いよいよ俺達も前線に出て戦う時が近づいてきたってことか。
ウル様は、俺達モンスターに人間と同等かそれ以上の知恵があることを自ら示し、メキロ家領内のエルモンドで、モンスター達が人間に支配されずとも人間の築いてきた街で人間に混じって暮らしていけるようにするための道筋を作ってくれた。
それだけでなく、危機的状況にあったメキロ家を建て直し、リッチモンド家との戦いを勝利に導き、大陸東側を反ノリク連合国としてまとめてくれた。
俺達モンスターにとって楽園とも言えるエルモンドの街を守っていくために、ウル様はいなくてはならない存在だ。
必ずウル様を救い出す。
俺は兄貴とそう誓った。




