第2話 心配性なブランタン
一応俺達はこのハイネの町の領主ブランタンに世話になっている。
立場としては、俺達は居候兼用心棒と言ったところだな。
代わりに、俺達の餌等を用意してくれている。
手下が一匹増えた以上、筋は通しておく必要がある。
というわけで俺は、ウィルを連れてブランタンの執務室に顔を出していた。
「なるほど。助けた熊が、そのまま君の手下になったわけだ。」
ブランタンは言う。
「そうだ。」
俺は答える。
「名前は?」
「ウィルです。
ガイン様の手下になりました!」
ウィルが背筋を伸ばして答える。
「礼儀は悪くないな。」
ブランタンは軽くうなずくと、控えていた係に視線を向けた。
「この子の分の餌も用意しておいてくれ。成長期だろうから、少し多めにな。」
「承知しました。」
ブランタンの横に控えていた世話係が答える。
ウィルの耳がぴくりと動いた。
「ありがとうございます。」
「礼を言う相手は私じゃない。ガインだ。」
ブランタンは言うが、まあ、その辺はどうでもいい。
「それよりだ、ガイン」
ブランタンの表情が引き締まる。
何か説教をする時の顔だ。
「ドラゴン相手に、君達だけで突っ込むのは控えろ。」
「大げさだ。」
俺はそう言うが、
「相手が悪ければ、全滅していた可能性もあるんだぞ。」
ブランタンは続ける。
「ジャンプアタックで距離を詰めて、トリプルスラッシュ叩き込んだだけだ。
すぐに逃げて行った。」
俺は答えるが、
「“だけ”で済む話ではない。
ガイン、君が強いのは分かっている。だが慢心するな。」
ブランタンは真顔だ。
「一々うるさいな。」
それ以外に用事もなさそうだったので、
俺はそれだけ言って、さっさと部屋を出た。
まずは、ウィルに自分の身は守れるくらいにはしないとな。
訓練場代わりの空き地で、ウィルを前に立たせる。
「まずは基本だ。
ジャンプアタック。
敵に飛びかかる基本的な技だ。見ていろ。」
俺はウィルに見えるよう技を教える。
前脚を沈め、力をため、一気に跳ぶ。
着地と同時に地面が揺れた。
「今のが、ためを使った跳躍だ。
屈伸を意識しろ。力は下から上だ。」
「は、はい。」
ウィルは真剣な顔で頷く。
「よし、やってみろ。」
まずは、ウィルがどこまでできるのか確認するために、ウィルにやらせてみる。
ウィルは俺の真似をして、脚を沈める。
……少し間がズレているが。
――跳んだ。
高さは低い。
だが、動きは正確だった。
「今の、できてましたか?」
ウィルが聞いてくる。
「できてたぞ。」
俺は答える。
一発でできるとは、ウィルは素質がありそうだ。
「覚えるの早くないか。」
ゼルが目を丸くする。
「少し間がずれているけどね。」
アリサが容赦なく言う。
そこは俺もいずれ指摘して補正しようとは思っていた。
だが一発で上手く行ったわけだし、もう少し褒めてやっても良かったんじゃないか。
言わないが。
その後も訓練は続き、ウィルはジャンプアタックを完全に習得した。
「ウィル、よくやったな。
よし、次はトリプルスラッシュを覚えるぞ。
正面の敵を攻撃するときに一番早く、一番攻撃力の高い技だ。
動きとしては、後ろ脚だけで立ち、右前脚の爪、左前脚の爪、牙での噛みつきの3段攻撃だ。
まずは、ゆっくりやるから動きを覚えろ。」
俺は、ウィルを前にトリプルスラッシュの技を見せる。
「動きは分かったか?」
「はい。」
いい返事だ。
「それじゃあ、まずはゆっくりでいいからやってみろ。」
ウィルは一つ一つ確認するように動く。
スピードは遅い。
だが、順番も形も、ほぼ完璧だった。
「飲み込みは、異様に早いな。」
俺が感想を言うと、
「ほ、本当ですか!?」
ウィルは嬉しそうに短い尻尾を振る。
「それじゃあ、次は実戦のスピードでやってみるぞ。
爪、爪、牙。流れで出す。」
俺が手本を見せると、多少スピードがおちるものの、それなりにできていた。
「よし、体が慣れるまで何度も練習するぞ。」
俺はそう言って練習を続けていたのだが、
「はぁ……はぁ……」
問題は体力だった。
10回もしない内に、ウィルの息が上がっている。
「おい、無理するな」
と俺は言うが、
「だ、大丈夫です。」
そう言って、また繰り返しトリプルスラッシュの練習を続ける。
「……」
俺は少し考え、言った。
「もう一回だ。今度はジャンプアタックした後にトリプルスラッシュだ。連続で行くぞ」
結果。
ジャンプアタックの着地で脚がもつれ、
そのまま前のめりに倒れた。
「ウィル。」
駆け寄った時には、完全に気絶していた。
しばらくしたら気が付いたが、俺は少しやりすぎたかもしれないと反省した。
「す、すみません。」
ウィルが言ってくる。
「謝る必要はない。
覚えはいい。体が追いついてないだけだ。」
俺は言うと、ウィルは、ほっとしたように笑った。
「じゃあ、明日も……教えてもらえますか?」
ウィルが聞いてくる。
「少しずつ覚えていけばいい。」
俺は答えた。
だが、後で話を聞きつけたブランタンに、俺は呼び出された。
「やりすぎだ。
トラウマになったらどうするつもりだ。」
開口一番、それだった。
「なってないだろ。」
ウィルが意識を取り戻した後、明日も訓練すると言っていたと反論するが、
「結果論だ。
彼はまだ★1だ。体がついてこない。」
ブランタンは言う。
「だが、技の理解力は高い。」
俺は反論するが、
「それは認める。だからこそ、慎重に育てろ。」
ブランタンにそう言われて、俺は黙った。
「ガイン、君は強い。
だが、教える立場になった以上、力だけでは足りない。」
ブランタンは静かに言う。
「……分かった。」
そう答えた自分に、少しだけ驚いた。
技は力だ。
だが、それを扱う体がなければ意味がない。
その当たり前を、俺は少しだけ学んだ。




