第15話 「追われた獣の言葉」
「★4ネメアーよ。」
メリルさんの声で、敵が間違いなく★4クラスであることが分かった。
「ブレス」
「モラル」
俺が精神集中している間に、トムソンと誰かが協調して全体強化魔法をかけてくれたらしい。
それ以外の状況は分からないが、俺は一刻も早く全員の大型化が大事だと考えてストレングスを続ける。
ネメアーに襲われる前に、味方の★3モンスターは全員ストレングスで大型化している。
大きさだけなら★4に近いはずだ。
しばらくはそいつらに任せて、俺はまだストレングスをかけていない仲間へのストレングスを急ぐつもりだった。
だが甘かった。
あとは俺だけになった時、★4ネメアーの1匹が俺に飛びかかって来た。
俺は押し倒された上、肩に噛みつかれる。
ストレングスがない状態では格上の★4ネメアーには勝てない。
噛みつかれた状態では技の精神集中もできない。
「魔法で味方に持てるだけの強化を、あるいは敵の弱体化をしてください。」
トムソンの声がする。
それに応じてかどうかは分からないが、
「スロー」
誰かが俺を押し倒しているネメアーに弱体化魔法をかけてくれた。
相手のネメアーの動きが多少は遅くなったものの、それだけでは力で抑えられている不利な状況を覆すことはできない。
俺はネメアーに乗りかかられたままでは負けるだけなので、ものにしたばかりの肉体技を使うことにした。
まずは俺を押し倒しているネメアーの腹を後ろ脚で思いっきり蹴る。
ネメアーが一瞬動きが止まった隙に貯めを行う。
ネメアーが怒って再度噛みついてくるが、なんとか完成した。
「ブラッドファング」
相手に攻撃すると同時に相手の生命力を奪う牙技だ。
これで、噛みつかれた傷も大分回復した。
そこへガリオンさんがやって来て、剣でネメアーに切りかかる。
ネメアーは怒って今後はガリオンさんに飛びかかって押し倒す。
「ゼル、アリサ、ガリオンさんを助けろ! あのネメアーを攻撃だ。」
トムソンの声だ。
俺達は押されているものの、崩されずに持ち堪えているようだ。
あとは、俺がストレングスをかければさらに楽になるはずだ。
ガリオンさんとゼルとアリサが時間を作ってくれている間に、
「ストレングス」
よし、これでようやく俺もネメアーと互角に戦えるようになった。
「ガイン、ガリオンさんの支援を。」
トムソンが言う。
分かったぜ。
「トリプルスラッシュ」
俺はガリオンさんを押し倒して肩に噛みついているネメアーに一撃を喰らわせた。
そのまま追撃をかけようとしたが、ネメアーは転がって避ける。
だが、ガリオンさんからは離れた。
「リジェネレーション」
ガリオンさんは深手を負いながらも自分に回復技をかける。
しばらくは動けないだろう。
大丈夫だ。
ようやく俺にもストレングスがかかったから、★4相手でも互角以上にやれる。
しかも、隣にはゼルとアリサもいる。
これなら逆に有利だ。
すると、ネメアーは炎を吐いてきた。
驚いてゼルとアリサの動きが止まるが、残念だったな。
範囲が広い攻撃技では俺は止まらない。
俺は、技を使っている間にネメアーにトリプルスラッシュを叩きこむ。
ネメアーは怒って俺に噛みつこうとするが遅い。
俺は追撃でさらにトリプルスラッシュをぶち込む。
このネメアーにはスローがかかっていたため、俺は一方的に攻撃することができた。
そして、ついにネメアーは耐えきれずに気絶した。
よしっ、1匹倒したのは大きい。
ようやく落ち着いたので俺は周りを見る。
★3ロシナンテが押されていたが★2イーグルの横やりで何とか耐えている。
★3ダイアウルフがメリルさんを庇いながら戦っているが完全に押されている。
★3ロックとフィーナさんはまだ余裕そうだ。
ウィルがトムソンと一緒にネメアーと戦っている。
良く今まで持ったな。
だが、よく見るとこのネメアーだけ小さくなっている。
ストレングスの逆魔法のウィークがかかっているようだ。
体が小さくなったことにより、なんとか戦いになっていたようだ。
全員押されながらも、何とか耐えていた。
俺がフリーになった今、1匹ずつ同調して片付ければ終わる。
まずは、トムソンの所の小さくなっているネメアーからだ。
俺がトリプルスラッシュをかけると、これは無理だと逃げて行った。
その時の鳴き声に反応したのが、残りのネメアーも逃げて行った。
「皆さん無事ですね。
ガイン、リジェネレーションで回復してください。」
俺はトムソンの指示通り、全員を順番に回復させていく。
魔法は回数に限りがあるから、俺が技でかけた方がいいからだ。
「さて、気絶した★4ネメアーですが、どうしましょうね。」
トムソンが言う。
俺が倒したネメアーの事だ。
「ご主人、回復させて話を聞けないか?」
俺はトムソンに言う。
「確かにこいつらは好相性技以外を使ってこなかった。
だから強化技もあまりかかっていなかった。
縄張りを追い出された野生の個体の可能性が高いと思う。」
ガリオンさんが言う。
「1匹だけなら何とかなりそうね。」
フィーナさんとメリルさんも同意してくれた。
「それじゃあ、ガイン。
全員で囲んでからリジェネレーションしてください。」
トムソンが言う。
俺は、気絶したネメアーにリジェネレーションをかけた。
起きるまでの間に、ネメアーの足にゼル達を乗せて動けないようにしておいた。
生命力が回復してきたため、ネメアーが目を覚ます。
「うごけない。」
ネメアーが言う。
「君はなぜここに来たのかな?」
トムソンが聞く。
「人間だー。
殺される。
みんな、助けて。」
ネメアーはまともに話ができないようだ。
意思疎通魔法を使っても、言葉が分かるだけで話ができるとは限らない。
「正直に話せば逃がしてやる。
お前達は何かから逃げて来たのか?」
一応俺も聞いてみた。
モンスターに話しかけられたからか少しは落ち着いたようだ。
「嫌な気配が縄張りを覆った。
獲物が逃げて行っていなくなったから出てくるしかなかった。」
ネメアーは答える。
肉食獣は獲物がいなければ暮らしていけないからな。
「縄張りの方向はこっち「北西」か?」
さらに聞くと、そうだと答える。
「嫌な気配と言うのは近づけばわかるのか?」
「嫌でもわかる。」
こいつにこれ以上聞くのは無理か。
「ご主人、もう逃がしてやってもいいか。
こいつはこれ以上の事を知らなさそうだ。」
俺が言うと、トムソンも仲間の冒険者に確認を取って、ネメアーを逃がすことにした。
ネメアーは南西の方へ逃げて行った。
そちらに仲間が逃げて行ったとよく分かったな。
とりあえず、北西の方角で何かが起こっているのは確かなようだ。




