第12話 北への派遣
あれから一カ月近くが過ぎた。
多少の揉め事や小さな事件はあったが、概ねハイネは平和だった。
俺は、あの夜に教わった技をすべて自分のものにしていた。
まだ粗はあるが、使うたびに安定していく感覚だ。
簡単な技に関しては、手下たちにも教えられるようになり、時折、門の外で一緒に訓練もしていた。
そんなある日、俺はブランタンに呼び出された。
なんでも北部にあるコインブラの町周辺でモンスターの動きが活発になっているらしい。
町の周辺の農家の農作物にかなりの被害が出ており、コインブラの衛兵や冒険者だけでは対応が厳しいというのだ。
ハイネとしては応援依頼に対応するため冒険者を募って派遣することになったのだが、そこに俺も加われと言う。
「確か、ハイネの外ではモンスターには人間の主人がいるのが普通って話だろ。どうするんだ?」
俺はブランタンに聞く。
「そのための人材も呼んである。入ってきなさい。」
ブランタンがそう言うと、部屋に入って来たのは・・・
「トムソン」
俺は思わず声を出してしまった。
俺がいつも門で雑談をしている門番隊長だ。
「君と一緒に派遣するなら一番なじみのあるトムソンが適任だと思ってね。
よく、雑談をしている仲だから安心だろう。」
ブランタンが言う。
「ガインさんと一緒に任務に当たれるなんて光栄ですね。
僕とガインさんで組んでモンスター使いと手下モンスターの関係に見せれば、問題ないでしょ。」
トムソンが言ってくる。
「てことはなんだ?
トムソンが俺のご主人様になるってことか?」
「形だけね。
実際、門を通る商人はガインさんを見ても今まで誰も怪しまなかったわけだから、
僕がいるだけでモンスター使いと手下モンスターに見えるでしょ。」
「まあ、俺はそれなりに振りをするからいいとして、
トムソン、お前がちゃんとご主人様らしくしてくれないと困るぞ。」
「分かってますって。
それより、ガインさんの手下の方達は大丈夫なんです?
一応僕が全員の主人ってことになりますけど。」
「うーん。そっちも問題だな。
あとで、ちゃんと会話関係の練習をしよう。
トムソン、お前もだぞ。」
「僕、そこまで信用ないですかね?
これでも、一応門番で隊長をしてるんですけど。」
不安がない訳ではないが、あまり面識のない相手と組まされることを考えればトムソンだとやりやすいのは確かだ。
なので、俺はトムソンと派遣されることを了承した。
その後、俺は派遣される冒険者達を紹介された。
ハイネの冒険者にはモンスター使いが殆どいない。
そのため、今回の応援冒険者は全員人間だ。
彼らは俺の事も良く知っているので、形式上トムソンがモンスター使いになるが何かポカをやったらうまくフォローするよう頼んでおいた。
昼までに準備して出発という事になったのだが、そんな悠長なことを言っていていいのか。
準備がかかるのは仕方がない。
だが、人間の冒険者が歩いて行くにはコインブラは近くない。
「なあ、トムソン。おっと、これからはご主人だったな。
人間の足だと現地に着くまで10日くらいかかるだろ。
俺達だけ先行したほうが良くないか。
人間はご主人だけだから、俺がご主人を背中に乗せて全員で走れば、現地に早く着ける。
向こうがどうなっているかは分からないが、対処できることも増えると思うが。」
俺はトムソンに提案する。
「その方が良さそうですね。
それじゃあ僕が冒険者達に連絡してきますので、ガインさんは手下達を呼んできてください。」
トムソンが言う。
「そこ、今は俺はお前の手下モンスターだからさん付けしない。
今から慣れておかないと向こうでぼろが出るぞ。」
俺は突っ込む。
「それじゃあ、ガイン。
手下を連れて来てくれ。
うーん、違和感があるなあ。」
トムソンがまた余計なことを言う。
「こら、余計なことを言うと怪しまれる。」
「分かってますって。」
その後、俺はトムソンに手下を紹介する。
「いいか、雌なのがアリサ、雄で大きい方がゼル、小さい方がウィルだ。
間違えるなよ。
こいつらの口調については、今夜練習することにして早めに出発するぞ。」
こうして俺達は北の町コインブラに向かう事になった。
俺は背中にトムソンと荷物を背負うことになるので、スタミナの技で持久力を上げて街道を北に向かって走る。
だが、日が出ているうちに隣町のリズボーンにはつかないので、今夜は野営することになった。
トムソンが俺達の餌などを準備してくれたので全員が持って来た餌を食べ、会話の練習をすることになった。
ゼル、ウィル、アリサともに最初は違和感があったが、俺がその都度ダメ出しして矯正したので大分マシになって来た。
それよりも、同じ★2ブラックベアとは言え、トムソンの手下の名前の間違えが直らないのが課題だった。
あとは、基本トムソンが命令しているように見せる事か。何か考えないと。
コインブラまで早くて3日、恐らく4日。
それまでには何とかしないといけないな。




