表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熊王伝  作者: ウル
11/52

第11話 技の習得

 ハイネの門は今日も静かだった。


 俺はいつものようにトムソンと他愛のない話をしていた。

 町に出入りするのは、旅人か商人くらいだ。モンスター使いが来ること自体は珍しくない。

 ここは理想郷ハイネで、モンスターが町で暴れることはないと皆が知っている。


 その日も、門の外から一組の旅人が現れた。

 モンスター使いと、その手下らしきモンスター。


 いや、でかい。


 狼族だとはすぐに分かったが、俺がこれまで見てきたどの狼とも違った。体長は五メートル近くある。俺ですら二メートルほどなのに、それを優に倍以上は超えている。

 今まで見てきたモンスターの中で、一番大きかった。


 自然と背筋に力が入ったが、それ以上のことはしなかった。

 モンスター使いの手下が、町で暴れることはない。それはもう経験で分かっている。


 だから俺は、ただ目の前を通り過ぎていくのを黙って見ていた。

 ……はずだった。


 狼が、俺の目の前で止まった。

 金色の瞳が、じっと俺を見下ろしてくる。威圧感がないわけじゃない。だが、不思議と敵意は感じなかった。


「私を見て怖がらないとは珍しいな。」

 狼が、そう言った。

 モンスターの言葉だったが、意味ははっきり分かった。


「モンスター使いの手下のモンスターは暴れないからな。」

 俺がそう答えると、狼は少しだけ口角を上げたように見えた。


「主人はいるのか?」

 狼は聞いてきた。


「そんなものはいない。」

 そう俺が答えると、


「珍しい奴だな。」

 狼はしばらく俺を見つめ、それから楽しそうに言った。


「面白い。今夜はこの町に泊まると主人が言っていた。そこで、少し話でもしないか?」

 狼は聞いてきた。


「ああ、いいぜ。」

 俺は答える。

 それだけのやり取りだった。


「フィル、そろそろ行くよ。」

 後ろからモンスター使いが声をかける。


「今行きます。」

 フィルと呼ばれた狼は、素直に踵を返し、主人の後を追っていった。


 変わった奴だ。

 そう思いながら、俺は二人を見送った。

 ハイネには宿がいくつもある。

 だが、あの狼の匂いを追えば、どこに泊まっているかなどすぐに分かる。

 夜になり、俺が宿の近くまで行くと、外にフィルが出てきていた。足音で気づいたのだろう。


「待たせたな。」


「いや。」

 フィルは短くそう答え、俺を見下ろした。


「ところで、お前は何の技が使える?」

 いきなりそんなことを聞かれて、少しだけ面食らった。


「肉体技は……」

 俺は、今使えるものを一通り説明した。

 それを聞き終えると、フィルは首を傾げた。


「スタミナは使えないのか?」


「知らないが。」


「そうか。なら、教えてやる。」

 あっさりと言われた。


「せっかくだ。覚えていけ。」

 俺には断る理由はなかった。


 教え方は簡潔だった。

 だが、不思議なことに、

 何故か、この技は前から知っていたような気がした。

 感覚が、すんなりとはまる。

 五分もしないうちに、形になった。

 持久力を高める技なので、すぐには効果を実感することはできない。それでも、成功しているという手応えはあった。


「すごいな。こんなに早く覚えられるなんて。」

 俺がそう言うと、


「簡単な技だったからだ。」

 フィルは淡々と答えた。


「回復系は大事だ。次は難しいぞ。」

 次に教えられた技は、さすがに簡単ではなかった。

 精神集中の時間は、さっきとそれほど変わらない。

 だが、感覚の掴みにくさがまるで違う。

 それでも、一時間ほどで、どうにか形にはなってきた。

 本来なら、ここから細かな調整が必要になる。


 だが、

「時間がない。次へ行く。」

 フィルはそう言って、先に進んだ。


 こうして、俺は次々と技を教えられた。

 すべて「完成」ではないが、「形」にはなる。


 今までで、初めてと言っていいほど、濃密な時間だった。


「それじゃあ、技を身につけて、自分の身は自分で守れるようにしろ。」

 最後に、フィルが言った。


「フィル、終わったかい。」

 いつの間にか、主人が外に出てきていた。


「ちょうど終わったところです。」


「それじゃあ、そろそろ寝ようか。」

 そう言われると、フィルは素直に尻尾を振り、宿の中へ入っていった。


 色々と技を教えてもらった。

 ありがたいと思う気持ちはある。


 だが、それでも、

 あんなふうに、人間に飼われるのは、嫌だな。

 俺はそう思いながら、夜のハイネを後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ