第10話 モンスター使い
その日、門でいつものようにトムソンと雑談をしていると、町の外から、金属がぶつかるような音と怒号が聞こえた。
戦いの音だな。
今日は俺1匹だけだが、俺は反射的にそちらへ向かう。
最近は物騒な噂も多いし、商隊が狙われている可能性もある。
だが、現場に辿り着いて俺は足を止めた。
盗賊たちは、すでに地面に転がっていた。
いや、正確には、蹴散らされた後だった。
商隊の前に立っていたのは、大型の狼型モンスター。肩口まで俺より少し低いが、全身から漂う圧が強い。
黒と灰の混じった体毛、鋭い牙、そして雷が走ったような残滓が周囲に残っている。
「助ける必要もなかったか。」
そう呟いた瞬間だった。
バチッ、と空気が弾けた。
狼型モンスターの口元から、電撃が一直線に飛んでくる。
俺はとっさに横へ跳んでかわした。
いきなり何だ。
構え直そうとした俺の耳に、人間の声が届く。
「野良モンスターか、ジョン。追い払うぞ。」
狼の横に、剣を持った人間が立っていた。
どうやら、あの狼型モンスターの名前はジョンらしい。
なるほど。
俺は状況を理解した。
向こうから見れば、突然現れた熊型モンスター。
盗賊の仲間か、野良の危険個体に見えたんだろう。
「面倒だな。」
下手に応戦すれば、余計に誤解される。
俺は一歩、二歩と距離を取った。
「今回は引く。」
そう判断して、森の方へ下がる。
幸い、追ってくる様子はなかった。
しばらくして、町の門に戻ると、トムソンが手を振ってきた。
「ガインさん。さっき外で何かありました?」
トムソンが聞いてくる。
「商隊の近くで盗賊がやられていた。
護衛に狼型モンスターが一匹いたな。」
「という事は、モンスター使いの護衛ですか。」
「モンスター使いだと?」
俺が聞くと、
「モンスターを従えている冒険者の事ですよ。」
トムソンが教えてくれた。
そういうモンスターもいるのだなと。
そんな話をしていると、ちょうど噂の商隊が門に近づいてきた。
先頭には、さっきの人間と狼型モンスター。
門番達も特に警戒する様子はない。
商隊の護衛が人間とモンスターの組み合わせなのは、珍しくないからだ。
俺も、いつも通り脇で様子を見ていた。
その時だ。
「ご主人様、この熊、さっき襲ってきた奴です。」
ジョンと呼ばれていた狼が、はっきりそう言った。
「は?」
俺は、思わず声が出た。
「おいおい、襲ってないだろ。助けようとしただけだ。」
俺は即座に反論する。
モンスター使いらしい人間が、じっと俺を見た。
「お前の主人はどこだ?」
人間が聞いてきた。
「そんな奴はいない」
そう答えると、相手は露骨に眉をひそめた。
「モンスターが主人もいないのに動き回っている?
冗談じゃない。暴れたらどうするんだ。」
その人間が言う。
すぐに側にいた門番が、口を挟む。
「いや、この熊はこの町の用心棒だ。今まで問題になったことは一度もない。」
「ガインはハイネじゃ有名だぞ。町の外で何度も助けてもらってる。」
さらに、トムソンも頷いた。
だが、モンスター使いは、納得いかなそうに腕を組んだ。
「世間じゃ、モンスターは人間が管理するものだ。例外が通ると思わないでくれ。」
それでも、最終的には肩をすくめる。
「まあいい。立場上、俺は商隊を無事に町へ入れればそれでいい。」
そう言って、商隊と共に門をくぐっていった。
ジョンは最後まで、警戒した目で俺を見ていた。
商隊が去った後、門番が苦笑いする。
「相変わらずだな。外の連中から見りゃ、ガインは異常だ。」
トムソンは言う。
「そうらしいな。」
俺は鼻を鳴らした。
今までは、モンスター使いが通っても、
「この町の誰かが飼ってるんだろう。」
そう勝手に思われていただけらしい。
だが、今日は違った。
主人がいないモンスターは異常。
その言葉が、妙に頭に残った。
俺は町の外を見やりながら、考える。
「世間ってのは、面倒だな。」
ただ、それだけの話のはずだった。




