竜は意外と怖くない?
「ここなら、誰にも気づかれないな。……モア、本当に残念だ。ちょっと可愛いロリだからって、期待外れだ。お前は勇者パーティにいらない。このダンジョンで、竜の餌になってしまえ!」
……あ゙?
何を言いやがってんのかな、この勇者(笑)は。
ことの起こりは、私が勇者(笑)パーティにメンバー入りした事から始まる。
あれはそう、約一年前の話だ。
当時聖女として神殿で活躍していた私は、神殿に来た勇者(笑)にパーティに入るよう命令された。
当然私は拒否したが、国王と神殿長から、聖剣を抜いた勇者(笑)と共にダンジョンを踏破して欲しいと、頭を下げてお願いされた。
さすがの私も、国と神殿のトップに頭を下げられては、断れなかった。
私がパーティに加入してすぐ、勇者(笑)は私に、身体検査をするから脱げと言って来た。
馬鹿じゃないだろうか?
私は意識する前に、気がつけば麻痺と暗眠の状態異常をかけていた。
変態に会った時の対処法が、勇者(話)に炸裂したのだ。
ハッとした時には、勇者(笑)は痺れて気絶していた。
他のパーティメンバーのお姉さんたちは、その隣で呼吸困難になるくらい笑い転げると言う、カオスな空間となった。
私とお姉さんたちは、勇者(笑)を床に転がしたまま、自己紹介をするとことになった。
斥候の妖艶系美女、アニタお姉さん。
剣士の溌溂系美女、セナお姉さん。
魔術師の清楚系美女、カルナお姉さん。
みんな系統が違う美女で、よくこのラインナップを揃えたものだと、変な感心をしてしまった。
ちなみにお姉さんたち曰く、私はロリ系美少女らしい。
まあ、それはおいておいて。
お姉さんから聞いた話によると、勇者(笑)の勇者(笑)はかなり緩いらしい。
お姉さんたちが交代で、夜のお世話をしているんだとか。
だから気をつけるようにと、言われた。
それを裏付けるように、その日から勇者(笑)の猛攻が始まった。
一瞬でも気を抜けば連れ込まれるので、気を緩められなかった。
敵より味方を警戒しなくちゃいけないなんて。
ある時は物理的で、ある時は状態異常で、その猛攻を防いでいた。
だがそれが、勇者(笑)にとって、何よりも許せなかったらしい。
毎回毎回、悪態をつかれるはめになった。
そろそろ本格的にイラついているなと思っていたら、お姉さんたちからも気をつけてと、忠告があった。
それが三日前の話。
そして今日、パーティでダンジョンに潜っていたのだけど、最下層のボスを倒したあと、帰還の魔方陣から押し出され、言われたセリフがアレだ。
ダンジョンで死んだら完全犯罪だし、遺体が残らないからいいと思ったのだろう。
最後まで碌な人間じゃなかったことが、証明された。
あの、腐れピーー野郎。
〈呪え、呪え、腐り果てて千切れろ。〉
今までの鬱憤を呪いに込めて、勇者(笑)にプレゼントしてあげる。
ご自慢の聖剣(笑)が腐り果てて千切れるのをゆっくり見ていろよ!
その頃勇者(笑)は、背筋の悪寒と身体の違和感に、全身を震わせていたとか。
「ハハハッ、実に楽しいお嬢さんだ。」
「誰!?」
空間を歪めて現れたのは、最下層のボスよりも大きい竜だった。
さすがに一人で竜を相手にするのは厳しい。
逃げる算段を立てていると、竜がみるみる小さくなっていった。
「竜って人の形になれるんだ……」
「ずっと大きいと、不便だろう?」
そう言う問題なんだろうか。
「まずは自己紹介かな?私は竜王ヴァルトレイ。」
竜王……
とんでもない大物だった……
「えっと、聖女のモアです。」
「うんうん。モアは何故ここに、それも一人で?」
私はことの経緯を説明した。
話を進める度に、竜王の眉間の皺が深くなる。
竜王からしても、やっぱり不快になる話みたい。
「女性は尊重して、庇護すべき存在だ。それなのに……報復するなら手伝おうか?」
「いえ、報復は自分の手で先ほどしましたので。」
「ああ、さっきの呪い。……聖女と呪いは対極にあるものと思っていたが……」
「聖女は解呪も得意です。解呪するには、呪いを詳しく知らなければいけません。つまり、解呪が得意なほど、呪いも得意と言うわけです。」
まあ、この考えを持っているのは私だけだけど。
「パーティの女性はいいのかい?」
「はい。お姉さんたちにはいつも助けられていますし、可愛がってもらっていたので。」
お姉さんたちは、私を守るために色々してくれた人たち。
お姉さんたちは、別に勇者(笑)が好きで一緒にいるわけではない。
それぞれ目的があって一緒にいる。
目的がなくなったらすぐにでも、勇者(笑)と縁を切るだろう。
案外ドライなのだ、お姉さんたちは。
勇者(笑)は、お姉さんたちが自分に惚れていると思っているお馬鹿さんだ。
それに自分で自分を勇者(笑)って。
痛いわー。
「竜王様は、どうしてこちらに?」
「ああ、ここは私の巣の一つでね。寝心地がいいから気に入っていたんだが、人間が多く出入りするなら別の場所を考えないと。」
「いいんですか?寝心地。」
「そうだよ。」
ちょっと、その感覚はわからない。
さすが、竜。
人と違う感性を持っている。
「さて、もし行くところがないなら、一緒に来るかい?お嬢さん。」
「どこに行くんですか?」
「私の国、ドラゴニアに。」
竜の国ドラゴニア。
幻の国だと書物には書かれていた。
本当に実在していたなんて。
非常に、興味がある。
それに今なら、ダンジョンで死んだことになっているから、神殿に縛られる必要もない。
私は自由だ。
私は幼い頃から両親と引き離されて、神殿に送られた。
平民の聖女候補として、貴族には疎まれた。
そして教育という名の罵倒と暴力に晒される日々。
逃れられない日々は、とても苦痛だった。
ようやく手にしたチャンス。
「行きます!連れて行ってください!」
「歓迎するよ。お嬢さん。」
私は、差し出された竜王様の手を力一杯握りしめた。
聖女がいなくなった後。
聖女の呪いは見事に、勇者(笑)に悲劇を齎した。
勇者(笑)はあまりの痛さと恐ろしさに、部屋の奥から出て来れなくなったとか。
それを見たパーティメンバーは、すぐに勇者(笑)を身限り、離れて行った。
彼女たちは、聖女を探して旅をしているのだとか。
平民の聖女がいなくなったことで、神殿の業務が回らなくなった。
そして心ある誰かが、平民の聖女の置かれた状況を噂で流し、神殿は民からの信用を無くしたとか。




