カインとエルフォード
次の日、エルフォードの状態に不安はあったが本人が大丈夫だと言い張るので、腕を添え木でしっかりと固定し包帯を巻いて町へ向けて出発した。早く町の医者に診てもらわないと行けない。
バンファン・ディグルスが待ち構えていたこも踏まえて出来るだけ足を早めた。
「じゃあアオバ。狩りに出掛けるぞ」
日が暮れる前にその日の寝床を見つけるとエルフォードと狩りへ出掛ける。まだ傷も癒えていないのに動かない方が良いと言うが、大丈夫だと言い張る。捕まえた獲物はカインが調理してくれる。
そんな日を三日繰り返す。
町が近くなってきたのか、人とすれ違うことが多くなってきた。
そして、日が暮れそうになる前、遂に。
「見えてきたね。あれがローカスの町だ」
広くて立派な町が目に映ってきた。
歩いてきた山道はそれほど標高が高くはない。とは言え、山の中にこれほど大きな町があるとは思っていなかった。崖の上や下に所狭しと建物が連なっている。階段が色々な場所で複雑に絡み合っていて登り下りが大変そうだが美しい町並みをしている。
「よし!じゃあ酒場を探せ!」
「ダメですよ!先に傷の具合を診てもらわないと!」
僕は、駆け出しそうな勢いのエルフォードを静止させた。本人は元気そうだが、骨も砕けているだろうし勝手させる訳にはいかない。
本人はブーブー文句を言っていたが、カインがローカスの町に詳しいようなので、傷の手当てをしてもらえる医者のところまでエルフォードを預けに行き、その間に今晩泊まる宿をカインと一緒に探しに行く。
「エルフォードさん大事ないと良いですね」
「あの調子じゃそこまで問題はないと思うけどね」
無事に宿を借りることができたが既にどの宿もほとんどが満室となっており、何とか借りれた宿も三人で一部屋になってしまった。もうすぐ日が暮れるというのに町は人で溢れている。
その帰り、エルフォードの身を案じながら迎えに行こうとしていたところだった。こちらへフラフラと歩いてくる、黒いマントに全身を包みフードを被った人物とぶつかってしまう。
「あっ...すみません!」
「あぁ...フィーリア...どこにいるんだ...私はもう...」
うわ言を呟いている黒いマントの人物はこちらを見向きもせず、別の人とぶつかりながら去っていた。
「どうしたんだいアオ?」
「いえ、何でもありません」
正気ではない様子だったので心配になったが、あまり深く考えずその場を後にした。
「おせぇじゃねぇかまったく!」
エルフォードの左肩は重症で手術の必要があった。だが、本人は勝手に治ると言い張り外へ出て行こうとするので、治癒魔術での治療を薦められその女性の魔術師の紹介される。
その魔術師は医療とはまったく関係のない、服を売る店を構えていた。魔術師は20代前半くらいの歳で長い赤色の髪を腰まで伸ばしている。強気な言葉遣いが顔にも出ている。
治癒魔術の使い手は数少ない魔法使いの中でも更に貴重。その上、そんな商売を普段はしていないと言われ、とてつもない費用を請求される。エルフォードは手持ちの金銀の硬貨を全て差し出して治療してもらい無事に完治した。
「絶対に治癒魔術のことを話さないでよ。あのポンコツ医者の舌も引き千切ってやるんだから」
強気なもの良いに絶対話さないことを約束して、その服屋を後にした。
「じゃあさっそく.. 」と文無しになったエルフォードはカインにおべっかを使い、酒代を出してもらおうとする。カインは「しょうがないですね...」と苦笑いしながら仕方なく承諾し、酒場を探すことになった。
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「......かぁーッ!久方ぶりの味は格別だな!おい!」
夜になり、食事も兼ねてカインの選んだ店に入った。
「こんな豪華そうなお店でよかったんですか?」
「色々あったからね。アオバも遠慮せず好きなものを頼むといいよ」
客席の多い立派な店で食べさせてもらえることをミルク片手にお礼の言葉を述べた。エルフォードに酒を薦められたが、元の世界の未成年飲酒禁止法に則り遠慮しておいた。こちらの世界では十五歳くらいで立派な成人らしいがそれでも気が引ける。
「ここまで来たはいいがこの先はどうするつもりなんだ?」
「このまま北の王都を目指しましょうかね。弟も同じことを考えているかもしれないので」
王都グラヴィル。
ミシア王国の都市であり、武力、知識、名品、この世の優れたものがそこに集まっているらしい。帝国も易々と手を出すことができず安寧を保っているとのこと。
「王都か...若ぇ頃に一度行ったきりだな。ならこのまま三人で王都まで目指すか!」
「エルフォードさんはずっと一人で旅をしてるんですか?」
僕がした不意の質問にグラスを口に運ぼうとした手がピタッと止まる。
「......俺にも嫁さんと娘がいたんだがよ...嫁さんは娘を生んだ瞬間にあの世へ行っちまった...」
触れないほうが良かったと思いつつもエルフォードは話を続ける。
「暫くは娘と村で過ごしてたんだが、娘が五歳の時人攫いに連れてかれちまった...取り戻そうと必死に戦ったが結局行っちまった...」
そう言うとエルフォードは、自分の腰に付けている鞄からきれいに装飾されているが少し古びてしまっている短剣を取り出し、机に置いた。
「これは娘が五つの歳になった時渡したものだ。強く生きれるように鍛えてやろうと思ってな。今にして思えばもっと娘らしいもんにしてやれば良かったと後悔してる」
「娘さんに渡した筈の短剣をなんでエルフォードさんが?」
「何年も経った日、こいつを作ってもらった加治屋の所へ売りに来た奴がいたんだ。知らせを受けたんでそいつを見つけて聞き出したら『商人から買った』と言いやがった。見た目は派手だがそこまでの価値はねぇ。二束三文で売られて巡りめぐって俺の元へ帰ってきたのさ」
エルフォードは短剣を握り締め、悔しそうな表情を浮かべる。
「娘を拐った奴を探す為にそいつらが現れそう場所を回ったが、結局見つけることはできなかった...。もし生きてるならお前と同じくらいの歳だ」
五歳の時に拐われて僕と近い年齢なら十年以上も前の話だ。ということはもう...。
「俺は死に場所を求めてイルムンドに来たのさ...。そこで目に付いたのがお前らだ。死ぬつもりで戦いに来たが娘の事を思い出しちまった...」
(僕の事を見て成長した娘さんの姿を思い浮かべてしまったのか...)
「まだ亡くなったと決まった訳じゃないならどこかで無事かもしれません。それに娘さんもエルフォードさんに無駄な死に方をして欲しくない筈ですよ」
エルフォードは「そうだな...」と言うと酒を煽る。
「娘さんのお名前は?」
「マリエル。マリエル・ロックだ」
マリエル。覚えておこういつか会った日の為に。
「わはりますよぉ!家族と離ればにゃれになるってひもちがぁ...!」
大人しく酒を飲んでいた筈のカインが勢いよく席を立ち上がり、エルフォードの肩に腕を回す。
「お前!それ...!まだ一杯目だろッ!」
「ぼきゅも親が居なくて...!弟とじゅっと二人でやっきて...!でも今はお互いにはにゃればにゃれで...!ぼくぁ心配で心配で...!」
カインはどうやら酒に弱かったらしい。その上泣き上戸だ。目から大粒の涙を流し、エルフォードに顔を近づける。エルフォードはカインの顔を手で押し退けようとするが一向に離れようとしない。
「いちゅかミャリエルとノイドも一緒に...!みんなでしゃけを飲みましょうッ...!」
「わかった!わかったからよ!落ち着けッ!」
カインを突き飛ばして席に座らせるとそのまま机に突っ伏して眠ってしまった。
あまりカインのこういう姿は見たくなかったが誰にでも弱い一面はあるだろう。
それにカインの弟。ノイドも覚えておこう。きっとカインに似て爽やかな奴なんだろう。
「ったく...。だがそうだな...。娘と一緒に酒を飲むまでは死ねねぇな」
そう言うと追加した酒を一気に飲み干す。
エルフォードが満足するまで飲んだ後、酔いつぶれたカインを二人で担いで宿へ向かった。
「カイン帰りますよ」
「ぼきゅはまだまだ飲めましゅッ...!」




