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起死回生の青  作者: ソノシラベサイン
逃走の果てに

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4/6

旅は道連れ


 傷だらけの男は笑顔で話しかけてくる。


「よぉ!余計な世話だったか?」


「.........大変助かりました」


 カインは礼の言葉を述べるが、持っている剣は傷だらけの男に向けたままだ。


 「おいおい。そんなに警戒すんなよ」


 そう言いながらミハイルの両足を持ち、引き摺っている。

 岩影まで移動させ、落ちていた枯れ草や葉っぱでミハイルの体を覆い隠す。


 「隊長さんは生きてるんですか...?」


 見たところ外傷は見当たらなかった。

 けれど、傷だらけの男はミハイルが倒れた時には剣を握っていた。

 

「ちょっと小突いて気絶させただけだ。心配ねぇよ。それよりその剣下げてくんねぇか?別に何もしねーよ」


 カインは少し渋った後、持っていた剣を鞘へと戻した。


「俺はエルフォード・ロックだ」


「......カイン・アッシュベル」


「アオバです...」


 自己紹介を済ませるとエルフォードは手頃な木を拾い上げ、布を巻いて松明を作る。

腰にぶら下げていたランタンから火を松明に移す。

それを僕ら人数分作ってくれた。


「で...僕らを手助けしたのは何故です?」


 カインはまだ警戒の色を弱めていない。


「あー...まぁあれだ。敵に追われててな。複数人で掛かって来やがる。この暗がりじゃあちょっと面倒でな」


「僕らにそれを手伝えと?」


「そう言うこった。こっちの灯りに気づく頃だろ」


 この男に良心があったのかはわからないが、灯りで敵を呼びつけて、強制的に手伝うよう仕向けていたのだ。

 

「...わかりました。こちらも手助けして頂いたのは事実ですので」


 今のところエルフォードがそこまで悪い奴には見えないが、油断を誘っている可能性もある。

 カインはできるだけエルフォードから目を切らないようにしている。


「よし。なら...えー...アオバ!これ持って後ろに下がってろ。できるだけ周りを照らせ」

 

  エルフォードは腰にぶら下げていたランタンを僕に渡してきた。


 ランタンを受け取ったところで、少し離れた場所から声が聞こえてくる。


 姿が見えると兵士が四人。

 剣を持ち既に戦闘態勢にはいっている。

 

「俺が左二人やるからお前は右二人頼むな」


「わかりました」


 


 お互いが剣を構えると闘いが始まった。

 



 エルフォードは強かった。

 兵士二人と鍔迫り合いになったがどちらも瞬殺だったと言える。

 両手で持った剣を巧みに扱い、相手の手元から剣を弾き飛ばす。

 そして、丸腰になったところをズブリだ。


 カインも綺麗な体捌きで相手の攻撃を受け流す。


 だが、一人の兵士がカインの元から逃れる。

 

 そして...






 僕の方へ向かってくる?




 「うわァァァァァァァァァァ!!!」


 唐突な出来事に叫び声を上げてしまう。

 

 (き...斬られるっ!)


 目を背けたところでエルフォードが横から助けに入り、兵士を斬りつける。


「アオ!すまない!無事か!?」

  

 カインが敵兵士を倒し、駆け寄ってくる。


「な...何とか...」


 危機一髪だった。

 カインが強いのは知っていたし、エルフォードもいま見て強さがわかった。

 それゆえに油断してしまっていた。

 もっと危険予知に努めるべきだった。

 努めたところで何ができるという話なのだが。


「ありがとう。エルフォードさん...」


「あぁ。いいってことよ。...なぁカインよぉ。俺を疑うのはわからなくもないが、自分の守るものを疎かにしちまったら本末転倒だぜ?」


 カインは自分の不手際を恥じているかのような表情をしている。


「えぇ.......アオを助けて頂いて感謝します」


 カインは頭を下げた。


「...やっぱガキんちょは素直な方が可愛いげがあるな!まぁ、元はと言えば俺が巻いた種だ。あんま気にすんな」


 そう言い、エルフォードはニッカリと笑った。


「とりあえずここから離れるか」


 エルフォードの提案により急いでこの場を離れることにした。


「ーーーところでお前らはこれからどうすんだ?俺はローカスの町に向かうつもりだったんだが」


 そういえば、さっきカインとどうするのか話している途中だった。


「僕達もとりあえずそこへ行こうか。イルムンドとアルヴァンドの領内を除けばローカスの町が一番近いので」


「じゃあ一緒に行くか」


 ローカスの町はイルムンドから北東の辺りに位置するらしい。

 とにかく町があるなら早く休みたいものだ。

 思えば起きてから苦難の連続だった気がする。

 

「とりあえず今日はこの辺で休もうか」


「小さいが川も流れてるしな」


 それなりの距離を移動すると、洞窟とまでは行かないが壁に大きく穴が空いている場所を見つけた。 

この場所を寝床にして休息を取ることになった。


 落ち着いて休める安心感でバッタリと横になるとすぐ眠りについた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「...アオ起きて。出発するよ」


「...........もう少し寝させて...」


「...ちょっとどいてろ...」


 眠い中、何やらエルフォードがうっすら笑っているのがわかる。


 エルフォードが水筒に入れた水を僕の顔面に掛けてきた。


「うわぁ!何するんですか!」


 あまりの冷たさに飛び起きた。

 恐らく、すぐそこの川から汲んできた水だろう。


「おら!川で用を済ましたら行くぞ!」


 エルフォードはまだうっすらと笑っている。

 

 (余り疲れが取れた気はしないけど、寝ないよりはましか...)


 冷たい川で顔を洗い体の汚れを流す。

 

 (あぁ...石鹸で体を洗って湯船に浸かりたい...)


 元の世界なら当たり前だっただろう。

 このようなサバイバルを経験したことはない。

 

「準備ができたのなら行こうか」


 槍を持って、カインの呼び掛けに頷き出発する。


「アオ。腹が減っているだろう。良かったら食べると良いよ」


 確かに、忙しい時間が続いていて忘れていたが腹ペコだ。

 

 カインが自分の腰に付けている鞄から乾パンのようなものを二枚渡してくれた。少ないが何も食べないよりはずっと良い。カインに感謝して乾パンを大事に食べた。


「ローカスの町ってどんな所なんですか?」


「僕らがいま歩いている山道なんだけど。この山沿いにある町で建物に高低差があって非常に美しい様式をしてるんだ」


 元の世界でも海外に似たような場所があったはず。とはいえ、行ったことがある訳ではないので楽しみだ。


「後はヤギの乳が新鮮で名産になっているね」


 今ならミルク一杯でも、目玉が飛び足すくらい美味しく感じるだろう。

 チーズも良い。

 アイスも良い。


「で、どのくらいで着く予定なんですか?」


「道中のことを考えると五日後くらいかな?」


「い...五日!?」


  想像していたよりも時間が掛かることに驚かずにはいられなかった。地面に直で寝るのは体に堪える。


「慣れてない奴が五日後と聞きゃあ堪えるわな」


「平原から行けば今よりずっと近いんだけど、そこはイルムンドの領内を通らないと行けない。兵士に出会ったり面倒なことになるのを避けるならこっちの方がいいんだよ」


 そういうことなら仕方ない。

 戦闘になるのも勘弁だ。

 ただ、五日も山道を歩くだけとは、億劫になる。


「まぁ険しい道を歩いた分だけ町に着いた時の酒がうまくなるってもんだ」


 休憩を挟みつつ、世間話で暇を潰しながらひたすら山道を歩く。




ーーーーーーーーーーーーーーー




「今日はここだな」


 まだ日は昇っているが、良い寝床が見つかったのでそこで野営することになった。


 通ってきた道は岩の薄茶色が全面に広がっていた。

 だが、この辺りから先はそれなりに緑が茂っていて木も生えている。


「アオバ。狩りに行くぞ!着いてこい」


「いいですけど ...狩りなんてしたことありませんよ?」


 カインに火の番を任せ、僕はエルフォードと今晩の食料探しへと出掛ける。


「狩りは手慣れて損はないぞ。今みたいなご時世じゃあ特にな」


 狩りにおいて、まずは観察することが大事だと念を押される。

 エルフォードの選んだポイントの岩影に隠れて息を隠す。


「こういう緑の少ねぇとこに手製の罠を置いても時間の無駄だ」


 エルフォードに心得みたいなものを教えられる。     

 

 その後、獲物を見つけたのか槍を寄越すよう言われ、音を立てないよう慎重に渡す。


 兎のような獲物を発見したエルフォードは気づかれないよう、岩影から近付いていく。

 エルフォードが槍を投げると獲物に当たったようで高く短い鳴き声を発して絶命する。


「一発で当てるなんてすごいですね!」


「まぁざっとこんなもんよ」


「手本を見せたからお前なりにやってみろ」とエルフォードが兎を拾い上げると槍を返してくる。


 僕も兎を見つけては槍を投げ。

 木に止まっている鳥に槍を投げ。

 巣穴に逃げ込んだ兎を炙り出そうとして、別の穴から逃げられる。


 そんなことを繰り返していると時間だけが過ぎ、成果は何も上げられなかった。


「鼻っからうまくはいかねぇよ。とりあえず町に着くまでは俺と狩りを続けるぞ」


「はい...」


 わかってはいたが、自分の不甲斐なさに悲しくなった。

 

「とはいえこいつだけじゃ足りねぇ」


 エルフォードは持っている兎をヒラヒラとさせる。首辺りから血が出ているのを見てちょっと気分が悪くなってしまった。こういうのに慣れるよう、エルフォードは狩りに連れ出してくれたのだろう。


 次は川へ行って魚を捕まえるよう言われる。

 斜面を少し下るとそれなりに幅のある川を見つけた。


「そこまで広くねぇから魚くらいは獲ってもらわねぇとな」

 

 エルフォードに一任されるがこれも上手くはいかなかった。

 槍で突こうとするが簡単に逃げられてしまう。

 槍を置いて手で掴みに掛かるが結果は変わらない。


「日が暮れちまうぜぇ」


 エルフォードは胡座をかいて頬杖をついている。

 眠そうな顔をして時々、欠伸までしている。


 しかし、日が沈みかけている為、不本意ながら助力を願い出ることにした。


「上手くいかないんでちょっと手伝って下さい」


 エルフォードに追い込み漁の提案をすると「仕方ねぇな」と渋々立ち上がった。


「ほら、行くぞ」


 ちょっと雑だが、足を水面に叩きつけながら協力してくれる。


 岩影の間に逃げ込んだ魚を槍で思い切り突いた。

 槍には食いでのある大物が刺さっていた。

 だが、三人分の腹は満たないので、「あと一回」とエルフォードにお願いする。

 彼は渋った態度を一回挟むが、結局は手伝ってくれる。

 顔に似合わず面倒見がとても良い。


 エルフォードの協力込みではあったが、突きのコツを掴んだのか、泣きの一回で三匹引き捕まえることに成功した。


 「どうですか!」と少し興奮気味にエルフォードに詰め寄る。

 こういうアウトドアは余り経験がなかったので思わず感情が高まってしまった。


 「全く...」と詰め寄った僕に後退りしながら呆れた仕草をするが、顔は薄笑いしている。


 後退りしたエルフォードが小岩に躓いたのか、後ろに手をついて転んでしまう。


「ははは!エルフォードさんもそういうことがあるんですね」

 

「こういうこともあるんだよ!俺にも!そもそもお前のせいだろうが!」


 声を少し荒げるが、薄ら笑いで返してくれる。

 やはり、人は見かけによらないと改めて実感した瞬間だった。

 

 既に日が沈みかけていて、暗闇が迫っている。

 お互いすっかりズブ濡れた服のまま、カインの待つ寝床まで戻った。

 

 カインは火の前で武具の手入れをしていた。


「二人とも随分と頑張ったみたいだね」


 恐らく濡れている服を見てそう思ったのだろう。

 

「こいつがもう少し大人だったら俺は無事だったんだがな」


 エルフォードが装備を外して、脱いだ服を火元で乾かしながら軽口を叩いてくる。

 カインに成果を見せると「すごいじゃないか」と喜びを表してくれる。

 

 エルフォードの捕まえた兎はカインが捌いてくれた。

 残りの魚は木の枝に刺して焼いただけの簡単なものだったが、久しぶりのきちんとした食事に満足感を覚える。


「お前はなんでイルムンドなんかに来たんだ?」


 食事を済ますとエルフォードがそう訪ねてきた。


 少し、沈黙した後。

 「カインには誤魔化していたが」と前置きしつつ、自分が違う世界。異世界から来たことを二人に話した。

 

 距離も縮まったし、エルフォードが軽口叩いてくるくらいだろう。そう思っていた。

 

 だが、二人の反応はあっさりとしたものだった。

 

 そういう魔術なんかがあってもおかしくはないだろうとのことらしい。


 僕も以前そう思っていたので、そういう認識で合っていたようだ。

 

「それにしても大変だね。家族も心配しているのでは?」


 カインにそう言われて家族のことを思い浮かべる。




 しかし、いくら思い浮かべても出てこない。

 前から思ってはいたのだが、ある程度の記憶はあるものの、何か大切なことは色々と抜け落ちている。


 考えごとをして黙り込んでしまう。

 

「お前の元居た世界っていうのはどういうとこなんだ?」

「まぁお前の成りを見るに豊かで退屈な場所なんだろうな」


 静まり返ってしまった中、バツが悪くなったのかエルフォードが口火を切った。


 僕は、この世界と比較しながら元の世界について語った。


 二人は、驚いたような表情とわからないという不思議そうな感情で食い付いてきた。

 飛行機で空を飛べることやスーパーやコンビニのような、この世界に無さそうなものについて話すと一層盛りがった。


 長い時間語り合ったところで、全員が適当な場所で横になる。


「今日は星が綺麗だね」


 カインは、夜空を見上げてそう口にした。

 

 そう言われ、空を見ていると星がいくつも流れているのを見つけた。

「僕のいた国では流れ星が流れている間に願い事を三回するとそれが叶う。かもしれないって言われています」


「へぇそうなんだ。こっちでは死んだ人の未練が無くなって消えていく際に放つ、最後の輝きだと言われているね」


 海外では死に関連したものもあった気がする。

 こっちに来てからのことを考えると、星になった人達に対する言い伝えになるのも頷ける。


 星の話をしてから無言になったエルフォードの方を見たカインは「もしかして願い事してます?似合わないですね」と笑って揶揄った。

 エルフォードは「放っとけ...!」とあっちを向いて、眠りにつく。


 僕も段々と眠くなり夢の中へと落ちていく。


 今日は良い一日だった。






ーーーーーーーーーーーーーーー






 次の日の朝も各々が支度するとすぐに出発した。 


 道中では昨日の続きで、僕が元居た世界の話をしながら暇を潰していた。


 


 

 

 しかし、話をしている途中で何かの気配を感じたのか、カインとエルフォードが突然立ち止まり剣に手を伸ばす。


「山道を選ぶべきじゃあなかったかな...」


 カインは、自分の選択に後悔をしているかのようなことを口にする。




「この道を選ぶことによって自分が思慮深くいたつもりだろう...」


 

 

 この声には聞き覚えがある。

 冷たく人を嘲るような二度と聞きたくはなかった声だ。



 

「だが、鼠の考える道理ほど単純で明快なことなど存在せん」

 

 声の主が前方の岩影から姿を表す。

 右目には黒い眼帯をしていて、前とは違っているがその顔はハッキリと覚えている。






 ーーー【乱神】バンファン・ディグルス...!






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