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起死回生の青  作者: ソノシラベサイン
逃走の果てに

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3/6

火中戦乱

 兵士達が絶叫のような咆哮を口にして駆け出していく。背後から突進するように自分の体へとぶつかり思わず前のめりに転倒してしまう。


「アオ!!!立ち止まるな!!!」


 唖然としていたが、カインの声で我に返り棒のようになっていた足を前に出す。走り出したカインの後ろを無我夢中で追いかけた。

 

 つもりだった。

 カインが直ぐ様こちらへ引き返し、僕の体を抱くようにして盾を上空へと構える。

 すでに敵軍から放たれていた矢は、周りの兵達の体を貫いていた。


 続け様に、一筋の白い光の線が自軍の中央へと真っ直ぐに伸びているのが見えた。


 次の瞬間、爆音と共に白い閃光が辺りを包み込んだ。目の前が見えなくなるほどの眩しさと飛んでくる石礫に思わず両腕で顔を塞ぎ混んだ。


 目を開けると、白い爆発が起きた場所には巨大な穴が空いて、そこにいた数百人。いや、千人程の兵士が跡形もなく姿を消していた。



 

 しばらくの静寂が訪れーーーー




「散開しろォォォォォォォォォォォォ!!!!!」


 

 叫び声の主はミハイルだった。

 ミハイルの声に兵士達は

「こんなのは聞いてないッ!」

「逃げろォ!」

と散り散りに逃走を図る。


「アオ!こっちだ!」


 左腕をカインに掴まれ右側の森へと引っ張られていく。

 その間にも光の線が自軍側へと飛んできては爆ぜる。

 何も考えることができず、カインに連れられるまま森を駆けていく。


 しばらく夢中でカインの後を追いかける。

置いて行かれないよう、付いていくことだけで精一杯だった。


「くっ!」


 カインが急に立ち止まった為に自分の鼻がカインの背中に押し潰される。

 何事か、とカインの背後から恐る恐る覗き見ると、アルヴァンドの兵士と思われる二人の男がいた。

 男達は、倒れ混んでいる兵士に幾度となく剣を突き刺している。

 

 すでに、カインは剣を前へと突き出し身構えている。


 こちらに気づいたアルヴァンドの兵士達は

「また獲物が逃げてきたな」

「俺がやっていいか?」とまるで狩りをしているかのような物腰で近づいてくる。


 一人の兵士が走りながら両腕で上段に構えた剣をカインへと振り下ろす。


 カインは、自分へと放たれた剣閃を左腕に持っていた盾で受け流すと、右腕に持っていた剣で相手の喉元を深く突き刺した。

 

 その様相に、もう一人の兵士は目を丸くしていた。

 すぐに怒りの言葉を口にしながらカインへと斬りかかる。

 

 横凪の剣撃を繰り出した相手より先に、盾で相手の顔面を殴り抜いたカインは、すでに生き絶えている兵士の喉から剣を引き抜き、そのまま倒れ混んだ兵士の喉元へ横に一閃した。


 喉を切り裂かれた兵士は悶えながら自分の首元を両腕で押さえ込んでいる。

 しばらく体を暴れさせていたが、次第にピクリとも動かなくなった。

 

 始めて目の前で起きた苛烈な死だったが、一瞬の出来事で思考が追い付かない。


「まだ立ち止まっちゃいけない!」


 考えることもできず、走り出すカインの後を必死で追いかけることしかできなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 一体どれくらいの時間、足を動かしていたのだろうか。山の麓に近いからか、草木の生い茂る森の中は起伏が激しく、足を取られ、体力を失っていく。             

 恐らくそれほど時間も立っていないし距離も稼げていないだろう。


 誰かが火計を用いたのか、気づくと森の至るところから火の手が上がっていた。

 すでに日は落ちきっていて、燃え上がる炎が辺りを煌々と照らしている。


 またしても、目の前でカインが立ち止まり剣を構えた。


「待ってくれ!イルムンドはもう終わりだ!降伏する!命だけは助けてくれ!」


カインの目の前には二人の男が両腕を上げて立っていた。


「あなた達はイルムンドの兵士か!?」


「もしかしてお前らもか!助かった!どこへ向かったら逃げられるんだ!」


 どうやら二人の男はイルムンド側の兵士だったようだ。安心したかのようにこちらへ駆け寄ってくる。



 突如、右側から風を斬るような音を出しながら「何か」が近づく。

 


 気づいた時には、目の前にいた男達の首が宙を舞っていた。


 その「何か」は回転しながら燃えている木を二本斬り倒した後、三本目の大木に突き刺さって止まる。


 大木に刺さっていたのは『斧』によく似ているが少し違う違う。

 

 俗に言うハルバードだ。

 そのハルバードは凡そ3メートル程はある。


「鼠がこんなところまで這いつくばってきたか」


 ハルバードが飛んできた先から人影が近づいてくる。カインは剣をそちらに向けたまま警戒の姿勢を崩さない。


 燃え上がる炎でできた影の奥から男が姿を表す。 


 全身が黒の軍服のようなものを身に纒い。

 首から十字架を下げていて。

 長身で恰幅が良く。

 髪を後ろへかきあげている。

 冷たい瞳はこちらを人間として認識していない。


 男は、自分の長身よりもさらに長いハルバードを軽々と持ち上げ、こちらへと向き直る。



「その顔は覚えがある...」

 


 カインは男の顔を見て驚愕する。



「【乱神】バンファン・ディグルス...!」


「貴様のような鼠にまで知られているとは...。人を夢見た鼠共には毎度驚かされる。」


「...帝国軍の部隊長がこんなところで何のご用ですか?」

 

 【乱神】へ質問を投げ掛けるカインの額には一筋の汗が流れていた。

 燃え上がる火の手の暑さによるものか。

 相対する敵への畏怖によるものか。


「わかるだろう...?これから死んでいくだけの下等生物が知ることなど何もない」


 突然生えてきたかのような、手元から伸びるハルバードがカインの頭蓋目掛け、目では追えない早さで振り下ろされる。


 カインには見えていたのか、頭上ギリギリで身を横に躱しつつ。斧部分の平面へ盾をぶつけ、受け流した。


 地面を叩きつけるその衝撃は、土の床を大きく抉り、突風を生み出す。

 

 目を瞑り、顔を覆わなければならない程の衝撃につい。


「に...人間じゃない...」


 自然と口にしてしまっていた。

 僕の知る限りでは、誰がやってもあんなことにはならない。


 カインは、隙ができた【乱神】の顔面へと剣を突きにいく。


 しかし、それよりも早く、ハルバードが下から斜め上へ、カインの脇腹目掛け、凪払われる。

 盾で往なした、カインは【乱神】から距離を取る。

 しばらくは、それの繰り返しだった。

 攻守は直ぐに切り替わり、お互いの攻撃は決定打とならない。


 だが、力負けしているカインの息が徐々に上がっていくのに対して、【乱神】は淡々とカインを追い詰めていく。


「あなたの力は噂以上に厄介ですね...。一つ一つの攻撃に死を感じるよ...」


「私が授かりし『平定』の力の前でよく立っているものだ。ただの鼠ではなかったことは認めよう。だが...。子鼠を見捨てられないお前はここで命を落とすのだ」


 【乱神】が地面を見たことのない強さで蹴り飛ばし、猛スピードで僕の方へやってくる。

 すでに上段へ構えられたハルバードが目に入り、腰を抜かしてしまった。

 ハルバードは振り下ろされ、迫ってくる死に思わず目を閉る。


 しかし、ハルバードの斧先が自分へ到達することはなかった。

 正面に割って入ったカインが盾と剣で受けたからだ。


「通常。私のハルバードを受け止めることは不可能だ。貴様も選ばれたようだな」


 カインから返答はない。歯をギリギリと食い縛り、【乱神】の振り下ろしたハルバードの力に耐えている。


「貴様の行為は自らの死を遅らせているだけだ」

「帝国支配のもと、世界の秩序を安定させる為テイエナより選ばれた私には遠く及ばん!」


 【乱神】が更に力を込めると、カインの片膝が地面に着いた。

 段々とカインの体が地面に押し込まれていく。

 正に絶対絶命の構図だ。

 


 僕は見ていることしかできないのか?


 

 

 突如として【乱神】の右目に槍が刺さった。

 いや、僕が【乱神】の右目に槍を突き刺したのだ。


「ガッ...アァァァァァァァァァァァ...!」


 【乱神】はハルバードを落とし、貫かれた右目を両腕で押さえて呻き声をあげる。


 自分でも、何故こんなことをしたのかわからない。さっきまで槍を握っていたことも忘れていたのに。

 ただ、『カインがやられれば自分も死ぬ。』

 確信した恐怖が逆に体を動かした。


 まだ、片膝をついているカインと目が合う。

 合図もなかったがお互いすでに駆け出していた。

 燃え盛る炎の間をすり抜けて、息絶え絶えで走り抜ける。

 通ってきた道は、燃え尽きた大木が倒れて道を塞ぐ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 走り続けた末、森だった場所を抜け出すことができ、安堵する。

 

 森を抜けた先は上り勾配になっている。

 山へと差し掛かる坂は岩肌が露出していて非常に歩きにくい。


 少し落ち着いてきたからか、槍で人を刺した感触が手に滲んできた。

 思い出すと気分が悪くなる。


「さっきは有り難う。危うくぺしゃんこになるところだったよ」


「いや...カインがいなければ、僕はすでにこの世にいなかったかも...」

 

 あの時【乱神】は、僕が何もできないと認識し、油断していたから槍が通った。

 

 そうでなければどうなっていたことか。

 

 体勢を立て直した【乱神】にやられていたか。

 炎に行く手を阻まれて焼かれていたか。

 

 どちらにせよ運がよかったのは確かだ。


「あのバンファンっていう人は何者なんですか?」


「彼は『平定』の加護で常人の何倍もの怪力をしていて、脅威的な力を帝国の為に振るう姿から【乱神】と呼ばれるようになったんだ。噂では帝国の国攻めによって落ちたエルダン王国は、バンファンを筆頭とした遊撃部隊の力によるものがほとんどだったと言われてるんだ」


 あの力は怪物と呼べるほど脅威だったのは明らかだ。

 

 しかし、そのバンファン相手にカインは一人でやり合っていた。


「バンファンはカインが選ばれたと言っていましたけど...」


「うん...。実はね。僕にも『テイエナの導き』があって加護を授かったんだ。どこからどう広まるかわからないから君にも隠していたんだ」


 加護を授かっている人間の力がどれほどのものかは、さっきの戦いを見てわかった。

 フリーの傭兵であるカインにとっては、加護の力を求めて勧誘してくる者や始末しようとする者もいただろう。

 この世界の状態を見ると僕でもそういったことを考えることができる。


「幼少の頃、真っ白な世界で誰かが遠くから声を掛けてくる夢を見たんだ。内容はわからなかったけど、目が覚めると加護を授かっていて、何故かその力の使い方も直ぐにわかった。その時見た夢が『テイエナの導き』だったんだ」


 (じゃあ、声を掛けてきたのは神であるテイエナだったということなのだろうか?)


「僕が授かったのは『守人』の加護。自分や自分の触れているものに、見えない鉄壁の壁を作ることができるんだ」


「バンファンの攻撃を受け止められたのは、その『守人』の加護によるものだったんですね」


「そうだね。色々と制限はあるけど全ての衝撃を限りなくゼロにすることができるんだ。最後はバンファンに壁ごと押し潰されそうになったけどね」


「制限と言うのは?」


「壁を張っていられるのは二十秒までで、その間は魔力を消費するんだ。それと壁で受けた力が強ければ強い程、魔力の消費量も上がっていく」


 加護は万能ではないことがわかった。

 カインが攻撃を受け流していたのは加護の力を使わず、魔力を温存していたからだ。


「バンファンも同じだろうね。加護の力を使っているときは魔力を消費しているし、力の強さを上げる程魔力の消費量も上がる」


 (つまり、バンファンも加護の力を使っていない時や魔力が尽きた時は普通の人と同じということなのか..)

 

 そういえば、戦場で見た白い光の爆発も誰かの加護の力によるものだったのだろうか。

 

 それはそうとしてーーー

「カイン。これからどうするんです?」


 自分の中では、当然の疑問だ。

 行く宛もなく、そもそもどこがどこなのか全くわからない。

 なのでカインに頼る他ないのだ。


「そうだね。ここから近いのは.........」


 何かに気づいたのか、話している途中でカインが僕の体を後方へとやり、自分の体で隠す仕草をする。


「......アルヴァンドのグズ共がぁ...。ハァ...。残らず血祭りに上げてやる...」


 剣を握りしめたままフラフラと目の前を歩いているのは、自分達の隊長であるミハイルだった。

 

 身に付けている甲冑は所々ひび割れていて、それに泥だらけだ。

 後ろで縛ってあった髪は解けてあり、左目の上から血を流している。


 ミハイルはこちらに気づいて振り返ってくる。


「.........その黒髪。キャンプで見たな...。お前達、丁度いい...。これからアルヴァンドのクズ共に目にものを見せてやるところだ...。総隊長殿もまだ戦っておられる。付いてこい!」


 カインは僕を守るようにしたままピクリとも動かない。


「...お言葉ですが」


 ミハイルに向かってそう言い放ち。

「あの惨状を見ていたでしょう。最早イルムンドに為す術はありません」


 その言葉を聞いたミハイルは、疲れきっていたような顔を怒りの形相へと変える。


「我が国を裏切る気かァ!傭兵風情の虫共がァ!」


 あの美男子の面影もない。

 

 と思っていたが、冷静さを取り戻したのか。

 静かに会話を続ける。


「...ハァ......ハァ.......まぁいい...。所詮どこへでも蜜を吸いに寄るだけの虫共だ...。我が国を害する前に...」


 そう言うと。

 斬るのではなく。

 突くためのような構えを取り。

 剣先をこちらへ向けてくる。



「ここで消すッ!」



 真っ直ぐ一歩目の足を大地へ踏み締め...



 


 たところでミハイルは前のめりに倒れた。

 ミハイルが居た場所の真後ろに人が立っている。


 見覚えがある。

 

 アルヴァンドとの戦いが始まる着前に話しかけてきた、顔と腕に無数の傷跡がある男だ。






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