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起死回生の青  作者: ソノシラベサイン
逃走の果てに

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2/6

開戦の刻

 後ろから声を掛けられ振り返る。


 そこには、赤みがかった茶色い髪の爽やかな青年が立っていた。歳は自分より2つか3つくらい上だろうか。背中には片手で持てる鉄製の盾と剣を背負っていて、服装は自分と似たような革の鎧を身に付けている。

それにしても背が高い。190センチはあるだろうか。真後ろから声を掛けられた為、顔を見るのに少し見上げなければならない。


「僕の名前はカイン。よろしく!」


「えーっと...アオバです。よろしくお願いします。」


「さっきのミハイル隊長への挨拶は見事だったね。見たことのない所作だったけれど、隊長が小言を言わずに吉備津を返すなんて」


  ただの敬礼をしただけだったのだが、高い評価を得ていたようだ。


「それより。君は僕よりも年下に見えるね。心配だったから声を掛けたんだけど余計だったかな?」


「いえ、そんなことありません。お気遣い頂いて」


「礼儀がなってるねぇ。弟にも見習わせたいよ」


(誉められるのはいい気分だけど随分気さくな人だなぁ)


「カインさんの弟さんも一緒に?」


「カインと呼び捨ててもらって構わないよ。僕も君のことはアオって呼ばせてもらうことにするよ」


「それじゃあ...カインの弟は一緒じゃないんですか?」


「それがね...僕は雇われ傭兵で各地を回ってるんだけど、ここに来る前に戦いの最中はぐれてしまって...-。弟は君と同じくらいの歳なんだけど...」


 カインは終始爽やかな話し方をしているが、かなりと言うか緊急事態さながらように思う。


「連絡を取ったりどこか集合場所とか決めてないんですか?」


「残念ながら会う方法がないんだよ。特に行く当ての無い旅をしているところだったからね。心配だけど弟も立派になってきた。だから探すより無事を祈って再開の日を待つことにしたんだ」


 携帯で連絡も出来ないなんて。

こうなったら簡単に出会えるほど世界は狭くないはずだ。何も情報が無いまま探しにいくのも無謀だろう。特にこの辺りは戦争の最中だという。


「アオはどうしてこの戦いに参加しているんだい?」


「.....目覚めたらここの療養所にいたですけど。それまでのことはあまり覚えてなくて...」


 少し考えた後にそう答えた。

別の世界から来たと言っても通じるのかわからない。だから素性を隠すことにした。ここには魔法があるみたいだから『人を召喚する』というような魔術もあるかもしれないが。


けれども、(まだ夢の中にいるんじゃないか?)


そう疑っていることもある。


「それは大変だね...戦闘の経験とかあるのかい?後は魔術が使えたりだとか」


「いやこれといってまったく...。魔法ってやっぱりあるんですか?」


「魔法を見たことがないのかい?確かに珍しいけどね。魔法っていうのは遺伝とか先天的なもので、生まれたときに宿っているものなんだ。それをどこかで自覚して初めて使えるようになる。」


 どうやら配給係の男と話している時に見た、『ローブを羽織った女性』が"杖から火を放った"のは見間違いや錯覚ではなく、魔法によるものだった。

しかし、勉強や修行で習得できるようなものではないと知り、肩を落とした。


 仮に異世界に召喚されたとしても、夢の中だったとしても、自由に魔法くらい使わせてもらいたかったものだ。


「あとは『テイエナの導き』。魔法と似ているけど、それとは別のもので神様から加護を授かるんだよ。」


「テイエナと言うと大陸の名前ですよね?」


「そうだよ。テイエナには神話があってね。」

わかり易くして話すとーーー。

 

 そう続けてカインはテイエナに関する神話について話してくれた。


 昔、悪魔が世界を支配するために人間を襲い始めた。

悪魔によって長く苦しめられる人々の姿を目にした神であるテイエナは人間達に力を授ける。

神授を賜った人間達はその力を使って遂に悪魔を討伐することに成功した。

世界の安寧を手に入れた人々は歓喜し涙を流す。

しかし、悪魔は滅んだわけではない。

今も深い闇の中からこちらを覗いている。


「というのが『テイエナの導き』のお話で、希に加護を授かることがあるんだよ。そういえばこの軍団の隊長の中には加護を授かっている人もいるみたいだね」


 神話の最後の方がやけにおっかない。まだ悪魔が諦めていなさそうだからテイエナは人に加護を与え続けているのだろうか。


「じゃあ僕に魔法を使える手段はないんですね...」


「こればっかりはね...。でも魔術を使う為の魔力は誰にでも流れているみたいだから、いつか自力で習得する方法が見つかるかもしれないね」


 それは一体いつ頃になるのか。非常に残念だ。


「魔法の話しはこれくらいにして、話を少し戻そうか。大規模な戦乱では腕っぷしに自信のある人でも生きて返ってくるのは難しい。戦闘経験がないのなら尚更ね。だから、戦いが始まったら僕の後ろについてくるといい」


「カインが僕のことを守ってくれると?」


「できるだけ、ね。本意でここに来たんじゃないのなら逃げ出すことをおすすめしたんだけど...」


 カインは何か裏があるようなことを思わせる風に声を濁らせながら続けた。


「戦地外にも兵士が配置されているから逃げ出してもすぐ連れ戻されるだろうね。それにこの戦いには帝国が一枚噛んでいるかもっていう噂が耳に入ったんだ。それを聞いてからなんだか嫌な予感がしてね。帝国の兵士もうろついているとしたらかなり厄介だよ」


 結局、戦場に出て勝利し生きて返ってくるしかないということなのか。言葉にすれば簡単だが実際難しい話なのだろう。


「僕も全身全霊で望む気はないからね。のらりくらりとやるつもりだ。君はそのついでに親心ならぬ兄心で助けになろうかなって」


「それじゃあ...お言葉に甘えさせてもらいます」


 話の途中で、何やら遠くから鐘の音が響いてきて辺りが騒がしくなる。


「随分と早いね。アルヴァンド側に動きがあったみたいだ。行こうか。」


 カインに連れられ歩を進める。周りの人達も同じ場所へと慌ただしく向かい、自分の隊の隊長ミハイルも荷運びする者に急き立てている。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 辺りの様相を見渡しながら歩いていると、開けた

場所へと出た。左右には木々が生い茂っており、それを山が囲んでいる。その中央の道には、決戦場と呼ぶに相応しいほどきれいに一本の線があり、まだ落ちきっていない日の光が決戦場を照らしている。


「第三隊の配置はこの辺りだね」


 カインは自陣最前列の右翼辺りで立ち止まる。その間も兵士達がそれぞれの持ち場にやってくる。1万人は越えているだろうか。


「アオ、君のことを完全に守ってやることは難しい。戦場じゃ簡単に見失うことになる。できるだけ僕の背中をぴったりとついてくるんだ」


 そう気に掛けてくれているカインに頷き返して返事をしようとしたところで、野太い威圧感のある大声が聞こえてきて鼓膜を震わせた。


「アルヴァンドの虫共に動きがあった!!!これから貴様らには命を賭して虫共の駆逐にあたってもらう!!!虫1匹足りとも我が祖国イルムンドへと立ち入らせるな!!!」


 その号令に戦場にいたものは鼓舞し剣を掲げ猛り出す。

先ほどの声の主は、自分をベッドから蹴落とした金鷲の甲冑男だ。


 周りが騒々しい中、カインが左側から自分の耳元へと顔を近づけて話しかけてくる。


「今のは、オレガン総隊長だね。金色の鷲を掲げることを許されたのは彼1人だけみたいだ」


 あの金鷲の甲冑男はオレガンという名らしい。その横には自分の隊長ミハイルもいる。

さらに、ミハイルと同じように左胸に白い鷲が描かれている甲冑を着た男が二人いる。カインによると残りの二人が白鷲第一、第二の隊長らしい。名前は第一の隊長がイヴァン。第二の隊長がモーガンと言うらしい。


「...カインは怖くないんですか?」


 カインに突然質問をぶつけてしまった。前方では各隊長が演説しているようだが耳には入ってこない、自分が周りの威圧感に押し潰されそうになっているからだ。


「う~ん怖くはないかな?何度も経験はあるしね。勿論戦いが始まれば油断はしないよ。」


 カインは出会った時と変わらない態度であっけらかんとしている。


 その時、地鳴りのようなものを感じた。


 遠く離れた向こう側から赤い旗をいくつも掲げながら軍隊が行進してくる。アルヴァンド側の兵もこちらと同じ、1万人ほどはいるだろうか。全員が洗練されていて踏み出した足に一寸の狂いもない。それが地響きとなってこちらまで聞こえてくる。

やがて行進が終わり、向こう側の軍が立ち止まると静寂が訪れた。


「怖いかい?仕方がないことさ。僕から離れないよう全力でついてくるんだよ。」


 カインは優しく声を掛けてきた。その声に小さく頷き返す。


「ハっ!なぁにビビってやがる。そんなんじゃあ守ってもらったところですぐにおっ死んじまうぜ」


 カインの前方にいた男が憎まれ口を叩いてきた。男は右手で持った剣を右肩に乗せている。

茶色の短髪に顎髭を蓄えていて40代前半に見える、その男の袖から見える腕と顔には無数の傷痕が痛々しくついている。


「ご心配痛み入ります。しかし、まもなく戦いが始まりますので、ご自分の身を案じたほうがよろしいのでは?」


 カインは憎まれ口を叩いてきた傷だらけの男にそう返す。


「かわいくねぇガキんちょだなぁ。まったく」


 そう言うと傷だらけの男は前方に向き直る。それと同時に、総隊長オレガンが指揮を上げる演説に静寂していた場が再び沸き上がる。


 アルヴァンド側の兵も熱を帯びたのか武器を天へと掲げ雄叫びを上げる。


「アオ、始まるよ。僕についてくることだけを意識するんだ...。アオ?聞こえているかい?」


 カインが何やら呟いているが、耳に入ってこない。

聞こえてくるのは周りの怒声と雄叫び、神への感謝の声。乱雑な音が脳を大きく揺らす。それが反射し、震える足元から来る地鳴りが心臓の奥へと大きく響く。


 そして、アルヴァンド側の上空から火の球が戦場の中心へと落ちていきーーー。


ーーー爆音が響く。


「出撃せよッ!!!」


 総隊長オレガンの掛け声に一斉に走り出す。自分の中でどこかふわふわしていたものが目の前の光景に弾け飛んだ。



(ここは...夢なんかじゃない...。現実なんだ...!)







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