目覚めは戦地の中で
(なんだか騒がしいな...)
ゆっくり目を開けると天井にランタンがぶら下がっているのが見えた。目を擦りながら体を起こす。
「えっ?なんだ...ここは...」
目覚めたばかりだが、辺りの光景に眠気は一気に吹き飛んだ。
自分が本来いたはずの場所とは全く違うからだ。人が大勢いてそれらの人が日本人ではなく別の国の人のように見えた。
それにしても服装がおかしい、ゲームやアニメで見たことあるような戦士や傭兵のような服装で剣に槍、弓を持っている人がそこらを歩いている。
どこか中世のようなイメージを感じる。
「ははは...これは夢だ。昨日はファンタジー・ザ・ファイナルをした後に寝たからな」
そう、確かに昨日の夜はゲームをした後、学校に行く準備をしてベッドに入って眠ったはずだ。
こんな、土埃が舞ってる場所でなんか眠ったはずはない。
ふと、すぐ近くで誰かが誰かを罵倒するような声が聞こえた。
そちらを見ると左胸に金色で鷲のようなシンボルが描かれている西洋風のゴツゴツしすぎない甲冑を着た男が「使えない奴だ!」などとベッドに横たわる男性へ悪態をついていた。
良く見渡して見ると外の見えるひらけたテントの一室の中にベッドが並んでいる。包帯を巻巻いて怪我をしていると思われる人達がそのベッドに横たわっている。
その内の一人は......右足がない...?
まさかと思い自分の体を見てみるがどうやら自分の体は無事みたいだ。
思いがけない光景に焦りを感じていると先ほどの金鷲の甲冑男がこちらにズカズカと近付いて来て自分の正面で立ち止まった。
「貴様はどこか怪我でもしているのか!」
元より大柄で強面なのに眉間に皺を寄せながら大声で怒鳴ってくる声に思わず精一杯の声で返事をした。
「い..いえ!どこも怪我はしておりません!」
「武具は所持しているのか!」
武具...?当たり前だがそんなものを今持っているはずがない。そもそも生まれてから剣道の竹刀だとかエアソフトガンですら持ったことはないというのに。
「戦闘中に失ったのならまだ支給されたものが残っている。すぐさま受け取り部隊に合流しろ。」
何を言っているのかわからないが、金鷲の甲冑男が右の方を見たので自分も顔をやると樽に剣や槍が刺さっていて、それを配給係と思われる男が手渡しているのが見えた。
「貴様には前線部隊の赤鷲第三隊へ行ってもらう」
今度は金鷲の甲冑男が自分の後ろを指差す。そちらを振り返って見ると遠目に白い鷲の描かれた旗が掲げられている。
金鷲の甲冑男の方へ向き直る。状況が飲み込めずに呆然としてしまったが、これは夢の中だと思いだしハッと笑みがこぼれた。
ーーー瞬間、衝撃が走った。
ベッドが蹴飛ばされたのだ。肘を打ち、頬を擦りむいてうつ伏せで倒れ混む。
(痛い...。これは夢じゃないのか?)
確かに痛みを感じる。強打した肘を抑えた手のひらには血が付いていた。
「グスグズするな!軟弱者がっ!武具を受け取り次第早急に隊へと合流しろ...わかったか!」
「わかりました...」
夢だと思っていことが現実味を帯始める。
本来なら学校へ向かっていたはずだ。それが訳のわからないところに来た上に怒鳴られ蹴飛ばされる。
痛む肘を抑えながら武具を配給している場所へと歩を進める。とにかく金鷲の甲冑男に殴られでもする前に武具を受け取らなければならない。
武具の配給をしているだろう男に声をかける。
「すみませんが...何か武器をもらえませんか...?」
「......あぁ...剣か槍かどっちだ...」
配給係の男は覇気のない声でそう聞いてきた。その質問に元いた世界の記憶を呼び起こした。
昔の日本の合戦でも町民なんかの素人は、刀で戦うよりもリーチのある槍を持たせていたとあった気がする。
素人が近付いて振り回すより遠くから突く方がいいのは当然といえば当然ではある。そして、自分は紛れもない素人だ。
「槍でお願いします...」
「......武器もそうだが...お前のその格好じゃ駄目だな...着るものを持ってきてやる...体つきは.........普通だな...」
男にそう言われて自分の格好を確認してみると、上下グレーのスウェットを着ていた。家で寝ていたのだから仕方ない。
少し待っていると配給係の男が戻ってきた。
「服と防具を持ってきてやった...着替えろ...」
少し汚れているが動きやすそうな服と右側に肩当ての付いた革でできている鎧を渡してきた。後はブーツに肘当てと膝当てもおまけしてくれた。
回りの目を気にしながら受け取ったそれに着替えてみたところ「おぉ...」と声に出してしまった。着てみると一端の戦士になったかのようで高揚感を覚えたて心が弾んでしまった。
着替えている間に配給係は槍の刺さっている樽から何やら品定めをしているようだ。
周りを気にする余裕がなかった為か、配給係の男を良く見てみると右腕がない。だから配給係なのだろう。目は虚ろで。伸びきった髪も髭も手入れされていない。
配給係の男が品定めした槍を手渡してくる。
「ここにある物は使い古した物しかない...防具もそうだがなるべく良いのにしておいた...本来お前のような奴には相応のものを渡すんだが...」
遠回しに「お前はすぐやられて死ぬだろう」と言われているような気がした。
受け取った槍に目を向けると先端の光が目に映りゴクリと喉をならす。
同じ槍でも魚なんかを突くのではなく、人を突くための道具を握ったからだ。
ふと、回りを見渡すと様々な人が慌てながら動き回っているのが目に入った。
何かを指示している人や何かを運んでいる人。武器の手入れをしている人。
再び持っている槍を見てみると少しずつ恐ろしい気持ちになってきた。本当にこれから戦うのか?
だが、何と戦うかもわからず、全ての状況を理解しきれていないので頭に空白がある感じだ。
そもそも、ここがどこかすらもわかっていない。
「まだ若いな...若いのは随分減ってきた...それにあまり見かけない顔だ...名前は何と言う?」
配給係は物珍しいそうに尋ねてきた。
確かに自分みたいに黒髪の人間は見かけないしほとんどが明るい髪色をしていて目鼻立ちもくっきりしている。
自分で言うのもなんだか顔は普遍的で持ち出す特徴もないのが悲しくなる。
「咲守青葉です」
「サキモリアオバ...この国の人間ではないように見えるが...どうしてこんなところに来たんだ...?」
日本語が通じているが、実は自分が寝ぼけていただけで家族旅行に来ていて親が企画した寝起きドッキリでもしているのかもしれない。
「それについて少しお聞きしたいことがあるのですが」
せっかく話を聞ける相手ができたので質問を投げ掛けてみる。
「なんだ...」
「ここは一体どこなんですか?」
とりあえず自分が今一番知りたいことを聞いてみることにした。
「..........寝ぼけているのか...?そういえば先ほど療養所で一悶着起こしていたな...」
どうやらベッドから蹴落とされたところを見られていたようだ。
配給係の男はため息をつきながらも話を続けてくれている。
「まぁいい...ここは南の国イルムンドだ...」
イルムンド?聞いたことがない。そんな国は存在していないはずだ。
「それと今ここでは何をしているんですか?」
続けて、目覚めてからすぐ槍を持つことになった原因について質問した。
配給係の男は呆れたような解せないような不思議がかった顔でこちらをジッと見つめてくる。
「...どうやら余程の田舎から流れてきたようだな...どこもかしこも戦争でお前のような放流者はここにも大勢いる...」
配給係の男は一見、生気がないように思えるが見た目とは裏腹に親切で、投げ掛けた質問以外のことも事細かに説明してくれた。
聞いた話を自分の中で要約してみたところ。今いる場所はテイエナ大陸という大陸で、この大陸は海に囲まれていてほぼ円形状の形をしている。
大陸の中央には帝国が存在し、そこを中心に東西南北に現在8つの国が存在する。
帝国から南の位置にイルムンド王国とアルヴァンド王国があり、現在イルムンドとアルヴァンドは資源を巡り交戦中にある。
最北に位置する1つの国を除いてどの国も有事の様相を呈しているようで、原因は、帝国が周辺の資源を独占していることから始まった。帝国は1つの国を滅ぼし、1つの国を属国という名の奴隷国家に仕立て上げ、他国に対して圧力をかけている。
帝国の軍事力は絶大で、どの国も手を出すことができず、帝国を除いた国同士で資源の争いをしているというのが、この大陸の現状であるらしい。
(聞いたことない地名ばかりだ。それに王国だとか帝国だとか...)
頭を悩ましていると少し遠くで杖を持った女性が立っていて、その女性を囲むように人だかりができていた。
女性の目の前には木材が人の高さまで井桁型に組んである。女性は右手で杖を構え、杖から火の球を放つ。木材は燃え上がり、待っていたと言わんばかりに周囲の人達がその火を囲んで談笑する。
話で夢中になっていたが、日が段々と沈んできている。それに少し肌寒くなってきた気もする。
寒さもそうだが、自分の中で何かが引っ掛かっている気がした。そこで、目を閉じ、左手を肘に当て、右の拳を顎に添え、考える...。
「"杖から火の球を放って木材を燃やした"!?」
女性が先ほどいた場所に目をやったがすでにその女性の姿はなかった。
(あれは..."魔法"...?)
にわかには信じられない。しかし、すでに火種を持っていたようにもガスを使っていたようにも見えなかった。
(ここは自分のいた世界とは全く別の世界...いわゆる"異世界"へ来てしまったのでは?)
家のベッドで眠っていただけなのにそんなことある訳ないと困惑に頭を支配される。やはり夢を見ているのだろうか。
頭を悩ませているとすぐ隣から声が聞こえてくる。
「...ぉ...い.........おい...!聞いているのか?」
配給係の男が呆然と立ち尽くす自分に向かって応答を待っている声だった。
「あ...いやすみません何です?」
「どこへ配属されたのか聞いている...」
「赤鷲第三隊だとか言ってましたね」
「前線部隊か...」
残念そうな憐れむよう声でそう呟いた。
「...第三隊の隊長は『悪辣の貴公子』なんて呼ばれている。機嫌を損なわせなければあまり害は無いが気を付けておけ...」
(嫌な異名だな。何もされないと良いけど。)
「まだ顔合わせもしていないのなら早めにしておいた方がいい...どういう扱いを受けるかわからん...時間も迫ってきているしな...」
「そうですか...色々と教えて頂きありがとうございます。助かりました。」
まだ考えたいことはあるが自分の置かれた状況を詳しく知るには情報を得ることが大切だ。そう思いながらその場を立ち去ろうとしたところ。
「ちょっと待て...」
「どうしました?」
「この国は本当は良い国なんだ...あまり恨まないでやってくれ......気を付けてな...」
ここへ来るまでに金鷲の男に蹴飛ばされているのですでに良い印象を感じていない。だが、少なくともこの男は親切にしてくれた。
「...胸にしまっておきます。それでは。」
そう言い残して白い鷲の描かれた旗のもとへと歩を進める。
(それにしてもここは夢の中でなければ異世界になるのか...)
もしここが異世界だとして何かここに来る条件やきっかけがあってもおかしくないはずだ。だが見当もつかない。
あれこれ考えていると誰かを呼んでいるような声が聞こえた。
「おいそこの黒髪の男こっちへ来い」
声の主の方へ目を向けると、金鷲の甲冑男のように左胸に赤い鷲のシンボルが描かれている甲冑を着た茶色い髪の青年が剣をこちらへと向けていた。後ろで髪を縛っていて、顔立ちは整っておりスターモデルのようだ。歳は20代半ばくらいだろうか。
周りに完全な黒色の髪をした者は自分しかいない。剣を向けてくるので恐る恐る近づいていく。
「お前が大隊長の言っていた追加の兵士だな」
大隊長とは金鷲の甲冑男のことだろう。ここに来て会話をしたのは配給係とその男の2人だけだ。
「私は赤鷲第三隊の隊長を任されているミハイル・セブンスだ。お前には私の第三隊として前線に出てもらい私の指揮下で動いてもらう。はぐれないようここにいる第三隊の人間の顔をよく覚えておけ」
「アオバと申します!了解しました!隊長!」
とりあえず元気よく軍隊式の敬礼をしておいた。この人物が配給係の男が言っていた"悪辣の貴公子"だろう。まだ大隊長なる男に蹴落とされた時の肘が痛むので、下手に反感を買って暴力を受けるなんてのはゴメンだ。
「よろしい」
そう言うとミハイルは別の者の所へと向かっていった。配給係の男から聞いていた話より印象が違っているように感じた。
「ちょっといいかな?」
ミハイルの立ち去る姿を見ていると後ろから優しく左肩を掴まれ、声を掛けられた。




