第0話「報告書」
最初に、この話を見てくださった皆様、ありがとうございます。私、キロ・シエラと申します。今回、初めて小説を書かせていただきました。今回は自分が少しかじっていた軍事に関する話です(ホントに詳しい人からすれば鼻で笑われるのでしょうが)。昨今のきな臭い世界情勢、上がり続ける物価や食費......バイトの自分にはしんどいことばかりです。最低時給でもいいから労働環境しっかりしてる職場ねえかなぁ.........。
大統領官邸の執務室、その大きな机に座る男は、頬杖をつきペンを回していた。髪は白髪混じりのブラウン、ヘーゼル色の目をしたいかにも西洋人といった風貌の男だ。部屋にはパナマのゲイシャだろうか、気品あるコーヒーの匂いが漂っている。しかしその男、第48代大統領マイケル・バーンズは眉を寄せ、ただ机を睨んでいた。
「......何だ、これは」
「今朝、提出されたものです。一応目を通した方がよろしいかと」
「......はぁ......」
朝っぱらからどんよりとした気分にさせるその資料は政府効率化省からのものだ。〈国防総省の過剰な予算の報告及び提案〉というタイトルがついた3枚綴りの薄いコピー紙は、世界の覇権を握った合衆国にとって信じがたく、しかし画期的な提案であった。
―――『現在海外に駐留している全ての基地から、陸海空軍及び海兵隊を撤退させる。現役将兵は対テロの国内警戒に充て、海外派遣を行う特殊作戦軍及び情報収集のための部門に限定して予算を投入する』
「ふざけてるのか?こんなこと、国民が納得するわけ......」
「いえ、国民の反戦ムードを鑑みたものだそうです。捕虜虐待情報のリークやら、過去の米兵の婦女暴行事件の掘り返しやらが効いているのかと。」
「あぁ.....そうか」
なんでこんな重いものを朝食前に見なければならないのだろうか......いや、内容を考えると魅力的な提案だ。我が国はこれまで毎年数千億ドルもの防衛予算を中東やアフリカへの介入に投じていた。だが、1950年代から続いた現代の戦争において、「真に勝てた」ことがあっただろうか。ベトナムでは北ベトナム軍の攻勢に耐えられず敗戦、湾岸から対テロ戦争へと続く中東の紛争は今でも泥沼だ。しかし、あの混沌から我が国が撤退してしまえば中東は復興を待たずに崩壊してしまう――――というか何故こんな大事なところから経費を削減せねばならんのだ。この無駄に飾られたアンティークでも売り払って維持費を減らせば、多少は足しになるだろうに。
「連邦議会にも既に提出されたようですが、賛成が多数だったそうです。」
「早すぎないか?私は今見たばかりだぞ」
まあ、日をまたいでいないのならそこまで差はないのだが、こんな重大案件はシームレスに伝達するのが筋だろう。何をしているんだドージは。そんな事を考えているとグルルと腹がなる。朝早くに目が覚めて、そのまま書類整理をしたせいで腹が減ったのだ。
「少し、考えてみよう。飯を食えば妙案が思いつくかもしれん」
「ええと......コーヒーはいかが致します?」
「淹れたてはもったいないが、冷やしておいてくれ。私は猫舌なんだ。」
バーンズは補佐官にそう言うと、その書類から逃げるように、家族が待つ食卓へと革靴のカツカツという音を立てながら足早に歩いていくのだった。
2029年の春、各国のメディアに向けて、バーンズは「重大な発表」を行った。
「―――ひいてはアメリカ国民、そして世界のため、我々は我々は国家の主権を最大限尊重し、自立させる義務がある!」
この演説は新聞、テレビ、インターネット、SNSで瞬く間に拡散された。批判的な意見もあったが、反戦派の団体や一部の戦傷軍人、戦死者の遺族が同調し、もはや議論する者さえほとんどいなかったのだ。拍子抜けするほど大衆が静かだったことに不気味さを感じつつ、彼は執務室でドカッと椅子に腰かけた。
「......意外に質問が少なかったな。」
「ですね。もう少し野次が飛んでくるかと思いましたが........」
「何はともあれ、だ。これでしばらくはゆったりできるぞ。妻と旅行の準備でもするか?」
しかし、補佐官は真剣な目つきでバーンズを見る
「油断は禁物です。急ピッチで進めたとしてもおそらくあと3ヶ月は撤収作業で手いっぱいになりますよ?」
「ああ、それは分かっている。だが、気を張りすぎてもしょうがない。くっ、う~ん........」
彼は背伸びをし、「私は寝るから、誰も入れるな」と補佐官に伝え、そのまま机に突っ伏すようにして眠ってしまった。
ナショナル・モールのサクラが狂い咲く4月の日差しの中、そうやって「世界の警察」はいなくなった。
どうでしたでしょうか。え?「軍事の話はどこいった?」ええ!!!その通りです!!!!第1話には軍事なぞほぼ出て来ません!!!(ご安心くださいませ、しばらくすれば出てくるはずです)
茶番はさておき、この世界には争いは必要ないと思う一方、結局殺し合いでしか解決できないという言葉に納得してしまう自分がいるのも確かです。しかし、どんな戦争であろうと罪のない民間人を巻き添えにし、子どもであろうと動員する世界などあってはなりません。だからこそルールが、そして何より、そのルールを客観的に使える人が必要なのだと思っています。
こんなまとまりのない後書きですみませんが、気に入っていただけたなら幸いです。引き続きこの世界を楽しんでいってください。それでは、また
※追記:本文以外の前書き、後書きは時間の都合上各話でテンプレートを使用しています。時事ネタなどはあまりやらないので、ご了承ください※