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第6話 旅立ち

 今思えば、何日ぶりだろうな。自分のベッドで寝たの。

 夏休み中は研究に没頭してて、机の上で寝息立ててばかり。もしかしたら、ベッドで寝てない可能性もあるよな。

 通りで――


「一睡もできんかった!」


 瞼めっちゃ重い。油断したら、今にも倒れそうだ。


「大丈夫か? コーヒー……ってあるのかな」

「あぁ、心配は無用だ。眠気にうってつけの、とっておきがあるからな」


 俺は畑からアウェイクナッツをもいで、口に運ぶ。眠気スッキリ、とまではいかないが倒れそうなくらいの眠気は飛んだ。


「ん? それ、コーヒー豆そっくりじゃん。ちょっと待っててくれ」

「っておい、そろそろ学校に……」


 タカシのやつ、ゲート超えて何する気だ? もうすぐ家を出ないと、せっかくの旅立ちの日に遅刻することになる。

 でも、だからって置いてきぼりにするのも気が引けるしな。


「まったく。遅刻したらアイツのせいにすれば良いか」

「よっと、ごめんごめん」


 って早。なんか、見たことない道具を持ってるがなんだ?


「コーヒーメーカーだよ。その実、少し貸してくれる?」

「まあ良いが……」


 俺からアウェイクナッツを貰うなり、それを砕き始めた。

 そのまま粉状になったナッツをコップみたいなところに入れて、水を注いでいく。

 なんだ? アウェイクナッツで飲み物でも作るのか?


「あ、コンセントないのか……。これ、加熱とかできないかな?」

「加熱か? なら、これで良いか?」


 俺はコップに手を当てて、魔力を引き出す。基礎魔法の1つ、加熱魔法だ。

 水を沸騰させるくらい、あっという間だ。


「……お、そろそろか。カップは、これで良いかな。で、これを敷いてっと」


 タカシは俺の食器棚からカップを出して、それに蓋をするように紙を敷いた。

 にしても、なんだ? アウェイクナッツとは思えない、香ばしい良い匂いがする。


「それくらいで充分だよ。じゃ、これを……」


 加熱して真っ黒になった液体を、タカシは紙を敷いたカップへ注いでいく。

 紙には粉状になったナッツだけが残り、カップの中にはあの真っ黒い液体が湯気を立てて波打っている。


「砂糖ある?」

「砂糖ならいくらでも……でもこれ、どうすんだ?」


 って、俺が聞いてんのに答えないで、液体に砂糖混ぜてやがる。なんだ、これ飲めるのか?


「ん。実そのままよりはこっちのほうが美味しいよ」

「ほんとか? ゴクッ……⁉︎」


 なんだこれ……。苦いが、ナッツそのまま食べるよりはずっとマシだ。

 それなのに、脳天まで響く独特の風味。こんな飲み物、初めて口にした。止まらねぇ、やめられねぇ……!


「プハァ! なんだこれ、美味すぎる⁉︎」

「でしょ? ボクも大好きなんだ、コーヒー」


 これ、コーヒーっていうのか。あの苦いだけのナッツが、まさかここまで摂取しやすくなるなんて、考えたこともなかったな。


「で、眠気はどう?」

「そりゃあもうサッパリだっての。サンキュー!」


 やっぱ間違いじゃなかったな。異世界ならではの味と出会えた。俺にとってこれ以上にない刺激だ。

 今まで出会えなかったドキドキとワクワク。今、タカシがいてくれるから味わえる。


「なら良かった。で、本当にボクも調査団入って良いのかい? それに魔法を使ってみないかって」

「あぁ、それは後のお楽しみ。じゃ、行こっか」


 俺は杖と魔導書を持った。

 そして、しばらく戻れない家の中を見渡す。窓の外で風に揺られる、きのみ畑の木々。世話できないって考えると、ちょっと寂しいな。


「……そうだ」


 念のために、いくつかきのみを持って行っておこう。


「あ、ボクも手伝うよ。食料は多いに越したことはないもんね」


 そういうことだ。コーヒーをアイツらにも飲ませたいし、もしかしたら他のきのみでもタカシが面白い飲み物に変えてくれるかもしれないし。


 ※※※※※※


 支度を終えて、俺たちは校庭に集まった。

 既にラスカールにヴァイオ、ガリアは眠い目をこすりながら座り込んでいた。


「……案の定、フライズはいないか」


 やっぱアイツに早起きは無理か。まあ、そう言う俺もだが。

 一睡もできなかったのが、功を奏したな。


「あら、いるわよ? もうすぐ来るはず」

「でも、フライズくんって……だ、誰?」

「あやつはモンスターを手駒のように操る者のひとり。そして、神に選ばれし天才の友だ」


 ラスカールのやつ、どこで俺とフライズの関係知ったんだ? ルカンではフライズの話なんてしたことないが……。


『すまーん!』

『キュキュー!』


 ん? 学校の昇降口からアイツらの声……? なんで学校の中にいたんだ?


「いやー、腹壊しちまって。で、これからどうするんだ?」

「何って……何するんだ?」

「まったく、少しはスケジュール確認しなさいよ。今から、門出のお祝いよ。だから――」

『キシャアァァァ!』


 え、何今の。学校の裏山からだよな? モンスターなんて、いてもスライムみたいな雑魚のはず。

 それなのに、今のまるでケモノみたいな遠吠え……。嫌な予感がする。


「行くわよ。足手まといは置いてくから!」

「フン。このラスカール、(いくさ)の準備ならいつでもできている!」

「ぼ、僕は……」

「ほらヴァイオ。お前の風魔法、山なら大活躍間違いなしだって」


 ヴァイオにこう言うと、あーら不思議。

 魔法にかけられたように、人柄がかわっちまうんだよな。


「……いよっしゃあ、やってやるよ! 僕の本気、見せてあげる!」


 ってな具合にな。本当、ルカンのやつらっておかしなやつばっかりだ。

 でも、どうしたものか。魔導書の使えない俺が使える魔法なんて数知れてる。マジメにやりあえる相手なら良いが……。

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