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第5話 初めてのブキ(後編)

注意!


この話は後編なので、前編から読むことをオススメします!

 ガリアも加わり、ブキ作成の続きに取り掛かった。

 そういや、タカシのこと話してなかったな。


「あのさ、タカシのことだが--」

「言わなくても、格好で分かるわ。どうせ異世界でしょ?」


 え、なんで分かるんだよ。ゲートのこと、コイツに話した記憶ないんだが。


「あら、その顔を見るに図星ってわけね」

「あ、あぁ。ってか、リアクション薄くね?」


 普通驚くとこだろ。

 いやでも、普通って枠にとらわれないルカンの生徒なわけだし……。仕方ない、オーバーリアクションはヴァイオあたりにとってもらうか。


「それで、ブキってどういうものなのかしら?」

「なんでもモンスター退治に使う道具らしいぜ!」


 ファミリアの生徒からすれば、魔法以上に頼りになる道具だよな。

 なにせ魔法を使いこなせない生徒が集まる学級だし。


「モンスター退治の道具、か。ふーん、魔力を使わずに実力で勝負ってことね。面白そうじゃない、こんなオサルさんたちにはもったいないわ」


 興味を持ってくれたのは嬉しいが、いちいち鼻につく言い回しにムカつくんだよなぁ。

 勉強熱心で騒がしいのが嫌いなだけなら、俺と同じくらいの、ルカンの中でも普通なやつなんだが。この毒舌がなぁ……。


「それで、このハギトリ? を使うなら土を使えば良いんだっけ?」

「えぇ、それで問題ないわ。それより、どういうのを作るのか見せてくれるかしら。完成形を見てからでないと、合成なんてできるわけないもの」


 悪かったねぇ、レシピにも完成図にもこだわらずに発想だけで作業しちまって。

 でも、そう言うガリアだってブキのことは知らない。完成図を見たところで、思いつくわけ――


「分かったわ。銅2つと木材、それと牛革と土を合成するわ」


 う、嘘だろ。コイツ、俺たちが悪戦苦闘して辿り着けそうだったレシピにさっさと触れてきやがった。


「これで、どうかしら?」


 なべはグツグツと音を出しながら、紫色の煙を上げる。そしてまたグラグラと揺れ出す。

 しかし、あの失敗作とは違い、徐々に揺れが収まっていく。そして、なべが飛び跳ねた。


 ――完成の合図だ。


「完成、ね」


 ガリアがなべの蓋を開ける。中には、絵にあった通りのブキができていた。

 牛革で包まれた木材が持ち手になって、銅が刃へと変わっていた。


「これはソードっていうんだ。銅製だからもろいけど、まあ武器初心者なら使いやすいと思うよ。軽いし」

「ほえ〜……ガリア、俺にも触らせてくれよ」

「イヤよ、触りたいなら自分で作りなさいよ」


 そんなこと言われてもなぁ。銅も残り少ないし、材料だって数が限られて――


 コツッ――


「ん?」


 俺の足に硬い何かが当たった。

 それは、氷塊だった。


「氷塊……なぁ、氷の刃とかってどうだ?」

「ハァ? んなの、簡単に折れちまうぜ?」

「それ、すっごく魔法の世界だよ! やろう、今すぐ!」


 お、タカシのやつ食いつき良いな。だったら作ってみるとすっか。さっきのガリアのやり方で、持ち手の作り方は充分学べた。

 それに、氷の刃の耐久性なら問題ない。合成レシピに『氷のおまもり』っていう溶けない氷でできたおまもりがある。

 それは布きれと氷塊と鉄クズを使って合成するだけ。布きれは氷を包むためのものだから、刃に使うのは氷塊と鉄クズ。持ち手は、どうしたものか。冷気を遮断したいし……。

 そうだ、あっちの世界のタカシなら何か知ってるかもしれないな。


「なぁ。冷たくならないものって何か知ってるか?」

「え? そうだね、熱伝導がないならゴムが良いかも」


 ゴム、か。でも今持ってないな。材料箱にあったゴムでも問題ないと良いが。

 あ、それとアレもあると助かる。


「えーっと、ゴムと……あ、あった!」


 雪原に生息する、オオカミ型モンスターの毛皮。表面は暖かたいのに、内側が冷たいっていう不思議な性質を持っている。

 なによりなかなか手に入らない希少な材料だから、あって助かった。


「まず材料全部入れて……最後に土を入れてっと」


 全ての工程を終えて、俺も成功した。

 中には、冷気を纏わせるソードが完成した。


「お……おぉぉ! これがソードか! カッケェ、めっちゃカッケェ!」


 水色の毛皮で覆われた持ち手は温かく、鉄クズも使っているがほとんどは氷塊でできているおかげで軽い!

 これでバッサバッサとモンスターを切り裂くって、めっちゃカッケェじゃん!


「ちょ、ちょっとで良いから触っても良いかな? ボクが夢見た武器だよそれ!」


 タカシになら触らせても良いだろう。このブキという存在を教えてくれたやつだ。ケチケチする理由がない。


「ほえー、冷たい。剣先は……ちゃんと痛い。すごい、武器としてもちゃんと使えるのか」

「……なら私は、(レフ)属性の――」

『常闇に溶けし街角の学舎にて黒き影。怪しき者、名を申せ!』


 な、なんだろう。すっっっっっごく嫌な予感がする。この厨二部のニオイがプンプンする言葉。

 せめて調査団に入るまでは会いたくなかったやつだ。


「ラスカール、なんで学校に……」

「その声……そうか、そなただったのだな、神から選ばれし戦士、アスカード!」


 あー、うっさい。神にも選ばれてないし、戦士でもないし。

 ってか、俺の質問に答えてくんないかな。


「あ、ぼ、僕もいるよ。アスカくん」


 ラスカールなんかの背中に隠れやがって。

 人見知りだからって、そんなバカの背中で良いのかよ?


「ヴァイオまで……なんで?」

「そなたが問うなら答えてしんぜよう。我らはこれより、地肉を貪る闇のものたちを切り捨てる集いになるのだ! 今宵はその前日、すなわち――」

「明日が調査団発足の日。アスカ、あなたを筆頭にしてね」


 ……ん? 俺を、筆頭に、調査団発足……?

 え、あ、え? そんなの聞いてない。てっきり既存の調査団に入れられると思ったのに。

 でも、明日発足なんだよな。今更魔導書が使えないなんて言っても、もう手遅れだよな。ならせめて、何か新しい魔法を考えねぇと。

 でも、手遅れだとしても言っとくか。俺が魔導書の魔法、使えないこと。


「俺、実は――」

「ん」


 事実を言おうとした俺の肩に、フライズが手を置いた。歪んだ笑顔で、「言う必要はないぜ」と語りかけている。


「……実は、何? アスカくん、どうかしたの?」

「私も気になるけど」

「……それより、続きやらないか? キミたちも」


 タカシの誘いが、何も知らないコイツらの興味を俺からブキに変えた。

 偶然かもだが、助かった。俺から蒔いた種なのに、こんな助け舟を出してくれるなんて。タカシって優しいやつだな。


「えっと……誰?」

「その歪な(ころも)、魔力を感じさせぬ脈から察するに、只者ではないな。面白い、実に面白い!」


 あー、ほんとうっさい。このバカにだけは見せたくなかったんだよなぁ。

 でもまあ、ラスカールはともかくヴァイオの反応気になるしな。


「コイツはタカシ。俺が異世界から連れてきたやつだ!」

「い、異世界からって……?」

「実に興味深い! 天国でも地獄でもない、御伽話のような世界からの来訪者とは……!」


 そこまで煌びやかな世界でもなかったが……。雰囲気ぶち壊しになりそうだし、俺の口からは言わないでおくか。


「そんな世界なら良かったけどね。ボクからすれば、この世界のほうがずっと御伽話だよ。さ、ボクのことなんかより、武器作り再開しよう」


 ※※※※※※


 タカシの知恵とガリアのひらめきで、ヴァイオもラスカールもガリアもそれぞれブキを作り上げた。

 ヴァイオは遠い的を狙うユミ。ラスカールは俺のソードより刃が長いランス。

 そして、なによりムカつくのがガリアのソード。俺と対にしたいのか、炎を纏っているもの。


「ど、どうかな。初めて見たものだけど、風魔法、使えるかな」

「我に似合うは月の光を宿しランス!」

「私のがいちばんよ。ヴァイオもラスカールも、私より格下ね」


 勝負をしてるわけでもないんだが……。ガリアって、好きなことになると歯止めが効かないんだよなぁ。

 まあでも、とりあえず全員ブキを手にしたわけだし。俺たちらしい、いや、俺たちだからこその調査団になるんじゃないか? ブキを持ってるのは俺たちだけだし、なんなら異世界の人間を連れているのも俺たちだけだ。

 こんな二つとない調査団なんて、ワクワクと出会う予感しかない。きっと、どんな苦難だって乗り越えられる。

 それは、それとして――


「モンスター凶暴化って、なんだ?」

「『はぁぁ⁉︎』」


 みんなして目を丸くして驚いている。だけど、本当に知らない。モンスター凶暴化なんて。


「いくら神に選ばれしそなたでも、軽蔑する」

「アンタ、そんなことも知らないでルカンにいたわけ?」

「モンスター凶暴化ってのは……えっと、なんて言えば、良いんだろ……」

「俺が説明するぜ。ファミリア一番の知識の出番だ!」


 まあ、モンスターについての知識だったらフライズの右に出るやつはいないだろう。

 今回ばかりは、フライズが師匠役だな。


「じゃあ簡単にまとめるとな。100年前はモンスターと人間が共存してたんだ。あのバケモノが生まれるまでな」

「そのバケモノは、ラルクス。モンスターを配下として、人間を抹消しようとしたの」

「そ、それから……モンスターは、操られたまま、で……」


 なるほどな。でも、ラルクスって名前なら聞いたことがある。たしか、マクディルの最期となった死闘。その相手が、ラルクス……だったような。


「お前も知ってるだろ? マクディルと相打ちになったのが、そのラルクスだぜ」

「やっぱり……。でも、そのラルクスはいなくなったんだよな? なのになんで凶暴化は続いてんだ?」


 ラルクスが死んだ今、モンスターは解放されているはず。それなのに、なんでだ……?


「あぁ。だから世間ではこう言われてるぜ? ラルクスは、まだ生きてるってな」

「そう、まさにこの夜の闇のどこかで息を殺して血を這いずり回っているのだよ」


 あーもう、ラスカールの言葉のせいで雰囲気が台無しだっての。まあ、恐怖が払拭されるから良いけどよ。


「だから調査団があるのよ。モンスター凶暴化を研究していけば、原因に辿り着くってね」

「なるほどなぁ……研究、ねぇ」


 てことは、俺が筆頭なのは間違いじゃねぇな。研究においては俺が秀でてるし。

 調査団、やる気出てきた。研究するとこなら、俺にピッタリじゃんか。


「じゃ、私帰るわ。明日、朝早いもの」

「そ、そうだね。僕も、そろそろ……おやすみなさい」

「夜闇の中足踏みするのも悪くはないが、我が体には闇を照らす陽が光がよく似合う。つまり、良い夢を」


 これにて解散、か。なら俺も……あ。


「タカシはどうする? 一旦帰るか?」

「……帰らないよ。ずっとここにいたいし」


 なんだ、その目。「ずっとここにいたい」って目じゃないのはたしかだ。まるで、「帰りたくない」って感じの濁った目だ。

 でもまあ、そんな目をされたら、することは決まってる。


「タカシ。魔法、使ってみないか?」

「……ボクが、魔法を?」


 そう。魔力がないタカシのようなやつでも、魔力を得られる方法ならこの世界にある。

 ちょーっと、危険だがな。


「一緒に行かないか? 調査!」

「……ま、ボクのゲーム知識。役に立つみたいだし」


 そういうこった。それに、帰りたくないなら帰さない。ずっとここにいさせてやるよ。お前が夢見た、この魔法しかない世界にな。

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