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第5話 初めてのブキ(前編)

 既に夜を迎えた街。市場が開かれて、食材を売ってる出店やらモンスターから剥ぎ取ったカラダの一部、いわゆるハギトリを売ってる出店まで大賑わいだ。

 でも今は金がねぇし、無視して学校まで行くとするか。


「あ、おい! 待った、これだけ買わせてくれ。ライムのエサ!」

「ん? まあ良いが」


 フライズの買い物、まあまあ長いんだよなぁ。目的の物だけを買うどころか、気になったものとか全然財布事情を考えずにあれこれ買い出すから……。


「そうだ、タカシも……?」

「おぉぉ! この服、このスライムジェル……! これだよ、こういうの!」


 こりゃ、仕方ない。俺も買い物してやらぁ!


 ※※※※※※

 

 学校の合成なべまで辿り着いたのは良いが。結局、欲しいもの全部買っちまった。

 それは良いんだ。それは、良いんだが――


「なんでタカシのも俺が買わなきゃなんねぇんだ⁉︎」

「ごめんよ、ボクこの世界のお金持ってないし……」

「まあ、そうカッカすんなよ。これだけ材料買えたわけだし合成も上手くいくはずだぜ!」

「キュキュー!」


 たしかに、材料は充分すぎるくらい揃った。ただ全員買いたいもんがバラバラで。

 俺は研究に使う羽根ペンと、きのみ畑に使う魔力の土。

 フライズは、ライムのエサにケモノ系モンスターのハギトリ。

 タカシは、サソリ型モンスターの皮から作られた防具。

 こんなにバラバラだと、合成できるかどうか……。


「とりま、レシピ通りに作ろうぜ!」

「レシピ、ないんじゃないか? この世界には、武器がないんだろう?」

「そうだな……なら、ここは俺の出番ってわけだ」


 レシピに従わず、オリジナルのものを作り出す。それって、つまりは研究ってわけだ。俺の得意分野じゃねぇか! 腕がなるって、こういうことか!


「ならまず、これから作らないか? 銅の短剣だ」

「銅か……魔法道具で使うし、たぶんこの辺りに」


 銅といえば、合成レシピにもよく載ってるくらい使い道が多い。合成なべの基本って言われるくらいだし、どこかに……。


「あ、あった」


 材料箱の奥に、残り僅かではあるが銅が転がっていた。両手で持ててしまうくらいの量だが、失敗しなければ足りるだろ。

 あとは念のため、ブキの制作に役立ちそうな材料も少し頂戴しておくか。


「それじゃあ……刃になる部分を考えると、銅は2つ。それと、持ち手は丈夫なのが良さそうだな……なら、材料箱から貰ったメタルのカケラと……」


 ヤベ、メタルのカケラをくっつける材料がねぇな。粘着力が強いスライムジェルとかがあれば、楽々なんだが……。


「……ジェルとかないよな。粘着力の強いものならなんでも良いが

「ジェルではないけど……これ、代わりになるかも」


 タカシはポケットから、重たい黄色の容器を俺に手渡した。


「木工用のボンド。粘着力はあるし、それを混ぜれば良い」

「そうか。じゃあ……」


 俺はその容器をそのまま鍋に入れた。


「って、そのままはまずいって!」

「へ?」


 その忠告は、時既に遅しだった。

 まだ蓋もしていないのに、大爆発を起こした。

 原因は、タカシが手渡した黄色の容器。合成なべの魔力による加熱で、中身が膨張して、爆発。

 そして、俺の全身はベチョベチョした白い液体に覆われた。


「あっちゃ〜……タオルあるかな?」

「タオルはないが……ライム、キレイキレイしてやれよ」

「キュッキュー!」


 ライムが俺の全身を包んで、身体中に浴びた液体を吸収してくれた。

 ただ、これ毒性がなきゃ良いんだが。前にライム、毒魔法を吸収して死にかけたし。


「キュ? キュー! キュー!」

「ん、どうしたライム?」


 理由は分からないが、地面から動けないのかライムは必死に前へ進もうと踏ん張っている。

 持ち上げてみると、地面の土にくっついているらしく剥がれない。


「な、なんだこりゃ……?」

「スライムだし、取り込んだ物の性質を受け継いだってことか」

「ふぅーん……ボンドの粘着力で、そのスライムの粘着力もステータスアップってわけだね」


 ステータスアップって単語は、タカシの世界にもあるのか。

 魔力上昇とか技術上昇とかの総称、ステータスアップ。で、スライムだけのステータス、粘着力が上昇ってわけ……。


「って、それ何の役に立つんだ⁉︎」

「ん〜……分からん」


 フライズ成績トップでも分からないのなら、俺にも分からんな。

 なにしろモンスターの知識を深く学べる学級こそフライズなわけだし。なんならそんな学級のトップすら予想できないんだから。


「あーあ、銅無駄にしちった。残りはぁ……12粒か、もう失敗できないな」

「ならボクがやってもいいかい? ゲームの知識が役立つかも」

「ゲーム……ってなんだ?」

「ウキュ?」


 って、俺に聞くなよ。タカシの世界を研究する暇もなかったんだ、分かるわけないし。


「ここゲームないのか⁉︎ 娯楽がないのは少し寂しいな」

「娯楽……カジノとか武闘大会とか?」

「あとは、釣り大会とかモンスター討伐大会とかだな」


 それ、娯楽というより競争。しかも、全然楽しくない。ケガすること前提だし、タカシには危険すぎる。


「そうかそうか……ゲームの世界みたいな娯楽ならあるんだ。あ、ゲームはまた今度持ってくるよ」


 おっ、そりゃあ助かる。できれば向こうの世界のものに触れて、この世界にも混ぜ合わせたいしな。

 魔法のない世界の楽しいやつは、この世界にとってはこれ以上にない刺激になる。俺の魔法で世界はもっと楽しくなるって証明してやれる。


「じゃあ、まずは銅を3つ。それと……フライズくん、悪いが君が買ったハギトリ、少し貰ってもいいかな?」

「あ、あぁ。有り余るくらい買ったしな。少しと言わず、じゃんじゃん使ってくれよな」


 あら珍しい。俺が触ろうとしただけでも怒るくせに。

 そんなに俺のことライバル視してんのか? ファミリア随一の技能底辺のフライズよりも俺、モンスター退治には慣れてないし。その点に関してはコイツのほうが上なんだがなぁ。


「じゃ、魔獣のツメと牛革で……どうだ!」

「っておい!」


 自信満々に材料を鍋に入れて、蓋までしやがった。

 先に言っとくべきだったな、ハギトリを使うなら土を混ぜろって。

 そうしないと――


「……ん?」


 合成なべがグラグラと大きく揺れ、蓋が真上へポーンと飛び上がった。

 そして、その中から出てきたのは、銅でできた牛型モンスターの像。そして、ちゃんと生きている。

 そう、ハギトリを使う場合には、ハギトリに残された魔力を土に封じ込め受け必要がある。

 そうしないと、このモンスターみたいに失敗してしまう。


「これどうすんだ⁉︎」

「ちょうどいいじゃん、ライムいるし」


 せっかくステータスアップしたんだ。戦わせてみるにはもってこいだ。


「な、何言ってんだよ! 金属だぞ、スライムが叶うわけ――」

「あーもう! ライム、やっちゃって!」

「キューン」


 やっぱダメか。俺のことをライバル視しているフライズの相棒だ。俺の指示に対して、「テメェなんかに従わねぇよ〜だ!」と言わんばかりに知らんぷりしている。


「……分かったよ、テメェの考えはよく分からんけど付き合ってやるぜ。ライム、ウィズ・ファイト!」

「ウッキュー!」


 ライムが勢いよく失敗作をドップリと包み込む。

 ただ、やっぱり金属製だけあってスライムの消化力じゃ全然溶けやしない。

 でも!


「ギュ、ギュー!」


 粘着力が上がったおかげで、中のモンスターが暴れても、そう簡単にはライムの体が千切れはしない。


「ほー、粘着力にこんな効果があるなんてな。まさかお前、そこまで考えてたのか?」

「……さぁな、秘密だ」

「でもこれ、我慢比べじゃない? 金属相手なら火炎魔法がいいんじゃ……」


 たしかに、本来ならそうしてるとこだ。でも、今この場に魔法が使えるやつがいない。

 こんなとき、頼れる助っ人みたいなのがいれば――


(レフ)・ファボール!』


 (レフ)魔法⁉︎ でも、どこから……誰が⁉︎

 ルカンの教室の方からだった気がするが……。


「まったく。夜中なんだから、静かにしてよね。それとも、夜中でも騒げるオサルさんなのかしら?」


 この胸糞悪い毒舌は……。アイツ、か。


「お前こそ、夜まで居残りすんのやめたらどうだ? ガリアーヌ」

「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。それに、私がいなかったらどうなってたかしら?」


 うっ、言い返せない……。実際、これ以上にない助っ人だしな。ガリアーヌほどの優等生なら、俺ほどではないが魔法を使いこなせる。

 ただ、今回は出番なさそうだが。


「キュ〜〜〜ッ!」

 

 (メル)属性のスライムに(レフ)魔法を使うと、体が加熱されて金属でも楽々溶かしてしまうほどまでの熱を帯びる。

 つまり、ガリアーヌが(レフ)魔法を仕掛けた時点でチェックメイト。我慢比べも、失敗作が溶かされておしまいってわけだ。


「キュー……ゲプ」

「おー、今日はエサ要らずだな」


 満足そうにゲップを残して、ライムは眠りについた。


「やっぱゲーム通りにはいかないかー」

「……面白いことやってるのは分かったわ。またあんなバカらしい失敗しないように、私もアホなアンタたちに付き合ってあげる」


 え、ガリアーヌが誰かに付き合うなんて。騒がしいのが嫌いで、協力とかには消極的なくせに。

 まあ、その毒舌は変わらずだが。だがガリアーヌほどのしっかり者がいてくれるならきっと成功間違いなしだ。

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