第4話 魔法×科学
俺の心配は無意味だった。男はゲートの出口から出ることなく、俺の部屋を覗いていた。
「……何やってんだ?」
「うおっ、ビックリした。いや、な? 夢にまで見た魔法の世界で、躊躇ってたんだ」
夢見た場所なのに、何を躊躇うんだ? 別にそのまま出ちゃえば良いだけなのに。
それとも何か? 胡散臭いとかうまくいきすぎとか思ってるのか?
「とりあえず、早く行ってくれないか? 後ろつっかえてんだ」
「あ、あぁ……」
男は恐る恐る俺の部屋へと足をつけた。そんなにビクビクする必要、どこにもないんだがな。
「とりあえず……よっと!」
って、俺何やってんだ⁉︎ 飛び降りちまった、このままじゃ着地の衝撃でまた痛みが――
「あぶな!」
「っ……?」
俺の身体は着地せずに、男に抱き止められていた。
「まったく……ボクがいたほうが良さそうだな、これは」
「あっははは……お前さんの言う通りだな。って、そういや名前聞いてなかったな」
全然聞くタイミングなかったもんな。俺だけ名乗るのも不平等だし。
「ボクの名前か? 青山 鷹鷲だ」
「タカシか……珍しい名前だな」
いや、向こうの世界ではありきたりな名前なのかもしれないな。
「こっちからすれば、アスカードって名前のほうが変な名前だがな」
『キュッキューッ!』
「ってなんじゃこりゃあ⁉︎」
タカシの頭に、フライズのスライムが降ってきた。
……羨ましいなぁ、あのグニュグニュで頭包まれる感覚。想像するだけでゾワゾワしてくる〜!
「すまん! コラ、ライム! 人の頭に乗るなってあれほど言ってるだろ!」
「ウキュキュ〜……」
別に説教する必要ないだろ。害があるわけでもないし、俺からしたらこれ以上にないご褒美なんだが。
「可哀想だよなぁ、ライム」
「キュ⁉︎ キュプ!」
お、やっぱ俺が手を近づけるだけで食いついてきやがるな。
「……ところで、やっぱこれってスライムってやつ?」
「あぁ、あっちこっちで生息してる」
なんなら、ライムは魔法も使えないごく普通のスライム。別地方に行けば、魔法を使える亜種スライムもいるとか。
「コイツは俺の使い魔だぜ! ファミリアで誰よりも早く入手できたんだ」
「ファミリア……?」
「モンスター使いを養成する学級。フライズはその中で成績はトップだ」
あくまで、「成績」はトップ。「技能」に関しては、全然ダメ。知識があっても、魔法を全然使いこなせない。
だからファミリアにいるわけなんだが。モンスター使いなら、モンスターが戦うわけで、自分が魔法を極める必要はほとんどないし。
「で、どうすんだ? この人間。魔力はないしなぁ」
「ボク、剣道とか弓道とかならできるけど。そういう武器、あるんだろ?」
「ケンドウ……キュウドウ……ブキ?」
えっと、まずそれ何? この世界にはない言葉を並べられても困るんだけど……。
「へ、ないのか⁉︎ ちょっと待っててくれよ!」
タカシのやつ、またゲート越えて……。何する気なんだ? あっちの世界に、アイツの言うブキってやつでもあるのか?
「よっと! 失敬、これが武器だ!」
魔導書くらい分厚い本を、タカシは俺たちに広げて見せた。
その中には、持ち手付きの鋭利な刃や紐の張られた弧状の木の枝みたいなものが描かれていた。
「これが、ブキってやつか?」
「あぁ、そうだ。ないのか?」
「ないが……カッコいいな! これ、作らね?」
ブキを、作る……か。それなら合成なべが必要だな。なら学校にあるしな。
でもその前に。
「そのブキってやつ、何に使うんだ?」
「そりゃあ、モンスター狩りだが。てか武器がないのか……ちなみにこれ、確認だが夢じゃないよな? 異世界とか、魔法とか、今更だけどありえないなって」
まあ、そうだよな。いきなり「異世界から来ました」なんて言われてすぐ納得できるわけないし。
でも、夢かどうか確かめさせるのは簡単だ。
「ほい!」
「アッツ⁉︎」
魔導書は使えなくても、基礎の魔法程度なら楽々使える。
俺は指先から炎を出して、タカシのデコに当てた。まあ、当てたとは言っても熱だけだが。
「悪い悪い、先に断っとくべきだったな!」
「……熱いってことは、現実……現実か!」
そう、これは夢なんかじゃない。そして、こっからが俺の夢を現実にする番だ。
異世界の文化をこの世界に取り入れて、刺激を加えたいっていう夢を、現実にするんだ!